スクワッドジャム当日の昼、LFKYのうち、レンとフカ次郎と闇風は、
既に会場入りし、やる気満々でスタンバイしていた。
「で、フカ、肝心のKはどこにいる?」
「師匠、Kって……」
「仕方ないだろ、フカが名前を教えてくれないんだからよ」
「まぁまぁ、多分もうすぐ来るから」
そう答えつつ、フカ次郎は内心でこう思っていた。
(うわぁ、レンはともかくヤミヤミもそういうの、調べたりしないんだ……
思いっきり公式に載ってるはずなのに……
絶対に突っ込まれると思ってヒヤヒヤしてたんだけどなぁ)
実際闇風は、参加者リストを調べてはいた。
だがライバルになりそうな者の事を調べはしたが、
逆に自分達のチームの情報が載っているページは見ていなかった。
これは単純に闇風のケアレスミスである。その時遠くから大歓声が聞こえてきた。
見るとどうやら有力チームの面々が、順番に入場してきているようだ。
「あいつらも来たか……」
「結構人気あるみたいな?」
「俺達ほどじゃないさ」
そしてSHINC、MMTM、ZEMAL、T-Sなどのチームの面々が、
LFKYを囲むように続々と集結してきた。
「これはこれは、優勝候補筆頭のLFKYさんじゃないですか」
「のんびりしちゃって余裕そうっすね」
ニヤニヤしながらそう言ってきたZEMALのシノハラとT-Sのエルビンに、
闇風はふんぞり返ったままこう言った。
「よぉ、五番手以下ども、俺達のサインでも欲しいのか?
色紙があるならいくらでも書いてやるぞ、俺達は心が広いんでな」
「サインをねだってやってもいいんだが、
そこら中にゴミを撒き散らす事になるのは心が痛むな」
「おうおう、キャンキャン遠吠えが聞こえるな、
雑魚は雑魚らしくお山の大将を気取って内輪できゃっきゃうふふしてりゃいいものを」
「あ、あんた達の時代は今日で終わる、精々大物ぶっているといい」
「そういう事は、実行出来てから言わないと、後で恥ずかしくなるだけだぞ」
「チッ、中で直接対決する時を楽しみにしておけよ」
「序盤であっさりと死なないようにな」
シノハラとエルビンの二人はそれでも余裕ぶっていたが、
レンとフカ次郎にじろっと見られ、すごすごと退散していった。
そして次に、デヴィッドとエヴァが、先ほどの二人よりは丁寧な態度で闇風に挨拶してきた。
「闇風さん、今日は宜しくお願いします」
「シャナさんがいないのが残念ですが、
今度会った時に褒めてもらえるように、今日は頑張りますんで」
「おう、二人とも、さすが真の強豪は礼儀正しいよな、どこかの犬とは大違いだな」
その言葉に二人は顔を見合わせながら言った。
「あれと一緒にされても……」
「まあ放っておけばいいんじゃないですか?
あいつらはどうせ、中盤までにはいなくなると思いますしね」
「お前らも中々辛辣だな」
その様子を離れたところで先ほどの二人が悔しそうに眺めていたが、
GGOは実力が全てである。でかい口を叩きたいのであれば、勝つしかないのだ。
丁度そこに、シャーリーが通りかかった。
シャーリーはKKHCのメンバーの後ろをつまらなそうに歩いており、
大会への意欲はあまり無いように見えた。
シャーリーはそもそも対人プレイをした事は無いし、するつもりも無いからだ。
そんなシャーリーに、闇風は普通に声をかけた。
「あんた前に、シャナにM82を貸してもらってたお嬢ちゃんだよな?」
「あ、ど、ども」
シャーリーは防衛戦の時に、闇風とは顔見知り程度にはなっていたので、
ぶっきらぼうではあるが、そう挨拶を返した。
そしてシャーリーは、きょろきょろと辺りを見回しながら、
がっかりした表情で闇風に言った。
「あ、あの、今日はやっぱりシャナさんはいないんですか?」
「ん?ああ、そうなんだよ、シャナはちょっとリアルで忙しいらしくてな」
「そうですか……シャナさんがいたら、やりたくない対人も、
少しは頑張れるかもしれないって思ったんですけど」
その言葉に闇風はきょとんとしたが、やがて意味が分かったのか、
シャーリーに対し、慰めるような事を言った。
「そうか、お嬢ちゃんは対人が嫌いなんだな」
「はい、一応リアルで銃を扱う仕事をしてるんで、
人に銃を向けるのはちょっと抵抗感があるんです」
「ああ~、そういう事か、それじゃあ今日は楽しめないかもしれないが、
いずれまたシャナがいる時にでも声をかけるから、一緒に遊ぼうぜ」
「はい、その時は是非!」
シャーリーはとても嬉しそうにそう言うと、何度も頭を下げ、
仲間達を追いかけて走り去っていった。
「ねぇヤミヤミ」
「ん?どうした?」
「そんなに社交的なのに、何でモテないの?」
そのフカ次郎の質問に、闇風は泣きそうな表情をしながらこう答えた。
「そんなのこっちが聞きたいわ!どうしてどの女の子も、俺と友達でいようとするんだよ!」
「その言葉、モテる男の言葉に聞こえるけど、よく考えるとまったくモテてないね……」
「言うな、マジで泣きたくなるから」
「きっといずれ、ヤミヤミの事を好きになってくれる人が現れるよ、頑張って!」
「あっ、ミサキさ~ん!」
そうせっかく優しく慰めてくれたフカ次郎を放置して、
闇風は、笑顔でこちらに歩いてくるミサキの姿を見つけ、
嬉しそうにそちらへと走っていった。
「………なぁレン」
「うん、言いたい事は分かる」
「確かにあれは、どう考えても友達止まりだよね」
「だね」
二人がそんな会話を交わしている間に、闇風は熱心にミサキに話しかけていた。
「ミサキさん、今日は頑張りますんで、応援お願いします!」
「あらあらうふふ、私はシャナ様親衛隊の一人なのよ?
なのでシャナ様がいないからって簡単に応援する相手を変えるほど、
私は浮気性じゃないのだけれど」
「ほら、うちには前回シャナと組んでいたレンがいますから、
きっと遠くでシャナも、レンの勝利を祈って………祈って………」
そう言いかけたまま、闇風が突然どんよりとした暗い顔をした為、
ミサキは驚いて闇風に尋ねた。
「ど、どうしたのかしら、大丈夫?」
「あ、いや、すみません、
出来るだけシャナに関しての楽しい事だけを考えようとして、自分を励ましていたんですが、
今の自分の言葉でつい余計な事を考えちまって……」
どうやら闇風は、もしかしたらシャナが既に死んでいるかもしれないという考えを、
明るく振舞う事で考えないようにしていたらしい。
もちろん心の奥ではシャナが生きていると信じてはいるが、
気分が落ち込むと、やはり余計な事を考えてしまうのだろう。
そんな闇風を見て、ミサキは目を細めた。
(この態度は異常ね、もしかしたらシャナ様の身に何かあったのかしら)
そう考えたミサキは、職業柄身につけた社交スキルを総動員して、
闇風から少しでも情報を引き出そうと考えた。
「さっきの言葉だと、もしかして今シャナ様は、遠くに出かけているのかしら」
「あ、はい、詳しい話は聞いていないんですが、今はアメリカらしいですね」
「そうなのね、それは遠いわね」
(アメリカ?旅行かしら、でもそんな事でこんなに落ち込む事は無いと思うのだけれど?
さて、どうやってかまをかけたものかしらね、ここはいっそ何かあったという前提で……)
「やっぱり心配よね……シャナ様から連絡とかは?」
「それがですね、今あいつとは連絡が取れないんですよ、少し危ない橋を渡るとかで、
携帯の類は一切使わないように全部こっちに置いていったとか」
(………どうやらソレイユの社内でいろいろ動きがあったみたいね、
でもおかしいわね、連絡がとれないのなら、彼はそもそも何を心配しているのかしら、
とにかくもっと情報が欲しい、ここは賭けに出る一手かしらね)
「そう、あんな事があった上にそれだと、やっぱり心配よね……」
「ですね、まさかハイジャックとは……」
(ハイジャックですって!?そういえば確かこの前……
そうか!あの中にシャナ様の名前があったのね、比企谷八幡君……そう、そういう事……
でもこの前うちの店にたまたまお客さんとして来ていた政府筋の人が、
あの報道は誤報だったと断言していたはず。
でも続報が無いせいで彼はその事を知らないのね、
ここはこっそり教えてあげて、安心させてあげるべきかしら……いえ、これはチャンス!)
そしてミサキは、笑顔で闇風に言った。
「大丈夫よ、彼は絶対に生きてるわ、彼が帰ってきたら一緒にお祝いをしましょう。
他の人には内緒だけど、実は私は銀座でお店をやっているの。
なのでその時は、あなた達二人を私のお店に招待するわ。
だから元気を出して?闇風君」
「い、いいんですか?ありがとうございます、何かめっちゃ元気が出てきました!
そうですよね、あいつが簡単に死ぬはずがないですよね!あのニュースも続報が来ないし、
きっと間違いだったに決まってます、そうか、よし、よし!」
闇風はそのミサキの言葉を聞いて途端にポジティブになり、
ミサキはこれでシャナと直接対面出来ると一人ほくそ笑んだ。
丁度その時再び会場の入り口から大歓声が聞こえた。
「あら、何かしら」
「ピトフーイが来たみたいですね」
「ああ、彼女達も優勝候補になっていたものね、それじゃあ私は行くわ、頑張ってね」
「ありがとうございました!」
そして闇風はレン達の所に戻り、三人は申し合わせたように、同時に歩き出した。
そしてそのまま三人は、悠然と歩いてくるピトフーイの前に立ちはだかった。