ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第582話 止まらぬ寒気

 当初は三十組いた出場チームは、既に半数を割っていた。これはかなり早いペースである。

 

「早いな」

「いきなり十一チームも潰した頭のおかしいチームがいたからな」

「あ、あは……」

「他はSHINCが多分一チーム、MMTMも一チーム潰してるな、

で、マイナーチーム同士の潰し合いで消えたチームが四チームか、残りは十三チーム、

意外と早く決着がつきそうではあるな」

「このスキャン結果だと、六チームがマップ左上に集まってるね」

「ピトの所を入れると七チームだな、さすがにこれは密集しすぎだから、

おそらく何かしらの話し合いが行われているんだろう」

 

 スキャン直後のSHINCとMMTMの白旗を掲げての話し合いの様子は、

モニターには映っておらず、シャナは状況から推測を交えてそう言った。

現在の状況は、マップ右下のドーム内にLFKYが陣取り、

その周辺で生き残っているチームは皆無である。

そして中央に立ちはだかるようにSHINCが布陣し、

その近くには、どうやらZEMALがいるようだ。

そしてマップ右上にぽつんとT-Sがおり、

マップ左下では名前を聞いた事がない三チームが睨みあっているように見える。

そして肝心のマップ左上では……

 

「あれ、比較的遠くにいた一チームが移動を始めたな、あそこだけは組んでなかったのか」

 

 シャナはモニターを見ながらそう言い、シズカもじっとモニターを見つめたが、

直後に何か思い出したようにこうシャナに言った。

 

「ねぇシャナ、あの一番後ろにいる子に見覚えがあるんだけど」

 

 そのシズカの言葉にシャナを目を細めて、

一番後ろをつまらなそうにとぼとぼと歩いているそのプレイヤーを見つめた。

 

「フードを被っててよく見えないな……

あ、でもあの背負ってる銃はブレイザーR93か、それなら一人思い当たる人がいるな、

以前拠点防衛戦で俺がM82を貸したプレイヤーだ、名前は確かシャーリーさん」

「ああ、あの女の子かぁ!そうかそうか、最初に声をかけたのは私だったよ」

 

 そしてロザリアも、思い出したように横から会話に参加してきた。

 

「そういえばシノンが言ってたわ、

防衛戦終了後に三人でスナイパー談義に花を咲かせていたらしいじゃない」

「あ、戦争直後のアレ?」

「そういえば私達もその場にいたわ、もっともあの子と会話はしなかったけど」

「むむむ、その時私はクラレンスとかいうのに絡んでたせいで覚えてない……」

 

 最後にクルスが悔しそうにそう言った。自分のその話題に参加したかったようだ。

 

「あれ、でもKKHC、北の国ハンターズクラブ、だったか?

あそこのスコードロンは、対モブ専門じゃなかったか?」

「そういえばそうだね、どんな心変わりだろ」

「まああのシャーリーさんの様子からして、

どうしてもこういった大会に参加してみたかったメンバーが仲間内にいて、

話し合いの結果、押し切られたって感じじゃないか」

「かもしれないね」

 

 そして六人は、一体何をするつもりだろうかと、KKHCの動向を観察する事にした。

 

「もしあれがレンやキリト達なら、何をするつもりか簡単に分かるんだがな」

「正面から喧嘩を売るんだよね」

「ははっ、それしかないよな」

「でもKKHCって、いわゆるバレットラインに頼らない、

ライン無し射撃に精通してる人達なんでしょ?

下から遠距離射撃を繰り返すだけでもいい勝負をするんじゃない?」

「かもしれないな……ってあれ、一人だけ、両手を上げて前に出たな」

「ええっ?まさかの話し合い希望?」

「二度目のスキャン後に動き出したからな、この状況で話す内容といえば……」

 

 そして六人は、同時にこう言った。

 

「「「「「「同盟の申し込み?」」」」」」

 

 六人は声が揃ってしまった為に、顔を見合わせて苦笑した後、

その是非について話し合いを始めた。

 

「多数に付くんじゃなく、小数の味方をするつもりなのかな?」

「確かに日本人の気質には合ってるわね」

「まあピト達が前に出て、KKHCのメンバーが後ろから狙撃でフォローするってのは、

理に適ったいい戦法かもしれないわね」

 

 その時別のモニターで動きがあった。五チームが集まっている光景を映したモニターに、

その中の一人がピトフーイ達のいるほうを指差す様子が映ったのだ。

 

「お、残り五チームの同盟組も、KKHCの動きに気付いたっぽいな」

「結局あの五チームは組んだのかな?」

「多分MMTMの奴が話を纏めたんだろう、確かデヴィッドだったか?

あいつはピトフーイの事が大嫌いなんじゃなかったか」

「あ、そういえばそうだった気がする、どんなプレイヤーなのかな?」

「うちとの絡みはほとんど無いから、どういう奴かは分からないが、

確かチーム戦術をとことん磨いてるスコードロンなんじゃなかったか?」

「なるほど、集団戦にも精通してるのかもしれないね」

「ああ、だが……」

 

 そしてシャナは、気に入らないといった表情でこう言った。

 

「互角の条件でやり合う選択肢を最初から捨ててる奴は、上にはいけないだろうな」

 

 偶然にもシャナは、少し前にエヴァが考えたのと同じ事を口にした。

 

「あ~、シャナはそういうの嫌いだよね、まあ私も嫌いだけど」

「私も」

「私もです」

「私は前はそういうのはまったく気にしなかったけど、今はやっぱりちょっとねって思う」

「私もそんな感じかな、って事は、ここにいる全員そういうのが嫌いって事になるね」

 

 最後にそう言ったユッコとハルカを見て、シャナは嬉しそうに言った。

 

「二人も変わったよなぁ、もうあの頃の面影はまったく無いな、

少なくとも安心して背中を任せられるレベルだな」

「ちょっと、さりげなく人の黒歴史をえぐらないでよね。

でもありがとう、今はその言葉を素直に誇らしいと思うわ」

「だぁね、こういうのって馬鹿らしいなんて昔は思ってたけど、

今じゃこういうのも何かいいなって思う」

 

 三人のそのやり取りに、場はとてもいい雰囲気に包まれた。

そしてそのタイミングで、PM4とKKHCの交渉の様子がモニターに映し出された。

 

「お?ピトの奴、どうやら同盟の打診を断ったな、

ここは組んでもいい場面だと思ったけどな」

「ピトは何て?」

「KKHCの代表っぽい奴がこっちに背中を向けてたから、何を言ったのかは分からないが、

少なくともピトは最初にシャーリーさんの方を見て、

『そちらの紅一点さんもそれでいいのかしら?』って言ったな、

彼女が乗り気じゃなさそうなのを気にしたのかもしれないな」

「あ、確かに何ともいえない表情をしてるね」

 

 そのピトフーイの表情を見て、シズカがそんな感想を述べた。

 

「って事はやっぱり同盟の打診だったのかな?」

「だろうな、その後ピトは相手にこう答えた。

『答えはノーよ、このチームでいくって決めたからにはそれを貫かないと』だとさ」

「へぇ、さすがよねぇ」

 

 丁度そのタイミングで、ピトフーイと話していたKKHCの代表らしき者が振り向いた。

 

「お、KKHCのリーダがこっちを向いたな、

『それじゃあしきり直しだな、俺達は向こうの茂みの奥に消える、

次のスキャンまでは攻撃しないよ』だそうだ」

「ピトは何て?」

「『分かった、それまでは休戦ね、男の約束よ~ん?』………ん?」

「どうしたの?」

「いや、何か違和感がな」

「違和感?何だろ……?」

「何だろうな……」

 

 そんなシャナに、銃士Xが冷静な顔で言った。

 

「シャナ様、そこはいつものように『お前は男じゃねえだろ!』と突っ込む場面です」

「ああ、それだそれ、っていつの間に俺は突っ込み担当にされてるんだ……」

「でもキリト君が相手の時だけボケになるよね、シャナは」

「確かに言われてみるとそうかもしれないな……

あいつが持つ隠し切れない程の強大な突っ込みオーラが、俺にボケさせるんだろう」

 

 そんなのんびりした会話が交わされる中、

シャナはピトフーイがエムに対して何かをねだるような動作をした為、

あいつは一体何がしたいんだと首を傾げた。

その瞬間にエムが一瞬天を仰ぎ、僅かに口を動かしたのを、シャナは見逃さなかった。

 

「なぁ、今エムに助けを求められたんだが……」

「え?どういう事?」

「今あいつ、多分ピトが反応しなかったから、かなり小さい声で言ったと思うんだが、

『シャナさん助けて下さい』って言ったんだよ」

「な、何で?ピトが何かしたの?」

「いや、ピトはエムの方に手を……ん?」

 

 そして一同が見守る中、エムは躊躇いがちにピトフーイに持っていた銃を手渡した。

ピトフーイはその銃をいきなり構え、KKHCのリーダーの背中に狙いを定めた。

 

「えっ?ちょ、ちょっと……」

「ピト、まさか……」

「ここでそうくるの?」

「本気?」

 

 シズカ、ロザリア、ユッコ、ハルカの四人が驚いたようにそう言った中、

銃士Xは悲しそうな表情でこう呟いた。

 

「ピト、それは駄目、シャナ様が本気で怒る」

 

 だがその言葉も空しく、ピトフーイは引き金を引き、

KKHCのリーダーは、背中から心臓を撃ちぬかれ、そのまま即死した。

 

『なっ……』

『何をするの!?』

『お、おい、卑怯だろ!』

『約束が違う!』

『約束?私はさっき、男の約束って言ったのよ、

でも残念でした、私は男じゃありませ~ん!』

 

 シャナが淡々と通訳を続ける中、ピトフーイは残りのメンバー達に向け、

手持ちの銃の全弾を発射し、シャーリー以外の全員をあっさりと射殺した。

だがいち早くリーダーに駆け寄っていたシャーリーは、

リーダーの死体が破壊不能オブジェクトになっていた為、運良く難を逃れる事が出来ており、

リーダーの死体を盾にするという苦渋の選択を迫られながらも、

絶対にピトフーイに一泡ふかせてやるという復讐心に突き動かされ、

リーダーの死体を背負ったままその場から一目散に逃走した。

 

「あ~ら、一人には逃げられちゃったみたいだけど、まあいいか。

もっとも大会終了までには絶対に仕留めてあげるつもりだけどね、

あはははは、あはははははははは!」

 

 その瞬間に、その光景を呆然と眺めていたシズカ達五人は、

いきなり寒気を覚えて焦った様子で振り向いた。

そこにはぼ~っとした表情のシャナがいるだけであり、

特に寒気を覚える要素は何もないように見えた。

だがシズカはそれを見た瞬間、今まで見た事がないような焦った表情を浮かべ、

必死でシャナにこう懇願した。

 

「シ、シャナ、ピトには私達からよく言い聞かせておくから、

お願いだから落ち着いて、ね?」

 

 だがシャナは黙ってじっとモニターの中のピトフーイを見つめているだけであり、

その後に投げかけられた、シズカのどんな言葉にもまったく反応を示さず、

シズカはがっくりとその場にうな垂れた。

 

「シャナ?シズカ?」

「こ、これ、どうなってるの?」

「あっ、ま、まさかこれ……」

 

 そんな中、何か心当たりがあったのか、ロザリアがそう言った。

ロザリアはかつて、自分が拉致された時に、

シャナが同じような状態になったと聞いた覚えがあったのだ。

 

「これはまずいわ……ねぇシズカ、これってシャナが本気で怒ってる時の状態よね?」

「う、うん……私もこの状態になったシャナを見たのは、数える事しかないけど……」

「えっ、そうなの?これで?」

「とてもそうは見えないけど……でも確かにさっきから寒気が止まらない……」

 

 そして唯一シャナと同じように無言だった銃士Xが、一歩前に進み出た。

 

「シャナ様、もうこうなってはピトは十狼から除名するしかないかと」

「え?」

「ちょ、ちょっとイクス……」

「いいから」

 

 その言葉にシャナはやっと反応を示し、銃士Xの方に振り返って頷いた。

 

「そうだな、あいつはもう狼じゃない、ただの犬だ。

一度結んだ約束を違えてだまし討ちをするような奴は、俺の仲間にはいらない」

「はい、ではピトが狼に戻るまでは除名という事で宜しいですか?」

 

 その言葉にシャナは目を見開いた後、少し考え込んだ後にこう言った。

 

「狼に戻っても、心から反省していると今回の被害者達に認めてもらえない限り、

十狼……いや、今は九狼か、九狼への復帰は絶対に許さん」

「………分かりました」

 

 そしてシャナは、頭を冷やしてくるといって一時ログアウトし、

直後に他の四人が銃士Xを取り囲んだ。

 

「イクス、今のって、どういう事?」

「何とかピトが復帰出来るような道は残せたと思う、

もしあそこで介入しなかったら、シャナ様はピトを絶対に許さなかったかもしれない」

 

 その銃士Xの言葉に、シズカがうんうんと頷いた。

 

「かもしれないね、私ですら、まだちょっと寒気がするもの」

「シズカがそう思うくらいなら、よっぽど怒ってたのね」

 

 同じく寒気がするのか、ロザリアが自分で自分を抱きながらそう言った。

 

「うん、正直私も怖かった……ちょっとおしっこチビったかも」

「イクス、女の子がそういう事を言わないの!」

「でも確かにまだちょっと震えが……」

「一歩間違えれば、同窓会の時に私達も……」

「ちょっとやめてよ、また寒気がしてきちゃったじゃない」

 

 そして五人は身を寄せ合い、何ともいえない表情で、

画面の中で高笑いを続けているピトフーイを見つめた。

 

「ピトの馬鹿……」

「本当に馬鹿よね」

「どうやって反省させようか」

「土下座は絶対よね」

「色々と考えておかないとね」

 

 

 

「お帰りなさい、八幡君」

「お帰り、やっぱり戻ってきたわね」

「あれ、二人とも、俺が戻ってくるって分かってたんですか?」

「まああんな場面を見ちゃったらね……」

「きっと頭を冷やしに一度ここに戻ってくるって思ったのよ」

「そうか……」

 

 ログアウトした八幡を待ち構えていたのは陽乃と雪乃だった。

何だかんだ八幡の事をよく分かっている二人である。

 

「で、どうするの?」

「あいつは十狼から除名する」

「そう」

「復帰の条件は、今回の被害者達に、ちゃんと反省したと認めてもらう事にした」

 

 それが意外だったのか、二人はきょとんとした表情をした。

 

「あら?そこまで考えられる程冷静だったの?」

「いや、まあマックスがそういう風に俺の思考を誘導してくれたんだよ、

『ピトが狼に戻るまでは除名でいいですか?』ってな」

「そう、やるじゃないあの子。やっぱり早めにうちで確保しておいて良かったわね」

「もっとも俺も今回の被害者扱いって事で、

俺を認めさせられない限りは復帰させませんけどね」

「あら、厳しいのね」

「お前も分かるだろ、あいつは十狼の顔に泥を塗ったんだ、簡単に許すかよ」

 

 その言葉に雪乃は素直に頷いた。

 

「確かにそうね」

「それじゃあシャワーに行ってくるわ」

「ええ、行ってらっしゃい」

「ごゆっくり~」

 

 そして八幡がシャワー室に消えた後、二人は顔を見合わせ、同時に脱力した。

 

「戻った瞬間の八幡君の顔、凄く怖かったわね」

「ええ、なので私は今のうちにクルスを着替えさせておくわ」

「え、何でそうなるの?」

「クルスは八幡君の矢面に立ったみたいだから、多分相当怖い目にあったと思うの」

「それで着替え?あ~っ!それってパンツ……」

「姉さん、そういう事はストレートに言わないの」

 

 こうしてピトフーイは十狼を除名され、クルスはログアウトした後に自分の下着を確認し、

何故か自分が雪乃の予備の下着をはいている事に気がつき、

雪乃に対してしばらく頭があがらなくなったのだった。


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