ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第565話 これが、わ・た・し?

 香蓮との電話を終えた後、美優はすぐに動き出した。

手始めにやらないといけない事は、和人とコンタクトをとる事であった。

 

「さて、とりあえず電話を……」

 

 美優はそう思い、和人に電話を掛けた。だが和人が電話に出る気配はない。

 

「これは多分ALOにいるって事かな、よし、私も行くか!」

 

 そう考えた美優は、そのままALOへとログインした。

 

 

 

「ここは………あ、そっか、前回は確か、

剣士の碑の二十四層の所に自分の名前が載ったのを見て満足して落ちたんだったっけ」

 

 フカ次郎はそう考え、ヴァルハラ・ガーデンへと向かった。

キリトがそこにいる事も確認済である。

 

「お~いフカ次郎、元気か~?」

「うん、元気だよ!これからもフカ次郎と、ヴァルハラ・リゾートを宜しくぅ!」

「フカ、また一緒に狩りに行こうぜ!」

「ここ数日ちょっと留守にするから、また暇になったらね!」

「フカ!」

「フカ次郎!」

「フカちゃ~ん!」

 

 このようにフカ次郎は、自他共に認める人気者である。

親しみやすい反応と、気取らない性格のせいで、

多少『性癖』に難があろうとも、その矛先がハチマンに向かっている以上、

他の者はそういった面を目撃する事なく、フカ次郎と普通の友人関係を築いているのだった。

 

「ほい到着っと、代理、代理はいますか?」

「あ、フカちゃん!」

「フカは今日も元気だねぇ」

「フカ、何か用か?」

 

 そこにはキリトの他にリズベットとシリカが居り、隣にはスクナの姿もあった。

どうやらスクナはナタクと共に、全員に暖かく迎え入れてもらった後、

時間の許す限りリズベットに師事して職人プレイの修行をしているらしい。

ナタクに関しては、本人が受験に備えているという事もあるのだが、

禁断のナーヴギア使用によるステータスブーストをしている為、

そこまでスキル上げに苦労はしていないようだ。

遠隔攻撃に使うステータスと、職人プレイに使うステータスが、

同じ器用さであった事も幸いしたらしい。

 

「代理、今日はお願いがあって来ました!」

「ん、お願い?」

「次の二十五層の攻略なんですが、大変申し訳ないんですが、お休みさせて下さい!」

「それは別に構わないが、フカが攻略に参加しないなんて珍しいよな」

 

 キリトは苦笑しながらそう言った。いつものフカ次郎は、

階層攻略に関しては過去にあまり縁が無かったせいか、かなり執着していたからだ。

 

「実はコヒーを助けに行く事になりまして!」

「ん?香蓮さんに何かあったのか?」

「はい、なので数日間GGOにコンバートさせて下さい!」

「ほう?」

 

 そしてフカ次郎は、大雑把に状況の説明を始めた。

香蓮が今、レンとしてGGOをプレイしている事は皆知っていたが、

ピトフーイ絡みのごたごたについては、当然伝わっていなかった。

 

「……俺から大丈夫だって言ってやろうか?」

 

 キリトのその言葉に、フカ次郎は激しく葛藤した。

だが伝え聞く限り、それでは解決にならないであろうという事も、また感じていた。

 

「問題は、リーダーがそのピトフーイさんって人を放置しすぎたせいだと思うので、

多分他の誰が説得しても、容易にはいかない気もするのれす」

「確かにこのところのあいつは忙しすぎたからな……

それに前から思ってたけど、あいつはピトフーイの表の立場に配慮する事ばかり考えて、

感情面についてはちょっと鈍いなって気はしてたんだよな」

 

 この中で唯一、ピトフーイの正体をこっそりハチマンに教えられていたキリトは、

腕組みしながらフカ次郎にそう言った。

 

「だ、代理はそのピトフーイさんという方のリアルをご存知で?」

「ん?ああ、ちょっと難しい奴なんだよな、あいつ」

「なるほど……難しいですか……」

 

 フカ次郎はその言葉を、何か私生活に問題があるのだと解釈したが、

当然そういった意味ではない。

そしてキリトもピトフーイが神崎エルザだという事しかまだ知らなかった為、

ハチマンに執着している事は聞いていても、それがハチマンを失ったら死ぬレベルだとは、

思ってもいなかったようだ。だがフカ次郎がそこまで言うからには、

かなりまずい状況なのだろう、そう思ったキリトは、突然こんな事を言い出した。

 

「よし、その大会、俺も参戦する」

「ええっ、い、いいの!?」

 

 その言葉に慌てたのは、リズベットとシリカだった。

 

「ちょ、ちょっとキリト、あんた何言っちゃってるの?二十五層の攻略はどうするのよ!」

「そうだな、そもそも今回の攻略に関しては、

ハチマンとアスナの手による完璧な攻略法が残されてあるし、

こちらのステータスを考えれば昔ほどの難易度じゃない。

後はリーダーシップをとれる奴がいれば問題無いんじゃないか?エギルとかクラインとか」

「た、確かにそうかもしれないけど、ええっ?本当に?」

「ああ、少しでも勝率を上げるのは必要だろ、な?フカ次郎」

「そ、それは助かりますが……う~ん、どうなんだろう……」

 

 そう言って考え込むフカ次郎に、キリトはあっけらかんとこう言った。

 

「なぁに、俺が手伝うのは、レンちゃんをピトフーイの前に立たせるまでだ、

後はお前とレンちゃんが、正々堂々とピトフーイとエムの二人に勝てばいい」

「なるほど、そういう事ですか!」

「ああ、途中で事故があっちゃいけないからな、俺はレンちゃんを徹底的に守る事にするさ」

「分かりました、お願いします!」

 

 そんな二人を見て、リズベットとシリカは呆れた顔で言った。

 

「やれやれ、こうなったらもうキリトはテコでも動かないから仕方ないわね」

「分かりました、攻略の方は任せて下さい!万が一にも人命が失われたら、

多分ハチマンさんが凄く悲しみますからね!」

「という訳でフカ、エギルに引継ぎをするから俺のコンバートはギリギリになっちまうが、

まあサプライズだと思って、メンバー表に俺の名前だけ記入しておいてくれ」

「分かりました!サプライズですね!」

 

 こうしてまさかのキリトの参戦が決まった。

レン、フカ次郎、闇風だけでもおそらく過剰戦力ぎみなのであるが、

そこにキリトが加わるとなれば、もう乾いた笑いしか出てこない。

 

「さて、それじゃあフカ次郎は先にコンバートしておいてくれていいぞ、

風太……じゃない、闇風との顔合わせもしておいた方がいいしな」

「了解しました、行ってきます!」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 そんなフカ次郎を、リズベットが慌てて止めた。

 

「むむっ」

「フカ、あんたね、そのままコンバートしたら、装備も何もかも失っちゃうわよ」

「あっ!」

「ほら、さっさと持ってる物を全部、ロッカーにしまってきなさい」

「は~い!」

 

 そして今度こそフカ次郎はログアウトしていき、

少し後に、フレンドリストのフカ次郎のステータスが『GGO』に変化した。

 

 

 

「コヒー、私だ、お待たせした」

「ううん、シャワーとか浴びてたから大丈夫だよ」

「何っ?ちゃんと録画はしておいたんだろうな!?」

「する訳ないでしょ……」

「くっ、せっかくリーダーに見せてあげようとしたのに……」

「や、やめなさい!」

「やれやれ、本当はリーダーに見て欲しい癖に……」

「わ、私は美優とは違うの!」

 

 こうしたいつものやりとりが終わった後、美優は香蓮に言った。

 

「それではこれからコンバートの儀を行う、コンバート先で待っててくれ!」

「え、もう?分かった、直ぐに行くからえ~と……」

 

 そして香蓮は美優に時間を指定し、慌ててGGOへとログインした。

そして闇風のいた酒場のすぐ近くのログイン地点に姿を現したレンは、

そのまま闇風の居る酒場へと駆け込んだ。

 

「おうレン、首尾はどうだ?」

 

 酒場でのんびりと仲間達と話していたらしい闇風が、

目ざとくレンを見付けてそう声を掛けてきた。

 

「し、師匠、今からその友人がログインしてくるので、迎えに行くのを付き合って下さい!」

「お、了解だ、それじゃあお前ら、またな」

 

 闇風は友人達にそう挨拶をし、レンと共にその場所へと向かった。

 

 

 

「そろそろです、師匠!」

「さてレン、ここからが一番楽しみな時間だぞ」

「え?楽しみですか?」

「お前も知っての通り、GGOのキャラ生成はランダムだ、

なのでお前の友人が、ハリウッドスターばりの美人の姿で現れる可能性もあるし、

まるで鬼のような姿で現れる可能性もある、楽しみだろ?」

「あ、そうですね!どんな姿で現れるんだろ……」

 

 そしてその場所をわくわくと見つめる二人の前に、ついにフカ次郎がその姿を現した。

 

「うわ、うわぁ……」

「おぉ……小さいな」

 

 二人はプレイヤーがコンバートしてくるのを見たのは初めてだったので、

感嘆したようにその光景に見入っていた。

 

「私よりもちょっと大きいくらいですね!」

「こんなのは珍しいんだがな」

「金髪かぁ、顔つきがちょっと生意気そう?」

「お前な、友達なんだろうが」

 

 そしてフカ次郎が、ついにその瞳を開いた。

 

「お?お?聞いてた通りのピンクのチビがいるな、へいお嬢さん、僕と一緒に殺戮しない?」

「おお、お嬢さん、いいノリだねぇ、俺は闇風だ、一応こいつの師匠の一人だ」

 

 いきなりそんなセリフをレンに言ったフカ次郎に、闇風が嬉しそうにそう声を掛けた。

 

「あ、初めまして、レンの友人で、フカ次郎と言います、宜しくお願いします」

 

 その常識人ぶった態度に、レンはぽかんとした。

 

「ど、どうしたのフカ、悪い物でも食べたの?」

「おいコヒー、最初の挨拶は社会人の常識だぞ?

そしてそれが済んだらもうマブダチだ、な?ヤミヤミ」

「おう、マブダチだな、フカ!」

「「あはははははははははは」」

「あ、あはははは……」

 

 そう笑いあう二人を見て、レンも釣られて笑ったが、

その顔はどこからどう見ても愛想笑いであった。

この三人の中では一番常識人なレンは、どうやらそのノリに付いていけないようだ。

 

「えっと師匠、という訳で、これが私の友人のフカ次郎です」

「オーケーオーケー、なぁフカ、ちょっとステータスを教えてもらっていいか?」

「オーキードーキー、えっと……ここか?」

 

 そしてフカ次郎が開示したステータスを聞いて、闇風は感心したような声を上げ、

レンはぎょっとしたのか固まった。

 

「おいおいグレートだな、ステータスだけならピトフーイとタメを張るんじゃないか?」

「AGI以外は全部私よりも遥かに高い……」

「当たり前だろレン、こちとら年季が違うのよ!」

「うぅ……ちょっと悔しい……でも嬉しい」

 

 レンは、頼りになる味方が出来たのは間違いないと、悔しさを滲ませながらもそう言った。

そして闇風は、フカ次郎に言った。

 

「ところでまだ自分がどんな姿か見てないだろ?

ちょっとそこのビルに写して自分がどんな姿になったか見てみるといい」

「お、了解!」

 

 そして自分の姿をそこで初めて確認したフカ次郎は、とても嬉しそうにこう言った。

 

「うひ~!これが、わ・た・し?いいねいいねぇ、あ、ちょっと胸が無いのが気になるけど、

これってかなりかわいいんじゃね?」

「うん、凄くかわいい!」

「おう、本当にかわいいと思うぞ、まあ俺は綺麗系の方が好きだけどな!」

 

 そう盛り上がる三人に、突然ブローカーらしき男が声を掛けてきた。

 

「お、お嬢ちゃん、そのアバター、F8000番系だね!

凄いなぁ、もし良かったら、アカウントごとそのアバター、売ってくれないかな?」

「え~?どうしよっかなぁ?」

 

 そう言いながらフカ次郎は、チラリと闇風の方を見た。

闇風はそれに頷き、いかにもガラが悪い感じでそのブローカーの頭を掴みながら言った。

 

「おうおっさん、俺の事は知ってるよな?」

「う、や、闇風……」

「おう、その闇風さんだ、で、俺の連れに声を掛ける意味も当然分かってるよな?」

「し、失礼しました!」

 

 ブローカーの男はそれで逃げ出し、三人は顔を見合わせて笑った。

そしてひとしきり笑った後に、闇風が二人に向かって言った。

 

「それじゃあそんな訳で、フカの装備を選ぶとしようぜ。

レン、ちなみに今、何か持ってるか?」

「あ、ええと……フカはSTRが高いんだよね?」

「おう、女は黙ってSTRだぜ!」

「そうすると、あ、そういえばこの前……」

 

 そしてレンは、近くにあったレンタルロッカーに向かい、そこから何かを取り出してきた。

 

「師匠、今はこれくらいしか!」

 

 そこにあったのは、先日『この木なんの木』防衛戦で手に入れた、

グレネードランチャーであった。

 

「ほほう?」

 

 それを見たフカ次郎の目が、キラリと光った。




フカ次郎、GGOの大地に立つ!
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