ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第575話 役者、揃う

「あら、レンちゃんにヤミヤミじゃない、今日はたらおはいないのね」

「代わりにニューフェイスの私参上!ピトさんはこの私がぶっ倒す!」

 

 平然とそう話しかけてきたピトフーイに対し、フカ次郎がそう宣戦布告したが、

ピトフーイは立ち止まらずにそのまま去っていき、平然とホールの中央に立つと、

集まった観客達に向け、笑顔で手を振りはじめた。

 

「キーッ、無視された!」

「眼中に無しって感じだな」

「凄い人気ですねぇ」

「まあそれもほとんどが、シャナのおかげだろうけどな」

「でそうなんですか?」

「昔のあいつは、それはそれは嫌われていたもんさ」

 

 闇風は昔の事を思い出し、苦笑しながらそう言った。

 

「それがシャナと出会い、行動を共にするようになってから、

大勢の敵を少数で打ち破り、あれよあれよという間にGGO最強スコードロンの一員だ、

あいつもまさかこうなるとは、予想すらしていなかっただろうな。

まああいつはそういった名声よりも、

シャナと一緒にいられる事だけに執着してるみたいだけどな。

だがそれ故に、それが失われたと判断した時は……」

「意外ともろい、そうですよね?師匠」

「まあそういう事だ、だから誰かがあいつの頬を引っぱたいてやらないといけない」

「ですね、全力で引っぱたいてやりましょう」

「頼むぞレン、俺も友達のあんな辛そうな姿を見たくはないからな」

 

 闇風のその言葉に、フカ次郎は首を傾げた。

 

「辛そう?あの人どう見てもすごく余裕たっぷりに見えるんだけど」

「表面上はな」

「そうなの?」

「そうなんですか?」

 

 ピトフーイの事をそこまで詳しく知らないレンとフカ次郎は、

その発言にまったく実感が沸かなかった。

 

「さっきもお前が煽ったのに、まるで聞こえないかのようにスルーしただろ?

あれは多分、お前の相手をしている余裕すら無かったって事だと思うぞ」

「え、そうなの?あれってそういう事?」

「おう、多分頭の中はもうぐちゃぐちゃなんだろうよ、

シャナの生存を信じたい気持ちと信じられない気持ちがごっちゃになって、

考えが纏まらないまま昔のあいつに戻っちまってる感じじゃないかな」

「昔のピトさん?師匠、何か根拠があっての発言ですか?」

 

 そのレンの質問に、闇風はあっさりとこう答えた。

 

「勘だ」

「勘ですか……」

「勘なんだ……」

「馬鹿野郎、この俺様の勘だぞ、合ってるに決まってる」

「う~ん」

「合ってる……のかな?」

 

 二人はその言葉に懐疑的だったが、闇風ほどの歴戦の勇者の勘は、往々にしてよく当たる。

 

「まあお前らにもそのうち分かるさ」

「そのうちですか」

「おう、それが分かるようになって、初めて一流だな、

そのくらいGGOをやり込んでみろよ、レン」

「は、はい!」

 

 そんな三人の視線に気付かず、ピトフーイは「やぁやぁ、どうもどうも」等と言いながら、

愛想良く観客達に手を振っていた。もちろんそんなピトフーイを悪く言う者達も存在した。

 

「何だよあれ、調子に乗りやがって」

「まるでオタサーの姫みたいだな」

「チッ、ゴリラ女め」

 

 だがそういった者達は圧倒的少数派である。

ピトフーイは別に他のプレイヤーに媚びたりルックスを売りにしたりはせず、

あくまでも実力でここまで這い上がってきた為、

その人気はその実績に対する評価の現れなのだ。

故に例え性格が最悪だろうとも、ピトフーイの人気は高い。

そしてピトフーイを応援する者達は、まさか自分たちの応援が実り、

ピトフーイが優勝した瞬間、本人の死がほぼ確定するなどとは夢にも思っていない。

ピトフーイが応援に応えれば応える程、事態はどんどん悪くなっていくというのが、

この件の一番皮肉な部分であろう。

 

(ピトの様子がおかしい、だがこれでいい)

 

 エムはピトフーイのおかしな様子に当然気付いており、内心でそう思いつつも、

ピトフーイがこのまま実力を出し切れないまま負ける事を望んでいた。

エムは確かにピトフーイと共に生き、共に死ぬ事を望んでいたが、

その死因はあくまで老衰である事がベストであり、

こういった形でピトフーイが死ぬ事は望んでいなかった。

いざとなったら当然後を追うつもりはあるが、出来ればそれは避けたかった。

 

(ピトは誰が参加するのかなんて興味ないから知らないだろうが、

あの人まで参加するんだ、万が一にもこちらが勝つ事は無いだろう)

 

 そう考えながらも、ここぞという時以外、手を抜く訳にはいかないエムは、

あくまで平然とした態度でピトフーイ同様に、応援してくれる者達に手を振っていた。

ここで下手な態度をとって、十狼の評判を下げるような事はしなくないという気持ちもあり、

エムはあくまでも余裕そうに見える態度を崩さなかった。

 

「ねぇエム、シャナがいないのにこんな声援がもらえるなんて、

昔二人だけで行動していた時には思いもしなかったわよね」

「ですね、変われば変わるもんです」

「こ、これならシャナに褒めてもらえるかな?」

「え?ええ、きっと褒めてもらえますよ」

 

(何だ?予想以上にピトの気持ちが高ぶっている?

まさか死んだ後の話をしているなんて事は……

もしくはやや錯乱しているのか?これは負けた時に約束を反故にしないように、

何か説得出来るような理屈を組み立てておいた方がいいかもしれないな……)

 

 エムはピトフーイの態度から最悪の状況を想定し、それに備えておく事にしたようだ。

決して油断せず、常に最悪の状況を頭に入れておく事は、十狼内での共通認識である。

もっとも十狼は、最悪の状況に置かれた事など一度も無いのであるが、

これはかつて戦争終盤に、シャナがゼクシードに暗殺されそうになった時から、

十狼内部で暗黙の了解として決められたルールなのである。

 

「しかしレンちゃん達は大人しいわね、このままただじっと開始を待つつもりなのかしら。

おかげで私達に対する声援が一番大きいわね」

「ですね」

 

 エムはおかしな事を言ってピトフーイを覚醒させる事を避ける為に、

極力短くそれに同意するに留めた。

 

「それじゃあピトは、そのまま観客達の声援に応えていて下さい、

僕はギンロウさんと、色々話を詰めてきますので」

「分かった、そっちは任せるわ」

「はい」

 

 そしてエムは、マスクで顔を隠しているギンロウに話しかけた。

 

「ギンロウさん、せっかくの晴れ舞台なのに、顔を隠させてしまってすみません」

「気にしなくていいっすよ、いざという時に力ずくであいつを抑えられるように、

現時点で手配出来る最高のメンバーを揃えたつもりっすけど、

そのせいでピトフーイに違和感を抱かせたら元も子もないっすから!」

 

 そのギンロウの言葉に残りの三人も頷いた。

 

「ありがとうございます、しかし最高のメンバーですか、

どなたが参加しているのか、いざという時の為に僕も知っておいた方がいいんですかね」

「あ~、確かにそれはあるかもしれませんね、

ええと、それじゃあ皆さん、こっそりエムさんに耳打ちしてもらえますか?」

 

 そしてその三人の名前を聞いたエムは、あまりにも予想外のそのメンバーに驚愕した。

 

「え、あ、あの、どうしてこんな事に……?」

「いや、正直偶然の要素が大きいんですが、ダインさんにこっそり話をしている時に、

たまたま酒場にこのお二人が居合わせたんで、駄目元でお願いしてみたんすよ」

「なるほど……まさかこれほどまで豪華なメンバーが揃うなんて思ってもいませんでした、

ありがとうございます、皆さん」

「何、いいって事よ、正直もうGGOでの人死には勘弁だからな」

「だな、見過ごす訳にはいかん」

「まったくあいつも困った奴だよね」

 

 その頼もしい三人の言葉に胸を熱くしながらも、エムはいくつかの注意点を三人に伝えた。

 

「本当に面倒な事を頼んでしまってすみません、

とりあえずあいつを背後から撃つと逆にまずい気がするんで、

ピトと僕、レンちゃんとフカ次郎さんの二対二の状況にするのを目標として、

それまでは本気でやって頂くようにお願いします、

ご協力をお願いします、ダインさん、スネークさん、ゼクシードさん」

 

 

 

「相談は終わった?」

「はい、滞りなく」

「で、あの四人は結局誰なの?」

「それは秘密です、終わった後のサプライズって事で」

「ふ~ん、まあいいけど、信用出来る人達なんでしょうね?」

「腕に関しては、十狼の他のメンバーにも引けはとりませんから安心して下さい」

「へぇ、そこまで言うんだ、これは期待出来そうね、

でもそうなると、レンちゃん達が三人ってのがちょっと不公平かしらね?」

「え?あっちは四人ですよ?」

 

 そのエムの言葉にピトフーイはきょとんとした。

 

「そうなの?もう一人って誰?」

「それは……」

 

 さすがにこの段階まできたらバラしてもいいだろうと、

エムがキリトの名前を出そうとした瞬間に、

突然一部の観客達が、あらぬ方向を見ながら大歓声を上げ、

その場にいた全ての者達が、一体何が起こったのかとそちらを見た。

そして徐々にその歓声が広がっていき、ピトフーイの目に、

その大歓声を受けている者の姿が徐々に見えてきた。

 

「あ、あれってもしかして……嘘、本当に?」

 

 さすがのピトフーイもそれが誰なのかを理解した瞬間に、呆然とした表情を見せた。

そして観客達が、その名前を連呼し始めた。

 

「「「「「「「「「「キ・リ・ト!キ・リ・ト!キ・リ・ト!」」」」」」」」」」

 

 そのコールを受け、キリトはぎょっとしつつも、

それに答えるように右手を上げ、その代名詞ともなっている、

カゲミツG4『エリュシデータ』の刃を出し、高く掲げた。

その瞬間に会場のボルテージは最高潮に達し、その中を進んだキリトは、レンの前に立った。

 

「遅れてすまない、今日は宜しくな、レン」

「あ、あの……も、もしかしてフカの言ってた四人目って……」

「ああ、俺だ」

「まじかよ、まさかあんたが俺達のチームメイトだなんて……」

 

 さすがの闇風も、この事はまったく予想していなかったのか、

レンの横でぽかんと口を開け、それ以上何も言えなかった。

レンも同様にぽかんとしており、フカ次郎はドヤ顔で二人に言った。

 

「ね?ゴリゴリの近接プレイヤーでしょ?」

「う、うん……」

「これ以上は無いって感じだな」

 

 さすがのレンも、キリトの名前は知っていたようで、

そのプレイスタイルについても八幡から聞かされていたようだ。

そしてリアル知り合いという事もあり、やっと状況を把握出来たらしいレンは、

とても嬉しそうにキリトの手を握りながら言った。

 

「キリト君、久しぶり!今日は来てくれてありがとう!」

「え、二人は知り合いなのか?」

「そうですよ師匠、知らなかったんですか?」

「お、おう、初耳だ、ってかまあ、俺もキリトとはリアル知り合いなんだけどな」

「そうなんですか!?」

「ああ、その通りだな、世界は狭いよな」

「そうだったんだ、もしかしたら師匠と私も知り合いなのかもですね」

「どうだろうな」

 

 ちなみに二人の面識はまだ無い。

そしてキリトはしっかりとレンの手を握り返しながら言った。

 

「という訳で、ピトフーイの前に立つまで、俺がレンを絶対に守るから、

邪魔する奴らは容赦なく皆殺しにしてやろうぜ」

「う、うん!」

 

 そんなLFKYの四人の姿を見ながら、ピトフーイはエムに言った。

 

「これはとんだサプライズね、まさか彼がレンちゃんの味方だなんて」

「ええ、そうですね」

「何か頭が冷えたわ、エム、手を抜いたりするんじゃないわよ、

もしそんな事をしたら、即ログアウトしてお前を殺しに行くからね」

「は、はい……」

 

 その言葉で、エムはピトフーイが完全に覚醒した事を悟った。

こうしてお互いにとんでもないメンバーを揃えた両チームは遠くでにらみ合い、

その様子を見た観客達は大歓声をあげ、ついに第二回スクワッド・ジャムが始まった。 

 

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