ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第537話 打ち上げ~詩乃、香蓮、紅莉栖サイド

 打ち上げの会場は、何とメイクイーンだった。まさかの貸切である。

もっともかなり前から告知してあったので、混乱はほとんど無かったようだ。

 

「それではみんな、今日は本当にご苦労様でした、

つきましてはささやかながら、宴席を設けさせて頂きました。

今日は無礼講という事で、時間の許す限り楽しくやって下さい」

 

 陽乃のそんな挨拶から、会は始まった。参加メンバーはほぼ全員である。

何故か姫菜まで参加しているのは謎である。

ちなみに梨紗は、どうやら伊丹と一緒に飲みに行ったらしい。

伊丹によると、今までの借金を全部返してもらうのを勘弁する代わりに、

今日は梨紗の奢りで飲みに行く、という事らしい。

そして八幡はというと………和人を相手にくだをまいていた。

 

「しかし和人、今回はお前、本当に空気だったな」

「馬鹿言うな、今回の裏方の仕事は、ハプニングの続出でめちゃめちゃ忙しかったんだぞ!」

「俺は悪くない、全部雪乃が悪い、あと詩乃も悪い、

どうせ言い出しっぺはあいつに決まってる」

 

 丁度その時近くにいた詩乃がそれを聞きとがめ、椎奈を伴って八幡に絡んできた。

 

「何よ、私に何か文句でもあるの?」

 

 八幡はそれを無視し、隣にいる椎奈に語りかけた。

 

「すみませんマネージャーさん、この眼鏡っ子、ガラが悪いんですけど?

どう考えても眼鏡っ子業界の中では異端児なんじゃないですか?チェンジで」

「すみません、普通の眼鏡っ子は品切れです」

 

 八幡のその言葉に、椎奈は真面目な顔でそう答えた。

 

「えっ、まじで?」

「はい、なので今は、この気の強い眼鏡っ子で我慢して頂くしか……」

「ええ~……クーリングオフ出来ませんか?」

「知り合ってからの期間を考えると、クーリングオフはもう出来かねます」

「仕方ない、我慢するか……おい眼鏡っ子、来世では正統派の眼鏡っ子に生まれて来いよ」

 

 そう八幡に言われた詩乃は、呆気にとられていたが、

やがてぷるぷると震えだし、こめかみに青筋を立てながら言った。

 

「椎奈、こいつの相手をするんじゃないわよ、

そして八幡は、眼鏡っ子を連呼するんじゃないわよ!」

「ちょ、ちょっと乗ってみただけだって、詩乃の眼鏡はとってもキュートでかわいいよ」

「とってつけたように……」

「本当だってば、ね?八幡さんもそう思うよね?」

「そうだな、確かに眼鏡はいいな、眼鏡はな」

 

 八幡が眼鏡だけを褒め称える事に、詩乃はイラっとした様子で何か言いかけ、

直後に何かを思い出したような顔をし、フフンと余裕な態度を見せた。

 

「おい八幡、詩乃の様子がおかしくないか?」

「だよな……多少仕返しをと思ったが、何だあの余裕は……」

 

 八幡と和人がひそひそとそう囁き合う中、詩乃は余裕な態度のままこう言った。

 

「そんな事言って、さっきは私の格好を随分熱心に見ていたじゃない、

まったくもう、あんたももっと素直になりなさいよね」

「はぁ?………あ」

 

 詩乃にそう言われ、八幡は先ほどの状況を思い出し、詩乃が勘違いしている事に気付いた。

 

「お前、それはな……お前のコスプレが遠隔攻撃に適した服装だったから、

うちの制服もある程度特化装備への改造を認めるべきかと検討していただけだぞ」

「えっ?………はぁ?」

 

 詩乃は一瞬ぽかんとした表情をした後、その言葉の意味を理解し、そう声を上げた。

 

「そういう意味では確かに熱心に見ていたのは確かだな、

そしてよくその事を気付かせてくれた、えらいぞ詩乃」

「くっ……あれがそういう意味の視線だったなんて……」

「何だよ、言っておくが、本気で褒めてるからな」

「その褒められ方は予想と違う……」

 

 そう言いながら詩乃は、複雑な表情で去っていき、

その後を追おうとした椎奈に、八幡は言った。

 

「おい椎奈」

「うん?」

「お前のコスプレは王道だったな、良かったと思うぞ」

 

 椎奈はそう言われ、パッと顔を輝かせた。

 

「う、うん、ありがとう!」

「それじゃあ詩乃がへこみすぎないように気を付けてやってくれな」

「うん、任せて!」

 

 そして二人が去った後、和人は八幡に言った。

 

「八幡も意地悪だよなぁ、ちゃんと見るとこは見てたんだろ?」

「いや、まあそれは否定はしないが、詩乃が足を強調するのはGGOで散々見てるからな」

「ああ、それは確かに……」

「それにさっき言った事は本当だからな、和人もそのつもりで他の奴らに周知しといてくれ」

「制服の大幅なアレンジを認めるってところな、でもそれよりはさぁ、

普段は上に制服を羽織っといて、戦闘時にはまったく別の服装になるようにした方が、

インパクト的にもでかいんじゃないか?」

「確かにそれはあるかもしれん、それも含めて今度総会を開くか」

「総会?そりゃまたおおげさな……」

「一応新規メンバーの入団発表も兼ねるつもりだからな」

「え、だ、誰の?」

「それはな……」

 

 そして八幡は、和人の耳元で、二人の名前を囁いた。

 

「あ、ああ~、そりゃいいな、これでうちは益々強くなるな」

「だろ?」

 

 そう笑顔で頷き合う二人の下に、今度は香蓮と美優がやってきた。

 

「は、八幡君、私の格好、どうだった?」

「おう、最高だ」

 

 八幡はそう言って親指を立て、香蓮はもじもじしながらも、とても嬉しそうな顔をした。

そこに横から割り込んだ美優が、「私は?私は?」とアピールしてきたので、

八幡はわざと面倒臭そうな顔を作り、美優にこう言った。

 

「お前、意外といい体をしてるよな」

 

 八幡はそれで美優がいつものように調子に乗り、

襲い掛かってくる事も想定し、いつでもカウンターがとれるように身構えていたのだが、

美優は何故かもじもじした後、自分の胸を押さえながら恥ずかしそうに言った。

 

「もう、リーダーのえっち」

「…………」

「…………」

 

 八幡と和人が沈黙する中、八幡がとても心配そうに美優に言った。

 

「お、お前、何か悪いものでも食ったのか?」

「え?普通でしょ?」

「世間一般的にはそうかもしれないが……」

 

 八幡はそう言いながら、困った顔で和人の方を見た。

その瞬間に、美優は八幡に襲い掛かった。

 

「隙有り!やっとこの美優ちゃんの体に性的な目を向けてくれましたねリーダー、

いただきます!ジュ・テーム!」

 

 その声を聞いた八幡は、慌てて美優に対して身構えたが、

美優はその体制から動かなかった。よく見ると、香蓮が美優の首根っこを掴んでいる。

どうやら香蓮は、あらかじめこの事を予想していたようだ。

さすがは美優との付き合いが長いだけの事はある。

 

「八幡君、美優相手に油断しちゃ駄目だよ」

「お、おう、ありがとな香蓮、助かったわ」

「コ、コヒー!お前は親友の幸せを邪魔するのか!」

「はいはい、さ、他の人に場所を譲るわよ」

「あ、ちょ、待って!リーダー、せめてこの美優ちゃんの胸をひと揉み……」

「するか馬鹿」

 

 そして二人は去っていき、八幡は嘆息すると、和人に言った。

 

「そういえば昔は、クラス全員を動員してあいつを迎撃させたっけな」

「そんな事もあったっけ……」

「やはりあいつは要注意だな」

「性的な意味でな……」

 

 そこで二人は喉が渇いたのか、飲み物を取りにいく事にした。

 

「フェイリス、まゆさん、飲み物が欲しいんだが……」

「かしこまりましたニャ、何がいいかニャ?」

「ホット二つ、一つはブラック、もう一つは砂糖とミルク増し増しで」

「相変わらず甘党ニャね……」

「はい、ご注文のホット二つでぇす!」

 

 フェイリスとまゆりは、こんな場でもメイド服を着て接客のような事をしていた。

八幡は最初、セルフでいいと言ったのだが、二人が譲らなかったのだ。

 

「せっかくの打ち上げの場なのに、何か悪いな」

「いいのいいの、フェイリス達は好きでやってるのニャからね」

「うんうん、今日は本当にお疲れ様でした、

それじゃあテーブルまでホットを二つお持ちしますね」

 

 そう言ってまゆりは、トレンチに乗せたホット二つを後ろにいた人物に手渡した。

そこには屈辱的な顔をした紅莉栖が、メイド服姿で立っていた。

 

「…………くっ、殺せ」

「お前、何やってんの?」

「だ、だって岡部と橋田が、この格好であんたに謝れって……」

「キョーマとダルが?」

 

 紅莉栖の背後では、その二人がうんうんと頷いており、

八幡はなんだかなぁと思いつつも、そのままテーブルに戻り、紅莉栖の到着を待った。

そして紅莉栖が危なっかしい手付きでホットを二つ運んできた。

これはやってみると分かるが、慣れないとバランスを取るのが難しい。

 

「ご、ご注文のホットコーヒーです、どうぞ」

 

 そして二人の目の前に、二つのブラックコーヒーが置かれた。

 

「あれ、俺は砂糖とミルク増し増しで頼んだはずなんだが」

「わ、分かってるわよ、今からそうするのよ」

 

 そして紅莉栖は、かなりの時間躊躇った後に、八幡のホットに大量の砂糖とミルクを注ぎ、

顔を背けながらもスプーンでそれをかき回し始めた。

 

「…………」

「お、おい、あんまり無理すんなよ、俺はそこまで怒ってないからな」

「………ちょっとやりすぎたかもって思わないでもなかったから」

「そ、そうか……」

「そういえばお前のあのコスプレ、何というか、新機軸だったわ」

「い、言わないで!あの時の私はどうかしてたのよ!」

「お、おう……」

「……………」

 

 そして無言でかき混ぜ続ける紅莉栖に、後ろから駄目出しが飛んだ。

 

「クリスティーナ、セリフをさぼるな!」

「クーニャン、頑張るニャ!」

「くっ……殺せ」

「お前、そのセリフは危険だからやめろ」

 

 そして紅莉栖は、ぷるぷる震えながらこう口に出した。

 

「こ、これが……私の……ひ、必殺、目、目を見てまぜまぜ………ニャ……

まぜまぜ…………まぜまぜ…………」

 

 そんなとても頑張った紅莉栖の姿を見て、八幡と和人は思わず拍手をした。

それに釣られて店中が、拍手の渦に包まれた。

 

「ちょ、こんな事でみんなで拍手すんな!」

「紅莉栖さん、どんまい!」

「頑張ったね!」

「紅莉栖さん、かわいい!」

 

 そう口々に声を掛けられた紅莉栖は、羞恥にまみれながらこう叫んだ。

 

「くっ、殺せぇ!!!」

 

 そして紅莉栖は厨房の方へと走り去り、代わりにダルとキョーマが二人の所へ来た。

 

「おいキョーマ、やりすぎじゃないのか?大丈夫か?」

「何、最初にお前に謝った方がいいかなとビクビクしていたのはあいつだからな、

俺達はその背中をちょっと押しただけだ」

「ちゃんとフォローはしておいてくれよ、あいつ、本気で怒ると怖いんだよ」

「分かっている、任せておくがいい!」

「牧瀬氏、メイド女騎士、乙!」

 

 そして二人も去っていき、八幡と和人はホットを口に含んだ。

 

「ふう……」

「ん、美味いな」

「八幡のそれは、ホットの味じゃなく砂糖とミルクの味だと思う……」

 

 まだまだ打ち上げは続く。

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