ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第572話 遥かなる道のり、その第一歩

「………すまない、どうやら聞き間違えたヨウだ、クリス、もう一度頼む」

「はい教授、もっと長生きしたくありませんか?」

 

 再び繰り返されたその言葉にレスキネンは、聞き間違いじゃなかったかとため息をついた。

 

「………どうやら聞き間違いじゃなかったようだね、これが君の言う魅力的な提案かい?」

「言い方はあれですが、まあそうですね」

「どう考えても僕の研究シテル分野とはまったく違う研究に聞こえるんだが」

「それがそうでもないんですよ、教授」

 

 そこに横から真帆が口を出し、レスキネンは腕組みをした。

 

「この研究に関わっていなかったマホが、話を聞いてそう思うならソウなのかもしれないね、

それじゃあクリス、説明を続けてくれたまえ」

「はい。最初に教授、長生きと聞いて、どんな光景を思い浮かべますか?」

「そうダネ……よぼよぼになっても管まみれにされて生命活動を停止させないようにスル、

もしくは脳に直接電極を差して、脳だけの姿で生き続ける、とかカナ?」

「ああ、教授の好きそうなSFっぽいイメージですね」

「だろう?でも君達のアイデアは、どうやらソレとは違うようダネ」

 

 紅莉栖の表情を見ながらそう言うレスキネンに、紅莉栖は頷きつつ続けてこう言った。

 

「それではご提案させて頂きます、私達が考えた長生きの手段は、

体感時間を延ばして人生の密度を濃くする事です、教授」

「人生の密度を濃く?それは一体……」

 

 レスキネンは、その言葉の意味を理解しようとしたが、

何も思いつかなかったのか首を傾げた。

 

「簡単な理屈ですよ教授、フルダイブ機能を利用して、思考速度を極限まで上げます、

そうすると、体感時間は延びるはずです、そうじゃありませんか?」

「ソレはソウだが……人間の脳はそんな高速思考が出来るようには出来てイナイ」

「その通りです、そこでこれを」

「これは?」

「うちの試作品『カイバーリンカー』ですよ、教授」

 

 その紅莉栖が差し出した輪のような物に対し、

八幡が笑いを堪えながらそう説明を補足した。

 

「『カイバーリンカー』?こっちにいる時に、たまにクリスがそんな事を叫んでいたけど、

もしかしてそこからとったのかい?」

「ええ、その通りです」

 

 ニヤニヤしながら八幡はそう言い、紅莉栖は異議ありという風に何か言おうとしたが、

それは同じくニヤニヤしていた真帆に止められた。

それを見たレスキネンは、やれやれと肩を竦めた後に鋭い目つきになり、こう尋ねてきた。

 

「しかし試作品だって?僕に今ココで人体実験をヤレと?」

「いえ、それはもう済んでますから。とりあえずそれを頭にはめてこう叫んで下さい、

『バーストリンク』と」

「『バーストリンク』?頭が爆発でもスルのかい?」

 

 冗談のつもりなのだろう、レスキネンは不安そうなそぶりは一切見せず、

笑顔で八幡にそう尋ねてきた。この辺り、弟子への信頼が伺える。

 

「いや、思考が爆発的に広がるイメージでそうしてみました」

「なるホド、確かにそのイメージはピッタリかもしれないね」

「試作品は三つあるんで、俺と紅莉栖が付き合います。

姉さん、明日奈、それに小猫は俺達三人に付いて、

約三十秒後に呼吸を合わせて回線を抜いてくれ」

「うん、任せて!姉さん、合図お願い」

「合図ね、オッケー!」

「分かったわ、任せて頂戴」

 

 レスキネンは、三十秒とはまた短いなと思ったが、

お試しなのだしそんなものだろうと思い直したのか、そのまま何も言わなかった。

 

(さて、三十秒が三分にナルのか五分にナルのか、お手並み拝見といこうか)

 

 レスキネンはそう考え、八幡に言われた通り、

時計の針を見ながら秒針が十二時の所を指した瞬間に言われた通りに叫んだ。

 

「「「バーストリンク」」」

 

 その瞬間に、レスキネンの視界は青く染まり、時が止まった。

そしてレスキネンの体は自分の体から飛び出し、直立歩行する犬の姿となった。

 

「こ、これは……」

「加速世界へようこそ、教授」

「加速世界……ソレにコノ僕の姿は……」

「ここでは事前に登録したアバターの姿になるんですよ、教授。

教授だけそんな姿で何か申し訳ないですが……」

「ああ、確かに君と僕の姿はマッタク違うみたいダネ」

「私もいますよ」

「こっちがクリスか、胸のサイズが違うから一瞬別人かと思ったヨ」

「教授、セクハラで訴えますよ」

「ハハハハハ、それは勘弁してクレ」

 

 八幡はここではALOのハチマンのアバターをそのまま流用していた。

同様に紅莉栖もALOのクリシュナの姿であり、レスキネンは冗談めかせて二人に抗議した。

 

「おいおい、二人ともずるいじゃナイか、僕も出来レバそういう姿になりたかったよ」

「ですよね……何かすみません」

「まあ次の機会には宜しく頼むヨ」

「次の機会……ですか、分かりました」

 

 そのレスキネンの言葉は重要な示唆を含んでいた。次の機会という事はつまり、

レスキネンはこのプロジェクトに参加する意思があるという事だからだ。

 

「前向きに検討してもらえるようで、こちらとしてもお見せした甲斐がありましたよ教授」

「まあきちんと説明を聞いてカラ決めるツモリだけどね」

「それじゃあ順に説明しますね、教授」

 

 そして紅莉栖は、この世界の事をレスキネンに丁寧に説明し始めた。

 

「この光景、これは時間が静止しているように見えるかもしれませんが、

実はよく見ると動いてます

「そうナノかい?」

「はい、これは実は、あそこに設置してあるカメラから見た映像を、

3D映像に再構成した物なんです」

「なるほど、ではアノ扉は開けられないし、ソノ外にも何も無いという事になるんダネ」

「その通りです教授、もし自由に動き回りたいのなら、

例えば町中に沢山ある監視カメラの映像を利用するとか、

もしくは独自にそういった世界を一から作る必要があります、

どうするかは今後の課題ですね」

「まあおそらく、カメラのデータを流用スル方が楽ダロウね」

「ですね」

 

 紅莉栖はその言葉に頷くと、説明を続けた。

 

「そしてこの映像は、……リンカーで思考を加速させた脳が見ています」

「カイバーリンカーな」

 

 カイバーの部分を誤魔化して発音しなかった紅莉栖に、八幡は即座にそう突っ込んだ。

 

「ああもう、その仮称はやめない?言ってて恥ずかしいんだけど」

「代わりにいい名前を考えてくれるなら、そっちに変えてもいいぞ」

「代わりの名前……私、そういうセンスは無いのよね……」

 

 紅莉栖は困った顔でそう言い、腕組みをしながらぶつぶつ言い出した。

 

「仕組みとしては、神経細胞に働きかけるから……ニューロンが……あっ」

 

 そして紅莉栖は顔を上げ、八幡に言った。

 

「ニューロリンカーってのはどう?」

「ニューロリンカー?ニューロンからとったのか?」

「ええ、ニューロンリンカーだとちょっと言いにくいから、少し縮めてニューロリンカー、

どうかしら?いい名前だと思うんだけど」

「まあ仮称だし、それでもいいか。紅莉栖にしてはいいセンスだと思うぞ」

「紅莉栖にしてはは余計」

「ニューロリンカーか……いいじゃないか、

ソレじゃあクリス、残り時間が何分かは知らないガ、続きを頼むよ」

「あっ、はい」

 

 そのやり取りを聞いていたレスキネンが、感じ入ったようにそう呟き、

紅莉栖に説明を続けるようにそう促した。

 

「今時間の話が出ましたが、残り時間は約四十分です、

つまり今の加速レートは通常の百倍ですよ、教授」

「ひゃっ……百倍ダッテ?そうか、ソウすれば相対的に、

人類は百倍以上の寿命を得る事が可能にナルという事なんだね」

「はい、教授に参加してもらえれば、その時間はどんどん延びていくと思いますよ」

 

 その言葉にレスキネンは苦笑した。

 

「コレはまた魅力的なお誘いダネ」

「でしょう?」

 

 紅莉栖はそういたずらっぽく笑い、レスキネンも釣られて笑った。

 

「だがさっきも言ったが、人間の脳はそんな高速の思考には耐えられないハズだ、

君達はその問題を一体どうやって解決したんダイ?」

「アマデウスです、教授」

「アマデウス?」

 

 レスキネンはさすがは一流の研究者らしく、そう聞いただけですぐに結論にたどり着いた。

 

「という事は、まさかココにいる僕は……アマデウスなのか?」

 

 驚いた表情でそう言うレスキネンに、二人は頷いた。

 

「そう、アマデウスです、教授」

「という事は君達モ……?」

「はい、自覚はないですが、アマデウスです」

「私もですよ、教授」

 

 レスキネンはその説明を聞いて、このからくりに納得する事が出来たようだ。

だがそうすると、別の問題もまた浮かび上がってくる。

 

「そうか、ソウいう事だったのか……

しかしソレだと、今ココで話している事についての記憶はドウなるんだい?」

「回線切断時に脳に上書きされます、教授」

「上書き……?そ、ソレはクリスが研究していたテーマじゃないか」

「その通りです教授、教授にお見せする為に、頑張って今日という日に間に合わせたんです」

「間に合わせた、か……しかしヨク人体実験をスル気に……」

 

 教授にとってはその事が一番驚きだったようだ。

まさか紅莉栖が安全性が確保されていない人体実験を行うとは思ってもいなかったからだ。

 

「それにはちょっと色々ありまして……」

「こいつの彼氏が、その事で悩むこいつの姿を見かねて、

こいつに黙って勝手に人体実験をしちまったんですよ、教授。

まあ正直助かったんですが、さすがにその時は、二人がかりでそいつに説教しましたよ」

 

 口ごもる紅莉栖に代わり、八幡はレスキネンにそうネタバレをし、

それを聞いたレスキネンは、飛び上がらんばかりに驚いた表情をした。

 

「か、彼氏?クリスに彼氏だって!?本当カイ?」

「驚くのそっちですか!?」

 

 この時今日一番の衝撃がレスキネンを襲っていた。

その驚き方が尋常ではなかった為、紅莉栖は頬を膨らませながら、開き直ったように言った。

 

「こんな私にも彼氏が出来ましたが、それが何か?」

「い、いや、それはオメデトウ!いやぁ、クリスに彼氏が出来たトハ実に喜ばしい、

娘を嫁に出す父親の気分というのはコンナ感じなのかね」

「かもしれませんね」

「ありがとう、パパ」

 

 紅莉栖は皮肉っぽい口調でそう言い、レスキネンはそれでも嬉しかったようで、

紅莉栖にうんうんと頷いた。

 

「そうか、そうか、幸せにナリなさい、クリス」

「あ、は、はい……」

 

 その心からの言葉に紅莉栖は恥じらいながらそう頷いた。そして細かい説明が続けられ、

いずれAR(拡張現実)端末としての役割も持たせたいという事や、

そうなると頭に装着するタイプだと激しい動きが出来ない為、

いずれ装着場所を首に変えたい等の説明が成され、

八幡には理解出来ない専門用語が飛び交った後、まもなく時間になろうかというところで、

魅力を感じながらもやや迷いを見せていたレスキネンに、八幡はこう言った。

 

「教授、最後に一つ言わせて下さい。

この研究を俺達と一緒に完成させて、いずれ教科書に名前が載るような、

歴史に名を残す仕事をしてみませんか?」

 

 その言葉にレスキネンは、ハッとした様子で八幡の顔を見た後、

やっと決意がついたという表情をし、こう言った。

 

「実に魅力的なプレゼンだったよ二人とも。

一緒に教科書に載って、未来の子供達に落書きシテもらうとしよう」

「ありがとうございます、教授」

「宜しくお願いします、教授」

 

 

 

 こうして三人は固く握手を交わし、アレクシス・レスキネン教授は、

八幡や紅莉栖と共に、歴史に名を残す道を歩み始めた。

その結果どうなったかは、後世の人間達は皆知っているが、

その遥かなる道のりの第一歩はここから始まった。




ちなみにアクセル・ワールドと本格的にクロスする訳ではありません!
あくまでSAO関連でのクロス部分だけを今回使わせて頂きました!

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