ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第569話 ほんのちょっとの我慢だから

「お~う、調子はどうだ?準備は整ったか?」

「師匠!」

「ヤミヤミ、お帰り!」

 

 二人が二人での連携を色々と話し合っていると、そこに闇風がコンタクトをとってきた。

どうやら用事が早めに終わったらしい。

 

「で、フカのスタイルはどうなったんだ?」

「うん、結局これにした」

 

 フカ次郎はそう言って、グレネードランチャーを二丁構えた。

 

「え、まじか、結局そうなったのか、というかよく同じのがもう一丁あったな……」

 

 そう思ったのも束の間、続けてフカ次郎が、

ドン、ドン、とグレネードの弾を積み上げていくに連れ、闇風の頬は徐々に引きつり始めた。

 

「よく見ると装備もどこかで見たような装備だし、これ、全部でいくらかかったんだ?」

「レン、いくら?」

「きゅ、九百八十万……」

 

 その桁違いの金額は、さすがの闇風も予想していなかったようだ。

 

「まじかよ!?というかレン、なんでお前、そんなに金持ちなんだ!?」

「あ、師匠、それはですね……」

「『だぁりんがいるから資金』だよね、レン」

「だ、だぁりん?」

 

 闇風は意味が分からずきょとんとした。

 

「あの、師匠、これはシャナにもらったお金です!」

「シャナに?ああ、それなら納得だ……」

 

 闇風もかなり所持金は多い方だが、さすがにシャナと比べると、決して多いとは言えない。

もちろん平均よりは遥かに多いのは間違いなのだが、今回は比較対象が悪すぎた。

 

「で、フカはシャナをだぁりん扱いして、それを全部使い切ったと……」

「は、はい……」

「これをシャナが知ったら血の雨が降るかもしれないな……」

「ですね……シャナはフカには結構容赦ないですから」

「ん?何か言った?」

「いやいや、何でもない、強く生きろ」

「そうそうフカ、何でもないよ、頑張って!」

「おうよ、任せておけ!」

 

 そうガッツポーズをして気合いを入れるフカ次郎を見て、

二人は何ともいえない気分になったが、とにかく頑張らないといけないのは間違いない為、

二人も気を取り直し、そして闇風が、持ってきた情報を披露すると言い出した。

 

「師匠、情報収集してくれたんですか?」

「おう、合コンに向かう友達を遅刻させてやろうと思って捕まえてな、話を聞いてきたぜ」

「師匠、私怨にしか聞こえません」

「ヤミヤミ鬼畜!」

「何とでも言え、俺を誘ってくれなかったあいつが悪い」

 

 闇風はそう言うと、二人に今回のスクワッド・ジャムに参加予定の、

有力チームの情報を語り始めた。

 

「先ず最有力とされているのは……俺達らしい!」

「おおっ」

「さっすが私達、最有力候補!あ、といっても私はこっちじゃ無名か」

 

 そのフカ次郎の言葉に、闇風はちっちっちと指を立てながら言った。

 

「いや、それがそうでもない、フカ次郎なんて名前は滅多にある名前じゃないから、

お前がALOのフカ次郎じゃないかという噂はすでに広がっているようだ」

「そ、そうなの?」

「おう、なのでそれも加味しての評価だな、多分」

「おお……私ってばそんなに有名人だったんだ!」

「お前がじゃない、ヴァルハラがだ」

 

 実際はキリトの名前がメンバー表にあるからなのだが、

闇風はその事は知らず、薄塩たらこにフカ次郎の事だけを告げた。

そのせいで薄塩たらこも、あえてキリトの事には触れず、フカ次郎の話だけをした為、

闇風はそれがキリトのネームバリューによるものだという事は気付いていない。

なので闇風は、フカ次郎が調子に乗らないように釘を刺すと、

続けて色々なチームの名前を上げはじめた。

 

「次はピトフーイのチーム、PM4だな、

ピトフーイとエム、それに正体不明の謎の四人組のチームだ」

「師匠は正体を知ってる癖に……」

「そ、その方が面白いだろうが!それに俺もギンロウ以外は誰なのか知らないからな!」

 

 闇風は言い訳がましくそう言った。

 

「あとは前回レンも戦ったと思うが、MMTM、そして今売り出し中のチーム、SHINC」

「SHINC?聞いた事ない名前ですね」

「お前にとってはそうかもな、SHINCってのは、いかつ………

いや、ちょっと体格のいい女性五人組のチームで、

まあ何というか、シャナのお小姓みたいな奴等だ」

「えっ?」

「そんな人達がいたんだ……」

 

 そして闇風は、伝え聞いたシャナとSHINCの出会いについて語った。

 

「うわ、シャナ、容赦なさすぎ……」

「だぁりんって意外とそういうトコあるよね」

 

 そこまでではないが、同じように叩かれて成長してきたフカ次郎は、

感慨深げにそう言った。

 

「まあそれを恨みに思う事なくシャナにくっついてるような奴等だ、

シャナに対する忠誠心は高い。前回大会の時は、用事があって参加出来なかったようだが、

その分今回の大会にかける意気込みも高いようだ。

そして何より、あいつらはどうやらレン、お前の首を狙ってるようだな」

「え!?会った事もないのに何でですか?首を洗って待ってろ状態ですか!?」

「レン、大人気だな、友達として鼻が高いぞ」

「そんな人気欲しくないから!」

 

 レンはそう言ってフカ次郎に抗議した。

 

「前回シャナの役にたてなかったのが、本当に悔しかったんだろうな、

その分シャナの役にたちまくってしまったお前に対して、ライバル意識があるんだろう」

「というか、そもそも私の問題だったから!」

「お前の主観はそうだろうが、他の奴にはそんな事は分からないからな」

「ああもう、私はピトさんを倒したいだけなのに……」

「仕方ないだろ、ディフェンディングチャンピオンとして受けて立て、

と言いたいところだが、仕方ないからあいつらは俺ともう一人の参加予定の奴で抑えてやる、

おいフカ、お前の知り合い腕は、ある程度信頼していいんだよな?」

「あ、うん、それは大丈夫」

 

(というかBoBの優勝者なんだけど……)

 

 フカ次郎はそう思いつつも、

サプライズの為に奥歯に物のつまったような言い方しか出来なかった。

 

「それなら問題ない、あいつらは………俺がやる」

「お、お願いします、師匠!」

「おう、任せておけ、でもそうなるとピト達六人の相手を、

お前達二人でしないといけない可能性が高いんだが、大丈夫か?」

「死ぬ気でやります」

「絶対にヴァルハラの名に泥を塗らないようにするつもり」

「そうか、ならいい」

 

 闇風はその二人の意気込みを買い、それ以上は何も言わなかった。

 

「まあ可能なら俺達も、SHINCだけじゃなく他の奴も抑えるつもりだから、

二人だけで立ち向かう事になるかどうかは分からないけどな」

「あ、それいいですね、という訳で師匠、他の奴らは全員殺っちゃって下さい!」

「いえ~い!ヤミヤミ最強!ヤミヤミジェノサイド!」

「お?い、いえ~い、俺様最強!俺様ジェノサイド!」

 

 調子に乗ったフカ次郎にそう言われ、闇風はフカ次郎に合わせ、ハイタッチをした。

しかしそれは、まるで闇風がジェノサイドされてしまうような響きを伴っており、

微妙にフラグっぽいセリフでもある。そして直後に闇風は我に返り、慌ててこう突っ込んだ。

 

「って違う!さっきはちょっと格好いい感じで意欲満々だったのに、

いきなり俺達に頼るような事を言うんじゃねえ」

「え~?でもその方が楽だし、目的達成が最優先だし?」

「レン、お前な……ガキか!」

 

 その言葉にレンは、ぱっと顔を輝かせた。

 

「はい師匠、私、小さなガキなんです!」

「何故そこで喜ぶ……」

 

 事情を知るフカ次郎は、そのやり取りに突っ込みたくてうずうずしていたが、

レンの気持ちも分かるので、そこは空気を読んで何も言わない事にした。

 

「他にもZEMALとか、前回の大会に参加してた奴らがほとんど出場してくるから、

雑魚に足を掬われないように気を付けるんだぞ」

「はい!」

「おうよ、狙うは優勝!それが無理でも絶対にそのピトさんって人は倒すぜ!」

「お~!」

 

 こうして三人は、高い士気のままスクワッド・ジャム当日を迎える事となる。

 

 

 

 一方その頃八幡は女性達に囲まれてしまい、今夜は本当に寝れるのだろうかと悩んでいた。

八幡の右には明日奈がおり、左にはジャンケン大会で一位になった陽乃がいる。

頭方向には志乃が陣取り、足元にはレヴェッカが座りこみ、八幡は完全に包囲されていた。

 

「なぁ、俺、はしっこの方がよく寝れるんだけど……」

「何言ってるの、私の勝利を無にするつもり?」

「ですよね……」

 

 八幡のその主張は、陽乃によって即却下された。

ちなみに負け組は、PCを操作しているアルゴの周りに集まり、

何か話し合っているようだった。実に潔い。

 

「大丈夫大丈夫、ほら、このメンバーって母性の大きな人が集まってるじゃない?

だから八幡君も、きっと安眠出来るんじゃないかな」

「母性………?あっ………」

 

 繰り返して言うが、今八幡を囲んでいるのは、母性の大きな三人である。

それは胸の大きさに比例していると志乃は言いたいようだ。

そう察した八幡は、志乃の格好を見ながら抗議した。

 

「言いたい事は何となく分かりますが、

とりあえず志乃さんはもう少し胸の辺りを何とかして下さい、

それはさすがに開放しすぎです」

「え~?だって暑いんだもん」

「いいから胸を隠せつってんだよ!俺が困るんだよ!」

 

 その瞬間に、八幡の膝がミシリと音を立てた。その膝を、明日奈が笑顔のまま掴んでいた。

 

「八幡君、何が困るのかな?かな?

八幡君はずっとこっちを向いて寝てればいいんじゃないかな?かな?」

「仰る通りです、すみませんでした」

 

 八幡は膝の痛みに耐えつつ、正座で明日奈にそう頭を下げた。

そして明日奈の方を向いたまま八幡が頭を上げた瞬間に、

八幡の後頭部が柔らかい物に包まれ、上半身が背後から回された手で拘束された。

 

「油断大敵ってこの事よねぇ」

 

 八幡の頭を胸でキャッチしながら陽乃はそう言い、さすがの明日奈も目付きを鋭くした。

そして八幡もそんな空気を感じ、即座に陽乃にこう言った。

 

「おい馬鹿姉、その駄肉をどけろ」

「え~?せっかく明日奈ちゃんに、

とっておきの胸を大きくする方法を教えようと思ったのにぃ?」

 

 その瞬間に明日奈はニコニコ笑顔になり、一部の女子達が、

こちらの言葉を一言も聞き漏らすまいと、神経を尖らせる気配がした。

 

「明日奈、騙されるな、それよりも早くこの駄肉をどけさせてくれ」

 

 その言葉に明日奈は葛藤した様子を見せ、口をぱくぱくさせ始めた。

そして明日奈は八幡の顔色を伺うようにこう言った。

 

「は、八幡君、とりあえず言ってもらってみてから判断すればいいんじゃないかな?」

 

 その言葉に一部の女子達は、うんうんと頷いた。

 

「いやいや、どうせ俺に揉んでもらえとか、それに似たような事を言うに決まってる、

この馬鹿姉の考える事なんて所詮そんなもんだ」

 

 八幡がそう言い返すと、一部の女子達から脱力したような空気が伝わってきた。

確かにそれなら効果はあるかもしれないが、

昔から言われてきた事であり、特に真新しさがある意見ではないからだ。

 

「違うわよ?」

 

 だがその八幡の意見を聞いた陽乃が、すぐにその言葉を否定した。

明日奈は目を見開き、一部の女子達は、再びこちらに注意を向け始めた。

こうなったらとりあえず言わせてみないと収まらないと思った八幡は、仕方なくこう言った。

 

「はぁ、分かった分かった、言うだけ言ってみてもいいから、

とりあえず俺の頭を離してくれ、明日奈もそれでいいか?」

「あ、う、うん」

 

 だが陽乃はその言葉をも否定した。

 

「駄目よ、むしろ明日奈ちゃんも、前から八幡君に胸を押し付けなさい。

それが胸を大きくする方法の第一段階よ」

「えっ?」

「はぁ?」

 

 これは剣呑な状況になってきたなと思った八幡は、

仕方なく力ずくで陽乃の手を引き剥がそうとしたが、

その瞬間に陽乃は八幡の肩を極め、その手はどうやっても引き剥がせなかった。

 

「くっ……」

「ふん、未熟者め」

 

 その光景を見た瞬間、今までニヤニヤしながら成り行きを見守っていたレヴェッカが、

目を輝かせながら陽乃に言った。

 

「おいおい何だそれ、関節技か?姐さん、後で俺にもそのやり方を教えてくれないか?」

「別にいいわよ、二つほどお願いを聞いてくれるなら」

「二つ?どんな?」

 

 レヴェッカは身を乗り出しながら、あっさりと陽乃にそう言った。

 

「そうねぇ、一つ、私達が日本に帰った後、もし手が空いたらそのまま契約を延長して、

うちの社に八幡君のボディーガードとして出向してくれない?」

「えっ?マジでか?」

 

 さすがの八幡もその言葉に驚いたが、よく考えると、

少なくともジョニー・ブラックが逮捕されるまでは護衛は必要かもしれないと思いなおし、

特にそれ以上その提案に突っ込む事はしなかった。

 

「それは楽しそうだな、兄貴と相談になるが、オーケーが出たら別にいいぞ。

で、もう一つのお願いってのは何だ?」

「そっちは今ここで解決するわ、八幡君を逃がさないようにするのを手伝って頂戴」

「そんな事でいいのか?お安い御用だぜ」

 

 そう言いながらレヴェッカは、何故か陽乃と同じように、八幡の顔に胸を押し付けた。

 

「よし、契約成立でいい?」

「兄貴次第だが、それでオーケーだ」

「お、おいレヴェッカ、何でそうなる!」

「ああん?捕虜が文句を言うなっての」

「俺は捕虜じゃ……」

 

 そう言いかけた八幡の顔に、今度は明日奈がいきなりその胸を押し付け、

驚いた八幡は、何とかやめさせようと口を開こうとした。

だがそれに先んじて、明日奈は八幡にこう言った。

 

「ごめんなさいごめんなさい、でも私の勘がどうしても囁くの、

これから姉さんが言う事を聞かなくちゃいけないって。

だからほんのちょっと、本当にほんのちょっとでいいから我慢して、八幡君!」

「あ、明日奈……」

「ごめんなさいごめんなさい、ほんのちょっとの我慢だから!」

 

 その光景を見た志乃も、大笑いしながら自らの胸を八幡の頭に押し付けた。

 

「あはははは、これから何が起こるの?

それじゃあ私も便乗っと、さて、ここからどうなるのやらだね」

 

 さすがにこの状況を見て見ぬフリなど出来ないのか、

他の者達も全員八幡を囲むように集合し始め、

陽乃が口を開くのを今か今かと待ち構えていた。

そして陽乃は、八幡の耳元に口を寄せ、こう言った。

 

「八幡君、今から私が言うセリフを復唱したら解放してあげるわ。

なので何も考えずに、気持ちを込めてその言葉を復唱しなさい」

「わ、分かった、この状況から解放されるなら言う通りにする」

 

 その言葉に八幡は、他に選択肢は無いとばかりにこくこくと頷いた。

 

「それじゃあいくわよ、『俺の……』」


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