ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第580話 ドームの戦い

「中から沢山の銃声が聞こえるな」

「盛り上がってますなぁ」

「真打ちとしては、早く登場してやらないといけないよな!」

「で、キリト君、何か作戦とかある?」

「そうだな……」

 

 キリトはドームをじっくりと観察し、時々コンコンと壁を叩いたり、

エリュシデータで壁が破壊可能かどうか調べたりしていた。

 

「可能なら上から攻撃とも思ったが、ちょっとこれを上るのは大変そうだな、

せめてベランダ的な物があれば何とでもなるんだが」

「上?ロープでも持ってるの?」

「いや、こうする」

 

 そしてキリトはフカ次郎の首根っこを掴み、いきなり上へと全力で放り投げた。

 

「ぎゃああああああああああああああ!副長、いきなり何を!」

「おっ、余裕があるじゃないか、掴まれそうな所があったらちょっと頑張ってみろよ!」

「つ、掴ま?ど、どこどこ、レン、どこおおおおおおおお?」

 

 フカ次郎は錯乱し、レンに掴まる場所が無いか聞いたが、

当然下にいるレンにそんな事が分かるはずがない。

 

「頑張れ~!」

「は、薄情者!」

 

 それでもさすがはフカ次郎である、咄嗟に背中に差していたナイフを抜くと、

壁と壁の隙間にそのナイフを突き刺し、片手でブラリと壁面にぶら下がった。

 

「おお」

「やるなフカ」

「剣の扱いの方がやっぱり慣れてるんだな!」

「えっへん!って、このままじゃ落ちる、落ちるから!副長、これからどうすれば?」

「あ~……」

 

 特に何も考えていなかったキリトは、

そういえばこの壁は破壊不可能属性じゃなかったなと先ほど調査した結果を思い出し、

エリュシデータをフカ次郎目掛けて投げつけた。もちろん刃は出したままである。

 

「う、うおおおお、あ、危なっ!副長、いきなり何するんですか!」

「斬れ」

「えっ?」

「それで試しに壁を斬ってみろ」

「あ~!ラ、ラジャー!」

 

 そしてフカ次郎は、壁に刺さったエリュシデータを片手で引き抜き、

そのまま逆手で壁をくり抜くように動かした。

 

「おお、紙でも斬ってるみたいに軽い!」

「どうだ?」

「待って下さいね!おらあ!」

 

 そしてフカ次郎は、円形に切断した壁を蹴り、そこにぽっかりと穴が空いた。

ついでにフカ次郎は、壁に深めの傷を付け、ちゃっかりと自分の足場まで確保していた。

 

「うわ、フカって案外抜け目ない……」

「まあ日ごろからビシビシ鍛えてるからな」

「あれ、って事はもしかして、キリト君はフカの師匠みたいなもの?」

「いや、三人の副長が交代で無茶なノルマを課し、

出来なかったらハチマンがお仕置きするってパターンだな」

「ブ、ブラックスコードロンだ!」

「ALOじゃ、スコードロンの事はギルドって呼ぶけどな」

「ブラックギルドだ!あっ、何かちょっと格好いいかも……」

 

 キリトはその言葉に苦笑した。実際ヴァルハラの訓練は、ブラックぎみな所があるからだ。

そしてフカ次郎は穴の中を覗き、きょろきょろと辺りを見回した。

 

「う~んと……あっ!」

 

 そしてフカ次郎は下に向かって何か叫ぼうとしたが、

寸前で思いとどまり、通信機を取り出した。

どうやら中に声が届いてしまう事を危惧したらしい。

 

「おっ、中々気が利くな」

「これも日ごろの訓練の賜物かな?」

「まあ索敵担当の奴が、いつも同じような行動をとっているから、

その事を覚えてたんだろうな」

「なるほど、学習したんだ」

「経験は宝だからな、だからハチマンも、ギルメンにはとにかく色々な事をやらせてるぞ」

「なるほど……さっすが!」

「ブラックぎみに、だけどな……」

 

 キリトはレンに聞こえないようにボソリと呟いた。

そして通信機が鳴り、レンは通信機のスイッチを入れた。

 

「フカ?どう?」

『天井の鉄骨の上に乗れそう、どこに敵がいるか、ここからだと凄くよく見えるよ』

「中はどうなってるの?」

『中は何ていうか、プレイヤーの姿が完全に隠れるくらいの背の高い草が一面に生えてる』

「って事は下から突撃すると視界が悪すぎて、思わぬ事故に遭いそうなのかな?」

『かもしれない、そこで提案がある、おいレン、副長に代わってくれ』

「オッケー!」

 

 そしてレンはキリトに通信機を差し出し、フカ次郎はキリトに何か提案をした。

 

「ほほう?おいフカ、本当にやれるんだな?」

『うん、さっきの射撃を見たでしょう?ヴァルハラ式で余裕!』

「そうか、ちょっと待っててくれ」

 

 そしてキリトはレンと闇風に言った。

 

「悪い、ここを突っ切る予定だったんだが、外周から回り込んでもいいか?」

「別に構わないが、それで中の敵を殲滅出来るのか?」

「ああ、問題ない」

「それならいいんじゃないかな」

「オーケーだ、よしフカ、その作戦でいくぞ、今基準点を設定する、見逃すなよ」

『了解!』

 

 そしてキリトはフカ次郎からエリュシデータを受け取ると、

ドームの壁にゆっくりとその刃を刺していった。

 

『確認!』

「了解だ」

 

 そのよく分からない作業を、レンと闇風は特に疑問を差し挟む事もなく見物していた。

 

「よく分からないが、さすがというか……」

「師匠、ヴァルハラ式って何だろうね?」

「まあシャナの奴が考えた何かだろうな」

 

 そしてキリトはレンと闇風に、作戦の説明をした。

 

「え、まじでか?うわ、その発想は無かったわ」

「そこから敵が出てくるのは避けたいから、アタッカーはレンがいいと思うんだよな」

「いいんじゃないか?俺は今回はフォローに回るぜ」

「悪いな、頼む」

「任せとけって」

 

 そしてキリトは先ほど空けた穴の横に立ち、通信機に向かって言った。

 

「フカ、いつでもいいぞ」

「あい、計測計測っと……八十三歩に四名」

「オーケーだ」

 

 そしてキリトはいつもよりもやや小さい歩幅で外周を回り、丁度八十三歩の所で止まった。

 

「よし」

 

 次にキリトは、レンは通れるが通常サイズのプレイヤーは通れない程度の穴を壁に空け、

レンに向かって頷いた。

 

「頼むぞレン」

「任せて!行くよ、Pちゃん!」

 

 そしてレンは音が鳴らないように慎重にその穴から中に入り、

少し後にその穴の中から銃声が聞こえた。

 

「始まったな」

『一人耐えた、十五秒』

「オーケーだ」

 

 そのキッカリ十五秒後に、穴の中からPちゃんが外に投げ出され、

さらにレンが穴の中から両手を伸ばしてきた。

 

「引くぞ!」

 

 そしてキリトがその手を引き、レンを外に引っ張り出した。

そして闇風がその穴に向けて銃を構え、

レンを追いかけてきた敵がその穴の向こうに見えた瞬間、

闇風はその敵目掛けて銃弾を放った。

 

『敵の死亡を確認、今のチームは全滅したよ』

「オーケーだ、よし、次を頼む」

『あい!計測計測っと……五十歩に三名』

「案外近いんだな」

『混戦だしね』

 

 そして次のポイントでも同じ光景が繰り広げられ、またチームが一つ殲滅された。

 

「レン、大丈夫か?疲れてないか?」

「うん、一撃離脱だから大丈夫だよ、師匠」

「そうか、疲労がたまったらすぐに言うんだぞ」

「うん!」

『七十二歩に一名、壁際に寄りかかってる』

「そうか、それじゃあそいつは俺がもらうか」

 

 そしてキリトはエリュシデータを構え、裂帛の気合いを込め、壁を横一文字に切り裂いた。

 

「うおっ、凄えな」

「さっすがキリト君!」

『うひゃぁ、胴が真っ二つ』

「オーケーだ、今回は穴が無いからここで基準点を設定しなおすぞ」

『了解!確認!ええと……百五歩!』

 

 そしてキリトが慎重に歩く姿を見ながら、レンが興味深げにキリトにこう尋ねた。

 

「ねぇキリト君、ヴァルハラ式って?」

「ああ、歩幅を正確に二十五cmに合わせて、歩数で距離を教えるやり方かな、

まあ普段は迷宮探索の時とかに、方角と合わせて使ってるよ」

「へぇ、もしかして、歩幅を合わせる訓練をしたの?」

「ああ、全員普通に出来るぞ」

「凄っ!」

「ハチマンがこういう事には厳しいんだよ………」

「あは、そうなんだ」

 

 そして正確に百五歩の地点で、再び同じ事が行われ、それを繰り返すうちに、

ドーム内の敵はあっさりと殲滅された。

 

『十チームの全滅を確認!』

「見逃しはいないか?」

『大丈夫、静まり返ってる』

「オーケーだ、それじゃあ進軍を続けるか」

『あっ、ま、待って副長!フカちゃんはどうやって下に下りれば……』

「飛び降りろ」

 

 キリトはノータイムでそう言い、フカ次郎は一瞬無言になった。

 

『ま、まじですか……』

「もしくは壁を走れ」

『そんな事、リーダーと副長三人にしか出来ないって!』

「多分ソレイユさんも出来るけどな。今そっちに行くから自分でどうするか考えて、

自力で下りれるように何かチャレンジしてみろ、その経験がきっとALOで生きるだろう」

『ラ、ラジャー……』

 

 そしてキリトは壁に大きめの穴を空け、三人はそこから中に入った。

そこで天井の鉄骨の上にフカ次郎の姿を発見した三人は、

どうするつもりなのか見物する事にした。そしてフカ次郎はあちらこちらを見て回った後に、

何か思いついたのか、キリトにエリュシデータを貸してくれと頼んだ。

キリトはその頼みを承諾し、エリュシデータを上に投げ、フカ次郎はそれをキャッチした。

 

「これでいけるのか?」

『まあ見てて下さいよ!』

 

 そしてフカ次郎は、いきなり自分が乗っている鉄骨を斬った。

 

「うお」

「まじかよ」

「うわ、どうするつもりなんだろ」

 

 そして次にフカ次郎は、その鉄骨が天井に繋がっている部分を切り、

一目散に反対の端へと移動した。

その鉄骨は、支えが壁と繋がっている部分のみになった為、ギギッと傾いた。

 

「どうやら落ちないな」

「まあフカも素早く移動したしな」

「フカ、油断するなよ!」

「あ、あい!」

 

 そしてフカ次郎は、徐々に中央へと移動を始めた。その度に鉄骨はギギッと傾いていき、

フカ次郎はある程度進んだ後、反対を向いて鉄骨に抱きつくと、

そのままお尻を先頭に中央へと向かっていった。

 

 ギギッ……ギッ、ギッ……

 

 そして鉄骨は徐々に傾いていき、飛び降りても平気そうな高さまで傾いた瞬間、

フカ次郎は地面に向けてダイブした。

 

「スカイ・ハイ!」

 

 そしてフカ次郎は膝をクッションのように使い、着地の瞬間に膝を曲げ、

そのままごろごろと転がりながら着地に成功した。

 

「よっしゃあ!フカちゃん大勝利!」

 

 フカ次郎はガッツポーズをし、その場に仁王立ちした。

その瞬間にキリトがフカ次郎に叫んだ。

 

「フカ、避けろ!」

「へ?う、うわああああああ!」

 

 鉄骨はついにその重さを支えられなくなったのか、壁からポッキリと折れ、

今まさにフカ次郎を押し潰そうと上から迫ってきていた。

フカ次郎は必死で横に飛び、間一髪でフカ次郎はプレスされずに済んだ。

 

「や、やばかった!」

「だから油断するなとあれほど」

「ご、ごめんなしゃい……」

 

 しょげるフカ次郎の頭を、しかしキリトは軽く撫でた。

 

「まあしかし、よく自力で下りれたな、ただの冗談のつもりだったんだが、まあよくやった」

「な、何ですと!?」

「よく考えてもみろ、ALOじゃお前は飛べるんだぞ、

高い所から飛び下りる技能なんて必要ないじゃないか」

「ひ、飛行禁止エリアも一応ありますし……」

「そういう所は絶対にハチマンがロープとかを用意してるからな、飛び降りるとかありえん」

「ふ、深読みしすぎた……フカだけにフカ読みしすぎた……」

「まあ素直なのはいい事だ、今度ハチマンに報告して褒めてもらうといい、俺が許す」

「スルーも許せるくらいの神許可出たあ!」

 

 そしてフカ次郎は、カメラに向かって絶叫した。

 

「今はリーダーは見てないと思うけど、いずれ映像で見るかもしれないから、

映像を見てフカちゃんの唇を読んでくれる事を祈って……

リーダー、後で絶対に褒めて下さいね!」

 

 こうしてドームの戦いは終了した。LFKYの快進撃は続く。


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