ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第555話 そしてかおりの家へ

「さあ、あがってあがって」

「かおりの家、久しぶりだなぁ……お邪魔します」

「お邪魔します」

 

 三人はかおりの家に到着すると、そのままかおりの部屋へと案内された。

その部屋は、土産物と思しき色々な物や、

友達と一緒に写った写真が飾られているスペース以外は、

思ったより質素で落ち着いた雰囲気の部屋であり、

はちまんくんはそれをかなり意外に思ったようだ。

 

「俺の記憶、というか聞いた話だと、

もっと派手な生活を送っているイメージだったんだが、案外そうでもなかったのか?」

「派手?派手ってどんな感じ?」

「そうだな、ちゃらちゃらした意識高い系の男共や、

いかにも遊んでますっていう感じの女友達に囲まれているイメージだな」

「それ絶対悪口だよね!?」

 

 かおりははちまんくんのいきなりの毒舌に面食らい、そう抗議した。

 

「あれ、もしかしてそのいかにも遊んでますっていう感じの女友達って、

私も含まれてるんじゃない!?」

 

 千佳が焦ったようにそう言い、はちまんくんはそれを否定した。

 

「いや、それは無い、千佳はとてもいい子だというのが本体と俺の共通認識だ」

「本当に?良かったぁ……」

 

 千佳はあからさまにほっとしたような顔をし、かおりは焦ったような顔でこう尋ねた。

 

「わ、私は!?」

「中学の時のふわふわした印象が強いというか、それ以外の印象が無い、

誰とでもすぐに仲良くなって、どんな男とでもかなり近い距離感で接していた感じだな。

高校の時の印象は、あのクリスマスイベントの時の取り巻き連中のイメージだしな」

「中学の時……」

 

 かおりはあからさまにショックを受けたような顔をし、

はちまんくんはそれを見て、フォローするようにこう言った。

 

「まああくまで過去のイメージの話だ、それを解消したかったら、

もっと本体と昔の事について話をするべきだろうな」

「昔の話かぁ……だって中学の時の私って、八幡にとっては本当に嫌な子だったじゃない、

その前提がある限り、昔の話なんてそう簡単には出来ないよ……」

「高校の時もそうだったけど、まあ確かに男の子にとっては嫌な子だったかもしれないね」

 

 千佳はそんなかおりをまったくフォローする気は無いようで、ストレートにそう言った。

 

「ひ、ひどい……」

「だってそうじゃない、私から見ても、男友達との距離感がかなり近くて、

あれ、かおりはこの人の事が好きなのかな?と思わせておきながら、

実は単に社交性が高いだけで、親しい友達として接してただけで、

相手から告白されてはびっくりして断るって事を繰り返してたんだし?」

 

 かおりはその事を本気で後悔しているのか、泣きそうな顔で言った。

 

「そ、それは言わないで……今はちゃんと自覚してるから!」

 

 その千佳の説明に、どうやらはちまんくんも思い当たるフシがあったようだ。

 

「なるほど、確かに中学の時に、かおりが誰かと付き合ったって話は聞かなかったな、

というか、そんな事を繰り返してたら、女友達からの評判がガタ落ちなんじゃないのか?」

「それがそうでもなかったんだよねぇ、かおりってば基本女友達からの誘いは断らないから、

色々交流を深めるうちに、あ、かおりって子供なんだってのが完全に周りにバレてたしね。

というか女子の立場としては、自分の好きな人がかおりを好きだった場合、

絶対にカップル関係が成立しない安全パイ扱いだったし」

「ふん、彼氏いない歴イコール年齢の子供ですが何か?」

「え、まじで?」

 

 はちまんくんは本気で驚いたのか、目を大きく開きながら千佳の顔を見た。

 

「それが本当なんだよねぇ、というか何でなの?」

「え、だって、付き合うのもアリかなって思う人は確かに結構いたけど、

付き合いたいって思う人はいなかったから、仕方なくない?

そんな状態で付き合ったら相手に失礼でしょ?」

「だってさ」

「意外と真面目なんだな」

「意外とは余計」

 

 かおりは拗ねた表情でそう言いつつも、露骨に話題を変えてきた。

 

「千佳、ソレイユでの仕事はどう?もう慣れた?」

「あ、うん、おかげさまで順調かな、色々な人と仲良くなれたし、

毎月一日だけだけど、男の子とデートしてる気分になれるし、まあ幸せなのかな」

「へ、へぇ……ま、まあ食事くらいは普通かな、うん、普通だよね」

「そうえいばたまに食事の後、ドライブに連れてってもらうんだけど、

色々な夜景を見せてもらったっけ」

「そ、そうなんだ……」

 

 はちまんくんは、千佳が微妙にかおりを煽っている事に気付いたが、

多分何か目的があるのだろうと黙っていた。

 

「まあ私には誰かみたいに負い目や気がかりがある訳じゃないし、

せっかくの好意なんだから、有難く受けないと損だしね」

「そ、そうね……」

 

 かおりはその言葉に頬をひくつかせた。

それを見たはちまんくんは、そういう事かと納得した。

 

(なるほど、かおりはまだ本体に、何か負い目があるって事か、

というか、必要以上に何かに臆病になってる気もするな、だがしかし……)

 

 はちまんくんに伝わっている情報だと、八幡とかおりの関係は、

名前で呼び合えるようになったくらい順調のはずだった。

なのでかおりが今こうなっている原因が、はちまんくんにはさっぱり分からなかった。

 

(とりあえず俺に出来る事があるかどうか、話を聞いてみないとどうしようもないな、

まあ話してくれるという保証は無いんだが)

 

 はちまんくんはそう考え、かおりに向かってこう言いかけた。

 

「何か助けになれるなら、俺が話くら………」

「かおりって本当に馬鹿だよね、いつも他人に合わせるだけで、

自分ってものが無いんじゃないの?」

「い………って、千佳?」

「千佳、それは言いすぎ」

 

 その喧嘩ごしの言い方に、さすがのかおりもカチンときたようだ。

 

「お、おい、お前ら……」

 

 はちまんくんは、さすがにこの雰囲気はまずいと思い、二人の仲裁をしようと思ったが、

二人は立ち上がって睨み合い、どちらも引く気配は無かった。

 

(いきなり何なんだ……この二人が喧嘩するなんて考えられん)

 

 そう思い、まごまごするはちまんくんを置いて、二人はなおも言い争いを続けていた。

だがその様子が少しおかしい。

 

(これは喧嘩というよりは、言葉は乱暴だが、千佳がかおりを諭しているような……、

あ、あれか、俺にフィードバックされている、昔の本体と小町の喧嘩と一緒か、

兄に変わってほしいと願う小町と、それに反発する本体……)

 

 はちまんくんはそう考え、ちょこちょこと二人の間に入り込むと、

人差し指をちっちっちと振りながら、まるで女性のような喋り方で言った。

 

「二人とも、私の事で争うのはやめて!」

「うわ……」

「無表情で言われると怖い……」

「仕方ないだろ、ぬいぐるみにそこまで求めるな」

 

 そう言った後はちまんくんは、かおりの顔をじっと見ながら言った。

 

「よく分からないが、多分かおりが悪い」

「う………」

「ここには俺と千佳しかいない、何か悩み事でもあるのなら、思いの丈をぶちまけろ」

「そうだそうだ、ぶちまけろ!」

 

 はちまんくんはそう言い、千佳もそれに乗った。

かおりは困ったような顔で下を向いていたが、やがてぽつりぽつりと話し始めた。

 

「えっと……さっき千佳にも言われたけど、私、男の人と正式に付き合った事が無いの」

「ふむ」

「中学の時は、人を好きって思う気持ちがどんなものか分からなかった。

だから誰とも付き合わなかったし、誰からの告白も全部断った。

その中の一人が八幡だったけど、そのせいであいつがいじめられていると知っても、

私は特に何かしようとは思わなかった。言い訳になるけど、あの頃の私は、

他人に負の感情を向けられた事が無かったせいで、そういった感情には鈍感だった。

それは高校になってからも、一年以上も続いた。

周りにいたのは、今思えば千佳以外は、友達とも言えない薄っぺらい関係の人ばかり、

でも私はそれで十分満足していた、何故なら普通に楽しかったから。

そんな時、偶然あいつと再会した」

「うっ………」

 

 その時の事は千佳にとっても黒歴史であり、千佳は心が痛いのか、暗い顔で胸を押さえた。

しかしかおりは話すのをやめず、千佳も覚悟を決めたのか、

かかってこいとばかりに胸を張り、かおりの言葉に耳を傾けた。

 

「あの時あいつはうちの社長と一緒で、とても仲が良さそうに見えた。

だから私はちょっとばかりの嫉妬心もあって、昔の話を持ち出して、

あいつの反応を見る事にした。でもあいつは至って普通に見えた。

それで安心した私は、千佳とよく話していた葉山君の話を無神経に持ち出し、

あまつさえ紹介してくれと頼んだ。それでもあいつは表面上は、

どんな負の感情も表に出さなかった為、私は更に調子に乗って、

約束の日にあいつに失礼な事をしまくり、笑い物にした。

そのせいで私は、生まれて初めて他人から、負の感情をぶつけられる事になった」

「そ、そこは私達、って言っていいよかおり、私も同罪だからさ……」

「それはそうかもだけど、でも今は私の話だし……」

「私とかおりは親友なんだから、こういう時は、

そういった悪い部分も共有するべきだと思う、それでこそ親友でしょ」

「あ、う、うん、ありがとう」

 

 かおりは少し目を潤ませながら、千佳にそう言うと、話を続けた。

 

「あの時は、あいつも変わったんだなと、何となく納得しただけだった。

確かに思い返すと相当失礼な態度をとってしまったと反省もしたけれど、

でもやっぱり次の日になったら、面白くないという気持ちばかりが先に立った。

でも能天気な私は、すぐにその時の怒りも忘れた。

そのせいでその後あいつと再会した時、私は謝るという選択肢が頭に浮かびもしなかった。

だから普通に話しかけたし、相手が普通に返事をしてくるのを当然だとさえ思った。

あいつと色々話すのは中学の時よりもぜんぜん楽しかったし、友達にすらなりたいと思った。

そのせいであいつの事を多少は理解は出来たと思うし、

何よりあいつは嫌そうにしながらも、ちゃんと私の話を聞いてくれた」

「あの頃は、急にかおりが八幡君の事ばかり話し始めたから、

驚いたのと同時に怒りすら沸いてきたものだけど、

話を聞いてるうちに、聞いてたのと違っていい人なのかもって思ったのは確かだけどね。

だって今思い返せば、八幡君はあの時葉山君の態度に困ったような顔をしてたもん」

「本体らしいな」

「ふふっ、まあそうだね、今なら分かるよ」

 

 はちまんくんが知る八幡とかおりのエピソードは、

この後、八幡がSAOに囚われた事を知ったかおりが死ぬほど心配し、

その後家の近くで明日奈と出会った時に、八幡に謝罪したところまでであった。

なのではちまんくんは、これからかおりが話す内容は、

おそらく八幡本人にとっても初めて聞く話なのだろうと推測した。

 

「で、その直後なんだけどさ」

「ああ、やっぱりな」

「え?」

「おっとすまん、何でもない、続けてくれ」

「う、うん」

 

 かおりははちまんくんを見て首を傾げながらも、話を続けた。

 

「で、その直後にSAOの事が連日報道され始めて、

総武高校に行った友達の一人と電話で話していた時に、丁度その話題になって、

そこで初めて八幡の事を知った私は、次の日の朝、千佳にもその事を報告したの」

「あの時のかおり、今にも泣きそうな顔をしてたよね」

「まあ前の日にいっぱい泣いたんだけどね」

「そうだったんだ」

 

 千佳はその事は知らなかったのか、少し驚いた顔をした後、

そういう事もあるだろうなと納得したような顔でそう言った。

 

「で、その事を朝教室で、千佳に話していた時に、

それを聞いていた中学の時の同級生の一人がこう言ったの。

『え?あいつもSAOをやってたんだ、

まあこれで世の中から迷惑なオタクが一人減ったと思えば良かったのかな』って」

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