ピトフーイのいきなりの横紙破りの行為に、
ダイン、ギンロウ、ゼクシードの三人は憤っていた。
「あいつ、もう引き返せないところまで来ちまってないか?」
「それでもシャナさんの為にも何とかしないと」
「まああれだ、結局シャナの存在があいつにとっての重しだったんだろうね」
シャナと共に行動している時のピトフーイは、確かにこんな人物ではなかった。
三人はその事をきちんと理解しており、依頼を遂行する為にも、
今回の件に対しての不愉快さを飲み込む事にしたようだ。
「はぁ、早く帰ってきてくれよ、シャナ……」
そのゼクシードの呟きが、三人の気持ちを雄弁に物語っていた。
一方単独行動をしていたスネークは、
死体を背負ったまま上から駆け下りてきたシャーリーを見て仰天した。
交渉の為にという理由を信じて彼らを上に生かせたのは、他ならぬスネークだったからだ。
「お、おいお嬢ちゃん……上で一体何があったんだ?」
突然スネークにそう話しかけられたシャーリーは、リーダーの死体を盾にし、
そのままスネークへと銃口を向けた。
「来ないで!」
「その様子だと、上で戦闘になったのか?交渉するんじゃなかったのか?」
「したわよ!でもあんな騙し討ちみたいな事をして、
だから対人プレイヤーって嫌いなのよ!」
「騙し討ち?誰にやられたんだ?って、あいつしかいないか……」
スネークはおそらくやったのはピトフーイだろうと推測し、
足元に自分の銃を置くと、その場に座り込み、シャーリーに頭を下げた。
「本当にすまん、シャナに代わって俺が謝罪する、この通りだ」
「な、何であんたが謝るの?それに何でそこでシャナさんの名前が……」
「あまり大きな声で言う事じゃないから、ちょっと耳を貸してもらっていいか?」
「そ、そんな事を言って、また私を罠にはめるつもりじゃないの?」
「……仕方ない、これが証明になるかは分からんが……」
そう言ってスネークは、上手くカメラから死角になるようにマスクをわずかにずらし、
マスクの下の正体をシャーリーに見せた。
その顔に見覚えがあったシャーリーは、あっと驚いた顔をした。
「あ、あんたは……」
「シャナの名に賭けて誓う、俺はあんたに何もしねえ、
だから話だけでも聞いてもらえないだろうか」
「………そういえばあんたって、
前回のスクワッド・ジャムではシャナさんの味方をしてたわよね、
それに何だか親しそうにも見えたし」
「おう、大きな声じゃ言えないが、俺はあいつの三倍以上も年上だが、
あいつは俺の大事な友達だ、何なら大会が終わった後に、直接確認してくれてもいい」
「え、あんたってそんなおじいちゃんだったんだ、そっか、分かったわ、話を聞かせて」
「すまねえ、ありがとな、お嬢ちゃん」
そしてスネークは、シャーリーの耳元でこう囁いた。
「実はシャナの奴な、今アメリカで生死不明なんだわ」
そのあまりにも想定外な言葉に、シャーリーは仰天した。
「えっ、ほ、本当に?」
「ああ、まあおそらく無事だろうという報告は来てるんだが、
どうもシャナの方にも色々と事情があるらしくてな、
命を狙われる危険をとことん避ける為に、
あの野郎、かなりきつい情報統制をかけてやがるみたいなんだよ」
「い、命!?シャナって一体何者!?」
「それなりの地位にいる人物としか言えん、
で、ピトの野郎はシャナが死んだと思い込んでてな、
今はかなり自暴自棄になってやがるんだよ」
そのスネークの説明で、自分が知る防衛戦の時のピトフーイと、
今のピトフーイとのギャップの理由を理解したシャーリーは、
それでも納得しがたいのか、スネークにこう言った。
「じゃ、じゃあシャナさんが無事だって事を伝えれば……」
「そうなんだがよ、それを証明する手段が何も無えんだよな……」
「あ………」
「なので今回ばかりはあいつの所業に目を瞑ってやってもらえないだろうか、
もちろん謝罪はさせるし、俺の名にかけて、あいつとタイマンがしたいなら、
その場もきちんと設定させてもらう。他に条件があれば飲んでもいい、
だからこの通りだ、頼む!」
その言葉にシャーリーは腕組みをし、何か考えていたが、
やがて顔を上げ、スネークにこう言った。
「分かりました、今回の事は水に流してもいいです、
その条件は三つ、一つ、GGO内でいいので、ピトフーイに謝罪させる事、
二つ、私とピトフーイで銃の腕比べをさせる事、
これは対人形式じゃなく競技形式でお願いします、対人は得意じゃないので」
「分かった、何とかする。で、三つ目は?」
「えっと、その……」
そのシャーリーの、少しもじもじした様子に、スネークは嫌な予感がした。
「あの、絶対に誰にもバラしませんから、シャナさんを私に紹介してもらえませんか?
もし私が誰かにその正体をバラす危険性があると危惧するのなら、
リアルで念書も書きますし、どこへでも指定された場所に行きますから!」
「ど、どこへでもか?」
「海外とかだとちょっとお時間を頂きたいですが、日本国内ならどこへでも行きます!」
「そ、そうか……どうすっかな……こればかりはシャナの都合もあるしな……」
さすがにこの件に関しては、スネークであろうとも簡単に安請け合いする事は出来ない。
「ん~……シャナにいいかどうか、確認してからでもいいか?」
「はい、それでいいです!」
「お、おう、そうか……で、でもシャナには正式な彼女がいるぞ、それでもいいのか?」
「はい、シズカさんですよね?まったく問題ないです!
別に付き合いたいとか略奪したいとかそういうんじゃありませんから!」
「わ、分かった、必ず伝える……」
「宜しくお願いします!」
シャーリーのそのとんでもない食いつき様に、
どうやらファンが芸能人に会いたがるような物だと判断したスネークは、
特に害は無いだろうなと思いつつも、心の中でシャナに謝った。
(悪いシャナ、今度何か奢るから許してくれな)
どうやらスネークの中では、シャナが少し困った様子で、
だがしかし自分の頼みを受け入れる未来が見えているようだ。
(やれやれ、まあいいか、復讐心ってのは、意外とやっかいなもんだしな)
スネークはここでシャーリーの復讐心を緩和出来た事に安堵し、
続けてシャーリーに、確認するようにこう尋ねた。
「でもそれで、殺されたお嬢ちゃんの仲間達は納得するのか?」
「させます、『対人なんだからあれくらい当たり前でしょ、
過ぎた事をぐだぐだと、それでも玉ぁついてんのか!』って言ってやりますよ」
「わはははは、威勢がいいこった、それに自分の利益だけを追求するその姿勢、
俺は嫌いじゃねえな」
「いつも我慢してあげてるんです、こういう時くらいは我が侭を言っておきたいですからね、
何たってあのシャナさんに会えるかもしれないんですよ?
当然仲間達よりも優先します、最優先です」
「まあ期待しすぎないようにな」
「はい!」
そしてシャーリーはそのまま立ち去ろうとしたが、スネークはその背中に声をかけた。
「これからどうするんだ?お嬢ちゃん」
「う~ん、とりあえず対人は嫌いだし、でもこの状況だとなぁ……」
「ああ、KKHCはモブ専門チームだったっけかな、
まあゲームはゲームだと割り切っちまえばいいんじゃねえか?
シャナがこの場にいたらこう言うと思うぞ、
『ゲームなんだから楽しめよ、シャーリー』ってな」
「あ、それ、シャナさんが凄く言いそう」
「まあ強制はしないがな」
その言葉にシャーリーは肩の力が抜けたのか、笑顔でこう答えた。
「分かった、一人になった事だし、偏見のない視点で他の人の戦いを見てみる」
「観戦か、いいんじゃないか?楽しめよ」
「うん、ありがとう、それじゃあね」
「おう、また連絡する」
「それは本当に宜しく!」
そしてシャーリーは、気持ちが楽になったのか、軽やかに走り去っていった。
「さて、俺もそろそろ上に戻って、あいつらのイライラを解消してやるか」
スネークはそう呟くと、ダイン達三人に今の出来事を報告をする為に、
対ピトフーイ連合軍に見つからないように注意しつつ、岩山の上へとスネークしていった。
「さて、スキャンも終わったところでそろそろ先に進むか」
「当面の敵は、SHINCとZEMALっぽいね」
「あいつら組んでるのかね?」
「どうだろう、まあもし組んでいても」
そして四人は声を合わせて言った。
「「「「まとめてぶっ飛ばす!」」」」
LFKYはそのまま進軍を開始し、SHINCの光点があった場所へとたどり着いたが、
そこは既に戦場と化しており、ZEMALが横合いからSHINCに攻撃を仕掛けたようで、
エヴァが慌てて防戦の指示を出しているのが遠目に見えた。
SHINCはどうやらレンを意識しすぎたようで、そこをZEMALにつけ込まれたようだ。
だが完全に奇襲を受けたにしては、さすがというべきか、
SHINCは整然とその奇襲に対処しており、崩れる気配はまったく見せなかった。
ZEMALはまったくもっていつも通りに、
敵を見付けたから即マシンガンをぶっ放すというプレイを行っただけなのだが、
今回は相手が悪かった。その攻撃は完全にSHINCに対応されてしまい、
一人、また一人とメンバーは倒れており、残るはリーダーのシノハラだけという有様だった。
「お?戦闘中?」
「片方はSHINCかな」
「もう片方はZEMALだね、前回の大会の時に見た覚えがあるよ、もう全滅しそうだけど」
「位置的に多分ZEMALがSHINCに仕掛けたんだろ、
俺達に備えてたであろうSHINCにはご愁傷様だが、奇襲を受けちまったって事は、
あいつらが俺達ばかり見ていたって事だろうな。
そのせいでまあ、こっちにあいつらのバレットラインが見えるようになっちまったが、
いい勉強になったと諦めてもらうしかないな」
闇風のその分析に、三人は頷いた。
「だそうだ、どうする?レン」
「このまままとめてぶっ飛ばす!」
「了解だ、フカ、開幕の花火を上げろ。レンと闇風は俺の後に続け」
「オーケー、派手にぶっぱなすよ!」
「わ、分かりました!」
「さっきの戦闘じゃ出番がほとんど無かったから、今度は派手に暴れてやるぜ!」
「それじゃあ撃つよ!右太、左子、全弾発射!」
右太と左子というのが何なのかを理解出来た者は、LFKYの中にはいなかったが、
その言葉を受け、三人は突撃を開始した。
ちなみに後で聞いた話によると、右太というのはフカ次郎が右手に持った、
そして左子は左手に持ったグレネードランチャーの事であり、
特にどちらがどちらという決まりは無いらしい。
例え左右が逆になっても、右手と左手にどちらを持ったかで名前が決定されるようだ。
さすがはフカ次郎、その辺りはとてもアバウトである。
そしてフカ次郎は、左右六発ずつの、計十二発のグレネードを、
惜しみなくSHINCに向けて発射した。
「ボス、まずい、グレネードだ!LFKYが来ちまった!」
「くそ、間に合わなかったか、シノハラに向けて全力射撃、
倒したら各自、ZEMALの奴らの死体を盾にしな!」
「「「「「了解!」」」」」
だがさすが鍛えられているSHINCは、この奇襲にも対応してきた。
「ちょ、ずるくない?くそっ、今のうちに弾の補充!」
自分の攻撃がZEMALの死体で防がれたのを見たフカ次郎は、
そう毒づきながら右太と左子に弾の補充を始めた。
「ローザ、敵の死体を使って例の物の準備を!トーマ、設置されたら直ぐに撃ちな!
どいつを狙うかはお前に任せる!」
「了解」
「あいよ、任された!」
「お、あいつらさすが対応が早いな」
「何か準備しているな」
「ありゃ、あれってばデグチャレフっていう対戦車ライフルだぜ、
当てられたら多分即死しちまう」
「当たらなければどうという事はないだろ?」
「だな!頼むぜ、キリト!」
「あいよ……おっと、早速きたか」
その瞬間にキリトの額に向けてバレットラインが伸びてきた。
あるいはレンを狙いたかったのかもしれないが、レンは今はキリトの背後にいる為狙えない。
そして弾丸が高速で飛来したが、キリトは走りながら、その弾丸をあっさりと斬り捨てた。
「ひゅぅ、さっすが!」
「まだ俺の後ろから出るなよ、今度はまとめて撃ってくるみたいだからな」
「だ、大丈夫?」
「ああ、前に出来てるから多分問題ない、でも一応身は低くしておいてくれ」
「分かった、低くだね!」
そしてキリトは、次から次へと降り注ぐ弾丸の雨あられを、
常人にはまったく理解出来ない動きで全て叩き落し、
敵の攻撃が一瞬途切れた隙を狙ってレンと闇風に指示を出した。
「よし、最大速度で敵に左右から食らいつけ!絶対に足を止めず、
撃ったらそのまま敵の横を通過して、俺の背後に戻ってくれ!」
その言葉を聞いた二人は、返事もせずに全力疾走を開始し、
SHINC目掛けて凄まじい速さで襲い掛かった。