ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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銃撃戦の結果が気になりますよね、でも今回は別サイドの話ですね!


第564話 何が親友か

「………という訳で、協力を仰ぎたいと……」

「事情は分かったっす、そういう事なら協力するっす、任せて下さい」

 

 エムのその頼みに、ギンロウは力強くそう頷いた。

 

「ありがとうございます……」

「いやいや、頭なんか下げないで下さいよ、

エムさんとは初めて話しましたけど、こんな丁寧な態度をとられると、

こっちのタマが縮こまっちまいますって」

「いや、しかし礼儀としてですね……」

「難しく考えないで下さいって、シャナさんのためになる事だったら喜んでやりますから、

せめて大会までは、俺達にはもっと命令する感じでお願いします!」

「わ、分かった、すまん」

「いえいえ、シャナさんがピトフーイの事で悲しむのは避けないといけませんからね!」

 

 ギンロウは、爽やかな(と本人が信じている)笑顔でそう言ったが、

ゲーム内でのギンロウの顔つきは軽薄そのものなので、

どうしても他人から見ると、そういったイメージでとらえられる事が多い。

だがこの時のエムには、確かにそのギンロウの笑顔は、まるで天使の微笑みに見えたのだ。

 

「メンバー集めは任せて下さい、ダインさんの所から、

シャナさん親衛隊みたいな奴らを集めておきますんで!」

「頼む、僕はこれからピトフーイを説得してくる」

「上手い事あいつを乗せて下さいよ!」

 

 こうしてギンロウの協力を得られる事になったエムは、成功した旨をレンに連絡した。

レンはそれを聞き、エムに何かを伝え、それを聞いた後、

エムはログアウトしてすぐにピトフーイに連絡をとった。

 

「何豪志、今私、何もしたくないんだけど、っていうか死にたいんだけど」

「エルザ、レンちゃんから挑戦状が届きました」

「挑戦状?」

「弱虫で泣き虫なピトさんごときに挑戦するってのはおかしな気もするけど、

とりあえずGGOの先輩として、一応挑戦という形をとっておく、

ピトさんを、絶対にスクワッド・ジャムでひいひい言わせてやる!だそうです」

「ほうほう、あのレンちゃんがそんな事をねぇ……」

 

 そのエルザの声色に、豪志はしめたと思った。その声に力強さが戻っていたからだ。

そして豪志は、先ほどエルザが落ちた後に、

第二回スクワッド・ジャムの開催が宣言された事を説明した。

 

「へぇ、そうなんだ、そこでこの私を倒すねぇ……

これは早めに叩いておいた方がいいかもしれないわね」

 

 その言葉に豪志は違和感を感じた。早めに叩いておくという事は、

つまりいずれは叩く気があったという事になるのではないか、

そう考えた豪志は、エルザにこう尋ねた。

 

「あ、あの、エルザはレンちゃんの事が嫌いだった、もしくは敵認定していたのですか?」

「ん~?別に嫌いじゃないわよ、むしろ好きよ、それに敵だとも思ってないわよ」

「そ、そうですか」

「ええ、あの子が敵でなんかあるはずがない、

シャナが私よりもあの子の方がお気に入りだとか、そんなはずは無いのよ」

「あ………」

 

(そういう事だったか……)

 

 豪志はその言葉に、エルザの本心はこれかと思った。その為豪志は気付かなかった。

エルザが内心で、レンの事を脅威だと感じ、恐れてすらいた事を。

だがそれに気付かなかったからといって、特に何も問題はない。

エルザを負かすという目的は何も変わらないからだ。

同時に豪志は、よほどの場面でない限り、手を抜く事は出来ないと感じていた。

そんな事をしたら、勘の鋭いエルザにすぐバレてしまうし、

何よりそれによっていきなり死ぬと言い出す可能性も否定出来ない。

なので豪志はぐっと感情を抑え、可能な限り全力で戦えるようにと、

色々な準備を開始したのだった。

 

 

 

「師匠、エムさんの方は何とかなったみたい」

「そうか、さっすがギンロウ、シャナのお小姓だけの事はあるぜ!」

「え………し、師匠、もしかしてそれ、せ、性的な意味を含みますか!?」

 

 レンは何を思ったのか、闇風にそう尋ねた。

どうやら腐海のプリンセス辺りから、悪い影響を若干受けてしまったらしい。

 

「んな訳あるか!おぞましい事を言うんじゃねえ!」

「ご、ごめんなさい」

「まったくお前にまで影響を及ぼすとは、あの業界はこれだから侮れねえ……

う~、近寄りたくない近寄りたくない」

「ほ、本当にすみません……」

 

 そして闇風は、気を取り直したように言った。

 

「で、それ絡みだが、こっちは悪い知らせだ。

俺のもう一人の親友は、どうやらその日は用事があるらしく……ぐっ……

畜生、何が合コンだ、死ね、クソたらこが!」

 

 その闇風の慟哭っぷりに、レンは何も言う事が出来なかった。

せめてシャナがこちらにいれば、自分主催で合コンを開いてあげてもいいとも思ったが、

レンは基本、シャナ以外の者とリアルで同席する気はまったく無かった為、

今回の場合はその選択肢をとる事は不可能であった。

 

「そ、そうですか……」

「うちのスコードロンのメンバーも、何かしら用事があるらしく、

すまないがこちらでは誰も用意出来なかった、すまん」

「いえ、仕方ないです、今回はちょっといきなりすぎでしたから!」

「レンの方はどうなんだ?誰か知り合いはいないのか?」

「あ、はい、GGOではちょっと……私、基本師匠とピトさんの他は、

シャナとしか一緒に遊んだ事が無いんで……」

 

 一応レンには、優里奈=ナユタという選択肢もあったのだが、

あれからナユタが一度も姿を現していない以上、その選択肢を選ぶ事は出来なかった。

それでも相談くらいはしてみてもいいかもしれないと考えたレンは、

一度ログアウトして、各方面にあたってみる事にした。

 

「師匠、誰かいないかリアルで色々聞いてみます」

「おう、のんびり待ってるから頑張ってみてくれ」

「はい、吉報をお待ち下さい!」

 

 レンはまったく自信は無かったが、闇風にそう言い、ログアウトしていった。

 

 

 

「さて、どうしよ……とりあえず優里奈ちゃんに聞いてみようか……」

 

 香蓮は自信無さげにそう言うと、優里奈に連絡をとった。

 

「あ、香蓮さん、今日はどうしたんですか?これからこちらに来ますか?」

「ううん、今日は別の用事で、ちょっと相談があるんだけどさ」

「あ、はい」

「明後日には、第二回スクワッド・ジャムが開催される事になったんだけど、

誰か、参加出来そうなメンバーに心当たりはない?」

「明後日ですか!?随分いきなりですね」

「そうなの、いきなり今日そうやって発表されてさ……」

「それは困りましたね……」

 

 この時点で、優里奈と香蓮の間には認識の齟齬があった。

優里奈は八幡が無事だという事を知っていた為、その前提で香蓮と話をしており、

香蓮は香蓮で、相手がいつもとまったく様子が変わらない事から、

八幡の話を口に出してよいものか少し迷っていた。

 

(優里奈ちゃんに心配をかけるのもなぁ……というか、ニュースは見ていると思うし、

それでこの態度って事は、優里奈ちゃんはまったく心配していないって事になるのかな、

そっかぁ、優里奈ちゃんは、八幡君の事を心から信じているんだな……)

 

 それでも一応その話に触れておこうとした香蓮の機先を制して、優里奈はこう言った。

 

「実はその日はALOで、階層更新の大事な集まりがあるみたいで、

残ったメンバーは、全員そちらに参加するらしいんですよ、

何でもクォーターなんとかっていう、かなりきつい階層らしくって」

「あ~、そうなんだ……」

「必ず全員参加しないといけないってものでもないと思うんですけどね、

というか香蓮さん、美優さんには聞いてみたんですか?」

 

 その言葉に、香蓮は一瞬パニックになった。

 

「え、だって美優は今北海道に……」

「それって何か関係ありますか?」

「あ!そ、そうだ、全然関係無いじゃない!」

 

 香蓮はその優里奈の言葉にハッとした。

 

「ありがとう、美優に直接聞いてみる!」

「ですね、困った時に頼れるのは、やっぱり親友だと思いますしね」

「うん、優里奈ちゃんに電話してみて本当に良かった、また泊まりに行くね!」

「はい、お待ちしてます」

 

 そして電話を切った後、香蓮は優里奈に八幡の話を切り出すのを忘れていた事に気付いた。

 

「あ……ど、どうしよ、掛けなおした方がいいかな……」

 

 香蓮はその事でしばらく迷ったが、

掛けなおすにしても、とりあえず先に美優に連絡する事にした。

 

「あ、美優?私だけど」

「おうコヒー、今日はどうした?まさかリーダーの不在に寂しくなって、

私に電話で性的に慰めて欲しいとでも思ったのかい?」

「すみません、間違えました」

 

 そして香蓮は電話を切った。途端に香蓮の携帯に着信があり、

香蓮はすぐにその電話に出た。

 

「はい」

「何で切っちゃうんだよコヒー、まさか図星……」

「どちらにおかけですか?」

 

 香蓮はそう言って再び電話を切った。そして直後にまた着信があり、

香蓮はもう一度電話に出た。

 

「はい」

「やぁコヒー、そっちは暑いから大変だろう?大丈夫?体調を崩していないかね?」

「ええ、問題ないわよ、美優」

「それなら良かった、で、今日は何の用事だい?」

「ええと、実は……」

 

 そして香蓮は、美優にスクワッド・ジャムに出場出来ないか、恐る恐る尋ねた。

 

「ほほう?分かった、任せろコヒー、我が親友よ」

「ごめん、その日は大事な攻略がALOであるって聞いたんだけど、

でもこっちも非常事態なの、お願い!」

「だから任せろって言ってるだろ、コヒー」

「そこを何とか……って、え?い、いいの?」

「いいに決まってるだろコヒー、こういう時に手を差し伸べないで、何が親友か」

「美優……あ、ありがとう」

「いやいや、どういたしまして」

 

 香蓮はその言葉に心から安心したのだが、直後に美優がこう言った。

 

「お礼は神崎エルザのコンサートのチケットでいいからね」

「チケッ………お、おい親友、お礼?お礼って何の事?」

「ついでに寿司、特上で!」

「あんたね……」

「親しき仲にも礼儀ありってことわざは、日本人の美徳だよね」

「うっ……ぜ、善処する……………」 

 

 ちなみに美優は、照れ隠しでそう言っただけで、料金の四割は自前で払うつもりだった。

そして香蓮はぷるぷると震えながらも気を取り直し、そしてある程度の状況を説明した後、

八幡の話をしなくてはと思い、美優にその事を伝えた。

 

「そ、そういえば美優、ニュースは見た?八幡君が……」

 

 だが美優はその言葉に、あっさりとこう言った。

 

「あ、あれ?私も焦ってALOでリーダー代理に聞いてみたけど、

『気にするな、大丈夫だから』って言われたよ?」

「リーダー代理って、キリト君?」

「うん、だから大丈夫じゃないかなぁ?まあ無責任な事は言えないけど、

少なくともあの飛行機には乗ってなかったんじゃないかなぁ?」

「そっかぁ、良かったぁ……」

「あくまで伝聞だから、確定するまでは静かに続報を待ってた方がいいと思うけど、

とにかくキリト君は動揺していないって事だけ覚えとけばいいと思うよ」

「うん、とりあえずそうする」

「なので今は、三人でどうやってそのピトフーイって人を倒すかって事だけを考えよう」

「うん!」

 

 こうして三人と六人と、チームとしての人数に差はついたが、

無事に両チームの参戦が決定する事となった。


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