ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第566話 てめえ……

「おお、いいモン持ってるじゃねえかコヒー、このごついフォルムが何とも……」

 

 その言葉にレンは少し驚いた。まさかフカ次郎が、

グレネードランチャーの事を知っているとは思わなかったからだ。

レンはその事をフカ次郎に尋ねようとしたのだが、そこに闇風が横から口を挟んできた。

 

「おっ、グレネードランチャーじゃねえか、レンは何でこんな物を持ってるんだ?」

「あ、えっと、先日『この木なんの木』の防衛戦に、ピトさんと一緒に参加して……」

「ほうほう、それでこれが出たのか、なるほどな」

 

 そんな二人に、フカ次郎がきょとんとした顔で尋ねた。

 

「で、そのグレネードランチャーって、何?」

「ええっ?フカ、知ってるんじゃないの?」

「おいおいレン、私がそんな物、知ってる訳がないだろ?

こちとら生粋のファンタジーっ娘よ!」

「まあそうだよね……」

 

 レンはそう言ってため息をつき、代わりに闇風がこう言った。

 

「なぁに、百聞は一見にしかずだ、とりあえず試射してみようぜ」

「おっ、そうしよそうしよ、ほらレン、行くぞ」

「あっ、ちょっとフカ!もう、もう!」

 

 そして三人は演習場に向かい、グレネードランチャーの試射をする事にした。

 

「これはこう使う、レンも初めてだろ?よく見てるんだぞ」

 

 それなりにSTRも上げてある闇風が、二人にそう言った。

ちなみにレンには、街中でこれを持つ事は出来ても、

STRが足りないせいで、まだこれを撃つ事は出来ない。

 

「ここに弾を込めるだろ、で、狙いを付けて、引き金をこう……」

 

 闇風がそう言って引き金を引いた瞬間、山なりに弾が飛んでいき、

地面に着弾した瞬間に、大爆発が起こった。

 

「う、うおおおお!かっけー!」

「わ、わわっ」

 

 そして二人に見せ付けるようにグレネードランチャーを掲げた闇風がこう言った。

 

「ふふん、どうだ?凄いだろ?」

「す、凄い!私、武器はこれにする!」

「そうかそうか、で、メイン武器の話だが……」

 

 闇風は常識的に、これをサブ武器と位置づけており、

メイン武器を選ぶ為の話をしようと、そう言いかけた。

だがフカ次郎はその言葉を途中で遮り、

片手でグレネードランチャーをブンブン振り回しながらそう言った。

 

「レン、これもう一丁、もう一丁装備出来る!」

「………え?」

「………は?」

 

 その言葉にぽかんとする二人をよそに、フカ次郎は早く早くと急かすようにこう言った。

 

「よしレン、もう一丁グレネードランチャーを仕入れに行くぞ!」

「え、ええええええええええええ?」

「まじか……そういうのもありなのか?

しかしまあ普通在庫は無いだろ、無いよな、うん、そうしたら別の武器を……」

「ほら、売り切れちゃうかもだから早く、早く!」

「うう、分かった、分かったから!」

 

 戸惑う二人をフカ次郎は更に急かし、そして三人は武器屋へと向かった。

 

「さすがに無いかぁ……」

「ふう、セーフだったな」

 

 闇風は、もしここに無かったら、フカ次郎を説得して別の武器を持たせる腹積もりだった。

なので在庫が無い事を確認し、ほっとした。

 

「無いんじゃ仕方ないな、とりあえず他にメイン武器を選ぶとしようぜ」

「うぅ……」

 

 だが店内にはフカ次郎が気に入る武器は無く、三人は頭を抱えた。

 

「どうしよう……」

「フカ、好みにうるさすぎ!」

「まあ仕方ないだろ、武器選びってのはそういうもんだ、

なのでとりあえず、メイン武器の事はおいておいて、

今はグレネードランチャーに慣れる事を優先させようぜ。

これも遠距離攻撃のカテゴリーだし、俺達二人が近接攻撃の鬼だから、

それでバランスもとれるし、仮にこれオンリーになっても何とかなるだろ」

 

 そう言う闇風を見て、フカ次郎はハッとした顔で言った。

 

「そうだそうだ、二人に伝えておく事があったんだった!」

「お?」

「フカ、何?」

「実はもう一人、メンバーを確保しておきました!私のALOでの友達です!」

「おお!」

「え、本当に?凄い凄い!」

 

 そして闇風は、そのプレイヤーがどんなステータスかをフカ次郎に尋ねた。

 

「で、そいつはどんなスタイルなんだ?」

「私と一緒だけど、ゴリゴリの近接アタッカーかな」

「ほうほう、という事は、俺達のスタイルは、フカの遠距離攻撃を軸に、

三人が殴りこみをかけるスタイルになりそうだな」

「あ、これって支援にも使えるんだ?」

「おう、煙幕弾とか閃光弾とかかなり種類は豊富だぞ」

「おおう、テクニカル!まさに私向き!」

「ど、どこがフカ向き……?」

 

 レンはその言葉に異論がありそうだったが、

とにもかくにもこうしてこのチームの方針は決まったようだ。

 

「で、その子はいつ来れるんだ?」

「えっと、それがちょっと忙しいらしくって、開催当日ギリギリになるみたい」

「そうか、それじゃあメンバー表に名前だけ書いておかないとな、何て名前だ?」

「それは来てからのお楽しみって事で、私が名前を書いておくよ」

「サプライズ演出か、さぞかし面白い名前の奴なんだろうな」

 

 どうやら闇風は、その言葉をそういう意味でとらえたようだ。

フカ次郎はニコニコしたまま何も言わず、レンもそういう事かと特に突っ込みはしなかった。

 

「さて、それじゃあレン、ひと狩り行こうか、

ちょっと稼いでおかないと、借りたお金も返せないしね」

「い、今から?まあ別にいいけど……」

「俺は構わないぜ、それじゃあレンの縄張りに行くか」

「師匠、縄張りって……」

 

 こうして三人は、戦術の確認の為に、砂漠へと向かった。

 

 

 

 一方八幡達は、激しい銃撃戦の中、援護射撃に徹していた。

狙いは主に、敵の手や足などの末端部分である。

 

「味方に当てないように気をつけろよ!」

「オレっち自信が無えんだガ」

「わ、私も……」

「アルゴは自分の作業を続けててくれればいい、

最後にはお前が持ってくる情報が頼りなんだ、頼むぞ」

「この状況でそれをやれと、やれやれ、相変わらずハー坊は人使いが荒いな、了解だゾ」

「紅莉栖は隠れててくれれば問題ない、もしお前を死なせたら、

世界の進歩が数十年単位で遅れるからな」

「こんな状況じゃなければ素直に喜びたいところなんだけど………きゃっ」

 

 さすがの紅莉栖も、この状況だと大人しくその言葉に従う事しか出来ないようだ。

もっともまだどの弾も、この車のガラスすら抜く事が出来ていないので、

言うほど怖くは無いというのが現状だった。そんな状況の中八幡達は、

板金部分に作られた小さな穴から、驚く程の精度で援護射撃を行っていた。

 

「命中、一人戦闘力を奪った」

「こっちもオーケー」

「こちら側がやや人手不足ね、ヘルプをお願い」

「了解、移動」

「こっちもオーケーよん、うちに手を出した事を後悔させてやらないとね」

 

 その八幡、明日奈、雪乃、クルス、陽乃の肝の据わり方に、

志乃と茉莉は呆気にとられる事しか出来なかった。

 

「さ、さすがというか……」

「本当にみんな素人?私達より当ててない?」

 

 一方同じ事を、ガブリエル達も思っていた。

 

「あの中に二人、ジエイカンがいると聞いてたから、

さぞかし正確な援護をしてくれると期待はしてたが、これは予想以上だな」

「ハッハ、あいつら演習じゃ、ありえないくらい当ててくるからな」

「でもよ、明らかに飛んでくる弾の数が多くないか?

この感じだと、七~八人で撃ってる感じなんだが」

「だよな、日本じゃ銃は規制されてるはずだろ、一体あいつら何者だよ」

「まあいいじゃねえか、援護のおかげで楽に殲滅出来そうだしな」

「違いねえ」

 

 歴戦の傭兵が集まっているガブリエル達は、誰一人犠牲者どころか怪我人すら出す事無く、

着々と敵の戦力を減らしていた。それに八幡達の援護がかなり貢献している事も間違いない。

だがこういう時は、得てして事故が起こりやすいものだ。

油断大敵という言葉からは、どうやらガブリエルも逃れられなかったと思われた。

 

「ん、あいつ………今動いたか?」

「え?誰?」

「さっきガブリエルが弾を命中させて、倒れた敵なんだが、

どうも今ピクリと動いたように見えたんだよな」

「今はそんな様子は確認出来ないけど……」

「このままだとあの敵の上を越えて移動する形になるはずだ、

やばいと思ったら俺が飛び出すから、援護してくれ」

「そ、そんな!八幡君、危ないよ!動いた瞬間に、ここから狙撃すればいいじゃない!」

 

 八幡のその宣言を、明日奈は必死に止めようとした。

だが次の八幡の言葉に、明日奈は葛藤する事となった。

 

「それでもいいんだが、多分あの体勢だと、狙撃した奴があいつを殺しちまう事になる。

どうしても仕方ない状況ならまだしも、この状況でそんな場面を見たくない」

「そ、それは……」

 

 そんなどうすればいいか分からないといった明日奈の苦しそうな顔を見て、

八幡は安心させるように、力強くこう言った。

 

「心配するな、あいつを無力化したら直ぐにこっちに戻ってくる。

なのでオレが飛び出したら、周囲の警戒を強めてくれ。

紅莉栖はドアの所で待機して、オレが飛び出したら直ぐにドアを閉めてくれ、

そして戻ってきたら、直ぐに開けてくれ」

「う、うん!」

「了解よ」

「怪我したら承知しないんだから」

「防弾チョッキは着てるから、まあ撃たれても骨にひびが入るくらいで済むと思うが」

「それでも駄目!絶対だからね!」

「おう、分かった、任せろ」

 

 そして固唾を飲んで外の様子を伺っていた一同の目の前で、

その男はいきなり懐に手を突っ込んだ。

 

「行く」

 

 八幡はそう言うと、ガブリエル目掛けて飛び掛ろうとしていたその男に向かって走り、

持っていた警棒を、その男の腕目掛けて投げつけ、

そのせいでその男は手に持っていたナイフを取り落とした。

その時八幡の視界に、既に銃を構え、その男への迎撃体勢を整えたガブリエルの姿が映り、

八幡は内心で『何だよ、気付いてやがったのかよ』と思ったが、

走り出した以上そのまま止まる訳にもいかず、そのまま男の所へ走り続けた。

 

「Damn Shit!」

 

 そう言ってその男は慌ててナイフを拾おうとしたが、

そのナイフをそのまま走ってきた八幡が掬い上げた。

 

「渡さねえよ」

 

 だが敵もさる者であり、その男はナイフの代わりに八幡が投げつけた警棒を拾い上げた。

その瞬間に八幡は足を力任せに無理やり停止し、その場でクルリと回転すると、

裏拳を放つような形で、右手に持つナイフの柄をその男の手に当て、

再び警棒をとり落とさせ、すぐにバックステップで後ろへと下がった。

その瞬間にガブリエルがその男に向かって銃を撃ち、その男は肩を撃ちぬかれ、

そのままその場にどっと倒れた。その瞬間に、ガブリエルがこう呟いた。

 

「Shana?」

 

 八幡はその言葉が気になったが、約束を優先させる為、

ガブリエルに軽く手を上げ、そのまま急いで車へと戻った。

 

「ふう………」

「八幡君、お疲れ様」

「間もなく殲滅も終わりそうね、終わったら即離脱しないと、

さすがに警察が来てやっかいな事になりそうね」

「まあ何も俺達に繋がる証拠は何も出ないだろうけどな、

ガブリエルの奴、最初にしっかりと監視カメラを潰してたみたいだからな」

「あら、監視カメラがあったの?」

「おう、見にくいところに一つだけな」

 

 そう言って八幡が指差した先に、確かに壊れた監視カメラがあった。

そして敵の殲滅が終わり、ガブリエルがこちらに、

移動するといった感じのジェスチャーを送ってきた為、

紅莉栖は再び運転席に座り、車を発車させた。一方八幡は尚も話を続けていた。

 

「しかもあの野郎、死んだフリをしていたあの男にしっかりと気付いてやがったわ。

まったくとんでもない奴ってのは世界にはゴロゴロしてやがるよな」

「あのサトライザーみたいにですか?」

 

 クルスは冗談めかしてそう言ったが、その言葉は八幡の頭に、天啓のように降り注いだ。

 

「サトライザー?いや、まさかな……あいつはあの大会の時、日本語を喋ってやがったしな」

「どうしたの?さっき何かあったの?」

 

 明日奈は首を傾げながら八幡にそう尋ねてきた為、

八幡は先ほどのガブリエルが呟いたセリフの事を説明した。

 

「シャナ?シャナって言ったの?」

「おう、もしかしたら聞き間違いかもしれないけどな」

「似たような単語があったかしらね?」

「どうだろう、後で直接聞いてみるしかないわね」

「そうだな、そうするか」

 

 そしてしばらく車を走らせた後、先導する車はとあるビルの地下へと入っていき、

八幡達もそれに続いた。そしてしばらく後、

傭兵達と八幡達は、そのビルのとある部屋に集まっていた。

 

「今日はここに泊まりだそうです、ここは安全が確保されているからと」

「オーケーだ、俺達はどこの部屋を使えばいいか聞いてみてくれ」

「この正面の部屋だそうです、一部屋になってしまうが、

かなり広いからそれで我慢してくれとの事です」

「まあそれは仕方ないだろうな、とりあえず明日の予定を聞いたら移動すると伝えてくれ」

「分かりました」

 

 そしてクルスがガブリエルに話しかけると、ガブリエルは仲間の一人を呼び、

その男がクルスに何か説明を始めた。

そして彼自身は八幡の前に立ち、英語で何か呼びかけてきた。

 

「ガブリエルは何と?」

「あなたがGGOのシャナかどうか聞いてきているわ」

「まじかよ……それじゃあ雪乃、ガブリエルにこう言ってくれ、

もしかしてお前はサトライザーか?とな」

 

 その言葉への返事は明快であり、ガブリエルはその言葉に頷いてみせた。

 

「雪乃、次にガブリエルにこう言ってくれ、

サトライザーはあの時日本語で話しかけてきたから、日本語が得意のはずなんだが、ってな」

 

 雪乃がその言葉をそのままガブリエルに伝えると、

ガブリエルは肩を竦めながら八幡に向かってこう言った。

 

「はぁ、好奇心に負けたから仕方ないとはいえ、

日本語が分かる事は、出来れば隠しておきたかったんだがな」

「てめえ………」

 

 こうしてシャナとサトライザーは、八幡とガブリエルとして、

アメリカの地で思わぬ再会を果たす事となったのだった。




バレました!

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