ヴァルハラ・ガーデンで交流を深めた後、
ログアウトした八幡と沙希、それにクルスだったが、
八幡と沙希がまだ入浴していなかった為、沙希が先に入浴を済ませてしまう事になった。
そして八幡は、寝る前にちゃんと優里奈と話をしておかねばと考え、
クルスが遠慮して先に寝室へと入った後、優里奈と向かい合って居間に座っていた。
「で、今日のあれは結局どういう意図だったんだ?」
「言った通りです」
「……確かに何か言ってたな、ちゃんと反抗出来ますとか、悪い子ですとか」
八幡はイベント中の事を思い出しながらそう言い、優里奈は頷いた。
「で、結局あれは、誰に吹き込まれたんだ?」
「自分で考えました」
「………どんな思考を辿ってあんな言葉が出てきたんだ?」
その問いに、しばらく沈黙した後、優里奈はこう切り出した。
「……私、八幡さんの重荷になりたくないんです」
「………ん?俺がそう思ってると思ったのか?」
「いえ、ただ、八幡さんの言う事を聞く事が、
逆に八幡さんを苦しめる結果になる事もあるのかなって、そう思う事があって……」
「そんなケースに何か心当たりがあるのか?」
八幡は、誰か知らないが、面白い事を考えるなと思いつつ、優里奈にそう尋ねた。
「例えばこうです、八幡さんがお世話になってる知り合いが、
たまたま私の存在を知って、デートをセッティングしてくれないかと持ち掛ける。
そうすると八幡さんは、形だけでも私にその気はあるか聞くと思うんです、
例え内心で、嫌だと思っていても、です」
「ほほう?」
「で、私は八幡さんのお願いだから、オーケーする訳ですが、
そうすると八幡さんは、不愉快な気持ちになったりするんじゃないですか?」
「ぷっ……」
そこまで聞いて、八幡は堪えきれずに噴き出した。
「うぅ……な、何がおかしいんですか?」
「いやすまん、その言い方だと、優里奈はすごく自信に溢れてるんだなと思ってな」
「自信……ですか?」
「だってそうだろ?優里奈が誰かとデートしたりすると、
俺が不機嫌になるって確信してるんだろ?」
「あっ」
優里奈はそう指摘され、確かにそうだと内心焦りを覚えた。
どう考えてもそれは優里奈のキャラではない。
優里奈は迷いつつも、紅莉栖の名を出すのもはばかられ、このまま押し通す事にした。
キッカケは紅莉栖の言葉からだったが、優里奈はこれは、八幡と自分の関係にとって、
絶対に必要な通過儀礼のようなものなのだと確信していたからだ。
「そうですよ?私、八幡さんに凄く愛されてますから!」
「そこまで言うか……」
(優里奈は決して誰かの言いなりになったりはしない、芯の強い子だ、
その優里奈がここまで言うんだ、誰に何を言われたかは問題じゃなく、
その理屈が自分にとっては正しいと信じての行動だろうな)
八幡はそう考え、黒幕の存在に触れるのはやめる事にした。
「なるほど、つまり優里奈も、俺の事が大好きで仕方がないという事か」
「はい、そうですよ?」
「う……」
八幡はからかうつもりでそう言ったのだが、優里奈は真顔でそう答えてきた。
「そ、そうか……」
「はい!」
八幡は守勢に回った事を感じつつも、話を元に戻す事にした。
「ま、まあ話を元に戻そう、要するに反抗出来ますってのは、
俺の言う事に何でもイエスと答える訳じゃなく、その話の良し悪しは自分で判断出来ますと、
つまりそういうアピールをしたかったと、そう解釈すればいいのか?」
「はい、そういう意図でした」
その答えを受け、八幡は腕組みし、次にこう言った。
「まあそれは何となく納得出来るんだが、あんな水着を着る必要は無かったんじゃないか?」
「だってああでもしないと、八幡さんにああいう姿を見せる機会は無いじゃないですか」
「………言ってくれれば、海くらいいつでも連れてってやるぞ?」
「でも私が海であの姿になるのは嫌ですよね?」
「い、いや、別に……」
「嫌ですよね?」
「えっと……」
「あの姿は八幡さんだけが独占したいですよね?」
「は、はぁ?」
「したいですよね?」
「あ、はい……」
八幡はそれ以上何を言っても墓穴になると悟り、何も言えなくなった。
体を張った優里奈の勝利である。そんな優里奈に、八幡は少しだけ反撃する事にした。
「しかしな優里奈、お前、一つだけ間違ってるぞ」
「何がです?」
「例えお世話になった人が相手でも、俺がその人に優里奈を、
まあ一般的な意味での紹介くらいはするかもしれないが、
デートとかの仲介をする事はありえん」
「何でですか?」
「そんな必要が無いからだ、それを断ったくらいで不快に思うような人と、
俺はその後も仲良くしていくつもりはまったく無いからな」
「ああ、なるほどです!」
優里奈は納得したようにそう言った。
「それじゃあ私は、今後も八幡さんやそのお仲間以外の人と、
二人だけで一緒に行動するような可能性はほぼ皆無ですね、
学校でも私に声を掛けてくるような人はもういませんし、これで全て解決です!」
「優里奈がそれでいいなら俺としてはまったく構わんが……」
「もちろん構いませんよ?」
「それよりも、今おかしな言葉が聞こえた気がしたんだが、
優里奈は学校で、男どもに言い寄られたり誘われたりとかはしないのか?」
「はい、今はまったく」
「……前はあったのか?」
「はい、そうですね、毎日相手をするのが煩わしかったです」
「そういうとこ、優里奈は結構ハッキリ言うのな」
「まあそうですね」
そして八幡は、首を傾げながら優里奈にこう尋ねた。
「何で前と今でそんなに違うんだ?」
「上手く断れるようになって、それを繰り返してたら誰も声を掛けてこなくなりました」
「ほう?そんな上手い手があるのか、一体どうやって断ったんだ?
今ちょっとここでやってみせてくれないか?」
「別に構いませんけど、八幡さんは何ともいえない気分になるかもしれませんよ?」
「そうなのか?まあいい、やってみてくれ」
「それじゃあ私を口説いて下さい」
「え、俺も演技に参加するのか?」
「もちろんですよ、そうしないとその威力を確かめられないじゃないですか」
「そ、そうか……」
ちなみにこのほんの少し前に、沙希が浴室から出てきたのだが、
沙希もどうやら優里奈の断り方に興味を覚えたらしく、そっと物陰からこちらを伺っていた。
そんな沙希の存在には、二人とも気付いてはいなかった。
そして八幡は、なるべく高校生っぽく見えるようにと一応気を遣いながらも、
こんな感じでいいだろうと、優里奈に声を掛けた。
「優里奈、良かったら放課後に、ちょっとカラオケにでも行かないか?」
「はい、喜んで!さあ行きましょう、直ぐ行きましょう!」
「いやお前、そこは断るところだよな!?」
「あっ……す、すみません、つい嬉しくて……」
優里奈は恥ずかしそうにそう言い、
それを見ていた沙希は、声を出さないように笑っていた。
「も、もう一回お願いします!今度はもっとこう、告白っぽい感じで!」
「そっちか……まあどう断ってるかを見る為だし、仕方ないか」
その優里奈のお願いを聞き、八幡は、定番な感じの告白のセリフを考え、実行に移した。
「優里奈さん、ずっと前から好きでした、俺と付き合って下さい!」
「はい、喜んで!付き合うだけじゃなく、そのまま結婚を前提に……」
「だ~か~ら~!」
「ご、ごめんなさい、今のは最初から狙ってました」
「だよな、絶対そうだと思ったわ……」
「あはははは、あはははははははは」
ここで沙希も堪えきれなくなったのか、声を出して大笑いし、
同時にクルスも笑いながら寝室から出てきた。どうやらクルスも途中から聞いていたらしい。
「お、お前ら……」
「ご、ごめんごめん、最初は優里奈ちゃんがどう断ってるか聞きたかっただけなんだけど、
今の漫才が面白すぎて、つい思いっきり笑っちゃったわ」
「私も同じです、八幡様」
「別に漫才をしていたつもりは無いんだがな……」
「今のは誰が見ても漫才でしたよ、八幡さん」
「おい優里奈、お前が言うな」
「きゃっ、ごめんなさい!」
優里奈はそう言って楽しそうに笑った。そして沙希とクルスが、優里奈に質問してきた。
「で、本当のところ、どうやってるの?」
「興味がある、是非知りたい」
「分かりました、それじゃあ八幡さん、今度こそ真面目にやりますから、
もう一度だけお付き合いをお願いします」
「やれやれ仕方ないな、一回だけだぞ」
「それで十分です」
そして八幡は、再び優里奈に告白する羽目になった。
「優里奈さん、ずっと前から好きでした、俺と付き合って下さい!」
「ごめんなさい、実は私には、一緒に暮らしてる男性がいるんです、ちなみにこの人です」
そう言って優里奈はこちらにスマホの画面を見せてきた。
そこには八幡と優里奈が並んでいる姿が写っており、八幡はあんぐりと口を開け、固まった。
「実はこの後も、夜まで……」
そう言って優里奈はもじもじし、見ていた二人は、おおっと拍手をした。
「夜まで、でセリフをやめて、もじもじするところまで完璧ね」
「例え教師に問い詰められても、保護者に夜まで勉強を教えてもらう予定で、
とか言えば何の問題も無いしね。余計な事を想像するのは告白相手の勝手、みたいな」
「はい、小町さんに教えてもらった手口です!」
「なるほど、小町の仕業か」
そこで八幡が復活した。同時に八幡は、素直に感心もしていた。
「確かに小町と優里奈は、まったく同じセリフを相手に言う事が出来るよな」
「身内スペシャルだって言ってました」
「ちなみにこの写真はどうしたんだ?」
「あ、合成らしいです」
「まじかよ……そこまでするか」
「小町さんも学校で声を掛けられる事が多くて、
困ったあげくに明日奈さんのアドバイスで思いついたのがこれだったとか」
「明日奈も絡んでたのか……」
そんな八幡に、沙希とクルスが同時にこう言った。
「それ、私にも使わせて?」
「八幡様、是非私にもそれを……」
「クルスは分かるが川崎もか?」
「卒業が近くなってくると、就職が決まった組が余裕が出てくるから、どうしてもね」
「この時期は意外とそういうのが増えるんですよ」
「そ、そうか……」
「大丈夫、セリフはアレンジするから」
「どうするんだ?」
「ただ、お付き合いしています、にするわ。私の場合は友達付き合いね」
「あ、それじゃあ私の場合は、部下付き合いという事で」
二人の目が本気の目だった為、八幡はこう言うのが精一杯だった。
「あ、明日奈がオーケーだと言うなら、別にいいぞ……」
「オッケー、今度頼んでみるわ」
「ありがとうございます八幡様、これで勝利は確定です」
「お、おう、そうか……」
そして三人は、ソファーに座って談笑した。
「それじゃあ優里奈は学校で男友達はほとんどいないの?」
「そうですね、正直まあ必要ないから問題ないんですけど」
「やっぱり辛辣ね……」
「八幡さんのお友達の男性陣と知り合いになるくらいで十分です」
「あんたに友達なんかいたっけ?」
「失礼な、今はそれなりにいるんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
ちょうどその時八幡の携帯が鳴った。
「ん、戸部からか」
「戸部?何か懐かしいね、っていうかあんた、戸部と交流があったんだ」
「葉山ともあるぞ、とりあえずちょっとすまん」
そう言って八幡は電話に出た。
『あ、ヒキタニ君、久しぶりっしょ』
「おう、久しぶり、今日はどうしたんだ?」
『実は突然で悪いんだけどさ、例の同窓会の話、明日とか空いてたりしない?』
「明日?いきなりだな」
『ごめん、調整が難航しちゃってさ、明日くらいしか空いてなかったのよ』
「まあ俺は問題ない、大丈夫だな」
『おお、やったね!で、他にも同じ学年で誘いたい奴がいたら、
声をかけといてもらっていいかな?優美子にはこっちからもう連絡して、
丁度一緒にいた雪ノ下さんと結衣にもオッケーをもらい済、姫菜や戸塚君もオッケー』
「あ、それなら今丁度、川崎が一緒だから、聞いてみるわ」
八幡はそう言って、沙希に事情を話した。
「明日?明日なら大丈夫よ」
「オーケーだそうだ」
『オッケーオッケー、場所とかは後でメールするわぁ、それじゃあ明日、待ってるっしょ』
「おう、楽しみだな」
『だね!』
「あ、すまん戸部、ちょっといいか?」
『ん、まだ何かあったん?』
「同級生じゃないんだが、一人俺が保護者をやってる子を連れてってもいいか?
丁度いい機会だから、俺の友達と知り合わせておきたいんだよな」
『そうなん?まったく問題ないっしょ』
「おお、何か悪いな」
『いいっていいって、俺達の仲じゃない、それじゃあまた明日!』
「おう、またな」
そして電話が切れ、きょとんとしていた優里奈に、八幡は言った。
「という訳で優里奈、気分転換に、明日は俺の学年の同窓会に参加な」
「わ、私なんかが参加していいんですか?」
「問題ない、丁度さっきの話をそのまま実行出来るいい機会だしな」
「確かにそうよね、いいタイミングだったわね」
「今夜は楽しみで寝られなさそうです!」
こうして優里奈の同窓会への参加が決定した。