ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第584話 ロスタイム

「ボス、攻撃が全部撃ち落とされるよ!」

「やっぱりあの人は化け物だ!」

「あ、二人こっちに来る!」

「くそっ、この距離なら余裕で装填は間に合うはずだ!このチャンスに落ち着いて狙え!」

 

 エヴァはスコープから目を上げ、トーマにそう言った。

だが今の状況は、そんな生易しいものではなかった。

 

「駄目だボス!もう……」

「ど、どうした?」

「どうしたもこうしたもねえよ、色々と遅えんだよエヴァ」

「や、闇風さん!?」

「とりあえずくらいな」

 

 そう言って闇風は、走りながら狙いもつけずにエヴァ目掛けて銃撃を浴びせた。

 

「くっ……ぐあっ!」

 

 エヴァはその闇風の攻撃で肩に銃弾をくらい、手に持っていた銃を取り落とした。

だがエヴァは根性で倒れないように踏ん張り、果敢にも他の仲間に声をかけた。

 

「撃てる者は敵に向かって反撃だ!」

「ごめんね、それもちょっと遅いんだよね」

「お、お前は……」

 

 続けてレンが襲来し、同じように銃弾をバラ巻きながらそのまま去っていった。

 

「ボス、無理だ!今のでローザとソフィアがやられた!」

「残りの三人は生きてるけど、ターニャとアンナも被弾した!」

「ごめん、やられた、無事なのはトーマだけ!」

「くっ……くそぉ!」

 

 エヴァはその状況に一瞬呆然としながらも、すぐに我に返り、

残された左手で銃を持ち、スコープを覗き込んだ。

 

「ど、どこだ、あの二人はどこに行った!?」

「もうキリトさんの後ろに戻ったみたい」

「何だと!?もうか!?」

「あの速さ、反則だよ……」

 

 そして駄目元でデグチャレフをキリト目掛けて撃ち続けていたトーマが、

諦めたような口調で言った。

 

「あ、無理、こっちの攻撃は全部斬られちゃうし、本人がもうすぐここに着いちゃう。

キリトさんも何だかんだ足が速い……ステータスが異次元すぎる……」

「あ、諦めるな、まだきっと何か……」

「その意気やよし、だが悪い、こっちにも今回ばかりは譲れない理由があるんでな」

 

 そう言ってキリトがエヴァにエリュシデータを突きつけ、

他の三人もレンと闇風に銃を突きつけられ、両手を上げた。

 

「ま、まさかうちがこんなにあっさりと……」

 

 エヴァはそう言って天を仰ぎ、他の者と同様に両手を上げた。

そんなエヴァに声をかけた者がいた、レンである。

 

「初めましてボス、兄弟子に会えて光栄です!」

 

 その元気いっぱいな挨拶に、エヴァは苦笑する事しか出来なかった。

自分達は、シャナの一番弟子の座をかけて戦っているつもりだったのに、

あっさりとレンに、その座を譲られてしまったからだ。

他の者達も、そのレンの言葉で自分達がいかにくだらない物にこだわっていたのかを自覚し、

恥じ入ったように下を向いたり頭をかいたりした。

 

「それを言うなら姉弟子だろ」

「あっ、ご、ごめんなさい、別に変な意味じゃ……」

 

 戦闘中の激しさとは裏腹のその謙虚な態度にエヴァは好感を覚えたが、今は敵同士である。

この大会で遺恨を残すような事は無いが、

さりとてこのまま和気藹々と会話を続けるのはどうかと思ったエヴァは、レンにこう言った。

 

「今度改めてまた俺達と戦ってくれよ、今度は負けないからな」

「あ、う、うん、分かった、約束ね!」

 

 レンは軽い調子でその申し出に頷いた。

それを見たエヴァは、仲間達の方をチラリと見て、

仲間達が仕方ないなという風なゼスチャーをしたのを確認すると、続けてレンにこう言った。

 

「それじゃあひと思いにやってくれ、それが勝者の権利だからな」

「えっ、あっ、えっと……ど、どうしよう……」

 

 困った顔をするレンに、闇風が横からこんな事を言った。

 

「なぁレン、勝者の権利ってなら、もうしばらくロスタイムをもらえばいいんじゃないか?」

「ロスタイム?あっ………」

 

 そしてレンは、とても申し訳なさそうにSHINCの生き残り四人に言った。

 

「あ、えっと、その、凄く言いにくい事を言うけど、

もし良かったら、私達がピトさんと二対二で戦えるように、協力してもらえないかな?」

「ピトと?何かあったのか?」

「えっとね、ボス、ちょっと耳を貸してもらっていい?」

「ああ、分かった」

 

 そしてレンは、エヴァの耳元で今回自分達が何故ここにいるのかの理由を伝え、

エヴァは驚愕した表情をした後、重々しい声で仲間達に言った。

 

「お前ら、理由は大会が終わってから言うけど、これからうちらはLFKYの捨石になるよ、

私達の取り得はこのでかい図体だけなんだ、

飛んできた弾は全てこの体で受け止めるつもりで奮戦するよ、覚悟を決めな」

「お?緊急事態?」

「オーケーオーケー、MVPがとれるくらいの派手な散りっぷりを見せてやるぜ!」

「ついでに何人か、敵を道連れにしてあげましょう!」

 

 エヴァにそう言われたトーマ、ターニャ、アンナの三人は、

一気に気持ちが高ぶったのか、理由は何も聞こうとはせずにそう気合いを入れた。

 

「ありがとうみんな、このお礼は必ずするから」

 

 そう言うレンに、エヴァはニヤリとしながら言った。

 

「それなら甘い物で頼むぜ、こう見えて俺達は淑女なんだからな」

「うん、分かった、任せて!」

 

 そしてトーマは自分では絶対に動かせない状態になってしまったデグチャレフを、

名残惜しそうに撫でながら言った。

 

「ここに残しちまう事になるけど、悪いな。あまり活躍させてやれなくて悪かった」

 

 それを見たキリトが、首を傾げながらトーマに近付き、

まるで重さを感じさせないような様子で、デグチャレフを片手で持ち上げた。

 

「これを回収すればいいのか?それじゃあ俺が持ってってやるよ」

「ええええええええええええええ!?」

「あ、あれを片手で?」

「ありえない、連邦の黒いのは化け物か……」

「いやいや、別にこれくらいは問題ないって、ほら、行くぞ」

 

 キリトはそのままデグチャレフを収納し、先頭に立って歩き始めた。

その背中を、エヴァ達四人は憧れの視線で見つめていた。

 

「さ、さすがはシャナさんの親友……あれ、確か親友なんだよな?」

 

 確認するようにレンにそう尋ねてきたエヴァに、レンはにっこりと微笑みながら答えた。

 

「うん、そうだよ」

「そうかそうか、やっぱりシャナさんの周りの人は凄えな」

「弟子としては鼻が高いよね」

「だな!シャナさんの名を汚さない為にも、お前ら死ぬ気でいくぞ!」

「というか死にに行くんだけどね」

「派手に死んでSHINCの名を観客達の頭に叩き込んでやろう!」

 

 こうしてLFKYとSHINCの残党は行動を共にする事になり、

ピトフーイが立てこもる岩山を目指して進軍を開始した。

 

 

 

「あら、お帰りなさい」

 

 スネークは岩山の上へと戻り、そんなスネークを見て、ピトフーイがそう言った。

スネークはその言葉にこくりと頷き、ピトフーイに指を一本立ててみせた。

 

「一チーム潰しておいた」

「え、本当に?」

 

 そのピトフーイの言葉に、スネークは黙って頷いた。

 

「そう、凄いわよねぇ、ところで上から一人、誰か降りていかなかった?」

 

 それがシャーリーの事だろうと思ったスネークは、黙って首を横に振った。

 

「そう、逃がしちゃったか、まあいいわ、何をするにしても一人じゃたかが知れてるしね。

ご苦労様、敵が押し寄せてくるまでゆっくり休んでて頂戴」

 

 そのピトフーイの労いに、スネークは黙って頷くと、ダイン達の方へと歩いていった。

 

「よっ、お疲れ、さすがだよなぁ」

「コーヒーでも飲むか?」

「そろそろ敵の動きがキナ臭いから、あんまり時間はとれないかもしれないけどね」

 

 そうスネークを労ってくる三人に、スネークはぼそぼそと、

先ほどシャーリーと遭遇した時の事を伝えた。

 

「えっ、あんた、シャナとリアル知り合いなのか?」

「あの子のフォローをしてくれたのか、ありがとな!」

「そうか、あの子の気持ちが少しでも安らいでくれたなら良かったよ」

「むしろノリノリだったけどな」

 

 そのスネークの言葉に三人は、声を出さずに笑った。

 

「さて、こっちの状況は?」

「スキャン結果を見た感じだと、多分五~六チームが同時に攻めてくるんじゃないかな」

「前回の大会を見てて思ったが、あいつらは本当に群れるのが好きだよなぁ」

「まあ罠は仕掛けたから、あとは引っかかるのを待つだけっす」

「あとはLFKYがSHINCに勝って、

ちゃんとこっちに向かってきてくれているように祈るだけかな」

 

 丁度その時、周辺を警戒していたエムがピトフーイに何か言い、

そのままこちらへと向かって歩いてきた。

 

「敵が来たみたいです、多分六チーム。中心にいるのはやはりというか、MMTMですね」

「あいつらか、デヴィッドの野郎は本当にピトの事が嫌いみたいだからな」

「あれって一周回って実は好きなんじゃないかって思う時が無いっすか?」

「あいつは組織の力に拘って、そっち方面の技術ばかり磨いてるからね、

僕はああいうのはあまり好きじゃないな」

 

 敵が六チームと聞いても四人はまったく動じる様子を見せなかった。

エムはその事に感心しつつ、それでは手はず通りにと言い残し、

自分の持ち場へと向かって歩いていった。

 

「さて、ショーの始まりね」

 

 ピトフーイはそう宣言し、四人もそのままピトフーイの後に続き、

自分達の持ち場へと向かって歩いていったのだった。

 

 

 

「敵がどこにもいないぞ」

「探せ!どこかにいるはずだ!」

「おい、あそこ!」

 

 予定していた岩山の頂上で敵の姿を発見出来なかった対PM4連合チームは、

慌てて周囲を探し回り、滝の近くで、滝の裏に入っていくエムの姿を見つけた。

 

「あんな所に……」

「だが好都合だ、あんな逃げ場の無い所に纏まってくれたんなら、

このまま銃撃を浴びせれば全滅させられる!」

「デヴィッドさんに報告するぞ!」

 

 そしてデヴィッドは、少し離れた岩山の麓でその報告を聞いた。

 

「滝の裏?PM4の奴らめ、そこでこっちの攻撃をやり過ごすつもりだったか、

だが運が無かったな、残りの全兵力を滝周辺に展開して皆殺しだ!」

 

 デヴィッドは自身を安全圏に置いたままそう指示を出した。

指揮能力の高さでいえば、GGOではシャナ、薄塩たらこ、デヴィッドの三人が有名だが、

その中でデヴィッドの声望だけが高まらないのは、こういったところからである。

シャナや薄塩たらこであれば、作戦を遂行するにあたって、

平気で自分達の身を危険に晒して仲間達と一緒に戦うが、

デヴィッドは基本こういった集団戦だと、滅多に前に出る事はない。

前回大会ではトップがファイヤだった為に前線に出たが、

これがデヴィッドという男の限界であった。

 

「よし、攻撃を開始せよ!」

 

 そしてデヴィッドはそう指示を出し、PM4が潜むと思われる滝への銃撃が開始された。


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