ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第578話 フカ次郎の危機

「それじゃあスキャンを待つとするか」

「まあ最初は仕方ないよな、現在位置を把握しないと動きようがないしな」

「フカ、周囲の監視は怠らないようにね」

「ラジャー!って、もしかしてここじゃ私が一番下っぱ!?」

「今頃気付いたのか……」

「げげっ、ここは早く下克上せねば!」

 

 LFKYの面々は、そう言いながらも周囲の監視を行っていた。

もっともここは遮蔽物の少ない荒野の真ん中である、

出来る事といったら、体制を低くして草むらに出来るだけ体を隠し、

ただひたすら最初のスキャンを待つ事だけであった。

 

「色々話を聞いた感じだと、どうやらこの大会は、

有力プレイヤーはマップの東西南北の端に散らされる傾向があるみたいですね」

「だな、とりあえず今のうちに、マップ情報から分かる事を把握しておくか」

 

 そして四人は相談の上、見張りをフカ次郎と闇風が、

マップの精査をレンとキリトが担当する事になり、それぞれが担当の作業を開始した。

頭脳労働が出来る出来ないに関しては、適材適所だといえる。

 

「キリト君、これって何かな?」

「卵型の建物……?これってドーム球場の跡地とかなんじゃないか?

他にそういった建物って、現実じゃ見た覚えが無いしな」

「だよね、まあアリーナっぽい建物かもしれないけど、基本は同じだよね」

「だな、しかしこれ、かなりでかいな、もし現在位置がマップ右下あたりだとすると、

どうしてもここを突っ切る事になりそうだ」

「回り道をしてたら時間がかかりすぎるもんね」

 

 他にもマップ内には色々な地形があった。巨大な岩山や、いくつかの小さな建物、川、湖。

そしてキリトが気付いたのは……

 

「なぁレン、このマップの端なんだけど」

「ここ?何も無いように見えるけど……」

「これ、表現がおかしくないか?何で二重線なんだ?」

「そう言われると確かに……マップの外周の線は別に書いてあるしね」

 

 二人はそれを見て、何となく顔を上げ、きょろきょろと辺りを見回した。

 

「………あ」

「あれってまさか……」

 

 そして二人は同時に単眼鏡を取り出し、そちらの方を見た。

ちなみにレンの持つそれはシャナにもらった物であり、通常の物より倍率が高い。

そしてキリトの持つ物も、もしキリトが気が向いてコンバートしてきた時に使えるようにと、

シャナが他の装備類と共に用意し、ロッカーに入れて保存しておいた性能のいい物である。

それ故に二人の目には、通常よりも遠くの景色がよく見える。

そしてそこにはまるで長城のような建造物が立ちはだかっているのが見え、

二人は顔を見合わせ、マップとこの状況を見比べながら、

ここがマップの右下ではないかと同時に気付いた。

 

「もしかして、あの壁の上って通れるのか?」

「かもしれないね」

「でもどうやってあそこに上るのかが分からないな」

「戦略には組み込めないね、あくまで最終手段って感じかな」

「しかしこれで俺達がどこにいるかは分かった、ここは進撃するべきだろうな」

「だね、師匠とフカは……」

 

 その時遠くで爆発音がした。見るとマップ中央方面から煙が上がっている。

そこに闇風が、凄い速度で駆け戻ってきた。

 

「お、おい、今の音は……」

「フカがいない!?まさかあんなところまで偵察に?」

「行くぞ!」

 

 キリトがそう言って先に走り出し、その後をレンと闇風が追いかけた。

驚いた事に、キリトの速度は二人よりも少し遅いくらいであり、

いかにキリトのステータスが異常であるのかがそこから見てとれた。

そして遠くに、両足を失って四つんばいで必死でこちらに逃げてくるフカ次郎の姿が映った。

その後を、やや遠くから敵が追いかけてくる。どうやら敵も、一応罠を設置はしたものの、

この時間に動き出す者がいるとは思っていなかったようで、

完全に油断した状態でのんびりと寛いでしまっていたのか、

誰かが罠にかかった事に対する初動が遅れたようだ。

そしてフカ次郎が今にも敵の射程に入るか入らないかというところで、

キリトが何とか間に合い、敵とフカ次郎の間に立ちはだかった。

 

 ギン!ギギン!

 

 今にもフカ次郎を捕らえようとしていたその銃弾は、

キリトの目にも止まらぬ剣捌きによって完璧に防がれ、

フカ次郎は開始早々敵に倒されるという不名誉を避ける事が出来た。

 

「ふ、副長!」

「ちょっと遠くに来すぎたな、フカ」

「ご、ごめんなさい……」

「だがよく諦めずにここまで這ってきたな、えらいぞ。

どんな時でも決して生存を諦めないヴァルハラ魂だな」

「う、うん」

 

 その間にもキリトは降り注ぐ敵の銃弾を斬り続け、

敵はそれを見て、今自分達が誰を相手にしているのかをそこで初めて理解した。

 

「あれ、あいつ、倒れないぞ」

「あ、あの光は!ま、まずい、あれはキリトだ!」

「って事はLFKYか!やばい、逃げろ!」

 

 そのプレイヤー達がそう言って後ろを向いて逃げ出した瞬間に、

その横を二筋の風が吹き抜けた。そして彼らの斜め前方に突然二人のプレイヤーが現れ、

完全に逃げ腰になっており、まったく対応出来ない様子のそのプレイヤー達に、

その二人から一斉に銃弾が降り注いだ。

 

「よくもフカを!この、このおおおおお!」

「お前らうちに手を出して、生きて帰れると思うなよ!」

 

 そして敵は成す術なく殲滅され、フカ次郎は九死に一生を得た。

 

「フカ、フカ、もう、無茶しすぎだよ!」

「ご、ごめん、何か動く物が見えた気がしたから、つい前に出すぎた……」

「地雷を踏んじまったんだな、まあしばらく待てば足も戻るはずだ、

レン、今はとりあえず早く治療薬を」

「あっ、そうでした!フカ、これを使って」

「すまないな相棒、恩にきるぜ」

「お礼ならキリト君に言いなさい」

「お、おう」

 

 そしてフカ次郎はキリトの方を向くと、もじもじしながらこう言った。

 

「お、お礼はこの体で……でもリーダーには内緒でお願いしましゅ」

 

 その瞬間にキリトはフカ次郎の頭に拳骨を落とし、フカ次郎のHPが微妙に減った。

 

「うわ、し、死ぬ、死んじゃうから!」

「生きてるだろ、それくらい問題ない。お前が訳の分からない事を言った時は、

こうするようにと日ごろからハチ……シャナに言われているからな」

「そ、そんなぁ……」

「言っておくが、三人の副長は全員そう言われてるからな、

もうお前に逃げ場は無いぞ、フカ」

「うぅ……リーダーの愛が重い……」

「この状況でそう言えるなんて、お前の心臓には本当に毛が生えてるよな」

「失礼な、心臓のお手入れはちゃんとしてるから!」

 

 キリトはその抗議を完全に無視し、フカ次郎をその背におぶった。

 

「ふわっ!?な、何を……」

「フカ、闇風、実は現在位置が判明した、マップ右下だ」

 

 そしてキリトは南東方向を指差しながら言った。

 

「あっちには巨大な壁がある、多分その上は通れると思うんだが、

そこに行く道がどこにあるかは分からない。

なのでとりあえず中央目指して進軍しておくのがいいと思う」

「なるほど!」

「という訳で、フカは俺の背中で単眼鏡を使って周囲の警戒だ、

落ちないように俺の体に縛り付けておくが、いざとなったらお前を弾除けに使うからな」

「こ、こんな体で宜しければご自由にお使い下さい!」

 

 キリトのその冗談に、フカ次郎は真面目な顔でそう言った。

どうやら本当に反省している様子なのが、そこから見てとれた。

 

「いつもそれくらい素直だと助かるんだがな……」

「ごめんなしゃい……」

「まあいいさ、お~い見てるかシャナ、こいつはしっかりと躾けておくからな」

「あはははは、見てるはずは無いですけどね」

「それじゃあ行くか」

「おう!」

 

 そして四人は、マップ中央へ向かって進軍を始めた。

 

 

 

「それが見てるんだよなぁ……」

「何の事?」

「いや、今キリトの奴がな『お~い見てるかシャナ、こいつはしっかりと躾けておくからな』

って言って、それに対してレンが、笑いながら『見てるはずは無い』って言ったんだよ」

「そうだったんだ」

 

 シャナは控え室で、唯一有力チームの中で動き出したLFKYの様子を眺めていた。

他のチームも分割されたモニターに映っていたが、特に動きは無い。

そしてモニターの一つが既に黒く塗りつぶされていた。

先ほどLFKYに殲滅されたチームが映っていたスペースである。

 

「フカの奴は、ちょっと前のめりになりすぎる癖があるよな」

「まあそれがフカちゃんの持ち味だから、それはいいんだけど、

肝心な時には抑えて味方と連携出来るように教育しないといけないね」

「頼むぞシズカ、いざとなったら容赦なく鉄拳制裁していいからな」

「まあ程ほどにするよ、うん」

「やらないとは言わないところがさすがね」

「私はもちろん容赦なくやりますよ、シャナ様!」

 

 こうして最初のスキャン前からLFKYは動き出した。

その進路上にいる他のチームは、まだその事に気付いてはいない。




さて、「基本」は原作通りになりますが、ついに動き始めました!

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