ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第587話 思わぬ伏兵

 マップ左下の様子を興味深げに観戦していたシャナに、

突然外部からメッセージが届き、集中していたシャナはビクッとした。

 

「うおっ、びっくりした……お、シノンからか、

どうやらピトの家に着いたらしいな、今から突入するそうだ」

「あ、そうなんだ、意外と早かったね」

「これでとりあえず大会の様子がどうなろうと、一安心ってところだな」

「あ、またメッセージが来たんじゃない?」

「ん、そうみたいだな、って何だこれ?大根の写真?」

 

 それを横から覗き込んだシズカが、笑いを堪えられないといった様子でこう言った。

 

「これってピトの足じゃない?大根って……ぷっ、ぷぷっ……」

 

 そう指摘されたシャナは、その写真をまじまじと見つめ、自分の間違いを悟った。

確かに大根と呼ぶのはどうかと思うくらいの細さを保っており、

シャナは誤魔化すようにこう言った。

 

「お、おう、足だな足、もちろん分かってたぞ、冗談だ冗談。

あ、でも例え冗談としても、俺がピトの足を大根って言った事は、絶対に内緒だからな」

 

 シャナは焦ったようにそう付け加えると、写真に添えられていたメッセージを確認した。

 

『やっぱりピト、全裸だった!』

 

「………」

「どうしたの?」

「これ……」

 

 そしてシャナにメッセージを見せられた一同は、天を仰いだ。

 

「予想はしてたけど……やっぱりだったね」

「相変わらずよね……やっぱり家では裸族なんだ」

「下手に男を突入させなくて良かったわね」

「だな……」

 

 シャナはあからさまにほっとした様子を見せ、モニターに目を戻した。

そこではスネークがどこかに通信している様子が映し出されており、

その奥にはハンヴィーに乗り込むMMTMの姿が遠目に見えた。

 

「お、閣下がどこかに連絡しているな、ハンヴィーの存在に気付いたか」

「せっかく車を手に入れても、それが有効に活用出来ない場所に行かれたら元も子もないね」

「やっぱり偵察って大事なのね」

 

 そしてもう一つのモニターでは、

スネークから連絡を受けたPM4による地図を開いての相談が行われていた。

 

「ここに何か建物のような物があるな、ここに立てこもるってのはどうだ?」

「防衛戦かぁ、でもハンヴィーに機動力を発揮されるよりはマシかな?」

「MMTMの得意なフィールドだから、少しこちらが不利になるかもしれないが、

より大きな不利を背負うよりはマシだろうな」

「よし、それじゃあここに行きましょうか」

 

 PM4はすぐに動き出し、すぐにその建物を見つける事が出来た。

 

「ここかぁ、とりあえずMMTMにここを見つけてもらわないといけないんだけど」

「次のスキャンまで待つか?」

「最悪それしかないわよねぇ」

「もしくは信号弾でも上げてここに誘導するか」

「あ、それいいわね、一応念のため、しばらくスネークには外にいてもらおうかな?」

「それがいいと思います」

 

 こうしてPM4はその建物にこもる事にし、

スネークがただ一人で情報収集に努める事となった。

 

 

 

 一方MMTMは、LFKYの移動予測ルートを避けるように少し回り道をしながらも、

PM4が向かってきていると思われる方向へとハンヴィーを走らせていた。

 

「なぁ、ちっともそれっぽい気配がしなくないか?」

「どこかで追い抜いちまったのかもしれないな」

「う~ん、これはスキャンを待つしかないか?」

「いや、ちょっと待て、あそこ!」

 

 メンバーの一人がそう言って後方の空を指差した。

そこには信号弾が打ち上げられており、MMTMのメンバーは、それを見ていきりたった。

 

「私はここにいる、ってか?」

「って事は待ち伏せ……?」

「まあこっちにはこのハンヴィーがあるんだ、

地雷やグレネードにだけ気を付けておけば、そう簡単に奇襲を受けはしないだろう」

「だな、よし、とりあえずあっちに向かってみようぜ!」

「そうしよう」

 

 MMTMはそのまま車の方向を変え、そちらへと向かって走り出した。

 

 

 

 一方LFKYは、三チームがにらみ合っていた場所を必死に捜索していた。

さすがの移動速度である。フカ次郎の速度に合わせたとはいえ、

フカ次郎のAGIはレンには劣るがそれなりに高いので、その移動速度はかなり速い。

 

「おい、死体は沢山あるが、PM4とMMTM、どっちのメンバーの死体も無いぞ」

「これは行き違ったかな?もしくは場所を変えたか……」

「なぁ、ちょっとこれを見てくれよ」

 

 その時闇風が何か発見したのか、そう全員に通信を送ってきた。

そしてその場所に集まった一同は、そこに一台のハンヴィーを発見した。

それはMMTMが発見した車庫の裏側にあったもう一つの車庫の中に鎮座しており、

ハンヴィーを見つけた事による喜びのせいで、MMTMが見逃してしまった物であった。

 

「お、これってシャナがよく乗ってる奴か?」

「おう、ハンヴィーだぜ!」

「へぇ、これは使えそうだな、誰か運転出来るか?」

「ふふん、このフカちゃんに任せなさい!」

「お、フカは運転免許を持ってるのか」

「当たり前じゃない、北海道で免許が無かったら生きていけないよ!」

「ああ、確かにそうだな、東京にいるとどうしてもそういう発想にならないんだよな」

 

 そしてフカ次郎は運転席に乗り込み、ハンヴィーのエンジンをかけた。

 

「どうだ?いけそうか?」

「うん、燃料も満タンだし、いい感じ!」

「よし、それじゃあドライブとしゃれ込むか」

「あ、見て、あそこ!」

 

 その時レンが、何かに気付いたような声を上げた。

その指差す先にはかなり遠いが信号弾が上がっており、一同はそれを見て頷いた。

 

「残りのチームはそう多くはない、壁の上にいたT-Sと、PM4とMMTMとうちだけ、

なのであれは間違いなく、PM4絡みの信号弾だろうな」

「いよいよ最終決戦ですね!」

「よし、あの信号弾が上がった所に行くぞ、フカ、出発だ!

闇風はSHINCに連絡を頼む」

「了解!」

 

 一方LFKYの移動速度についていけず、別行動をとっていたSHINCの四人は、

やや離れた場所で信号弾が上がるのを発見していた。

 

「あれは……どっちだ?」

「どっちかな?PM4?MMTM?」

「まあ行ってみればわかるか」

「あ、闇風さんから通信!向こうはハンヴィーを手に入れたから、

信号弾が上がった場所で落ち合おうだって!」

「了解だ、行くぞお前ら!」

 

 

 

「あ、あれは……信号弾?」

 

 エルビンは、壁の上からフィールドに戻った瞬間に、目の前に信号弾の煙が見えた為、

驚いた表情で単眼鏡を取り出した。

 

「え、おいおい、あれってピトか?」

 

 すぐ目の前には屋根に上り、単眼鏡を覗いているピトフーイがいた。

 

「どこを見てるんだ?向こうには……え、あれってハンヴィーか?乗っているのは……

デヴィッド?MMTMか!そうか、そういう事か!運がまだ残っていやがった!」

 

 そしてエルビンは、ピトフーイに向けて銃を構えた。

 

「狙撃は得意じゃないが、この距離なら……落ち着け、落ち着け俺!」

 

 そしてエルビンは銃の引き金を引き、発射された弾丸は、

見事にピトフーイの胸に吸い込まれた。

その瞬間にエルビンは横から頭を撃ちぬかれ、物言わぬ死体となった。

 

「俺だ、スネークだ、すまん、しくじった。まさかこんな所にエルビンがいるとは……

すぐに倒そうとしたが間に合わなかった、本当にすまん……」

 

 

 

 建物にこもった後、ピトフーイは屋根の上に上り、単眼鏡で周囲の様子を伺っていた。

 

「あ、もしかしてあれかな?ハンヴィーがこっちに走ってきてるんだけど」

「あれだな、間違いない。助手席にダビドが乗ってるな、MMTMだ」

「これでハンヴィーのアドバンテージは無くなったわね、

もしこっちを攻めてこなくても、その時は多分、背後からLFKYに攻撃される、

さあ、覚悟を決めてかかってらっしゃい、ダビド!」

 

 その言葉が聞こえたのかどうかは分からないが、

MMTMはハンヴィーを止め、ピトフーイの方を指差してきた。

 

「お、こっちを見つけたみたい、来るわよ、準備しましょう」

「「「「了解!」」」」

 

 その瞬間にピトフーイの胸に弾丸が吸い込まれた。

ピトフーイは硬直した後に前のめりに倒れ、一瞬放心していたエムが、

ピトの体が下に落ちないように、必死でピトフーイに飛びついた。

 

「ピ、ピト!おい!死ぬな、死ぬな、生きろ!」

 

 どんどん減っているピトフーイのHPゲージを見ながら、エムはそう言って泣き叫んだ。

シノン達がピトフーイの部屋にいる事を知らない為、

エムはこれでピトフーイの大会が終わってしまったら、

レンとの決着を着けられずに自暴自棄になったピトフーイが、

そのまま自らの命を絶つ可能性を危惧したのだった。

だがピトフーイのHPゲージはギリギリで僅かに残り、

エムは安堵しつつも慌てて救急セットをピトフーイに投与し、

そのままピトフーイを抱いて屋内へと避難した。

そして屋根上に残った三人は、必死に狙撃元を探していた。

 

「お、おい、どこからの狙撃だ?」

「この辺りにはもう他の敵はいないはずだろ?まさかあのシャーリーって子が?」

「いや、あの子はもう事情を知ってるはずだ、こんな事をするはずがないよ」

「じゃあ一体誰が……」

 

 その時スネークから通信が入り、一同はそれで事情を知った。

 

「エルビン?T-Sか!あいつら壁の上にいたんじゃないのか?」

「何でこんな所に……まあ過ぎた事を言っても仕方がない!」

「くそ、こっちを見てやがったな、MMTMがハンヴィーでこっちに突入してきやがった!」

「絶対に守りきるぞ!」

「おう!」

 

 そして三人は、慌しく防衛の為の配置についた。

 

 

 

「おい、見たか?ピトフーイの奴、どこかから狙撃されたぞ!」

「どうやらギリギリ生き残ったみたいだな、さすがはタフだな」

「だがダメージは計り知れないくらい大きいはずだ、

誰がやったかは知らないがこれは最大のチャンスだ、

このままハンヴィーであの建物に接近するぞ!」

「了解!」

 

 こうしてMMTMはそのチャンスを見逃さず、

ハンヴィーを建物の横に付けて中への突入を開始した。

 

「こういうのは俺達の得意なフィールドだ、ここで絶対にピトフーイに止めを刺すぞ!」

 

 こうしてLFKYが不在の中、ピトフーイを欠いたPM4とMMTMの戦いが始まった。


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