ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第581話 そんな事言ったっけ?

「キリトの奴、何かに気付いたみたいだな」

「何を指差してたんだろうね」

「ちょっとマップをもう一度見てみるか」

 

 シャナはそう言うと、マップを呼び出し、六人はじっとそのマップを見つめた。

 

「ねぇ、ここって……」

「この二重の線は……もしかして通路か何かか?」

「でもこんな所に道があったら他のチームも利用しようとするはずよね」

「という事は、一見してもそれとは分からないようになっているんじゃない?」

「つまり地下道か、もしくは壁の上とかになるのか?」

「壁じゃないかしら、一目で今の位置が特定出来たみたいだし」

「かもしれないね」

 

 その時遠くに爆発のエフェクトが見えた。

 

「ん、爆発?」

「フカがいない……」

「おいおいまさか……」

 

 その瞬間に画面の中のキリトが走り出し、一同はどうなるのか固唾を飲んで見守っていた。

 

「あ、危なかったね……」

「フカは今度説教だな」

「今のはさすがに前に出すぎよね」

 

 そしてフカ次郎がキリトに背負われるのを見て、シャナはボソリと呟いた。

 

「甘やかしすぎな気もするが、まあこの場合は仕方ないな」

 

 直後にいきなりLFKYが動き出した為、シャナ達は瞠目した。

 

「フカの奴は、ちょっと前のめりになりすぎる癖があるよな」

「まあそれがフカちゃんの持ち味だから、それはいいんだけど、

肝心な時には抑えて味方と連携出来るように教育しないといけないね」

「頼むぞシズカ、いざとなったら容赦なく鉄拳制裁していいからな」

「まあ程ほどにするよ、うん」

「やらないとは言わないところがさすがね」

「私はもちろん容赦なくやりますよ、シャナ様!」

 

 そして一同は、LFKYの動きを見てううむと唸った。 

 

「やっぱり自分達の位置を理解してるみたいだね」

「アドバンテージになりそうだな」

「お、フカが敵を見つけたみたい」

「さっきはミスったけど、それは積極性の裏返しだし、案外斥候向き?」

「いや、性格的に無理だろ、あいつは我慢がきかないしな」

「あ、グレネードで攻撃するみたいだね」

「まあ混乱さえさせられれば、キリトが一人で全員斬っちまうだろうけどな」

「これって銃で戦うゲームなんだけどね……」

「まあ俺達も人の事はあまり言えないけどな」

 

 そしてフカ次郎が「た~まや~!」と言ったのが見えたシャナは、

一人へなへなとその場で脱力した。

 

「どうしたの?」

「フカが、た~まや~!って言ったんだよ」

「せめて着弾してからにすればいいのにね」

「そのシズカの感想も少しズレてる気がするが……」

 

 そしてグレネードの弾が着弾した瞬間、シャナは目を見張りながら言った。

 

「お、あいつ、上手い事やりやがったな」

「どうしたの?」

「あの位置なら多分一撃で皆殺しにしたと思うんだよな」

「凄いじゃない」

「え、本当に?」

「驚天動地、賞賛」

「まあ見ててみろって」

 

 そのシャナの言葉通り、敵が何かしてくる気配はまったく無い。

そして画面がズームされ、そこに六人の死体が発見された。

 

「本当だ、凄い凄い!」

「幸先がいいわね」

「でもあいつは調子に乗りすぎだな、何がエレガントだ」

「フカがそう言ってるの?」

「おう、グレイト、パーフェクト、エレガント、だってよ、まったく意味が分からん」

 

 その言葉にシズカと銃士Xが顔を見合わせた。

 

「ねぇ、それって前にシャナがフカに言った言葉のせいじゃない?」

「ん?俺があいつに何か言ったっけか?」

「うん、ちょっと前に『お前の戦いにはエレガントさが足りん』って言ってたはず」

「え、俺そんな事言ったっけ?」

 

 シャナが本気で驚いていた様子だったので、二人は肩を竦めた。

 

「つまりあれはアドバイスとかじゃなく、ただの冗談だったって事だね」

「当たり前だろ、戦闘にエレガントさを求めてどうするよ」

「推測、フカ次郎、本気」

「だよねぇ、かなり意識しまくってた気がするよ」

 

 その言葉にシャナはどうやら思い当たるフシがあったようだ。

 

「ああ、そのせいでフカは最近戦闘の後に、

おかしなポーズをとりながらこっちを見てやがったのか」

「本人にバレたら落ち込みそうだけど……」

 

 シャナは、確かにさすがのフカでもそう思うかもしれないと思いつつも、

自分に言い聞かせるようにこう言った。

 

「ま、まあ大丈夫だろ、この状況でバレる心配は……」

 

 その時キリトがフカ次郎に何か話しかけ、

その唇の動きを読んだシャナは、思わず悲鳴をあげた。

 

「うがっ、キリトの奴、言ってる傍からバラしやがった!」

「え、本当に?」

「あ、でもフカの奴、『えっ、という事はつまり、フカちゃんは元々エレガントだと!?』

とか訳の分からない返しをしてやがる……」

「さすがはフカね」

「ポジティブ」

「天然よねぇ……」

 

 その時シャナが、再び悲鳴を上げた。

 

「うわああああ」

「こ、今度は何?」

「キ、キリトの奴、俺が陰でフカの事を、

肉食メガネっ子って呼んでるのをバラしやがった!」

「つまりキリト君の中では、特に隠すような事じゃないと認識されてるって事だね」

「でもフカ、喜んでない?」

「はぁ?何でツンデレメガネっ子が俺のお気に入りなんだよ、ふざけるな」

「え?」

「う?」

「何それ?」

 

 シャナがいきなりそんな事を言った為、他の者達はぽかんとした。

 

「いやな、フカが喜んでるのは、どうやらシノンが俺のお気に入りだと勘違いして、

それと呼び方が似ているから喜んでいるらしい、まったく意味が分からないよな」

 

 その言葉にシズカ、銃士X,それにロザリアの三人は、ひそひそと内緒話を始めた。

 

「疑問、無自覚?」

「私、正直シノノンの事はかなり警戒してるんだけど」

「シャナはあの子の事、かなり優遇してる気はするわよね」

「疑問、非お気に入り?」

「イクス、疲れるから普通の話し方で」

「どう考えてもお気に入りじゃない?」

「でも本人の中では違うみたいだね……う~ん」

 

 そしてシズカは、恐る恐るシャナにこう尋ねた。

 

「ねぇシャナ、シャナのお気に入りって………誰?」

「そんなのお前に決まってるだろ、まあその表現が適当かどうかは別だけどな」

「あ、そ、そうなんだ……あは、もう、不意打ちすぎるよぉ……」

 

 その言葉にシズカは一発でのぼせてしまい、ふにゃふにゃになった。

その為シズカがもう役にたたないと悟ったロザリアは、代わりにシャナにこう尋ねた。

 

「ねぇ、それじゃあシノンって、あんたにとってどういう存在なの?」

「シノンか?あいつは一人暮らしで苦労しているから、

過剰にならない程度に援助してやらないとなとは思うが」

「え?そういう感じ?本当に?……でも本気っぽいし、う~ん……」

 

 だがそれで引き下がるロザリアではなかった。ロザリアは少し考えた後、次にこう言った。

 

「ええと、他にあんたが気にかけてる女の子って、誰?」

「そうだな、レンは気分が落ち込みやすいから気をつけてないといけないし、

優里……ああ、ええと、ナユタに対しては責任を感じてるかな、

マックスはその忠誠心に何とか報いなければと思うし、

お前は一生男に縁が無いから、何か考えてやらないといけないなと思ってる」

「有難き幸せ」

 

 銃士Xは即座にそう答えたが、ロザリアはわなわなと震えた後に絶叫した。

 

「最後のは余計よ!あんたは一体私を何だと思ってるのよ!」

「拾った小猫」

「……………」

 

 その言葉にロザリアは、何ともいえない顔をして押し黙り、

そんなロザリアを慰めるように、ユッコとハルカがその肩をぽんぽんと叩いた。

 

「うぅ……」

「ドンマイ」

「ドンマイだよ!」

「あ、ありがとう……」

 

 そんなロザリアを見て、シャナは訳が分からないという風に首を傾げると、

モニターへと目を戻した。

 

「お、ここでスキャンか」

「無名のチームが結構潰し合ってる?」

「みたいだな、ピトは相変わらず動かずか」

「あれ、ねぇ、ドームの中……」

 

 ここでやっと復活したシズカが、モニターの一点を指差しながらそう言った。

 

「うお、何でこんなにいやがる」

「確かに休みがてらスキャンを待つには最適かもしれないけど」

「うわ、あいつらやる気満々じゃないかよ、真っ直ぐドームに向かうつもりか」

「でもどうするつもりなんだろ、これだけ敵がいると、事故の危険は排除出来ないよね?」

「どうするつもりだろうなぁ……」

 

 そして一同が事の成り行きを見守る中、

到着直後にキリトがフカ次郎を上に投げ飛ばしたのを見て、一同は思わず噴き出した。

 

「え、何でそうなるの?」

「フカが必死でぶら下がってるわね……」

「あの状況でよくやったとは思うけどね」

「ん、ドームに穴を空けたな」

「え?一体何をするつもり?」

「フカは中に入っちまったしキリトの方も映ってないから状況が分からないな」

「あ、カメラが切り替わったよ」

「キリトの奴、何をするつもりだ……?」

 

 そして直後にキリトが壁に穴を空け、中にレンが突撃したのを見て、一同は目を見開いた。

 

「え、これ、何やってるんだ?」

「外からの奇襲?」

「しかし、外からじゃ敵の場所が分からないだろ?」

「もしかしてフカが、ナビをしているんじゃない?

ほら、キリト君は通信機を耳に当てた後に、ヴァルハラ式で歩いてるし」

「ヴァルハラ式?」

「何それ?」

 

 そう首を傾げるユッコとハルカ、ついでにロザリアに対し、

シャナはヴァルハラ式の説明をした。

 

「ヴァルハラ式ってのは、うちでやってる色々な事のやり方の総称だな、

この場合はヴァルハラ式歩行法とでも言うべきか」

「つまりどういう事?」

 

 シャナは三人にそのやり方を詳しく説明し、三人は感心したような声を上げた。

 

「なるほど」

「確かにそれだと記録さえしっかりしておけば、迷わないで済むわね」

「まあそういう事だな、おっと、キリトの奴、壁越しに敵を斬るつもりか」

「えっ、見てみたい!」

「前にあんたがロザリアさんを助ける時にやってた奴よね?」

「そういえばそんな事もあったな」

 

 そしてキリトは裂帛の気合いを込めてエリュシデータを振り、

直後にカメラが気を利かせたのか、中の様子を映し出した。

 

「うわ、真っ二つじゃねえか……あの時俺に斬られた奴らもこんな気持ちだったのかな」

「あの時は確か全部突きだったのよね、なら多少はマシだったんじゃない?」

「あまり変わらない気もするけどね、まあやられた人達はご愁傷様よね」

「絶対に防げない不意打ちだもんねぇ」

 

 そしてLFKYの四人はドーム内に入っていき、一応周辺の警戒を始めた。

 

「お、全滅させたか?」

「みたい」

「あいつらやるなぁ……」

「あ、ほら、上にフカがいる。やっぱりフカがナビってたんだね」

 

 それを見たシャナが、ボソリとこう言った。

 

「あいつ、あそこからどうやって下りるんだ……?」

「あ!」

「えっと……」

「さあ……」

 

 そして一同が再び見守る中、フカ次郎はエリュシデータを使い、強引に下に下りた。

その頭上に鉄骨が迫り、一同は思わずドキリとした。

 

「うわ、危なっ」

「あいつはやっぱり馬鹿なのか……?飛び降りる時も、スカイハイ!とか叫んでやがったし」

「何それ?何かのネタ?」

「さあ……」

「あ、キリト君がフカを褒めてるね」

「まあ実際よくやったと思うしな」

「あれ、フカがしょげた」

「口元が見えないな」

「今度は浮かれた」

「何やってんだあいつら」

 

 そしてフカ次郎がカメラに向かって何か言い、シャナは苦笑した。

 

「何だって?」

「リーダー、今は見てないと思うけど、後でこの映像を見たら褒めてくれ、だってよ。

まあ既にこうやって見てる訳だが」

「それじゃあ後で褒めてあげないとね」

「そうだな、たまにはいいか」

 

 そしてLFKYは少し休むようだったので、一同は他のモニターに目をやった。

 

「あ、SHINCだ、エヴァちゃんにも頑張って欲しいなぁ」

「あいつら大会があるとかで、しばらく来てなかったしな」

「そういえば結果はどうだったんだろ」

「今度調べてみるか」

「ピトは動かないわね」

「待ちの戦術をとるつもりか?」

「一人いないわね」

「どうせ下でスネークがスネークしてるんだろ」

「スネークってそういう使い方もする言葉だったんだ……」

 

 そして大会は、ここで二度目のスキャンを迎える事となった。


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