宜しくお願いします!
「そちらのお二人、基本的な衣装ながら、素晴らしい着こなしですね、
多分名のある方なのだとお見受けします、ちょっとこちらに来てもらってもいいですか?」
その誘いに、乗り遅れたと地団駄を踏んでいた美優は、まんまと乗っかってしまった。
「やっと私達の出番かな?」
「待って、八幡様の様子がおかしい」
「大丈夫大丈夫、あの子達をどう扱っていいか困ってるだけだって、
もうこうなったらいかに目立ってリーダーの記憶に残れるかどうかの勝負だよ」
「記憶に残る………」
「そうそう、クルスもせっかくかわいい格好をしてるんだから、
リーダーの記憶にその姿をずっと留めて欲しいって思うでしょ?」
「お、思う!」
クルスはその言葉に、興奮したようにそう答えた。
「ならばこっちも、あの子達の呼びかけに堂々と応えないとね」
「了解、行こう」
「そうこなくっちゃ!」
そして二人は六人の前に進み出た。
「ご指名のようだけど、私達に何の用事かしら」
「お二人のそれ、素敵な衣装ですね、実は領主様達が着ているバージョンよりも、
そちらの方がいいデザインなんじゃないかと思います」
「えっ?」
「い、いきなり何を……」
「皆さんもそう思いますよね?」
ここで紅莉栖はいきなり観客に声を掛けた。
観客達は口々に二人に声援を送り、その格好を褒め称えた。
観客達には、ALOのヘヴィプレイヤーも数多く含まれており、
当然サクヤはアリシャと接した事のある者も大勢いる。
その者達からの評価が良いという事は、つまりそういう事なのだ。
彼女達の服装である、冒険初期にお世話になる服装は、
領主専用の服のマイナーチェンジ扱いでありながら、
ユーザーからの評判はとてもいいという事である。
「おっ、やっぱりこの服装って好評なんだ」
「さあ八幡様、思う存分私を見て下さい」
美優はその性格故か、ポーズを取り、観客達にアピールを始めた。
そしてクルスもポーズを取ったが、その視線はさりげなく八幡にだけ注がれており、
自分を見てもらう事にのみ注力したクルスは、嫌な予感を感じる八幡の心情を察せなかった。
「さすがお二人は、大人の魅力に溢れてますね、
そしてそちらの女神様達は、フォーマルな服装により、その神聖さを存分に表現しています」
女神三人のリーダーたるいろはは、その言葉によって逆に動きを封じられ、ほぞを噛んだ。
由季はプロ故に、この服装でどういうポーズを取れば観客受けがいいかを分かっている分、
逆に動く事が出来なかった。そして香蓮は、八幡のみを見ていた為、
八幡に視線を注がれ続けるほど満足してしまい、動くという発想がそもそも無かった。
そこに紅莉栖はつけこんだ。
「そんな五人に対抗する為に、若い私達に出来る事は、その勢いをアピールする事だけ!
今こそこの借り物の衣装を脱ぎ捨てる時!」
紅莉栖はそう言って、ヴァルハラの制服を脱ぎ捨てた。
紅莉栖は何故か白衣姿であり、その白衣の下は、
某作品の爆裂魔法の使い手の服装に近い、いわゆる魔法少女風の服を身に付けていた。
露出は少ないが、正直丈の短いスカートを履いているというだけで、
紅莉栖にとってはいっぱいいっぱいであった。
「クリスティーナの奴、暑かっただろうに無茶をするものだ……」
「クリスちゃん、かわいいね、オカリン」
「………まあ悪くはない」
そんな紅莉栖の姿をまゆりと一緒に観客席から見ていたキョーマは、
服装そのものについてのコメントは差し控えた。
ちなみに紅莉栖が着ている服は、実際にゲームの中に存在するが、
あまりにそれらしい服なので、低年齢層のプレイヤーが主に装備している服であった。
だが紅莉栖は白衣こそ着ているが、堂々とその格好をしていた。
これは観客達の中の現役プレイヤーには新鮮だったらしい。
「お?悪くなくね?」
「こうして見ると、普通にいけるよなぁ」
この後ゲーム内で、あまり脚光の当たっていなかった服が見直されていく事になるのだが、
それはまた別の話である。
「さあ、悪の科学者たる私が命じるわ、みんな、真の姿を見せてあげなさい!」
((((((((悪の科学者のつもりだったのか!))))))))
観客達のみならず、八幡もそう思ったが、それを合図に他の者達も、
次々にヴァルハラの制服を脱ぎ捨てた。
「やっとこれがお披露目出来たわ」
詩乃が着てきたのは、アルン式弓箭兵服と呼ばれるものだった。
これはヴァルハラに制服が無かった場合、詩乃が本来着ていたはずの服である。
足を大胆に露出するのはいつもの詩乃のスタイルだが、
白い胸当てに、弓を引くのに邪魔にならないように右袖が完全にカットされたその服装は、
どこかGGOでの服装を思わせる、完全に遠隔攻撃を主軸に置いた服装だった。
「ほう?」
思わず八幡はそう呟いた。確かにギルドの団結力を養うのに共通装備は必要だが、
それはどうしても特化装備には敵わない。
(制服の改造も認めていく必要があるか……)
そんな真面目な事を考えてしまった八幡であったが、
詩乃はただ、八幡が自分の姿をじろじろ見ている事に喜んでしまっていた。
その二人の考えの差は打ち上げで発覚し、詩乃が爆発する事になる。
「次は私ね」
そして歩み出た椎奈が、ヴァルハラの制服を脱いだ。
「「「「「「「「おおっ」」」」」」」」
椎奈が選んだ格好は、まさにこれぞファンタジーというべき服であった。
太ももの半ばまで覆うブーツに、妙に胸を強調した鎧とミニスカート、
肩は完全に露出され、肘から先だけ手甲が装備されている。
椎奈は観客達の色よい反応に気を良くしたのか、そちらに手を振ってアピールしていた。
「次はフェイリスの番ニャね」
そしてフェイリスもその真の姿を観客達に晒した。
「「「「「「「「おおっ?」」」」」」」」
フェイリスはやはりフェイリスだった。そんなフェイリスが選んだのは、
いわゆる戦闘用メイド服、メイドアーマーであった。
(ヴァルハラの制服も、メイド服にアレンジするんだろうな……)
八幡は、いっそ天晴れというつもりでそんな事を考えていた。
そして留美が一歩前に出た。八幡にとってはある意味一番気がかりな存在だ。
何故なら留美がファンタジー系ゲームに縁があるとはどうしても思えないからだ。
そして留美は、八幡にだけ聞こえるようにこう言った。
「私だって、もう小学生だったあの頃とは違うのよ」
そう言って留美が披露したのは、完全にビキニアーマーと言うべき服装だった為、
八幡は内心頭を抱えた。
(やっぱり微妙にズレてやがる……)
だが一番声援が多いのも留美に対してであった、観客達は実に正直である。
「ふふん」
留美は八幡に対してそう鼻を鳴らし、
八幡は呆れながらも、留美の成長を認めざるを得なかった。
(確かにあの頃の面影は、もうほとんど無いな……
その体一つでこれだけ声援をもらえるくらい、成長したんだなぁ……
あ、もちろんエロい意味じゃないからな)
八幡は、誰に対して言っているのか意味不明な言い訳をしつつ、最後の一人に目を向けた。
八幡にとって留美とは別の意味で気がかりというか、鬼門の存在である優里奈である。
優里奈が一体何をしてくるのか、何故ここにいるのか、八幡にもまったく分からない。
それ故に八幡は、かつてない程緊張し、助けを求めるように、
何度も明日奈の方をチラチラと見ていた。
だが明日奈はあくまでも見守る体制を崩さず、腕を組んで仁王立ちしているだけだった。
そして優里奈は八幡だけに聞こえる声で言った。
「八幡さん」
「お、おう……」
八幡は優里奈の呼びかけに、最大限警戒した様子でとりあえずそう返事をした。
案の定優里奈はそこで足を止めず、観客達がぽかんとする中、八幡の目の前まで歩み寄った。
「わ、私に何か用でもあるのか?」
八幡は、辛うじて神の威厳を保つように、そう演技をした。
「あの、八幡さん」
「ど、どうした?」
「私、八幡さんにとっていい子ですか?」
「お前がいい子じゃなかったら、世の中にいい子なんか存在しないだろうな」
「そうですか……」
ここで否定する選択肢はありえない為、八幡はそう言うしかなかった。
そして優里奈は、ゆっくりと制服の前を開きながらこう言った。
「私、そんないい子じゃないです、ちゃんと八幡さんに反抗だって出来ます」
「ん?悪い優里奈、ちょっと意味が分からな……な……な……なぁ!?」
優里奈は制服の中に、かなり際どい水着を着ており、それを見た八幡は仰天した。
「私、こんな悪い子なんです!だから安心して下さい、私は大丈夫ですから!」
その見た目の破壊力に、八幡は一瞬眩暈を感じつつ、優里奈を二度見した。
そしてどうしていいのか分からず、情けない顔で明日奈の方を見た。
だが明日奈は愕然とした顔で、何故か自分の胸を持ち上げながら、
色々と見比べているように見え、八幡の方にはまったく注意を向けてくれなかった為、
八幡は泣きそうな表情で、優里奈にこう言う事しか出来なかった。
「わ、分かった、安心するからとりあえず後で詳しい話を聞かせてくれ」
「分かりました!」
優里奈はその言葉にパッと顔を輝かせ、再び制服を着込み、舞台袖へと走り去っていった。
その瞬間に、薔薇が観客達に向けてこう言った。
「はい、ゲストの皆さんありがとうございました!実に素敵な姿を見せてくれた皆さんに、
盛大な拍手をお願いします!」
そして盛大な拍手が巻き起こり、
詩乃達は八幡をニヤニヤ見ながら舞台袖へと引っ込んでいった。
そして八幡も、疲れた表情で舞台袖へと引っ込み、そしてその背後から、
神崎エルザの曲が流れ始めたのだった。