ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第554話 小猫とはちまんくん

「ねぇ、私には、どんな服装が似合うと思う?」

「あ?その前にとりあえず化粧を変えてみろ、

映像を見たが、コミケの時の化粧は、俺から見てもかなり美人に見えたぞ」

「え?や、やっぱり?そっかぁ、そう思ったんだ、

でもそうすると、実はナンパが増えるのよ……」

 

 薔薇はそのはちまんくんの言葉に、困ったようにそう言った。

 

「そうなのか?」

「ええ、だからどうしてもキツい感じに……ね?」

「お前も色々と苦労してるんだな……」

「そうなのよ、分かってくれる?」

「いや、男だからまったく分からん」

「そうよね、当たり前よね!」

「何でそんなに嬉しそうなんだよ……意味が分からん」

 

 薔薇とはちまんくんの会話は、万事がこういった調子であった。

基本はちまんくんは、塩対応ぎみな返事をするのだが、

それに対して薔薇が、とても嬉しそうに反応するのだ。

薔薇はとにかく、どんな話題にもちゃんと反応してもらえる事が、

嬉しくてたまらないようなのである。

 

「はぁ、こういうの、新鮮でいいわぁ」

「別に本体だって、話くらい聞いてくれるだろ?」

「それはそうかもだけど、基本会社でしか会えないから、

どうしても仕事の話がメインになるじゃない。

そんな時にプライベートの話を下手に持ち出すのはさすがにちょっとね……」

「たっだらお前もマンションに押しかければいいんじゃないか?」

「だ、だってそれだと他の人にも話を聞かれちゃうじゃない、

それはさすがに恥ずかしいというか何というか……」

 

 そうもじもじする薔薇を見て、はちまんくんはストレートにこう言った。

 

「まあ確かにお前は実は乙女だから、そういう事もあるか」

「えっ?」

 

 そのはちまんくんの言葉に薔薇は少し驚いた。

 

「はちまんくんはそう思ってるの?」

「あ?俺だけじゃない、本体もそう思ってるぞ」

「そ、そうなの?」

「ああ、実は前、本体と二人で色々話す機会があってな」

 

 それはあの事件の後、ソレイユではちまんくんの修理が行われていた時の事だ。

その頃の八幡は、暇を持て余すとはちまんくんと、色々な話をしていたのだった。

それはアルゴの頼みでもあった。アルゴは八幡とはちまんくんの言動を近づける為に、

はちまんくんの定期メンテの際には必ず八幡を部屋に呼び、

はちまんくんと話すように八幡に頼んでいたのだった。つまりその延長なのである。

 

「そうだったの?」

「ああ、いくら俺があいつのコピーのようなものとはいえ、

時間が経つに連れ、色々な部分がズレていくのは当然だろ?

しかもそもそも俺の元になっているのは、あいつの記憶そのものじゃなく、

他人から見たあいつだからな、どうしてもそうなっていくのは仕方がない」

「まあ確かにそうだけど、そんな事をしていたんだ……」

「で、その時に、お前の事を話す機会があってな、その時に本体がそう言ってたんだよ」

「なるほど、そういう事」

 

 薔薇はその言葉に納得しつつも、納得のいかない部分について、こう尋ねてきた。

 

「で、でもそれじゃあどうして、乙女だと思っている私に対して、

あいつはあんなにもぶっきらぼうなの?」

「聞きたいのか?」

「ええ」

「まあ別にいいが、ハッキリそう言われたとかじゃないから、俺なりの分析も入るぞ?」

「それでいいわ、聞かせて」

「分かった」

 

 そしてはちまんくんは、薔薇にこう語りだした。

 

「あいつはお前の事を拾ったと主張している、これには異論は無いな?」

「そ、そこは主観的な言い方でお願い!」

 

 薔薇は必死な顔でそう言い、はちまんくんは肩を竦めると、こう言い直した。

 

「俺はお前を拾った、これには異論は無いな?」

「え、ええ、うん、いい、凄くいいわ……」

 

 興奮したようにそう言う薔薇を無視し、はちまんくんはそのまま説明を続けた。

 

「それによって俺は、後に引けなくなった」

「え?」

「要するに、色々な所でそう宣言した事によって、

その言葉を後から否定出来なくなったという事だ」

「まあそれはそうね」

 

 薔薇はその言葉に素直に同意した。

 

「その結果どうなったか」

「ふむふむ」

「お前は俺の忠臣だ、そうだな?」

「当然よ、正直命を賭けてもいいくらいの覚悟はあるのよ」

「忠臣は、主人と一心同体、常に一緒にいるのが普通だ」

「ええ」

「つまり俺は、一生お前と一緒にいる事になった訳だ」

「ありがとう?」

「どういたしまして?それでだ、ここからが大事な所だ」

「………」

 

 その言葉に薔薇はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「お前は正直言ってエロい、それはもうとんでもなくエロい、その自覚はあるか?」

「えっ?」

「目の前に自分が何をしても受け入れてしまうエロい女がいる、

そんな状態に一生置かれた場合、男はどんな行動をとる?」

「えっと………押し倒す?」

「まあ普通はそうだ、だがあいつはそんな事はしない、その結果どうなるか」

「そうなると……う~ん」

 

 薔薇が何も思いつかないようなので、はちまんくんは一気にこう続けた。

 

「必要以上にくっつかれないように、お前には塩対応をする事にする、

それによって自身の理性を保つように調整する」

「あっ」

「あくまで一部は俺の想像だが、まあそういう事だ」

「え、えっと……」

 

 そして薔薇は、もじもじしながらはちまんくんにこう尋ねた。

 

「ど、どこからが想像で、どの部分があいつが言った部分?」

「そんな事、さすがの俺でも言えるかよ」

「そ、そこを何とか!」

「ご想像にお任せだ、ノーコメント、黙秘する」

「う、うう………」

 

 薔薇はこれ以降も事あるごとに、はちまんくんに誘導尋問を仕掛け、

それをことごとくかわされ、欲求不満の度合いを高めてしまう事になった。

 

 

 

 チュンチュンと雀の鳴き声が聞こえ、薔薇は愕然と窓の外を見た。

 

「…………もうこんな時間に」

「一晩中粘りやがって、まあ色々な話が聞けたから楽しかったけどな」

「初めての朝チュンは、せめてもっと色っぽい感じが良かった……」

「まあドンマイとしか言いようがないな」

「仕事、仕事の準備をしないと……」

 

 薔薇は目に隈を作った状態で、それでも仕事に行こうと準備を始めようとした。

 

「ああ、それなら昨日、お前が風呂に入っている時に、

俺が有給を一日追加するように本体に頼んでおいてやったぞ、

という訳で今日も休みだ、ゆっくり寝るといい」

「えっ?そ、そうなの!?」

「おう、事実だ」

 

 その言葉に薔薇は気が抜けたのか、へなへなとその場に崩れ落ちた。

だがその直後に、それが何を意味するのか理解し、愕然とこう言った。

 

「って、八幡本人に!?そ、それじゃあはちまんくんがここにいる事が、

あいつにバレちゃうじゃない!」

 

 だがはちまんくんは、その問いに対し、淡々とこう言った。

 

「それならとっくに知ってたぞ」

「えっ?」

「昨日スリープモード中に、あいつが車の中の俺を見ていた事は動画で確認済だ」

「う………………」

「心配するな、別にその事については何も言ってなかったからな、

だが一つだけ、この時間に伝えてくれと言われた言葉がある」

「あ、はい……」

 

 そしてはちまんくんは、薔薇をじっと見つめながらこう言った。

 

「徹夜すると、肌が荒れるぞ」

 

 薔薇はそう言われ、きょとんとした顔をした。

 

「そ、それだけ?」

「ん?ああ、その後に、綺麗な顔が台無しだと言っていたようないなかったような……」

「ど、どっち!?」

「さあ、直接聞いてみたらどうだ?」

「そんなの絶対に答えてくれないに決まってるじゃない!」

「まあこれをお前に対する罰の代わりとする」

「えっ?」

「だとさ」

「も、もう、もう!」

 

 薔薇は地団駄を踏んだが、こうなるともうどうしようもない。

そしてはちまんくんは、薔薇にかおりが直接ここに迎えに来る事を伝えた。

 

「あ、そうなのね、良かった、ちょっとこの状態での車の運転は危ないかなって思ってたの」

「まあそうだな、という訳で、そろそろお迎えだ」

「あ、ねぇ、はちまんくん」

「ん?」

 

 そして薔薇は、とても穏やかな笑顔ではちまんくんに言った。

 

「昨日は一日中、私の話し相手をしてくれて本当にありがとう、八幡、大好きよ」

 

 明らかにそれは、はちまんくんを通して八幡に向けられた言葉であったが、

それを理解しつつもはちまんくんは、ただ一言だけこう答えた。

 

「おう、どういたしましてだな、俺が言うのもアレだが、幸せにしてもらえよ、小猫」

「うん、そうなれるように私も頑張る」

「頑張る方向を間違えるなよ」

 

 そしてかおりが到着し、薔薇はかおりに向かってこう言った。

 

「かおり、有給を一日伸ばしてもらっておいた方がいいわよ、

はちまんくんと話してると、ついつい時間を忘れて話し込んじゃうから」

「えっ、室長、随分眠そうに見えると思ったら、まさか徹夜ですか?」

「ええ、ついつい一晩中話しちゃったわ」

「わ、分かりました、頼んでみます」

「もうはちまんくんが私達の所にいる事はバレているみたいだから、

恥ずかしかったらはちまんくんに連絡してもらうといいわよ」

「え、そうなんですか?あちゃ………」

 

 そんなかおりを励ますかのように、薔薇は言った。

 

「大丈夫よ、特にお咎めとかは何も無いから」

「そうですか、良かったぁ……」

 

 そして薔薇は、続けてかおりにこうアドバイスをした。

 

「ねぇかおり」

「あ、はい」

「秘めた思いや質問があるなら、遠慮しないではちまんくんに話してみるといいわ、

決して我慢しちゃ駄目よ、その方が多分、今後の為にもいいと思うわ」

「し、室長は話してみちゃったんですか?」

「ええ、そうね」

「そっかぁ、だから室長、眠そうなのにそんなに綺麗なんですね」

「えっ?そ、そう?」

「はい!」

 

 かおりはそう思ったままの感想を口にし、

薔薇は戸惑いながらも、そういうものかと納得した。

 

「そっか、やっぱり私はあいつがいないと駄目って事なんだ……」

「ふふっ、困っちゃいますよね」

「ね」

 

 二人はそう言って笑い合い、薔薇はそのまま眠る事にし、

かおりははちまんくんを連れて外に出た。そこで待っていたのは千佳であった。

 

「あれ、千佳か?」

「うん、千佳に車を出してもらったの」

「なるほど、そうだったのか」

「という訳で、千佳は午後から用事があるみたいだから、

午前中はうちでだらだらしながら三人でお話ししよう!」

「分かった、宜しくな、千佳」

「…………あ、うん」

「千佳、どしたの?」

 

 その千佳の様子に、かおりは首を傾げながらそう問いかけた。

そのやり取りでピンときたのか、はちまんくんがかおりにこう問いかけた。

 

「なぁかおり、もしかして千佳に、俺の事を説明するのを忘れてないか?」

 

 さすがははちまんくん、空気の読めるぬいぐるみである。

そしてその問いに、かおりはハッとした顔になった。こちらもさすがはかおりと言うべきか。

 

「あ、あは……ご、ごめん千佳、確かに説明してなかったね……ウケるし」

「私はまったくウケないよ、かおり……」

「そうだぞかおり、それはさすがに俺もウケないわ」

 

 ここではちまんくんも、千佳に合わせてこう言い、千佳はその言葉に思わず噴き出した。

そのおかげで気まずかった空気も和らぎ、かおりはスムーズに千佳に説明する事が出来た。

繰り返して言うが、さすがははちまんくん、出来る男のぬいぐるみである。

 

「………なるほど、そういう事だったんだ、ぬいぐるみが動いただけでもビックリしたのに、

それがいきなり八幡君の声で喋り始めたから、さすがに意識が飛びそうになっちゃったよ」

「本っ当にごめんね、千佳」

「ううん、別に悪気は無かったんだろうし」

「かおりのやる事だからな」

「だよね」

 

 千佳とはちまんくんは、気持ちが通じ合ったのか、そう頷き合った。

 

「むぅ……」

「はいはい、それじゃあかおりの家に行くわよ、乗って乗って」

「そうだぞかおり、お前をからかう時間が無くなっちまうだろ、さっさと行こうぜ」

「も、もう、もう!」

 

 奇しくも今朝の薔薇と同じセリフを言いながら、それでもかおりは楽しそうに車に乗り、

はちまんくんをその膝の上に乗せた。

こうしてはちまんくんの、レンタル二日目が始まった。

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