「優里奈ちゃん、何か困った事があったら何でも相談してね」
「はい、皆さんありがとうございます」
「まあほとんどの事は、比企谷が解決しちゃうと思うけどね」
「それでも心強いです、頼りにさせてもらいますね」
同窓会が終わり、いざ帰るという段になり、優里奈は色々な人に声を掛けられていた。
きっちり連絡先も交換しており、今後は色々な者が、
優里奈が困った時に力になると約束してくれていた。
「良かったな、優里奈」
「はい、こんな私に皆さん優しくして下さって、本当に嬉しいです」
「それならまあ良かったよ、ここに連れてきた甲斐があったな」
「それにしてもこのお店、素敵なお店でしたね」
「ソフトドリンクのカクテルも充実してたな」
「はい、あの甘酸っぱいピンク色の飲み物がお気に入りです!」
「そうかそうか、機会があったらまた来ような」
「はい!明日奈さんも一緒だといいですね!」
「明日奈なぁ……あいつ、大丈夫なのかな」
八幡は途中で明日奈の事が気になり、今どうなっているのかを結衣達に尋ねていた。
それによると明日奈は今雪乃の家で、
いろはと留美と一緒にホラー映画のマラソン鑑賞会をしているらしい。
そして今雪乃の家には、結衣の飼っているサブレが待機しており、
雪乃をもてなそうと、その帰りを今か今かと尻尾を振り振り待っているのだった。
それ故に雪乃は二次会に行くと強行に言い張ったが、
結衣と優美子に強引に家に連れ帰られるという事案が発生していた。
「は、八幡君、助けて頂戴!あの家には今は帰りたくないの!」
「往生際が悪いぞ雪乃、明日奈も頑張ってるんだ、お前も頑張れ」
「うぅ……八幡君、八幡く~ん!」
「はいはい、じたばたすんなし」
「行くよゆきのん、レッツゴー!」
そう泣きながら連行される雪乃を見て、通行人達は何事かと驚いていた。
そんな通行人達に、戸部と葉山が頭を下げており、八幡はそんな二人に申し訳ないと謝った。
「あ、いいっていいって、事情はさっき聞いたからさ」
「確かに昔から犬が苦手だったからね、この機会に克服出来るならしておいた方がいい」
この後家に帰った雪乃は、過去最大級のおもてなしをサブレから受け、気絶寸前となる。
これはサブレが雪乃から八幡の匂いを感じ取った為であった。
サブレは本能的に八幡の事を自分の命の恩人だと強く認識しており、
ある意味結衣以上に八幡に懐いている為、張り切って雪乃をもてなそうとした結果である。
そして八幡は、二人と再会を約して別れた。
どうやら姫菜と沙希は、そのまま二人と一緒に二次会に行くらしい。
(川崎も案外付き合いが良くなったもんだなぁ……)
そんな感想を抱きつつも、八幡は本人にその事を言うとまた睨まれそうなので黙っていた。
南達は久しぶりに三人でどこかに行くらしい。
「また友達に戻れて本当に良かったな」
「うん、あんたのおかげだね」
「本当にありがとうね」
「それじゃあまたGGOで遊ぼうな」
「うん、待ってるね」
「またね、比企谷」
戸塚はテニス部の連中と久しぶりに会った為、
他の店に移動してもう少し話してから帰るそうだ。
そして優里奈がいる為二人もこの後どこかに行く事を遠慮し、二人はそのまま帰路についた。
マンションに着くと、予想通りこの日は志乃と茉莉が訪れてきていた。
「あ、おかえり!」
「おかえりなさい、二人とも、話は聞いてるわよ」
「リーダー、楽しかった?」
「ん?そうだな、まあ楽しかったな」
「優里奈ちゃんはどうだった?」
「とっても楽しかったです、八幡さんのおかげで、
大人の階段をまた一歩上った気がします!」
「おい優里奈、その言い方は誤解を生むからやめような」
「あっ、そのセリフ、さっきと同じですね」
「このセリフなら、色々な奴に何度も言ってるからな……」
その会話を聞きとがめた志乃が、優里奈にこう尋ねた。
「何?何かあったの?」
「そういう訳じゃないんですけど、ええと……」
そして優里奈は、ゆっこと遥の登場と、その後の出来事について説明を始めた。
「ふむふむ、で、それがさっきのセリフとどう繋がるの?」
「それがですね、八幡さんが演出したサプライズに、相当緊張させられた結衣さんが、
八幡さんにこう言ったんです。
『もう、凄く心配したんだからね、私の純心な心を返してよ!』って。
それに八幡さんが突っ込んだんですよ、『それ、心が被ってるからな』って」
「あはははは、確かにそうだね、でもさっきのセリフと違うみたいだけど……」
優里奈はその言葉に頷き、続けてこう言った。
「問題はその後です、続いて優美子さんがこう言ったんです、
『八幡、ついでにあーしの純潔も返せ』って」
「うわ………」
「それでさっきのセリフなのね」
「はい、それで八幡さんが、『おい優美子、その言い方は誤解を生むからやめような』
って突っ込んだと、そういう訳です」
「それはさすがに突っ込むわ」
志乃は八幡の方を見ながらそう言った。
「だろ?しかもあいつら、ほとんどの場合、
わざと誤解させるように言ってるから始末が悪いんですよ」
「かわいいもんじゃない」
「わざとそういう事を言って、八幡君に構ってほしいっていう女心よね」
「そういうのは俺が困るのでやめてほしいんですけどね……」
八幡はため息をつきながらそう言うと、次に三人にこう尋ねた。
「で、俺がいない間、何かありましたか?」
「特に無いかな?」
「うん、三人で仲良くご飯を食べて、のんびりゲームとかをして、
その後は………あっ、そうだ茉莉ちゃん、あの事は言っておいた方がいいかな?」
「そうね、閣下から正式に命令書が届いた訳だし、伝えておいてもいいかもしれないわね」
「何の事です?」
八幡はきょとんとしながらそう言った。
「八幡君、もうすぐアメリカに行くでしょ?」
「ええ、確かにその予定ですが」
「それ、私達も正式に一緒に行く事になったわ、ソレイユへの出向社員としてね」
「え、そうなんですか?」
「うん、それなら心強いでしょ?」
「あ、はい、それはもちろんです、でもシステムの開発の方はいいんですか?」
その八幡の問いに、志乃と茉莉は微妙な顔でこう言った。
「それがね……」
「詩乃ちゃんとか大善君に風太君が、思ったより優秀でさ」
「詩乃ちゃんって、あのツンデレ眼鏡っ子の方の詩乃の事ですよね?」
その八幡の言い方に、二人は思わず噴き出した。
「あはははは、うんそう、私と文字違いのあの詩乃ちゃん」
「そ、その……ぷぷっ……ツンデレ眼鏡っ子の詩乃ちゃん達が、
思ったよりも優秀で、十分私達の代わりが努められると判断されたみたいなの」
「そうなんですか?あいつらやるなぁ……」
「今では空挺降下も軽々とこなすわよ、あの三人」
「まじですか……」
「まあ最初は悲鳴を上げていたけどね」
八幡は三人の苦労を忍び、思わずこう漏らした。
「ハクサイとニラ、器量よし、オセアニアました!とか言ってたあの詩乃がねぇ……」
「そ、それは言わない約束よお父っつぁん!」
「だ、駄目だってば、それを言っては……ぷぷっ……わ、笑ったら失礼だから」
二人は必死に笑いを堪え、話を聞いた美優も、同じく笑いを堪えるのに必死になった。
「もう、本当にかわいいなぁ」
「そういえばお前、詩乃と仲がいいよな」
「うん、だってしののんが最初にALOに来た時からの付き合いだし」
そういやそうだったなと、美優の言葉で八幡は当時の事を思い出した。
その詩乃も、今では二つ名が付けられるくらい成長している。
「あいつ、何気に努力家だよなぁ」
「うん、それは思う。普通空挺降下なんて、そう簡単に慣れるもんじゃないし」
「そう考えると大善と風太もおかしいんですかね?」
「うん、あの二人もさすが度胸があるよ、伊達にGGOのトッププレイヤーを張ってないね」
「まあそう言われると確かにそうですね」
八幡は、自分の友人達が褒められるのが、我が事のように嬉しいらしかった。
「まあそんな訳で、私達があなた達の護衛につくわ」
「一応今回行くメンバーは、全員銃が撃てますけど」
「それも聞いてるわ、でも八幡君、生きてる人間を普通に撃てる?」
「そうですね……俺は多分撃てると思います、俺の手は既に血に塗れてますから」
その八幡の言葉に、志乃が真っ先に反応した。
志乃は八幡の頭を胸に抱き寄せ、諭すようにこう言った。
「そんな自虐的な事を言わないで。
本当にやばい時はそうしてもらう可能性は否定出来ないけど、
そうじゃない限り、その役目は私達が担うから、だから八幡君は安心してね」
「あ、あの……」
「いいからいいから、今くらいは黙って私の胸にその体を委ねていいのよ、
でもそうね、落ち着かないならこのまま寝室に行きましょうか」
「その言い方から、下心が透けて見えるんですが……」
「ちっ」
志乃は舌打ちすると、八幡を自分の胸から開放した。
「ちっ、じゃねえ、あんたは自分の胸の破壊力をもっと自覚して、そういう事に使うなよ!」
「え~?別にいいじゃない、八幡君も嬉しかったはずだし、
私は玉の輿の嫁入りの可能性が上がる、ウィンウィンじゃない!」
「はぁ………茉莉さん、志乃さんを何とかして下さいよ……」
そう言いながら茉莉の方を見た八幡は、
そこに慈愛の表情を浮かべながらこちらに向かって手を広げる茉莉の姿を見て絶叫した。
「あんたもかよ!」
「仕方ないの、だって今の志乃の言った作戦は、確かに有効だと認められるんだもの」
「まじかよ、おい美優、それじゃあお前が何とか……」
そう言って八幡は、今度は美優の方を見た。
だが美優は、教育上よろしくないと判断したのだろう、両手で優里奈の目を塞いでいた。
それを見た八幡は、思わずこう言った。
「お、お前にしちゃナイス判断だ、えらいぞ美優」
「そこはエロいぞと言って欲しいです、リーダー!」
「………今のお前のどこにそんな要素があるんだ?」
「実は私は今、下着をつけていません、えっへん!」
その言葉に八幡は絶句した。何故なら今の美優は……
「お、お前何て事をしてやがるんだ!今お前、スカート姿じゃねえかよ!」
「あっ、しまった……黙って見せて責任をとってもらえば良かった……てへっ」
「てへっ、じゃねえ!さっさと寝室に行って下着をつけてこい!」
「ちぇっ……」
そして美優は、優里奈の目から手を離すと、残念そうに寝室へと向かった。
その途中で美優は、わざとジャンプしたりしたのだが、
八幡は頑なにそちらを見ようとはしなかった。
「くっ……」
美優は悔しそうにそう言いながら寝室へと消えていき、
八幡はため息をつくと、優里奈に向かって言った。
「はぁ……これだから肉食系が集まると始末に負えねえ……
優里奈、お前はこんな大人にならないようにな」
「えっ?私としては、そのくらいの大胆さも時には必要かなって思うんですが」
「必要ない、優里奈はそのままでいい」
「は、はい」
そんな八幡に、志乃と茉莉は抗議したが、八幡は取り合わなかった。
そこに美優も加わり、三人がかりで抗議してきた為、
八幡は百歩譲ってゲームで勝負し、負けたらいくらかの主張を認めると言い出した。
「分かりました、それじゃあ勝負しましょう」
「いいわよ、で、何で勝負するの?」
「桃鉄九十九年で」
「えっ?」
「リーダー、夕方言ってた事は本気だったんだ……」
「そ、それは、さすがに明日の昼くらいまで終わらないんじゃないかしら……」
そう言われた八幡は、さすがにやりすぎかと思い、こう言い直した。
「それじゃあ三十年で」
「それくらいならいいかな?」
「まあ多分……」
「それじゃあ早速勝負しましょう、
優里奈、マルチタップと予備のコントローラーを用意してくれ」
「あ、はい」
そして勝負が始まったが、所詮素人な四人相手に、
桃鉄マスターを自称する八幡が負ける要素はまったく無く、
この日の勝負は八幡の圧勝で幕を閉じた。
そして次の日、五人は昼過ぎまで誰も目覚める事は無かったのであった。