ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第547話 一触即発?いえ、予定調和です

 そしてついに雪乃達が合流した。雪乃、結衣、優美子、姫菜に加え、沙希の姿もある。

その参加者達の視線を独占する一団は、脇目もふらずに八幡のいるテーブルへと歩いてきた。

 

「あら?優里奈さん?」

「あ、優里奈も来たんだ」

「おう、何事も社会経験だ、な?」

「今日はお邪魔してしまって本当にすみません」

「優里奈さんなら大歓迎よ、ね?」

「そうそう、優里奈ちゃん、今日は楽しんでいってね」

「は、はい」

 

 そんな和やかな雰囲気もそこまでだった。突然雪乃がこう言い出したからだ。

 

「さて、優里奈さんがいる以上、空いているのは八幡君の左だけという事になるのだけれど、

誰が勝負に参加するのかしら?」

「あっ、わ、私、席を移動しますから」

「それには及ばないわ、変なちょっかいをかけてくる人もいるかもしれないし、

優里奈さんは基本八幡君の隣にいるべきだと思うわ。

そうじゃないと、八幡君も心配でいてもたってもいられないでしょうしね」

「あっ、はい……」

 

 そして当然のように、結衣と優美子が手を上げた。姫菜は面白そうに沙希の方を見たが、

沙希はこの三人……というか雪乃と優美子の間に割って入る勇気はまだ無いらしく、

もじもじしながらも、今回は勝負への参加を見送ったようだ。

 

「それじゃあ行くわよ、最初はグー!」

 

 その雪乃の言葉にその場にいた者全員が卒倒しそうになった。

どう見ても雪乃は、ジャンケンの時に『最初はグー』等と言うようなキャラではないからだ。

去年その掛け声を掛けたのは結衣だった為、ことさらに違和感が感じられたのだろう。

だが三人は周りの目をまったく気にせず、本気で勝負に集中していた。

これで今日一日の幸せ度が段違いになる為、当然であろう。

 

「これは何の騒ぎだい?ああ、席決めか」

「お、葉山、今回は骨を折ってもらって悪かったな」

「いや、まあ言った通り、俺も戸部にほぼ丸投げしちゃったからね」

 

 丁度その時葉山も到着し、八幡は疲れた顔で、葉山は面白そうに、

その三人の真剣勝負の行方を見守っていた。

ちなみに既に姫菜と沙希は、八幡の正面は避け、左右に分かれて座っていた。

 

「じゃんけんぽん!あいこでしょっ!あいこでしょっ!」

 

 一同が固唾を飲んで見守る中、そして勝者が雄たけびを上げた。

 

「うおおおお、ついにあたしの時代が来た!」

「くっ……」

「あ~あ、負けちゃったか、まあたまにはいっか」

 

 激戦の上、勝者となったのは結衣だった。結衣はこの三人での勝負に負ける事が多く、

ついに勝てた事に喜びを爆発させていた。

 

「それじゃあ遠慮なく……ヒッキー、今日はあたしが隣ね」

「お、おう、お手柔らかにな」

「まあ仕方ないわね、私達は正面に座るとしましょうか」

「八幡、また今年もハーレムだね」

「おい優美子、またって言うな。ただでさえ周りの視線が痛いんだからな」

 

 その言葉通り、一部の者達は若干イライラしていた。

だがトップカーストの全員が八幡サイドに立っている為、

表立っては何も言えないというのが現状だ。

こういう時に期待されるのが、去年のような、ゆっこと遥の暴走である。

もっとも去年それに加担して痛い目を見た者達は、

今年はゆっこと遥だけを矢面に立たせ、傍観する腹積もりでいた。

それでどちらが言い負かされようとも、彼らにとってはそれで満足なのである。

もし二人が来ない場合は、多少ストレスはたまるが、

とりあえずあちらは無視しておけば何の問題もない。

彼らはそう考え、ゆっこと遥の到着を心待ちにしていた。

そしてその期待通り、ついにゆっこと遥が姿を現した。

その後ろには………誰もが驚いた事に、相模南が満面の笑みを浮かべて立っていたのだった。

 

「ゆっこ、遥、さ、入ろ?」

「う、うん」

「ちょっと緊張するね……」

「まあ私達は去年盛大にやらかしたかんね」

 

 そんな三人の姿を見て、警戒感を強めた者が数人いた。

具体的には戸部、戸塚、優美子、結衣の四人である。

反対に内心で喝采したのが反八幡派の者達である。

彼らは自分の身を安全な場所に置いたまま、何かトラブルが起きる事を期待していた。

 

(さて、最初はどんな態度をとれば一番サプライズになるかな)

 

 八幡はそんな事を考えながら、どうすればいいかと少し迷った。

 

(ちょっとくらい何か考えてくれば良かったな………ん?)

 

 その時八幡の視界に、動き出した何人かの友人の姿が映った。

この時の各人の動きはこうである。

 

 八幡は、悠然とし、まったく動こうとはしていなかった、

 

 優里奈はここの人間関係には疎い為、ただ黙って何が起こるのかを観察しようとしていた。

 

 雪乃はGGO組であり、この二人との間には今は何も問題が無い事を知っていた為、

超然とした態度で三人の姿を眺めていた。

 

 優美子は位置的に、最初に自分が二人を抑えるべきだろうと立ち上がり、腕を組んだ。

 

 結衣はその優美子の動きを見て、自分が八幡の盾になろうと、

少し八幡にかぶさるように体をそちらに寄せた。

 

 戸塚は友人達に断りを入れ、こちらに向かって歩き出した。

 

 葉山は内情を知っていた為、演技として優美子をフォロー出来る位置に立った。

 

 戸部は何か問題が起こったら直ぐに潰そうと、

二人をすぐに表に連れだせるように即応体制をとった。

 

 姫菜は去年の出来事を知っていた為、何かあったら嫌味の一つでも言ってやろうと、

どんなセリフにでも対応出来るように、頭をフル回転させ始めた。

 

 沙希は事情が分からなかったが、不穏な空気を感じ取り、

何かあったら自分も参加しようとそれに備えた。

 

「あ、比企谷、やっほ~!」

 

 そんな中、南だけがあっけらかんとそう言って八幡に手を振り、

警戒していた者達は、訳が分からず若干戸惑う事となった。

そしてその心の隙を突くかのように、南を先頭に、ゆっこと遥はガードをすり抜け、

去年と同じように八幡の前に立つ事となった。

二人と八幡は見つめ合い、目と目で会話を始めた。

 

(おい、どうする?)

(そんな事言われても、何も考えてなかったわよ)

(どうすれば一番びっくりしてもらえるかだよね?)

(だな、でもまあここまでで十分緊迫しているし、

さっさとネタばらしをしてもいいんじゃないか?)

(賛成!賛成!左右の三浦さんと川崎さん?だっけ?のプレッシャーが怖すぎる!)

(うんうん、もうやばいって、とにかく助けて!)

(確かにこの二人は怖いからな……了解だ)

 

 そして周囲が緊張する中、おもむろに八幡が立ち上がった為、

この場の緊張はそのせいで最高潮に達した。

 

「こ………」

 

 八幡がそう言いかけ、一同は何がどうなるのかとゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「この前の飯は美味かったな、また行こうぜ、ゆっこ、遥」

「「「「「「は?」」」」」」

 

 その八幡のセリフに、警戒していた者達は自分の耳を疑った。

 

「え、いいの?やった、それじゃあまたレンちゃんも誘う?」

「いいねいいね、是非その方向でお願い!」

「おう、任せておけ、という訳で、ここにいる全員に、

もう俺達がすっかり友達になったって事を報告するとするか」

「「「「「「ええ!?」」」」」」

 

 そして八幡がそう言うに至り、一同は八幡に担がれていた事を理解した、

 

「うん、分かった」

「それじゃあ先ず手始めに……」

 

 そして二人は、その場にいた者達に頭を下げた。

 

「去年は不快な思いをさせてごめんなさい」

「今はもううちらはすっかり友達です、緊張させてしまってごめんなさい」

 

 その二人の殊勝な態度を見た八幡も、二人に続いて謝った。

 

「悪い、驚かせようと思って黙ってたんだが、やりすぎたか?」

 

 その言葉に最初に反応したのは雪乃だった。

 

「そうね、私は知っていたからアレだけど、ちょっと刺激が強すぎたかもしれないわね」

「うちもいきなり二人から同窓会の誘いがあってびっくりしたよ、

まさか三人がもう和解してたなんて知らなかったから」

「でもまあ南もそれで二人と和解出来たんだろ?良かったじゃないか」

「うん、ありがとう!」

 

 その言葉に戸部が反応した。

 

「あ、あ、それじゃあ昨日電話で言ってた、三人追加って……」

「おう、この三人だ、詳しく名前を言わなくて悪かったな」

「いや、何か事情でもあるんかなって思ったけど、

まさかこうくるとはちょっと驚いたっつか、え、え、いつの間に?

去年見た感じじゃ、絶対に和解なんか出来ないように見えたんだけど?」

「まあ色々あったんだよ、なぁ?」

「ええ、本当に色々と……ね」

「そうだねぇ、本当に色々あったね」

 

 そうしみじみと言う三人を見て、疑問を持った者も何人かいた。

 

「その口ぶりだと、何度も接触してたみたいだけど、そんな時間あった?」

「学校や旅行以外だと、ヒッキーってばほとんどゲームに………あっ」

 

 そこで結衣が何かを思い出したのか、そう叫んだ。

 

「お、気付いたか?」

「う、うん、ついこの間の事だしね。っていうかさ、よく考えるとその前からも……」

「結衣、何?何の話?」

「ほら優美子、優美子も何度か動画で見たでしょ?GGOのさ……」

「あっ、も、もしかして……」

 

 それで優美子もその事に気付いたようだ。確かに動画の中で、

シャナとその二人のプレイヤー、ユッコとハルカはどんどん仲良くなっているように見えた。

 

「そ、それじゃああんた達が、あのユッコとハルカ……?」

 

 そのセリフは事情を知らない者には何の事か分からなかったはずだ。

だが少しでもGGOでのシャナ関連の動画を見ていた者は、その言葉に心当たりがあった。

 

「あっ、俺もちょこちょこ見てたっしょ、GGOの動画」

「俺も見てたな、比企谷から教えてもらってたし」

「そういえば私も知ってるかも……」

 

 戸部、葉山、姫菜も口々にそう言った。

ちなみに沙希も、この前八幡がGGOのシャナだと教えてもらい、

元々シャナというプレイヤーの存在だけは知っていた為、

驚いて動画を見たという経緯がある。

だが沙希は、去年の同窓会で何があったかは知らなかった為、

この二人がGGOのユッコとハルカだという事は分かっても、

それが何を意味するのかまでは分からなかった。

 

「でも最初の出会いは散々だったと思ったけど?」

「あ、もしかして、一番最初のシャナゼク動画?

あの時はこんな人間離れしたプレイヤーもいるんだって内心びびりまくりだったよ、本当に」

「だね、あれでこの世には本当にやばい人がいるんだなって思ったもん」

 

 戸部が最初の出会いについてそう言ったのを受け、二人は懐かしむようにそう答えた。

 

「それからも何度か動画には出てたと記憶してるけど、

俺が一番印象に残ってるのは、やっぱりあの戦争の終盤の、銃士Xって子が死んだ時かな。

ほら、以前教えてもらって一緒に見たあのくだり」

「ああ、比企谷がキャラを入れ替えて迎えにいった時の話ね」

「そうそう、それだそれ」

「私達があの時死んで、街に戻って直ぐに、泣いているあの子と接触した時の話ね」

「その時初めて、シャナの中の人が誰なのかを知ったんだよね」

 

 その話を皆が詳しく聞きたがった為、二人はその時の状況を詳しく説明した。

 

 

 

「そう、そんな事が……」

「その辺りから、もう無駄に敵対する事はやめたんだよね、私達」

「そうだな、確かにその辺りからだったと記憶している」

「言い方が堅いよね、まあ恥ずかしいのは分かるけどさ」

「俺は別に恥ずかしがってなどいない」

「高い高~い!」

 

 その横から突然結衣がそう言い、八幡は顔を真っ赤にした。

 

「おい馬鹿結衣やめろ」

「むぅ、あたしは別に馬鹿じゃないし!」

「言葉の綾だ、たまたま繋がっただけだ」

「ならいいけど!」

「問題はそこじゃねえ、その事について触れるのはやめろ」

「高い高~い!」

「優美子もそれ以上はやめろ」

「高い高~いって、今年の流行語大賞にならないかしらね」

「雪乃も突然おかしな事を言い出すんじゃねえ」

「ふふっ、いいじゃないですか、それくらい微笑ましいエピソードなんですよ」

「まあそうかもしれないけどな……」

 

 その頃には、周囲の同窓生達は、ほっとする者と歯軋りする者の二つに分かれていた。

トラブルが何も無くて安心する者が大半だったが、

一部の者は、何も起こらなかった事に歯軋りしていた。

だがそういった者は、人間社会のどこにでもいるものだ。

そしてそんな者達が、今後八幡の人生に関わってくる可能性はほぼ皆無である。

こうして八幡は、去年あったトラブルを仲間達の前で無事解決してみせ、

安心させる事に成功し、その後は和やかな時間が続いた。

こうして今年の同窓会は、サプライズもあったが平穏無事に幕を閉じる事となった。




前にゆっこと遥は別に改心しないと何かで書いた気がしますが、結局こうなりましたね、
キャラが勝手に動く例というか、本当にあの二人がよくここまで成長する事になったと、
感慨もひとしおです!

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