「さて、それじゃ早速見せてもらうとするか」
「ああ」
「まあ、使い方を軽く聞くだけだから、デュエルモードとかじゃなくてもいいな」
「そうだな。よしキリト、いつでもかかってきていいぞ」
「それじゃまずは小手調べな感じで」
二人は向かい合い、構えをとった。
まずキリトが武器を振り上げ、ようとした瞬間、
キリトの視界に銀色の閃光が走り、武器を持っていた右肩に衝撃が走った。
その衝撃のせいで、右半身が少し後ろに流れた直後に、
キリトの首に、ハチマンの短剣が突きつけられていた。
「攻撃を事前に潰すのはこんな感じだな」
「おいおい、前と違って、防御と攻撃が同じタイミングで来るぞ」
「まあ、そのための装備だからな」
キリトは、これはやりにくいと感じていた。同時に、自身の血が沸き立つのも感じていた。
「次はパリィだな。普通のは最初のとあまり変わらないから裏技的なやつな」
「裏技、ねぇ……」
キリトは、自分がわくわくしているのに気が付いた。
ハチマンの戦闘スタイルは、何が出てくるかわからないびっくり箱のような物で、
確かに戦闘狂の一面を持つキリトからしてみれば、わくわくするのは確かだろう。
「キリト、普通に斜め上から斬りかかってきてくれ」
「了解」
キリトはフェイントを混ぜつつ、攻撃のタイミングがわからないように気をつけながら、
ハチマンを袈裟斬りにするイメージで攻撃した。
エリュシデータの刃が、ハチマンの肩口に迫る。
(もうパリィは間に合わない、だろっ!)
キリトはハチマンに攻撃が当たる事を確信したが、
その瞬間ハチマンは、一瞬シールド部分を前へスライドし、キリトの顔に向けて突き出した。
キリトは顔への攻撃に一瞬ひるみつつも、ダメージは少ないはずだと思い、
そのまま攻撃を当てようとしたが、
次の瞬間シールド部分が後ろにスライドし、その後ろの部分がキリトの攻撃をパリィした。
予想外のタイミングで攻撃をパリィされたキリトの体は開いてしまい、
次の瞬間、再びキリトの首に、短剣が押し付けられた。
「おいおいまじかよ。今のタイミングで弾かれるとは思わなかったぞ」
「まあ、こんな感じだな」
「なるほどな、前後どちらでもパリィ出来るんだな」
「ああ。後ろでパリィした瞬間に前にスライドさせて《閃打》を当てて、
大きく体制を崩したら《ファッドエッジ》をくらわせて、
次に相手が体を起こそうとしたら、また《閃打》からの《ファッドエッジ》とか出来るぞ」
「それ永久コンボじゃないかよ……その武器はずるいぞ!」
ハチマンは肩を竦めた。
「これにも弱点はあるんだよ。例えば、左右からの強力な連打には対応が難しい。
後、盾相手だと、パリィ効果が弱くてカウンターになりにくい」
「なるほどな」
「どうだリズ、こんな感じなんだが」
リズベットからは返事が無かった。
「ん、どうかしたか?」
ハチマンはずっと黙っているリズベットの方を見た。
そこには、口を大きく開けてぽかーんとしているリズベットがいた。
「……何やってんのお前」
「い、い」
「い?」
「今の何よ!」
「何と言われても、なぁ……キリト」
「ああ。普通に模擬戦もどきをやっただけだよな」
「私、攻略組をかなり誤解してたかも……だって攻撃が見えないんだよ。
何あれアスナもあんな感じなの?あんなの初めて見たよ……」
「おーい、ぶつぶつ言ってないで、こっちに戻ってこーい」
リズベットはぶつぶつ言い続けていた。
仕方なくキリトが、リズベットの頭にチョップをかました。
「ハチマンが感想を求めてたぞ」
「あ、うん、何かすごいね?」
「おう、お前の作ってくれた武器は最高だろ?」
「うん!こんなすごいなんて思わなかったよ。
それにしてもそれって、あんな変わった使い方をするんだね。どこで習ったの?」
「あー……企業秘密だ」
「ま、詮索するのもあれだし、別にいいけどね」
「すまん」
「でもあんなにトリッキーなのに、ハチマンはよく使いこなせるよね」
「ハチマンのすごい所は、的確にどこからでもパリィしたり出来る、その目なんだよな。
だからあんなにピーキーな武器でも使いこなせる」
「あ、それはなんとなくわかる」
「まあ、確かにそこは生命線かもしれん」
「あ、そういえばそれとは別の話なんだけどさ」
何かを思い出したようにリズベットが言った。
「キリトは何を隠してるの?」
「何を、って何だ?」
「ダークリパルサーを作ったのは何で?」
「それはさっき説明した通り……」
「うん。でもあれは嘘だよね?」
その言葉に、キリトは軽く狼狽した。
(おいおい女の勘ってやつか?まあキリトの演技が下手すぎってのもあるが……)
キリトはわかりやすいんだよな、とハチマンは思いながら、キリトに声をかけた。
「キリト、これからも色々頼むんだし、リズにはちゃんと教えといた方がいいぞ。
武器を作る時、その背景を知っているのと知らないのとでは、やはり違うだろうしな」
「………確かに言われてみれば、そうかもしれないな」
「おいリズ」
「何?ハチマン」
「お前、キリトの恥ずかしい秘密を必ず守ると誓えるか?」
「恥ずかしいの!?うん、わかった!だから早く教えて!」
「ハチマン……」
「よしキリト、とりあえず練習中のあれだ」
「まだ最後までいけた事無いんだけど、今使える中ではあれが一番派手かな」
キリトはウィンドウをしばらく操作していたが、操作が終わった瞬間、
ダークリパルサーが左手に出現した。もちろん右手にはエリュシデータを持っている。
「え?え?クリパとリュシって二つ同時に装備出来るものなの?
アハトの場合は特殊だからわかるけど……」
「何だよその略し方……まあいいから見てろって」
キリトは深呼吸をし、二刀を持って構えた。
「いくぞリズ。スターバースト・ストリーム!」
次の瞬間、キリトが閃光のエフェクトと共に、二刀を使ったソードスキルを放った。
リズベットにはなんとなくしかわからなかったが、十連撃くらいは放ったように見えた。
「くっ、まだこのくらいが限界か」
「もうちょっと練習しないと駄目だな」
「何、今の………」
「二刀流だ」
「何それ?そんなスキルあったっけ?」
「ユニークスキルだよ、リズ」
「……ユニークスキルって、ええええええええ?」
キリトは、このスキルを見つけた経緯と、
その時からここでいつも練習している事を、リズベットに説明した。
「なるほどね、確かにこんなスキルが他人にバレたらちょっとまずいかもね」
「ああ。ダークリパルサーを作った理由もこれで分かったか?」
「うん。この事はアスナは知ってるの?」
「アスナには教えてないな。というか、基本俺とハチマンは、
お互い以外にスキルを教える事はしないからな」
「まあいずれバレると思うけど、その時まではそのままの方がいいかもね」
「そうだな」
それからハチマンとキリトは、お互いベストの状態で模擬戦を繰り返した。
勝敗は、三対一くらいの割合で、やはりキリトの方が上だった。
ハチマンは、高速で前後にスライドさせる事によって、
二刀を同時にパリィする練習をしていたが、未だ形にはなっていない。
もっとも、キリト以外が相手なら、ハチマンは問題なくこなすだろうと思われる。
キリトは模擬戦終了後、日課の型の練習に入った。ハチマンも色々アドバイスをしていた。
それをリズベットは、羨ましそうに見ていた。
「どうしたリズ。物欲しそうな顔してるぞ。腹でも減ったか?」
「ちっがーう!私は戦闘の事でアドバイスとか出来ないから、ちょっと羨ましかっただけ!」
「まあ、俺達とお前では、役割が違うからな」
「それはそうなんだけどさ……やっぱりもっと役に立ちたいじゃない」
「お前の作ったあの剣、キリトはすごい気に入ってるぞ。立派に役にたってるだろ」
リズベットは、その言葉にとても喜んでいるように見えた。
「それにその……俺もリズには、アスナの次くらいには、感謝してるぞ」
「アスナの次なんだ」
「アスナはシードだからな」
「ううん、そういう意味じゃなくってさ。
ハチマンから見てのアスナの次って、完全に二番手じゃない。だからびっくりしたの」
「お、おう……まあ、間違ってはいないんじゃねーの」
「うん!素直に喜んどく!」
その後合流したアスナと戦ったハチマンは、実戦形式でアスナにアハトの説明を始めた。
アスナは何故か、アハトでパリィされる度に喜んでいた。曲芸みたいで面白いのだそうだ。
ハチマンは、それだけパリィしているにも関わらず、アスナに負け越していたので、
刺突剣相手もやや苦手だという事が判明したかもしれない。
「うー、やりづれえ……やっぱ刺突系は苦手だわ」
「ハチマン、お前さっきからパリィしまくってるくせに何言ってんだよ……」
「パリィしてもアスナには一切追撃してないよね……」
「そんな事は無い。攻撃する努力はちゃんとしている。
そうしようとする時に、ちょっと体が麻痺したように動かないだけだ」
「アスナは、対ハチマン特化の麻痺属性持ちなのね……」
実際は、アスナ相手だと、まったく攻撃が出来ないだけだったようだ。
アスナが喜んでいたので、まあハチマンにとっては良かったのだろう。
ハチマンの新装備と、キリトのリズへの二刀流のお披露目は、こうして終わった。