七人がアルンへと転移し、門から出た瞬間、
転移門広場にいた群衆達は、ざざっと後ろに下がった。
「え………何?」
「だから言っただろ、少しはいいところを見せるってな」
「ど、どういう事?」
「感じるだろ?奴らの色々な感情を」
そう言われて沙希は、探るような目で周囲を見回した。
そこから感じる感情は、沙希の感覚だと、
敵対心が七割、友好的な気配が三割といった感じだった。
「敵対心を多く感じる気がするんだけど?」
「そうだな、アインクラッドだと、共闘する事も多いから、その比率は逆転するが、
ここは俺達の事が嫌いな奴らが多いからそうなるんだろうな」
「そうなんだ……」
そんな会話を交わしている間も、周囲からはひそひそと色々な声が聞こえてきた。
「おい見ろ、ザ・ルーラーだぜ」
「それだけじゃない、黒の剣士とバーサクヒーラー、それに絶対零度までいるぞ」
「幹部が勢ぞろいかよ……」
「もう一人は姫騎士イージスじゃないか?」
その言葉が聞こえたのか、ハチマンは驚いた顔でセラフィムに言った。
「ん、セラフィムにはそんな二つ名がついてるのか?」
「はい、理由は私だけが普段からハチマン様を様付けで呼んでいるのと、
ハチマン様の前だと、私がタンクとして、絶対に崩れないからみたいです」
「だから姫騎士とイージスか……」
「くっ、殺せ」
「それは言わなくていいからな」
ハチマンは呆れた顔でセラフィムに言った。
「ちなみにクリシュナは、タイムキーパーと呼ばれています」
「何だそれ?」
「支援を絶対に切らさないからですね」
「………そういえばそうだな」
「です」
「他には誰か二つ名が付いた奴はいるのか?」
ハチマンは何となく興味を引かれ、そうセラフィムに尋ねた。
「シリカちゃんが竜使いなのは定番として……」
「まあそれは付くよな」
「クラインさんはサムライマスター、エギルさんはアクスクラッシュと」
「そのまんまだが、まあ二つ名が付くくらいインパクトがあるって事なんだろうな」
「あとシノンは、最近必中と呼ばれ始めたみたいです」
「あいつ最近、ありえないくらい当ててくるからな……」
「二つ名が付いているのはそのくらいですね」
「なるほどな、逆にリーファとかには付いてないのが不思議だな」
「リーファちゃんやフカは、普通に四天王の~とか言われちゃってますしね」
「ああ、そういえばそうか」
そしてハチマンは、何となく一歩を踏み出した。
その瞬間に、その方向にいたプレイヤー達がざざっと道を開けた。
「うわ……」
「す、凄いですね……」
スクナとナタクはその光景を見て、思わずそう漏らした。
「了解?死の象徴」
「う、うん、実感した……」
セラフィムにそう言われ、スクナはやっとその言葉の意味を本当に理解したらしい。
そしてスクナの見たところ、ハチマンの顔を知らない風なプレイヤーでも、
その胸に付いているマークを見て、後ずさる者がかなりの数見受けられた。
「ここまで有名なんだ……」
「まあ俺達は、それだけの戦果をあげてきてるからな。
だから今は、ギルドの紋章自体が抑止力になっていたりもする」
「赤と白の剣が交差したこれよね」
「そうだ、赤は流れる血を、白は聖なる力を、人呼んでヴァルハラ十字だ」
「これを私も身に付ける事になるんだ……責任重大だね」
「別にそんな堅苦しいものじゃないさ、楽しんでいこうぜ」
「う、うん」
スクナは、こんなに敵が多いんじゃ、
戦闘面でも多少は役に立てるように頑張ろうと改めて心に誓った。
だがその印象は、アインクラッドに着いて一変した。
「大丈夫か?まっすぐ飛べるか?」
「うん、段々慣れてきたみたい」
「スクナ、ファイト!」
ハチマンとアスナに補助してもらいながら、
スクナは生まれて初めて飛ぶという体験をしていた。
「あは、あはは、凄い凄い、まさかこんなに自由に空が飛べるなんて」
「楽しそうだな」
「うん、今私、凄く自由だ」
「うん、自由だね」
「あはははは、凄く楽しい!」
「見ろ、あれが鋼鉄の城、アインクラッドだ」
「あれが………あんた達を二年以上も閉じ込めていた牢獄なのね」
「もう牢獄なんかじゃないさ、今は自由の象徴にして、俺達のホームがある場所でもある」
「ヴァルハラ・ガーデンだっけ?どんな所なんだろ」
「それは着いてからのお楽しみだ」
そしてついにスクナはアインクラッドへと到着し、
第一層のはじまりの街へと足を踏み入れた。
その瞬間に、その場にいたプレイヤー達がわっと沸いた。
「ヴァルハラ来たああああ!」
「しかも幹部様達が勢ぞろいよ!」
その盛り上がりにスクナは面食らった。
「な、何?」
「さっき言っただろ?アルンとここじゃ、比率が逆転するってな。
アルンじゃ敵対する奴の方が多いから、表だって声を掛けてくる奴もいないんだが、
ここじゃそっちが多数派だからな、遠慮なく声援を送ってくるような奴らが主流なんだ」
「あ、そういう事なんだ」
そして友好的な雰囲気の中、様々なプレイヤーがハチマンに声を掛けてきた。
そのほとんどが女性だった為、スクナはやや頬を膨らませての移動となった。
「ザ・ルーラー様、そのお二人は新メンバーですか?」
「おう、今度うちに新しく入る職人の二人だ」
「そうなんですか!いいなぁ……」
「凄く羨ましい」
「バーサクヒーラー様!」
「絶対零度様!」
「剣王様!」
「お、剣王って呼ぶ奴もいるんだな」
「みたいだな、覇王」
「ハチマン様、デートして下さい!」
「ハチマン様、それなら私と!」
「あんた達、抜け駆けは許さないわよ!」
「それじゃあ私と!」
「いえ、私と!」
「私は黒の剣士様とデートしたい!」
「あんた、凄い人気ね……」
「う~ん、俺は滅多に表舞台に顔は出してないんだけどな」
「そこがミステリアスでいいんじゃないか?」
「そんなもんか……」
尚も色々な声援が一同に送られ続け、スクナとナタクは緊張しながら転移門に入り、
そのまま二十二層へと飛んだ。そこでもまた同じような状況が続き、
落ち着いたのは、ヴァルハラ・ガーデンにメンバー登録し、一歩中へと入った瞬間だった。
「ふう……なんか緊張した……こんなに注目を浴びたのは、生まれて初めてかも」
「僕もですよ……」
「どうだ、スクナ、ナタク、俺達は凄かろ?」
ハチマンはまるで子供のように、自慢げにそう言った。
「ええ、本当にびっくりしました」
「私達、今日からここのメンバーになるんだね……」
「それじゃあ拠点に案内する、この上だ」
そして階段を上りながら、ナタクが懐かしそうに言った。
「秘密基地、懐かしいなぁ……」
「あ、ここってSAOの時からあったんだ?」
「ええ、今となってはとても懐かしい、青春の一ページですね」
「おいナタク、その言い方はちょっとおっさんくさいな」
「あ、確かにそうですね、あはははは、すみません」
「まあでも中はあの頃とはまったく違うけどな」
「そうなんですか、楽しみです」
そして建物の前に到着し、ナタクはきょとんとした。
「あれ、あの頃のままですね……これはこれで懐かしくていいんですけど」
「こじんまりした建物だね、これでメンバー全員入れるの?」
「まあ中に入ってのお楽しみだ」
そしてハチマンは、二人を中へと誘った。
「えっ?な、何これ、お城?」
「おおおおおおおおおおお」
やはり初見の者は、外見とのギャップに驚いてしまうものらしい。
「それじゃあ各施設を案内するか、お~い、ユイ、キズメル!」
ハチマンはそう言って、ユイとキズメルを呼んだ。
「はいパパ、ってあれ……あ、あなたはもしかしてネズハさんですか!?」
「ふむ、確かにネズハと同じ気配を感じるな」
「ユイちゃん、キズメルさん、お久しぶりです、ネズハです。
ちなみに今の名前はナタクと言います、これからこちらにお世話になる事になりました、
今後とも宜しくお願いしますね」
あらかじめ二人の事を聞いていたナタクは、落ち着いた表情でそう挨拶した。
「そうなんですか!嬉しいです、ナタクさん!」
「ご丁寧な挨拶痛みいる、今後とも宜しく頼む、ナタク」
そしてハチマンは、引き続き二人に施設の案内をし、
最後に新しく作ったという部屋へと二人を案内した。
「ここは工房だ、今回新しく新設した、三人の為の部屋だ。
要するにリズとナタクとスクナのほぼ専用の施設という事になる」
「おお」
「見るからに凄そう……」
「ちなみに後で案内するが、二人の個人部屋の奥に、ここへの直通の扉を作っておいたから、
後で試しに使ってみるといい、ここから自分の部屋に戻る時は、
専用のパスワードの入力が必要だから、後で自分の部屋で設定しておいてくれ」
「うん」
「分かりました」
「さて、一旦リビングに戻るか」
一通り案内が終わった為、三人はリビングへと戻った。
そこではユイやアスナが作った料理が並んでおり、
簡単な歓迎会のようなものが開かれる事となった。
「そのうち全員を集めて二人を紹介する事になるが、
今日はとりあえず今いるメンバーだけでお祝いだな」
「うわ、これって本当に食べられるの?」
「現実でお腹が膨れる訳じゃないけどな」
「こういうの初めてだわ、凄く楽しみ」
そして宴会が始まり、一同は楽しい時間を過ごす事が出来た。
一方その頃、GGOでもとある出会いがあった。
「あんたがピンクの悪魔?私はピトフーイ、良かったら一緒に遊ばない?」