ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第542話 そして二人はヴァルハラに至る

 七人がアルンへと転移し、門から出た瞬間、

転移門広場にいた群衆達は、ざざっと後ろに下がった。

 

「え………何?」

「だから言っただろ、少しはいいところを見せるってな」

「ど、どういう事?」

「感じるだろ?奴らの色々な感情を」

 

 そう言われて沙希は、探るような目で周囲を見回した。

そこから感じる感情は、沙希の感覚だと、

敵対心が七割、友好的な気配が三割といった感じだった。

 

「敵対心を多く感じる気がするんだけど?」

「そうだな、アインクラッドだと、共闘する事も多いから、その比率は逆転するが、

ここは俺達の事が嫌いな奴らが多いからそうなるんだろうな」

「そうなんだ……」

 

 そんな会話を交わしている間も、周囲からはひそひそと色々な声が聞こえてきた。

 

「おい見ろ、ザ・ルーラーだぜ」

「それだけじゃない、黒の剣士とバーサクヒーラー、それに絶対零度までいるぞ」

「幹部が勢ぞろいかよ……」

「もう一人は姫騎士イージスじゃないか?」

 

 その言葉が聞こえたのか、ハチマンは驚いた顔でセラフィムに言った。

 

「ん、セラフィムにはそんな二つ名がついてるのか?」

「はい、理由は私だけが普段からハチマン様を様付けで呼んでいるのと、

ハチマン様の前だと、私がタンクとして、絶対に崩れないからみたいです」

「だから姫騎士とイージスか……」

「くっ、殺せ」

「それは言わなくていいからな」

 

 ハチマンは呆れた顔でセラフィムに言った。

 

「ちなみにクリシュナは、タイムキーパーと呼ばれています」

「何だそれ?」

「支援を絶対に切らさないからですね」

「………そういえばそうだな」

「です」

「他には誰か二つ名が付いた奴はいるのか?」

 

 ハチマンは何となく興味を引かれ、そうセラフィムに尋ねた。

 

「シリカちゃんが竜使いなのは定番として……」

「まあそれは付くよな」

「クラインさんはサムライマスター、エギルさんはアクスクラッシュと」

「そのまんまだが、まあ二つ名が付くくらいインパクトがあるって事なんだろうな」

「あとシノンは、最近必中と呼ばれ始めたみたいです」

「あいつ最近、ありえないくらい当ててくるからな……」

「二つ名が付いているのはそのくらいですね」

「なるほどな、逆にリーファとかには付いてないのが不思議だな」

「リーファちゃんやフカは、普通に四天王の~とか言われちゃってますしね」

「ああ、そういえばそうか」

 

 そしてハチマンは、何となく一歩を踏み出した。

その瞬間に、その方向にいたプレイヤー達がざざっと道を開けた。

 

「うわ……」

「す、凄いですね……」

 

 スクナとナタクはその光景を見て、思わずそう漏らした。

 

「了解?死の象徴」

「う、うん、実感した……」

 

 セラフィムにそう言われ、スクナはやっとその言葉の意味を本当に理解したらしい。

そしてスクナの見たところ、ハチマンの顔を知らない風なプレイヤーでも、

その胸に付いているマークを見て、後ずさる者がかなりの数見受けられた。

 

「ここまで有名なんだ……」

「まあ俺達は、それだけの戦果をあげてきてるからな。

だから今は、ギルドの紋章自体が抑止力になっていたりもする」

「赤と白の剣が交差したこれよね」

「そうだ、赤は流れる血を、白は聖なる力を、人呼んでヴァルハラ十字だ」

「これを私も身に付ける事になるんだ……責任重大だね」

「別にそんな堅苦しいものじゃないさ、楽しんでいこうぜ」

「う、うん」

 

 スクナは、こんなに敵が多いんじゃ、

戦闘面でも多少は役に立てるように頑張ろうと改めて心に誓った。

だがその印象は、アインクラッドに着いて一変した。

 

 

 

「大丈夫か?まっすぐ飛べるか?」

「うん、段々慣れてきたみたい」

「スクナ、ファイト!」

 

 ハチマンとアスナに補助してもらいながら、

スクナは生まれて初めて飛ぶという体験をしていた。

 

「あは、あはは、凄い凄い、まさかこんなに自由に空が飛べるなんて」

「楽しそうだな」

「うん、今私、凄く自由だ」

「うん、自由だね」

「あはははは、凄く楽しい!」

「見ろ、あれが鋼鉄の城、アインクラッドだ」

「あれが………あんた達を二年以上も閉じ込めていた牢獄なのね」

「もう牢獄なんかじゃないさ、今は自由の象徴にして、俺達のホームがある場所でもある」

「ヴァルハラ・ガーデンだっけ?どんな所なんだろ」

「それは着いてからのお楽しみだ」

 

 そしてついにスクナはアインクラッドへと到着し、

第一層のはじまりの街へと足を踏み入れた。

その瞬間に、その場にいたプレイヤー達がわっと沸いた。

 

「ヴァルハラ来たああああ!」

「しかも幹部様達が勢ぞろいよ!」

 

 その盛り上がりにスクナは面食らった。

 

「な、何?」

「さっき言っただろ?アルンとここじゃ、比率が逆転するってな。

アルンじゃ敵対する奴の方が多いから、表だって声を掛けてくる奴もいないんだが、

ここじゃそっちが多数派だからな、遠慮なく声援を送ってくるような奴らが主流なんだ」

「あ、そういう事なんだ」

 

 そして友好的な雰囲気の中、様々なプレイヤーがハチマンに声を掛けてきた。

そのほとんどが女性だった為、スクナはやや頬を膨らませての移動となった。

 

「ザ・ルーラー様、そのお二人は新メンバーですか?」

「おう、今度うちに新しく入る職人の二人だ」

「そうなんですか!いいなぁ……」

「凄く羨ましい」

 

「バーサクヒーラー様!」

「絶対零度様!」

「剣王様!」

「お、剣王って呼ぶ奴もいるんだな」

「みたいだな、覇王」

 

「ハチマン様、デートして下さい!」

「ハチマン様、それなら私と!」

「あんた達、抜け駆けは許さないわよ!」

「それじゃあ私と!」

「いえ、私と!」

「私は黒の剣士様とデートしたい!」

「あんた、凄い人気ね……」

「う~ん、俺は滅多に表舞台に顔は出してないんだけどな」

「そこがミステリアスでいいんじゃないか?」

「そんなもんか……」

 

 尚も色々な声援が一同に送られ続け、スクナとナタクは緊張しながら転移門に入り、

そのまま二十二層へと飛んだ。そこでもまた同じような状況が続き、

落ち着いたのは、ヴァルハラ・ガーデンにメンバー登録し、一歩中へと入った瞬間だった。

 

「ふう……なんか緊張した……こんなに注目を浴びたのは、生まれて初めてかも」

「僕もですよ……」

「どうだ、スクナ、ナタク、俺達は凄かろ?」

 

 ハチマンはまるで子供のように、自慢げにそう言った。

 

「ええ、本当にびっくりしました」

「私達、今日からここのメンバーになるんだね……」

「それじゃあ拠点に案内する、この上だ」

 

 そして階段を上りながら、ナタクが懐かしそうに言った。

 

「秘密基地、懐かしいなぁ……」

「あ、ここってSAOの時からあったんだ?」

「ええ、今となってはとても懐かしい、青春の一ページですね」

「おいナタク、その言い方はちょっとおっさんくさいな」

「あ、確かにそうですね、あはははは、すみません」

「まあでも中はあの頃とはまったく違うけどな」

「そうなんですか、楽しみです」

 

 そして建物の前に到着し、ナタクはきょとんとした。

 

「あれ、あの頃のままですね……これはこれで懐かしくていいんですけど」

「こじんまりした建物だね、これでメンバー全員入れるの?」

「まあ中に入ってのお楽しみだ」

 

 そしてハチマンは、二人を中へと誘った。

 

「えっ?な、何これ、お城?」

「おおおおおおおおおおお」

 

 やはり初見の者は、外見とのギャップに驚いてしまうものらしい。

 

「それじゃあ各施設を案内するか、お~い、ユイ、キズメル!」

 

 ハチマンはそう言って、ユイとキズメルを呼んだ。

 

「はいパパ、ってあれ……あ、あなたはもしかしてネズハさんですか!?」

「ふむ、確かにネズハと同じ気配を感じるな」

「ユイちゃん、キズメルさん、お久しぶりです、ネズハです。

ちなみに今の名前はナタクと言います、これからこちらにお世話になる事になりました、

今後とも宜しくお願いしますね」

 

 あらかじめ二人の事を聞いていたナタクは、落ち着いた表情でそう挨拶した。

 

「そうなんですか!嬉しいです、ナタクさん!」

「ご丁寧な挨拶痛みいる、今後とも宜しく頼む、ナタク」

 

 そしてハチマンは、引き続き二人に施設の案内をし、

最後に新しく作ったという部屋へと二人を案内した。

 

「ここは工房だ、今回新しく新設した、三人の為の部屋だ。

要するにリズとナタクとスクナのほぼ専用の施設という事になる」

「おお」

「見るからに凄そう……」

「ちなみに後で案内するが、二人の個人部屋の奥に、ここへの直通の扉を作っておいたから、

後で試しに使ってみるといい、ここから自分の部屋に戻る時は、

専用のパスワードの入力が必要だから、後で自分の部屋で設定しておいてくれ」

「うん」

「分かりました」

「さて、一旦リビングに戻るか」

 

 一通り案内が終わった為、三人はリビングへと戻った。

そこではユイやアスナが作った料理が並んでおり、

簡単な歓迎会のようなものが開かれる事となった。

 

「そのうち全員を集めて二人を紹介する事になるが、

今日はとりあえず今いるメンバーだけでお祝いだな」

「うわ、これって本当に食べられるの?」

「現実でお腹が膨れる訳じゃないけどな」

「こういうの初めてだわ、凄く楽しみ」

 

 そして宴会が始まり、一同は楽しい時間を過ごす事が出来た。

 

 

 

 一方その頃、GGOでもとある出会いがあった。

 

「あんたがピンクの悪魔?私はピトフーイ、良かったら一緒に遊ばない?」


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