より面白いのではないかと思われます!
レン達は、その日はあまり時間が無かった為、何匹かモブ狩りをするに留めたが、
とにもかくにも最低限の連携を確認する事が出来た。
「それじゃあ師匠、今日はありがとうございました!」
「おう、俺はちょっと明日は来れないから、二人でしっかりと連携の確認をしておくんだぜ、
あとグレネードの弾も可能な限り補充しておくように」
「はい、分かりました!」
「ヤミヤミ、またね!」
「おう、またな、フカ」
そして闇風が落ちた後、レンとフカ次郎は同時にあくびをした。
「ふわぁ、さすがに眠い、かな」
「そうだね、今日はここまでという事で!」
「そうしよっかそれじゃあフカ、今日は本当にありがとうね、明日も宜しく」
「おう、任せておけい!」
こうしてその日は二人もそのまま落ちる事となった。
そして次の日、フカ次郎の目の前に、渋い顔をしたレンが立っていた。
「レン、どしたの?」
「お金が無い……思ったよりも遥かにグレネードの特殊系の弾が高かった……
しかも在庫があまり無かった……」
「ええっ?それはまずいな」
レンはどうやら朝早めに起きて、いくつかの店を回っていたらしい。
二人は頭を悩ませたが、そんな時レンの頭にかつてシャナと過ごした日々の事が浮かんだ。
「あっ!」
「どうしたレン、何かいい事でもあったのかい?」
「うん、あった!昔シャナに、困った時に使えってもらった鍵があった!」
「ん、何の鍵?」
「分からない、でもシャナの事だからきっと……」
そしてレンは、その鍵の説明文を読んだ。それはかつてシャナに案内してもらった、
会員制のビルにあるレンタルロッカーの鍵であるらしく、二人はそこに向かう事にした。
「ここの事、すっかり忘れてたよ」
「ここっていかにも高そうなビルだけど、どういうビル?」
「会員制のビルらしいよ、シャナにここに入る権利はもらってあるから大丈夫だけどね」
「さすがリーダー、いやシャナ、セレブだなぁ」
そして二人は目的のロッカーにたどり着き、恐る恐るその鍵を使った。
中にはボタンのような物があり、それを押すと、正面に金額のような物が表示された。
「おっ、おっ?」
「一、十、百、千……う、うわ、い、一千万!?」
「さっすがシャナ、これはもうシャナとの結婚を本気で狙うしかないね」
「だ、駄目ぇ!」
必死な表情でそう叫んだレンを、フカ次郎はニヤニヤと見つめながら言った。
「ほうほう、レンは駄目と申すか」
「え?あっ……え、えっと……」
もじもじしながらそう言い淀むレンにハートを撃ち抜かれたのか、
フカ次郎はレンにいきなり抱きついた。
「もう、レンは本当にかわいいなぁ!」
「フカ、からかわないで!」
「おうおう、愛い奴愛い奴、という訳で、とりあえず買い物に行こう!」
「切り替え早っ!あ、それならこっち」
そう言ってレンは、フカ次郎を以前買い物をした店に連れていった。
そこでフカ次郎は、目的の物を発見する事が出来た。
「あ、あったあああああ!」
「え?グレネードランチャーがあったの?」
「あったあった、ほら、これこれ、この銃、やっぱり超格好いい!
綺麗、美しい、ビューティホー!」
「それ三つとも同じ意味だからね」
そう言いながらレンは、改めてそのグレネードランチャーを見て内心でこう思っていた。
(やっぱりこれ、ブサイク……)
そんな二人に店番らしいNPCが、恐るべき愛想の良さで話しかけてきた。
「それは最近実装された、連発式グレネードランチャー、格好いいよね!
最大射程は四百メートル、回転式だから、引き金を引くだけで、
一気に六発の弾を三秒で発射出来る優れものですよ!」
「いいねいいね、爆弾の雨あられだね!
で、一応確認するけど、これってこれと同じ物だよね?」
そう言ってフカ次郎は、レンが持っていたグレネードランチャーを取り出した。
「何と、お客様は既にこれと同じ物を一丁お持ちでしたか!それじゃあこれは不要……」
「よっしゃ、同じ物だ!ひゃっほー!これ買う、売って!」
「はぁ!?」
NPCも驚く事があるのかと、この時レンはそう思ったが、
その事は口に出さず、別の言葉がレンの口をついて出た。
「やっぱりこうなるんだ……」
そしてレンは、何気なくそのグレネードランチャーの値札を見た。
そこには三百万と書かれており、レンは眩暈を感じた。
「た、高っか……」
その言葉にフカ次郎は、あっさりとこう言った。
「大丈夫、買える買える!私達にはだぁりんがいるからね!」
「いや、まあそれはそうだけど……」
「これで二丁持ちだからバカスカ撃てるね!弾もあるだけ買う!」
「ちょ、ちょっとフカ……」
そこにはかなり多くのグレネード用の弾の在庫があるのが見てとれ、
さすがに全部となると、どれほどの金額になるのかと再び眩暈がしたレンは、
フカをなだめようと声を掛けようとしたが、フカはそんなレンにこう言った。
「ああ、お金は大丈夫!だぁりんがいるから!」
「照準器は外しますか?ちょっとお金はかかりますけど、
バレットサークルがあればいらないですし」
「おう、そうしてくれい!」
「ちょっとぉ……」
「大丈夫、だぁりんがいるから!」
フカ次郎は最後まで、それでレンを抑え切った。さすがのレンも、
まさかフカ次郎が一気に六百万近くも買い物するとは思っていなかった。
(まあいいか、シャナは億単位で持ってるって言ってたはずだし……)
そんなレンの気持ちを知ってか知らずか、フカ次郎は続けてレンにこう言った。
「よ~しレン、この調子で装備を整えるぞ!」
「はぁ……」
レンはため息を付きながらも、心の中でシャナに謝りつつ、買い物を続行する事にした。
もっともシャナが、ゲーム内のお金を使いすぎたからといって、
それに対して文句を言う事は、当然ありえないのであるが。
「これ、レンのと同じ奴じゃない?」
「どれ?あ、あれ?これって……」
それは確かにレンが今装備しているのと同じ、十狼仕様の防弾アーマーであった。
レンはそれを、前回のスクワッド・ジャムの際、シャナから与えられていた。
ちなみにもちろん色はピンクに変えてもらっていた。
「な、何でこんなものが売れ残ってるの?これってかなり性能がいいのに……」
レンはそう考えたが、それは当たり前なのである。
十狼のお膝元で、あえて十狼専用装備を買うような勇者はいないのだ。
ちなみにそのせいで、レンは十狼の準メンバー扱いされているのだが、
その事にレンは気付いていない。
「よし、これにする!店員さん、これのカスタムをお願い!」
「はい、かしこまりました!」
そしてレンは、再び値札を見て卒倒しそうになった。
「こ、これって二百万もするんだ……」
レンはその金額を見て、金銭感覚が狂わないようにと、
今回は特別、今回は特別と、自分に言い聞かせた。
「大丈夫、だぁりんがいるから!」
フカ次郎はもちろんそんな事はせず、他にも弾を収納するポーチを値段も見ずに買い、
まあそれは大して高い物ではないのだが、次に短剣のコーナーへと向かった。
「あっ、これ、超格好いい!」
「え、どれどれ?」
そんな中、フカ次郎が選んだのは握りの部分にナックルガードがついた短剣であり、
素材は何と、例の宇宙船の装甲板で出来ていた。ちなみに製作者はイコマだった。
「だから何でこれが売れ残ってるの……というか何でフカは、値段も見てないのに、
常に性能のいい武器に目を付けるの……」
その短剣もお値段は百万ほどであり、レンは再びクラッとした。
「こ、これも百万……」
「大丈夫、だぁりん愛してるぅ!」
「どさくさに紛れて何言ってるの……」
「ただの本心だって!言いたければレンも言えば?」
「い、言わないから!」
「それじゃあ店員さん、これも下さ~い!」
「あ、ちょっと!」
「毎度あり!お、それですか」
そして店員は、その短剣の説明を始めた。
「それは昨日入荷したばかりの業物ですよ、お客さん、目が高いですね」
「ふふん、だろう?これからは私の事を、いい仕事してま次郎と呼んでくれ」
フカ次郎はそう調子に乗ったが、レンは別の事を考えていた。
それは先ほど店員NPCが言った、昨日という言葉についてだった。
「た、たまたまイコマさんが昨日ログインしてて、たまたまこの武器を作ろうと思って、
何となくこの店に売ったと……な、何という偶然……そしてフカの強運……」
実際偶然ではあったが、確かにフカ次郎の強運は驚異的だった。
この店以外だと、グレネードランチャーは連発式じゃない物が置いてあったかもしれず、
我慢出来ないフカ次郎の性格上、そっちを買ってしまった可能性が高いからだ。
そう考えると確かにフカ次郎の強運は恐るべきものだった。
(この強運が、私達に有利に働いてくれたら最高なんだけどなぁ)
レンはそう思いつつ、フカ次郎の希望通りの装備を全て購入した。
「よ~し、こんなもんかな」
「だね、それじゃあ試しに狩りに……」
「それじゃあレン、次はグレネードの弾を買占めに、他の店に行くぞ!」
「そ、そうくるんだ……」
こうして他の店もくまなく回った結果、
二人はいわゆる『だぁりんがいるから資金』を全て使い切った。
「す、すっからかんになった……」
「よ~しレン、だぁりんには今度体を張ってお礼をする事にして、
今から狩りに行って色々試すぞ!えいえいお~!」
「か、体って……はぁ、突っ込む元気も無いよ、お、お~……」
レンは力なくフカ次郎に合わせ、よろよろと腕を振り上げた。
そして二人はいわゆるレンの縄張りの砂漠地帯へと向かい、武器の性能の検証を始めた。
「さあ、いこうぜ!」
フカ次郎は現地に着くと、二丁のグレネードランチャーを両手で構え、
ニヤリとしながらそうレンに声を掛けた。
「オーケー、いつでもいいよ」
「了解!いくぜ!」
フカ次郎は、遠くに見えるアルマジロのような敵を見据え、
グレネードランチャーの引き金に指を触れさせた。
その瞬間に地面にバレットサークルが写り、
フカ次郎は狙いを付けて両手の引き金を三度、連続して引いた。
ドン、ドン、ドン!
直後に三発の銃弾が放物線を描いて飛び、敵の近くに着弾したが、直撃はしなかった。
それでもダメージは与えたようで、それを確認したフカ次郎は、気分がよくなったのか、
こう言いながら再び三度引き金を引いた。
「ひゃっほ~!汚物は消毒だぁ!」
フカ次郎は更に続けて引き金を引いたが、四度目の弾は発射されず、
フカ次郎はそれを見て、思い出したかのように一瞬ハッとした顔をした。
これは単純に、このグレネードランチャーの装填数が六発だったからである。
そしてフカ次郎は、ダメージを受けつつも生き残った敵を見て、促すようにレンに言った。
「レン!」
レンはその言葉を受け、凄まじい速さで敵に肉薄すると、
敵に向かってピーちゃんのフルオート射撃をかまし、敵を殲滅した。
「やっぱりバレットサークルって楽でいいねぇ」
そのフカ次郎の言葉に興味を引かれたのか、レンはフカ次郎にこう言った。
「グレネードランチャーのバレットラインってどう見えるのかな、
フカ、試しに私に狙いを付けてみて」
「あいよ~!」
そしてフカ次郎は言われるままに引き金に指を触れさせ、
その瞬間にレンに向かって、放物線状の赤いバレットサークルが伸びてきた。
「ああ、やっぱりこうなるんだ、まあ当たり前だよね」
うんうんと頷くレンに、フカ次郎がしれっとこんな事を言った。
「ふむふむ、それじゃあ今度は、ちょっと避ける練習をしてみてね」
「はぁ!?」
そしてフカ次郎はためらいなく引き金を引き、
レンに向かってグレネードの弾が発射された。
「い、嫌ああああああああああ!」
レンは必死でそれを避け、快足を飛ばして鬼の形相でフカ次郎の下へとたどり着いた。
「おお、見事だね、足速いね!」
「見事じゃない、危ない、怖い!」
レンはそう言うフカ次郎に、必死で抗議した。
そんなレンに、フカ次郎は諭すようにこう言った。
「何言ってるの、スクワッドジャムの時はもっと怖いんでしょ?」
「ああ、まあそれは確かに……」
レンはその言葉に簡単に誤魔化され、そう頷いた。
どうやらレンにはチョロインの素質があるようだ。
「しかしこれだけじゃ戦えないね、やっぱりこれは、前に仲間がいてこそ輝く銃だね」
フカ次郎はグレネードランチャーをぷらぷらさせながらそう言い、
レンは思わず驚いた顔でフカ次郎の顔を見た。
「ん、何?私の顔に何かついてる?それとも私が欲しくなった?レンのえっち!」
「どうしてそうなるの!フカの的確な分析にちょっと驚いただけだってば!」
「ふふん、もっと褒めてくれたまえ、こう見えて、戦歴は長いのだよ!」
「うん、素直に凄いと思う」
「おおう、レンがデレた……」
「デレてないから!っと、ところでさ、
今のを見てて、試してみたくなった戦法があるんだけど」
「ほう?聞こうか」
「えっとね……って、やばい、そろそろ参加申し込みの締め切り時間だ、
フカ、例の友達の登録をお願い!」
「おっと、もうそんな時間か、あいよ~!」
そしてフカ次郎は、レンから見えないように、
四人目の欄にキリトと名前を書くと、レンの顔を見た。
「チーム名はどうするの?」
「あっ、忘れてた……えっと、師匠のY、レンのL、フカ次郎のF、フカの友達は?」
「その法則だと、Kだね」
「それじゃあYKLF……いや、LF……う~ん……」
「LFKYでしょ、どう考えても」
「その心は?」
「レンフカ空気読め」
「あははははは、あはははははは、そ、それじゃあそれで」
「了解!」
そしてフカ次郎は、そのまま申し込みを完了させた。
「オーケーオーケーこれで良し」
「良かった良かった、それで思いついた戦法なんだけど……」
レンはそう言ってフカ次郎にとある提案をし、フカ次郎はその提案を直ぐに受け入れた。
「いいね、やろうやろう!」
そのまま二人はしばらくその場に留まり、しっかりと連携を確認した後に街に戻った。
「外でやれる事は全部やれたかな?」
「多分ね、後は当日のフィールドがどうなってるかだけど」
「残りのうち、今出来る事は全部やっておこう」
「了解!」
そして二人はレンタルスペースを借り、飲み物と食べ物を注文しながら相談をはじめた。
キリトを出すとか空気読めよ、と。