ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第541話 二人の新人

「さて、これは川崎のキャラをここで作れという事でいいのか?」

 

 その八幡の問いに、沙希はあっけらかんとこう答えた。

 

「いいんじゃないかな、なんだかんだ色々と一番詳しいのはあんたなんだろうし、

多分陽乃さんもそのつもりでアミュスフィアをここに運ばせたんだろうしね」

 

 まあそれ以外に無いよなと思いつつ、八幡はログインした後の事を考え、

沙希に事前に色々と必要な事を決めてもらう事にした。

 

「そうか、それじゃあ迎えにいく関係もあるから、最初に種族を……」

「レプラコーンで」

「早っ……てか予習済かよ……」

「どう考えてもこれ一択でしょうに」

「まあそれはそうなんだけどよ……」

 

 八幡は、相変わらず川崎はためらいがないなと思いつつ、次の質問に移った。

 

「それじゃあ名前は、サキサ……」

「サキサキにはしないわよ」

「かぶせんなよ、あと早えよ!」

「あんたが何を言うかなんて大体予想出来るわよ」

「じゃあ何て名前にするんだよ」

「スクナ」

 

 そう即答した沙希を、八幡はじっと見つめた後に言った。

 

「神様でも目指すつもりか?」

 

 その言葉に沙希は僅かに目を見開いた。

 

「何あんた、神様オタクなの?」

「ふふん、おそれいったか、スクナって少彦名の事だろ?本の裁縫の神様って言われてる」

「………驚いた、そこまで知ってるんだ」

 

 沙希は心底感心したような顔でそう言った。

 

「おう、もっと褒めてくれ、川崎に褒められるなんて滅多にないからな」

「えらい」

 

 沙希はそう即答し、八幡は鼻白んだ。

 

「お前さ、こういう時はもう少し言葉を飾ってもいいんだぞ」

「えらい」

「お、おう……」

「えらい」

「あ、ありがとな」

 

 沙希相手だと何かと押されぎみな八幡であった。

 

「さて、次に個人マークだが」

「個人マーク?何?」

「それは教えてもらってないのか、うちのギルドはな、

全員制服に個人を識別するマークがついているんだよ」

「そうなんだ、例えば?」

「ちょっと待ってろ、PCに保管してあるから見せてやろう」

 

 八幡はそう言って、沙希に全てのマークのリストを見せた。

沙希はアスナのクロスレイピア、ユキノのアイスクロス、フカ次郎の愛天使や、

シノンのキューピッドアロー、ユミーのヘルファイア、リズベットのスターハンマー等を、

興味深そうに眺めていた。

 

「これは?」

「あ、それは私のマークだよ、サキサキ」

「あ、間宮さんのマークなんだ、セラフィムか、素敵な名前ね」

「私の事はクルスでいい、サキサキ」

「………何かサキサキが浸透しつつあるのを感じるけど、まあいいや。

このマークは………巨大な羽根の生えた、炎を纏った盾?」

「そう、私はタンクだし、セラフィムは燃え盛る天使の事らしいから」

「名前はセラフィム・イージスか、何か格好いいね」

「うん、ありがとう」

「で、あんたのは?」

「見ればわかるだろ、サキサキ」

「サキサキ言うな」

「お前それ、俺にだけ言うのな……」

 

 そして沙希は、画面をスクロールさせ、あるマークを見て手を止めた。

 

「………もしかして、これ?」

「ああ、正解だ」

「それじゃあ和人君……キリト君だっけ、のマークが、もしかしてこっち?」

「おう」

「あんた達、本当に仲良しなのね……」

 

 そんな沙希の目の前には、二つの文字が並んでいた。

一つは『覇』、もう一つは『剣』の文字であった。

どちらも達筆な毛筆で書かれていたが、どちらも陽乃の手によるものである。

 

「それが俺のマーク『覇王』と、和人のマーク『剣王』だ、

俺のはよりインパクトを与える為に、前のトップAから最近変更したばかりなんだけどな」

「確かに二つとも、王冠の中に書かれているわね」

「シンプルでいいだろ?」

「それは認めるけど……」

 

 沙希は、シンプルというか地味なのではという疑問を持ったようだ。

そんな沙希に、クルスが真顔でこう言った。

 

「そのマークは死の象徴、多分後で分かる」

「そうなの?」

「うん」

「ふ~ん、それは楽しみね」

「で、川崎はどうする?まあ別に今決めなくてもいいけどな」

「私のマークは針と糸でいいわ」

 

 そう言って沙希は、紙に針と、そこから伸びる糸の絵を描いた。

 

「オーケーだ、今反映させる」

 

 八幡が即座に何か操作し、そう言った為、沙希はとても驚いた。

 

「え、そんなにすぐ出来る物なの?」

「おう、凄いだろ?」

「う、うん、ちょっとびっくりした」

「ちなみにマークの名前はどうする?」

 

 そう尋ねられた沙希は、少し考えた後にこう言った。

 

「そうねぇ……ソーイング、とかでいいかな」

「オーケーだ、そのまんまだが、シンプルでいいよな、そういうの」

「うん、ごてごてしたのはあんまり好きじゃないから」

「それじゃあ早速ログインするか……おっとその前に、何人か他のメンバーを呼んでおくか、

ちょっとは川崎に、いい所を見せたいしな」

「よく分からないけど、任せるわ」

「おう、見て驚け」

 

 そして八幡は、何人かに電話を掛けた。

 

「おう、俺だ、今から入れるか?ああ、マークとかも全部準備は出来てるぞ、

そうだ、名前は前聞いた通りでいいんだな?お前にとっては大事な名前だし、いいと思うぞ。

もう一人新人を連れてくから、一緒に待っててくれ、名前はスクナだ」

 

「あ、和人か?今から例の二人がログインするんだが、今から入れるか?

お、そうか、それじゃあレプラコーン領の首都に集合な」

 

「明日奈、今から新人を二人迎えに行くんだが、今は雪乃の家だよな、ログイン出来るか?

アミュスフィアが二つしかないのか、分かった、明日奈と雪乃が来るんだな、

それじゃあレプラコーン領の首都に集合で頼む」

 

 そして八幡は沙希に向き直り、ログインした後どうすればいいか説明した。

 

「もう一人新人さんがいるんだ?」

「おう、お前と同じ職人だ、種族もレプラコーンだぞ」

「へぇ、そうなんだ」

「とりあえずチュートリアルは飛ばしてくれ、で、ログインしたら、

多分そいつが目の前にいると思うから、二人で待っててくれればいい」

「その人の名前は?」

「ナタクだ」

 

 八幡はそう言ってニヤリと笑うと、優里奈に一言断って、ログインの準備に入った。

 

「という訳で優里奈、悪いがしばらく一人でのんびりしててくれ」

「あ、家事とかがまだ残ってるんで大丈夫ですよ」

「悪いな、任せた」

「はい!」

 

 そして沙希とクルスは寝室で横になり、八幡は居間で横たわった。

 

「聞こえるか?それじゃあ行くぞ」

「はい」

「オーケー、楽しみだわ」

「「「リンク・スタート!」」」

 

 

 

 スクナは言われた通りチュートリアルを断り、光のトンネルを抜け、

気が付くと見知らぬ街に立っていた。

 

「うわ、こんなにリアルなんだ……」

 

 スクナはそう言いながら、手をにぎにぎしたり、前屈したりしてみたが、

その感覚が現実世界とまったく変わらなかった為、安心した。

そんないかにも初心者ですオーラを出しているスクナに声を掛けてくる者がいた。

 

「あ、すみません、もしかしてスクナさんですか?」

「あ、はい、それじゃああなたがナタクさん?」

「ですです、初めまして、それから今後とも宜しくお願いします」

「うん、あいつと一緒に楽しんでプレイしていきましょうね」

「はい、本当に楽しみです」

 

 そして二人は色々雑談をしながら八幡達の到着を待った。

 

「へぇ、それじゃあSAOの頃からの知り合いなんだ」

「はい、一緒に生き残った戦友ですね」

「そっかぁ、私はVRゲーム自体初めてなんだよね」

「そうなんですか、それじゃあ何か分からない事があったら何でも聞いて下さいね」

「うん、ありがと」

 

 その時周囲のプレイヤー達がざわついた。

 

「お、おい、あれ……」

「まさかこんな辺ぴな街に?嘘だろ?」

「でもあのマークを見ろよ……」

「まじかよ、俺初めて見たわ……」

 

 そんな会話が聞こえ、二人は迎えが来たのだと確信した。

 

「これってあれよね、マークとか言ってるし」

「噂では聞いてましたけど、本当に凄いんですね、

あ、あそこにハチマンさんが、って、人数が多いな」

「ああ、そういえばあいつ、ちょっとはいいところを見せたいから、

何人か呼ぶって言って、キリト君やアスナやユキノを呼んでたわよ、

それにセラフィムも一緒にいるはずよ」

「おお………」

 

 ナタクはその言葉に感動したのか、少し潤んだ目で空を眺めていた。

 

「やっぱりキリト君やアスナとも知り合いなの?」

「実はユキノさんやセラフィムさんともです」

「そうなんだ」

 

 沙希はそう言って空を見上げた。

そして上空から、五人のプレイヤーが二人の目の前に降り立った。

 

「悪い、待たせたな」

「ナタク!」

「ナタク君!」

「ハチマンさん、キリトさん、アスナさん、来ちゃいました」

「これから宜しくな」

「待ってたよ、本当に」

「よく来たね、ナタク君」

「はい……」

 

 そう再会を喜びあう四人を横目に、ユキノとセラフィムがスクナにそっと耳打ちした。

 

「あの四人が、SAOをクリアに導いた英雄なのよ」

「うん、本当の伝説」

「えっ、そうなの?」

「ええ、あの四人の絆は、私ですら入れないくらい強いのよね、ちょっと妬けるわ」

「肯定、微妙に嫉妬」

「それを言ったら奉仕部の三人の絆だって強いでしょう?ちょっと妬けるわ」

「そう言われるとそうかもしれないけどね」

「ユキノにも嫉妬」

 

 そしてハチマンは、ナタクとスクナにトレードを申し込み、ヴァルハラの制服を渡した。

二人がそれを装備した瞬間、固唾を飲んで遠巻きに見守っていた群集から、

息を飲むような気配が伝わってきた。

 

「針と糸?それにあれは……工具か?」

「って事は職人なのか?」

「またヴァルハラが強くなっちまうな……」

 

 そんな会話が聞こえ、スクナとナタクはお互いのマークを見た。

ナタクの個人マークは、四角い枠の中に、金槌と鋸とペンチが書かれたマークだった。

スクナのマークは先ほど決めた、針と糸である。

 

「私のマークは、ソーイングよ」

「僕のマークはツールボックスですね」

「お互い頑張りましょう」

「はい、頑張りましょう!」

 

 こうして顔合わせの挨拶も済んだところで、ハチマン達はアルンへの転移門へと向かった。

 

「とりあえずここからアルンへ飛ぶ。

そこから飛ぶ練習も兼ねて、アインクラッドへと向かおう。

今はアルンへは直ぐに飛べるが、アインクラッドには、

一度自力で行かないとショートカットは出来ないからな」

「はい!」

「オーケーよ」

 

 二人はこの時漠然と、やっぱりヴァルハラのメンバーは目立つんだな等と考えていた。

だがその認識はまったく甘かった。二人はその事を、この後二度ほど思い知る事になる。

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