ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第550話 サプライズ

「ピトさん、ピトさん!」

「あ、ごめん、考え事をしてたわ、何?」

「この木なんの木って、もしかしてあれの事ですか?」

「え、どれどれ?」

 

 ピトフーイはレンが指差す方向を見て、笑顔でレンに言った。

 

「そうそう、あれよあれ、どう?大きいでしょ?」

「はい、凄く大きいです!」

 

 レンのその言葉を聞いたピトフーイは、ハッとした顔でレンに言った。

 

「レ、レンちゃん、今のセリフ、もう一度言ってみてくれない?」

「あ、はい、えっと、凄く大きいです!」

 

 もう一度レンにそう言わせ、少し興奮したのだろう、

ピトフーイはハァハァしながら気取った口調で次にこう言った。

 

「そうか、具体的はどこが大きいんだい?さあ、その口で僕にハッキリ言ってごらん?」

「どこがって、え?僕?ええと、それは………あっ!」

 

 そしてレンは、顔を真っ赤にしながらピトフーイに言った。

 

「ピトさん、そういうえっちな事は言っちゃ駄目です!」

「あら、私はどこが大きいのか尋ねただけよ?当然あの木の事よね?」

「えっ?あ、その……」

「何?もしかして、別の事を考えちゃったの?やだ、レンちゃんって意外とムッツリなのね」

「ち、違います誤解です!そう、木、あの木が大きいんです、他の何かの事じゃないです!」

「へぇ~?」

「あっ、ほらピトさん、木に大きな穴が開いてますよ、あそこに入るんじゃないですか?」

 

 そうあからさまに話題を逸らすレンを、ピトフーイはもう少しからかいたいなと思ったが、

その瞬間にイベント発生のアナウンスが流れた為、それを断念した。

というか今のタイミングはもしかしたら、

二人がイベント発生のトリガーを引いてしまったのかもしれない。

 

「まずいわね、レンちゃん、飛ばすわよ!」

「あ、はい!」

 

 そう言いながらピトフーイは、勝手に借りてきたニャン号のアクセルを思いっきり踏んだ。

イコマによって強化されたニャン号は、それにより、二百キロ近いスピードへと到達した。

 

「う、うおおおおおおおお!」

 

 レンは興奮のあまりそう絶叫し、ピトフーイはその外見に似合わない声に大笑いした。

 

「あはははははははは、何その太い声」

「だって、こんなスピードが出るなんて思ってもいなかったから!」

「まあ改造してあるし?でも直線だから怖くはないでしょ?周囲に障害物も何も無いしね」

「はい!」

 

 どうやらニャン号は、イコマによって更に魔改造されているらしい。

そして直後にきょろきょろと辺りを見回したレンが、後ろを見て驚きの表情を浮かべた。

 

「え?え?」

「何?どうしたの?」

「後ろから、同じくらいのスピードで車が追いかけてきてます、ピトさん!」

 

 そう言われたピトフーイは、きょとんとした表情でバックミラーを見た。

 

「はぁ?まさかこのニャン号に追いつける車なんかそうそうあるはずが……

あ、あれ?あれはまさか、ホワイト?乗っているのは………あ、やべ、ロザリアちゃんだ」

「ピトさんのお知り合いですか?」

「まあそうなんだけど………はぁ、まあいいか、あっちと合流しましょうか」

 

 ピトフーイは、ここで逃げ出しても絶対に世界樹要塞で捕まるなと思い、

逃げるのはやめ、素直にロザリアと合流する事にした。

そして二台は並んで世界樹要塞へと入った。

 

 

 

「や、やっほ~?」

「やっほ~じゃないわよ、あんたね……」

「き、昨日はごめんって、別にロザリアちゃんの特殊な性癖を暴くつもりは……」

「どの口がそれを言うの」

「ご、ごめんなひゃい……」

 

 ピトフーイはロザリアにほっぺを摘まれながらもそう謝った。

 

「初めまして、私はレンと言います、宜しくお願いします、ロザリアさん!」

 

 そしてロザリアに、レンは元気いっぱいに挨拶をした。

 

「え?あ、ど、どうも、初めまして?」

「どうして疑問系なんですか?」

「え、だって、別に私達は初………めまして」

 

 初めて会った訳ではない、と言いかけて、ロザリアは危うくそう修正した。

これはシャナの指令で、十狼メンバーがレンにリアル正体を明かす事を禁じられていた為だ。

シャナの説明によると、これはレンにおかしな影響を与えない為だと言われていた。

ちなみに闇風も、今はレンに対する指導は感覚的なものに留めている。

この時期シャナと闇風は、スクワッド・ジャムでのレンの活躍の理由を分析し、

ある程度レンのスタイルが固まるまで、余計な枷をはめないように気を付けていた。

要するにシンカーの考察通りの展開になっている訳なのだが、

実はシンカーの考察については、シャナが色々とアドバイスしてああいう考察になった為、

結局ピトフーイの考えた事は、元を辿ればシャナが考えた事なのであった。

 

「あ、はい、初めまして!」

「もうすぐ敵が押し寄せてくるから、頑張ってね」

「そうなんですか!?頑張ります!」

 

 レンはそう元気よく言い、興味深げにあちこちを見学し始め、

その案内はフローリアが努めていた。それを幸いに、ロザリアはピトフーイに詰め寄った。

 

「ちょっとピト、あんた最近鞍馬山に行った?」

「そういえば最近は忙しくて顔を出してなかったかも、

誰もログインしてなかったってのもあるけど」

「あんたね、たまには顔くらい出しておきなさいよ、

それじゃああそこに置いてある、シャナからのメッセージも見てない訳ね」

「えっ!?何かあったの?」

「そうよ、スクワッド・ジャムの後、シャナが十狼宛てにメッセージを置いてるのよ、

その内容は、レンにリアルでの正体を教える事を禁ず、よ」

「えっ?そ、そうなの?」

「ええ、こっちで正体を明かす事で、レンちゃんが私達に興味を持って、

色々な動画を見たりしてしまって、

GGOでの戦いはこういうものだっていう先入観を持つ事を防ぎたいそうよ。

シャナはどうやら、レンちゃんには常識に囚われないプレイをお望みのようね」

「そ、そうなんだ……」

 

 ピトフーイはその言葉に嫉妬心が沸くのを抑えられなかった。

要するにそれは、シャナがレンに対してかなり興味を抱いている事に他ならないからだ。

あるいはこれがピトフーイ個人へのメッセージなら、

ピトフーイは興奮のあまり失神したかもしれないが、これは十狼全員へのメッセージであり、

そこにはピトフーイを特別視するような要素は一切無い。

少し前までのピトフーイなら、それでも興奮したかもしれないが、

最近シャナとまったく会っておらず、シャナ成分に飢えているピトフーイにとっては、

それは興奮する材料とはならなかったようだ。

 

「分かった、とは言っても私がレンちゃんに正体を明かす事は、

そもそもありえないんだけどね」

「まああんたの場合はそうよね、とにかく伝えたから、私はもう落ちるわよ」

 

 その言葉にピトフーイは驚いた。

 

「えっ?イベントに参加していかないの?」

「ええ、今日はとても大切な人を部屋に待たせているから、今は一分一秒でも惜しいのよ」

 

 そのロザリアの言葉に、ピトフーイはまさかと思い、こう尋ねた。

 

「そ、それってまさかシャナ!?」

「そんな訳無いでしょ、もしそうなら二人でログインしてるわよ」

「あ、そうだよね」

「というかよく考えると、もしあいつが私の自宅に来るなんていうイベントがあったなら、

そもそもここにログインなんかしてないかも」

「あはははは、確かにそうだね」

「それじゃあとにかく釘は刺したわよ、サプライズも用意しておいたから、

レンちゃんにピトの格好いいところでも見せてあげるのね」

「サプライズ?それって……」

 

 だが既にロザリアはログアウトした後だった。

 

「ロザリアちゃん、まさか浮気……?いやいや、無い無い、きっと女友達かな」

 

 実際待たせていたのははちまんくんであったのだが、

もしその事をピトフーイが知ったのなら、

ピトフーイはどんな手段を使ってもロザリアの家に向かった事だろう。

だが幸いそうはならず、ロザリアはある意味命拾いした。

 

「ピトさん、ここのショップって凄く商品が充実してますね、

って、あれ、ピトさん、ロザリアさんは?」

「ああ、彼女はちょっと用事があるらしくて落ちたのよ。

とりあえずレンちゃん、上の部屋に案内するからこっちに来てもらえる?

他のプレイヤーは通常入れない所なんだけど、別にいいよね?」

 

 その言葉は前半はレンに向けたものだが、最後の言葉はフローリアに向けたものだった。

 

「はい、問題ありません」

「それじゃあフローリア、防衛戦に参加してくるね」

「はい、ご武運を」

 

 そして二人は連れ立ってサブマスター用の個室へと移動した。

 

「ここが私専用の部屋よ」

「えっ?ここって公的な場所じゃないんですか?」

「さっきのフロアと屋上はそうよ、でもその中間にある、この一画は違うの。

あえて誰のものかと言うならば、シャナの物ね。というか、この要塞自体シャナの持ち物よ」

「そ、そうなんですか!?」

「ええ、ちなみにさっきのフローリアは、ここの管理NPCね」

「嘘……全然分からなかった……」

「GGOにはまだまだレンちゃんの知らない不思議な事がいっぱいあるのよ、

まあそういうのは調べたりせず、自力で見つける事ね」

「は、はい!」

 

 ピトフーイは、シャナの意思に添えるように、レンに一応釘を刺した。

 

(これでいいんでしょ?フン、今度会った時、この胸の疼きを存分にぶつけてやるんだから)

 

 ピトフーイはその時だけ神崎エルザモードに戻り、そう考えた。

 

「さてレンちゃん、射撃練習の始まりよ、存分に経験値を稼いでいってね」

「射撃練習!?」

「レンちゃん、さっきから驚きすぎよ」

「驚かすのはピトさんじゃないですか!」

「あはははは、まあそうね、今からこの要塞に、敵がわんさか攻めてくるの。

敵は全包囲から来るけど、最終的にはこの真下の要塞入り口を壊そうと集まってくるわ。

だからそれに負けないように、とにかく敵を殲滅よ!」

「は、はい!あ、でももし中に乗り込まれちゃったらどうするんですか?」

「その時は、要塞内部で生きるか死ぬかの殺し合いね、

まあもっともそうなった事は今まで一度も無いけどね」

「そうなんですか……と、とにかく頑張ります!」

 

 その時フローリアの声が要塞内部に響いた。

 

『敵、十二時方向から接近中、距離五百』

 

 そのメッセージと共に、上の方から大歓声が響いてきた。

 

「うわ、凄い声……」

「ここに来てからずっと他のプレイヤーがいなかったでしょ?

実は全員屋上で、敵が来るのを今か今かと待っていたのよ」

「なるほど……」

「あ、レンちゃんほら、あそこを見てみて」

「あそこって、何か黒い物が……って、ええええええええ!?あれが全部敵ですか!?」

「ええそうよ、とりあえず遠いうちはこの銃を使いなさい、

これならあの距離でも問題なく届くから。敵が近くまで来てからがピーちゃんの出番ね」

「ありがとうございます、お借りします!」

 

 そして二人は中距離狙撃を開始した。

 

「まあ狙いを付けなくても当たると思うけど、特に余計な事は言わないわ、

とにかく撃って撃って撃ちまくるのよ!」

「はい!」

 

 レンは中距離狙撃は初めての経験だったが、それでも問題なく敵に命中させる事が出来た。

とにかく敵の数が多いせいであったが、それにはもう一つ別の理由があった。

 

「上からの狙撃が少ない……?」

「ピトさん、どうかしたんですか?」

「いつもならもっと屋上から、この段階で銃弾が飛ぶところなんだけど、

どうやら今日は、頭数はいても初心者の比率が少し多いのかもしれないわね、

ちょっとこちらからの攻撃の密度が薄い気がする」

「ええと、それはつまり……」

「後でピンチが来るかもしれないわ」

「が、頑張りましょう!」

「そうね、これは最初から本気でやらないといけないみたい」

 

 ピトフーイにとって、よりによって自分しかいない時に、

シャナの持ち物である世界樹要塞を、例え所有権に変化は無く一時的にだとしても、

むざむざと失う事になるのは耐え難い苦痛であった。

 

(いざとなったら単騎で敵の正面に斬りこんででも、絶対に守ってみせる)

 

 ピトフーイはそう考えながら、無言で引き金を引き続けた。

レンも本気になったのか、一心不乱にピーちゃんを乱射し続けていた。

 

「まずい……やっぱり弾幕が薄いよ……何やってんの!」

 

 ピトフーイは少しイラついたようにそう言った。

同じように、上の方からベテランプレイヤーの何人かが声を上げていた。

 

「お前らもっと撃て、撃てって!このままじゃ負けちまうぞ!」

「ルーキー共、弾は事前に用意しておかないと駄目だろうが!

というか連れてきた奴は、ちゃんと最低限の事はレクチャーしておけっての!」

 

 そんなギスギスした声が聞こえたのか、レンが突然ピトフーイにこう言った。

 

「ピトさん……いざとなったら二人でここから飛び降りて、

どんな手段を使ってでも、とにかく敵の侵入を防ぎませんか?」

 

 その言葉にピトフーイは、ささくれだっていた心が落ち着くのを感じた。

 

「死ぬかもしれないわよ、いいの?」

「構いません、私、何度も死んだ事はありますし、

それよりもシャナさんの要塞を目の前で取られるなんて、悔しいじゃないですか」

「レンちゃん………」

 

 ピトフーイは感動した面持ちでそう呟いた。

先ほどまで感じていた嫉妬心は、既に消えてしまっている。

今ピトフーイが感じているのは、ただシャナを囲む仲間としてのシンパシーだけだった。

 

「………分かったわ、近接戦闘の準備をしておきましょう」

「はい!」

 

 そしてレンは素早く装備を着替え、腰の後ろにナイフを差し、

予備のマガジンを大量にバッグに入れた。

そのレンの服装を見たピトフーイは思わずあっと叫んだ。

 

「そ、それって……」

「それ?どれですか?」

「そのボディアーマーだけど……」

「あ、これ、かわいくないですか?イコマさんって方に作ってもらったんです!」

「そ、そう、イコマきゅんにね」

「イコマ……きゅん!?」

「本当にレンちゃんは、今日は驚いてばっかりね」

「も、もう驚きませんから!」

 

 それは色こそピンクだったが、十狼専用のボディアーマーであった。

そしてピトフーイは、レンの目の前で、

それとまったく同じデザインのボディアーマーを装備した。

 

「えっ?」

「やっぱり驚いたじゃない」

「だ、だって、それ……」

「まあこれもイコマきゅん製だしね」

「やっぱりそうなんですか!」

「ええ、でもこれ、本当は私達の専用装備なのよね」

「専用装備?あれ、でもこれって……」

「いいのよ、だってシャナにもらったんでしょう?」

「あ、はい、そうですけど……」

「なら問題ないわ、さあ、準備が整ったらいきましょう」

「はい!」

 

 二人はそう決死の覚悟を決め、窓から飛び降りようとした。

その時外から大歓声が聞こえ、二人は飛び降りるのを一旦やめた。

 

「うわ、凄い大歓声……」

「何があったのかしらね」

 

 二人はそう言って外を見たが、特に何も見えない。

耳をすますと、どうやらプレイヤー達は、遠くに何かを見付けて盛り上がっているようだ。

 

「あ、ピトさん、もしかしてあれじゃないですか?」

「あれ?あ………」

 

 それが何かを理解した瞬間に、ピトフーイは思わず涙がこぼれるのを感じ、

慌ててそれをぬぐった。

 

「あれが何か分かるんですか?」

「うん、あれはね、ブラックって名前の軍用車よ」

「ブラック?そんなメーカーがあるんですか?」

「ううん、そういうんじゃなくて、呼び名ね」

「あ、なるほど!」

「乗っているのは……」

 

 そしてピトフーイは単眼鏡を取り出し、誰が乗っているのか確認した。

 

「運転しているのは先生、他に二人……シズ、イクス!」

 

 その興奮したようなピトフーイの様子を見て、

レンはあれはかなり強力な援軍なんだろうなと考えた。

 

「ピトさん、あれって援軍ですよね?」

「ええそうよ、これを貸してあげるから、まあ見てなさい」

「ありがとうございます」

 

 そしてレンは、そのブラックという車の様子を観察した。

 

「うわぁ、綺麗な人達が三人も……って、えええええええ!?」

 

 レンが見守る中、ブラックは敵の真っ只中に突っ込み、敵をはね飛ばし始めた。

そして同時に白い髪の女性が車の屋根に上がり、そこに据えてある銃を乱射し始めた。

 

「うわ、うわ………凄い」

 

 敵はそのまま蹂躙されてゆき、要塞の入り口前に、ぽっかりと空白地帯が出来、

ブラックは扉を塞ぐようにそこに停車した。

その瞬間にレンは、いきなりピトフーイに抱きかかえられた。

 

「ピ、ピトさん?」

「サプライズ、確かにサプライズだわ、あはははははははは!」

「う、うわあああああああああああ!」

 

 そしてレンを抱きかかえたまま、ピトフーイは宙へと身を躍らせたのだった。




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