ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第561話 続報

 連絡がつかなかった者のうち、イコマは学校の下見の為に色々回っており、

この日はたまたま携帯をホテルに置き忘れていた。

そしてピトフーイとレンは、その日も二人で激しい戦いを繰り広げていた。

 

「レンちゃん、誰か罠にかかったみたい」

「誰か、ですか?モブじゃなく?」

「ええ、あそこからモブが侵入してくる事はありえないから、

まず間違いなく敵対する意図を持ったプレイヤーだと思うわ」

「分かりました、今日も返り討ちですね!」

「いいねいいね、そうこなくっちゃ!それじゃあ行くよ、レンちゃん!」

「はい!」

 

 スクワッド・ジャムと先日の防衛戦の結果を踏まえ、

最近のレンは、十狼のメンバーと同じ立場に見られていた。

ピトフーイとつるんでいるせいもあるのだろうが、

そのせいで二人を狙って襲撃してくる敵の数は、日に日に増えつつあった。

 

「それにしても、最近他のプレイヤーに狙われる事が多くありません?」

「まあ有名税って奴よ、こればっかりは諦めるしかないわね」

「ですか」

「ですです」

「それじゃあ蹴散らしましょうか!」

「そうね、いつも通りフルボッコにしてやりましょう」

 

 最近二人は、砂漠地帯のオアシス脇にある廃墟の建物を主な拠点に狩りをしていた。

この建物は意外と広く、その中に隠れられると、かなり厄介な建物であった。

 

「そういえばピトさん、あの防衛戦でアドバイスをもらってから、

ピーちゃんが凄く手になじむというか、一体感が出たというか、

この前なんか、ピーちゃんから話しかけられちゃったんですよ!」

「へぇ、ピーちゃんは何て?」

「『今だ、突撃のチャンス!』って聞こえました、

その声に従ったら、相手のリロードのタイミングですんなりと敵の懐に入れたんで、

凄くビックリしちゃいました!」

「ほほう?」

 

(経験を積んだせいで、それが幻聴として聞こえたんだと思うけど、

今のレンちゃんは本当にやばいなぁ、

接近戦だと私も危ないかもしれないわね、くわばらくわばら)

 

 ピトフーイはそう思いながらも、こんな感想を述べた。

 

「まあそういう事ってあるわよね」

「はい、GGOあるあるです!」

「そんなあるあるあったっけ?」

「た、多分……」

「まあいっか、GGOあるあるね!」

「はい!」

 

 二人はそんな会話を交わしながら、襲ってくる敵を片っ端から殲滅していった。

ピトフーイは一銃一殺とばかりに状況によってコロコロ銃を変え、

レンはそれを見て、感心したように言った。

 

「それにしてもピトさんって、本当に色々な銃を持ってますよねぇ」

「趣味だからね、まあ一番の宝物は、鬼哭ちゃんと血華ちゃんなんだけどね」

「あっ、そういえばこの前言ってた、血華の名前の由来って……」

「ああこれ?鬼哭が『きこく』でしょ?だからカ行の残り二文字、

『か』と『け』を組み合わせてみましたあ!」

「うわぁ、適当そうに見えて、本当に適当だ!」

「あら、アナグラムは名前を付ける時の基本よ?」

「それってアナグラムなのかなぁ……?」

 

 二人はそう言いながらも、鼻歌を歌うような雰囲気で銃を撃ちまくっていた。

 

「くそっ、なめやがって」

「でもどうしようもないぞこれ」

「待ち伏せで殺してくれと言わんばかりの地形なんだよな、ここ……」

「駄目だ、撤退するぞ、認識が甘かった、ここは喧嘩を売るのには全く向かん」

 

 そんな会話と共に、敵対勢力の襲撃者達は、粛々と撤退を始めた。

 

「あら?もう終わり?玉無しなの?」

「まだ私達は生きてますよ、このまま帰っちゃっていいんですか~?」

 

 その煽りに反応した者もいたが、リーダー格らしい者に睨まれて大人しくなった。

そして敵が撤退した後、単眼鏡を覗いていたピトフーイがレンに言った。

 

「レンちゃん、どうやらA-5っぽい」

「了解、起爆します」

 

 レンがそう答え、何かを操作した瞬間、どこかで爆発音が聞こえた。

 

「た~まや~!」

「か~ぎや~!」

 

 どうやら二人は周辺に地雷を仕掛け、それを座標単位で自在に爆発させられるらしい。

こういった突発的な戦闘に対する備えなのだろう。

これは今のように、撤退する敵にお土産をプレゼントする目的の他に、

こちらが撤退する羽目になった場合、逃走経路を確保するという目的もある。

多少戦力差があっても、この二人はそれを軽々と跳ね返し、打ち破ってきているが、

それはこういった細かい準備の賜物でもあるのだ。

 

「レンちゃん、今の爆発で、経験値に変化はあった?」

「えっと、ああ、結構増えてますね、もしかしたら直撃したかもしれません」

「ふふん、これは私の起爆のタイミングが神だったという事ね」

「ですね、ピトさんえらい!」

 

 そのまま二人は、ニャン号で意気揚々と凱旋した。

 

 

 

「さて、私は今日はとりあえず落ちるわ、レンちゃんはどうする?」

「私はちょっと、師匠の所に顔を出しておこうかと」

「ヤミヤミの所ね、オーケーオーケー、それじゃあまたね」

「はい、今日もありがとうございました!」

 

 気分良くログアウトした直後に、エルザの携帯に豪志から着信があった。

 

「はぁい、たった今までレンちゃんと遊んでて、

これからシャワーを浴びようと思ってたんだけど、何か急ぎの用事?」

『エルザ、テレビ、テレビを!急いで!』

「テレビ?何かあったの?どこのチャンネル?」

 

 そしてエルザが豪志に教えられたチャンネルに合わせた瞬間、

アナウンサーの声がエルザの耳に届いた。

 

『繰り返しお伝えします、只今入ってきた情報によりますと、アメリカの………空港で、

旅客機に対するハイジャックが発生しました。

乗客リストに載っている日本人は十人、

比企谷八幡さん、雪ノ下陽乃さん、雪ノ下雪乃さん、雪ノ下夢乃さん、

結城明日奈さん、間宮クルスさん、薔薇小猫さん、牧瀬紅莉栖さん、

栗林志乃さん、黒川茉莉さんです、安否が気遣われます』

 

「え………」

 

 エルザは八幡から、アメリカ行きの話は聞いていなかった。

単純にその機会が無かったせいなのだが、

八幡が明確に連絡を指示するのを忘れたせいでもある。

本来は少し前に薔薇から直接伝えられたはずなのだが、

エルザは生来の面倒臭がりだったせいか、その着信に対し、掛けなおしたりはしていない。

 

『エルザ、見ましたか?』

「待って、一応薔薇ちゃんに連絡してみるから」

 

 だが当然薔薇は電話には出ない、社長室に置きっぱなしなのだから当たり前なのだが、

そんな事を知らないエルザは、ただひたすら焦っていた。

 

「ど、どうしよう……そうだ、ソレイユ、ソレイユに行けば何か……」

 

 エルザはそう思い立ち、豪志にその事を伝えると、

待ち合わせをしてタクシーでソレイユへと向かった。

社内はさぞ慌しいのだろうと思っていたエルザは、そのいつもと変わらない様子に驚いた。

そしてエルザは受付に向かい、八幡の事を尋ねようと受付嬢に話しかけた。

この日の担当は、かおりである。

 

「あ、あの……」

「ようこそソレイユへ、ご用件を私、折本かおりが承ります」

 

 かおりは表面上は平然とそうエルザに話しかけたが、

これは単に訓練の賜物であり、内心では激しく動揺していた。

 

(いつかは来るかもって思ってたけど、やっと私の担当の時にエルザさんが来たあ!

でも仕事中だからサインはもらえない、それが悔やまれる!)

 

「あの、ニュースを見て来たんですけど、

こちらに何か八幡の安否に関する情報は来ていませんか?」

 

 その言葉に、かおりの乙女の勘が反応した。

 

(ま、まさかエルザさんもライバルなの!?

うわ、これは勝てないわ、無理無理、絶対無理!)

 

 だがここでかおりはプロ根性を発揮し、エルザにこう答えた。

 

「残念ながら、こちらにも特に情報は来ていません」

「そう……ですか……」

 

 その言葉にエルザは肩を落としたが、そんなエルザにかおりはハッキリした口調で言った。

 

「大丈夫です、八幡はきっと無事ですよ」

「そ、そうかな?」

「ええ、この前約束……」

 

 そこに新たなニュースが入ったのか、社員の一人が悲鳴を上げた。

 

「ど、どうしたの?」

「い、今続報が……」

 

 その言葉にエルザとかおりもさすがに携帯をチェックした。

かおりは仕事中ではあったが、続報と聞いては仕方ないだろう。

 

『大変です、今入った情報だと、ハイジャックされた航空機が墜落したようです!

繰り返します、日本人が十人乗っていると思われる航空機が、墜落しました!

詳細は分かり次第お伝え致します!』

 

 その報道を見た瞬間、さすがのかおりも動揺した。

そしてエルザは涙を浮かべながら、かおりに向かってこう言った。

 

「嘘つき!」

 

 エルザはそのまま走り去り、背後に控えていた豪志はぺこぺことかおりに頭を下げながら、

エルザの後を追いかけて外に出ていった。その後さすがに社内も大混乱に陥りかけたが、

そこで朱乃が強力なリーダーシップを発揮し、表立っての騒ぎは収まった。

そしてかおりはその後、終業時間まで機械的に受付業務を行い、

仕事中の記憶が曖昧のまま、気付いたら自宅へと戻っていた。

そんな何も考えられず、放心状態のかおりの下に、千佳が尋ねてきた。

 

「かおり、かおり!」

「………あれ、千佳?何でここに?」

「やっぱり!気を落としてるんじゃないかって思って、慌てて来てみたよ」

「う、うん……ありがとう千佳、でもしばらくちょっと無理かも……」

 

 かおりはそう言って、目に涙を浮かべた。

 

「違うのかおり、そういう事じゃなくてね、さっき八幡君から手紙が届いたの、

タイミング的に出発前に出されたものだと思うんだけど、

これを見ればきっとかおりも安心すると思うの」

「えっ?」

 

 どうやら先日指名されたかおりと舞衣以外にも、

八幡はいくつかのルートでソレイユに手紙を届けるつもりだったようだ。

その手紙には、最初にこれをかおり経由で朱乃に渡してくれという事と、

その後社員達に厳重に口止めした上で、次の八幡の言葉を伝えるように指示が書いてあった。

 

『ニュースはフェイク』

 

 その文字を見たかおりは思わずこう口に出した。

 

「良かった………」

 

 そして次にかおりは、千佳にこう頼み込んだ。

 

「お願い千佳、私を今すぐにソレイユに連れてって!」

「わ、分かった、任せて!」

 

 

 

 ソレイユに戻って直ぐに、かおりは朱乃に事情を説明した。

 

「八幡君が?分かったわ、舞衣ちゃん、今すぐ全社員に、

『社外秘、D8はセーフ、明日会議室に集合の事』っていうメールを入れて頂戴」

「了解しました、社長代理」

 

 D8とはオペレーションD8から来た、八幡を示す符丁であり、

その意味が分からない社員はソレイユには存在しない。

 

「さて、残るはエルザちゃんの誤解を解く事なんだけど……

実はエルザちゃんの新しい連絡先って、薔薇ちゃんしか知らないのよね……

あそこは今事務所を開設しようと準備中だから、

まだ個人単位でしか連絡がとれないのよ。彼女関係の仕事を仕切ってたのは八幡君だし、

どうしましょうかね、困ったわ……」

「そうなんですか………それは参りましたね」

「まあまた何か方法を考えるわ、とりあえずかおりちゃん、千佳さん、本当にありがとうね、

さすがの私も動揺してしまっていたから、連絡をもらえて助かったわ」

「いえ、いけないのは八幡ですから!」

「ふふっ、そうね、それじゃあ今日は帰ってゆっくり休んで頂戴」

「はい!」

 

 そして外に出た後、さすがに遅い時間という事もあり、

帰るのが面倒臭くなったかおりは、千佳にこう言った。

 

「ねぇ千佳、今から帰るのも大変だし、今日は八幡のマンションに一緒に泊まらない?」


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