「くそっ、さすがは展開が早いな、こういう戦闘を得意にしてるだけの事はある」
「なぁエム、ピトはまだ目を覚まさないのか?」
「はい、必死に呼びかけてはいるんですが……」
「いくらHPが減っていようとも、意識を失う事はないはずだ。
もし気絶したというなら回線落ちしているはず。
撃たれた時のショックで意識を僅かに残しつつも、覚醒出来ない状態になっているのか……」
今のピトフーイの状態を、誰も説明出来る者はいなかった。
通常ありえない状態だからだ。
「何にせよ、守りきるしかないって事だ」
「そうすればLFKYが駆けつけてくれるかもだしな」
「最大の敵に期待せざるを得ないのって、結構つらい状況だけどね」
そして三人を代表して、ゼクシードがエムに言った。
「なぁエム、君はハンヴィーの運転が出来たよね?」
「あ、はい、出来ます。シャナさんに叩きこまれましたから」
「それじゃあいざとなったらここから飛び降りて、敵のハンヴィーを奪って逃走するんだ、
僕達はこれからその為の捨石になる。
もちろんピトフーイと一緒に戦闘に加わってくれればそれに越した事はないが、
最悪の場合、絶対にピトフーイの生存を優先してくれよ」
「あ、ありがとうございます、でもどうしてそこまで……」
その問いにダインはこう答えた。
「俺はこいつがどれだけシャナに懐いているのか、そしてその事でどう変わったか、
最初からずっと見てきたからな、だからこいつをどうしてもシャナと再会させてやりてえ」
そしてギンロウも、続けてこう言った。
「俺はシャナさんを崇拝してるんで、その役に立てるなら、命を張るだけっす」
次にゼクシードが、少し困った顔でエムに言った。
「僕はそこまでピトフーイに思い入れは無いんだけどね、
でもあの事件からこっち、どうしてもシャナに恩返しをしなくちゃいけないって、
ずっとそんな気がして凄く落ち着かないんだよね。
今後もずっとシャナと対等にやり合う為にも、
ここでその恩を返しておくべきかなって思うんだよ、
まあその恩ってのの正体がサッパリ分からないんだけどね」
そして最後に通信機越しにその会話を聞いていたらしいスネークが、
そのままこう通信してきた。
『SAO事件以来の一連の悲劇を、またここで繰り返させる訳にはいかねえからな、
その為にはこの老体の命なんざ、いくらでもくれてやるさ』
それを聞いた者達は、この緊迫した状況にも関わらず、思わず同時にこう突っ込んだ。
「「「「老体!?」」」」
『何だよ、何か俺、おかしい事を言ったか?』
「あ、いや、自分の事を老体って、スネークって本当はいくつくらいなのかなって」
『あん?確かにお前らの二倍から三倍は生きてるけどな、こちとら戦後すぐの生まれよ』
「二、二倍もしくは三倍!?」
「まじっすか……」
「そ、そうだったんですか、今まで失礼な口の聞き方をしてしまってすみませんでした……」
恐縮する三人に、スネークは鷹揚な態度でこう言った。
『おいおい、ゲーム内にリアル年齢が関係あるか?今まで通りで頼むぜ、戦友達よ!』
その言葉にその場にいた者達は、胸を熱くした。
仲間として行動し始めてからここまでの時間は確かに短いが、
そこには確かに仲間としての絆があったからだ。
「確かにそうだな、これからも宜しく頼むぜスネーク!」
「この大会では最後になるかもしれないけど、出来るだけやってやりましょう!」
「僕は最後まで生き残るつもりだけどね」
『おう、とりあえず俺が外から先陣をきる、それに合わせて中から攻撃を頼むぜ!』
「「「了解」」」
そんな仲間達の姿を見て、エムは羨ましさを覚えつつも、
必死にピトフーイを覚醒させようと頑張っていた。
「ピト、早く起きてくれ、頼むよピト、頼むから……」
そんなエムに断りを入れ、三人はスネークと呼吸を合わせて攻撃すべく、
その部屋を出ていった。
「クリア」
「クリア」
「クリア」
「この部屋にもいないか」
その頃MMTMは、一階の部屋をしらみつぶしに捜索していた。
「予想はしていたが、一階にはいないか。外から見た感じ、この建物は三階立てだったよな」
「だな、多分敵は上だろう」
「ここからは危険度が上がる、どんな兆候も見逃さないように注意してくれ」
そして部屋を出た瞬間に、横合いから銃弾が撃ちこまれ、
最初に部屋を出たメンバーがその餌食となった。
「くっ、下にも敵がいたのか?」
「でも一体どこに?」
「多分外だろう、しかもこいつの射撃はかなり正確だぞ!」
「だがこっちにも……」
その言葉通り、直後にスネークは、背後から銃弾を受けてその場に倒れ伏した。
「く、くそ、車の中に一人残ってやがったのか……」
「悪いがそういう事だ、あばよ」
そしてスネークはそのまま頭を撃ちぬかれて絶命した。PM4の最初の犠牲者である。
「こいつ……一体何者だ?」
ふと興味が沸いたのか、そのメンバーは、今自分が倒した敵のマスクをはぎとった。
「ま、まじかよ……それじゃあ中にいるのは……」
そしてそのメンバーは、慌ててデヴィッドに通信を送った。
「おいデヴィッド、やばいぞ、今外にいた敵はあのスネークだ、スネークだった!
って事は中にいる他のメンバーも、BoBの決勝クラスの強敵揃いかもしれん、注意しろ!」
その通信が聞こえはしていたが、デヴィッドはそれに対して返事をする事が出来なかった。
スネークを仲間の背後からの奇襲で倒した直後に、二階から降りてきた二人組から、
激しい銃撃を浴びせられていたからだ。
「って事はこの二人も……だがこのフィールドで俺達が負ける訳にはいかない、
いや、絶対に負けない!」
その言葉通り、この戦闘は徐々にMMTMが押し始めた。
元々五対二の戦闘という事もあるが、攻める立場のMMTMは基本思い切った攻撃が出来る。
それこそ今まさに行おうとしているように、手榴弾を敵陣に平気で投げ込めるのだ。
もちろん防御側も同じ事が可能ではあるが、問題は逃げ場所の差である。
防御側は下がるにしても限界があるが、
攻撃側はいくらでも下がって仕切りなおす事が可能なのである。
「そろそろやべえな、ギンロウ」
「っすね、ゼクシードさんの負担を減らす為にも、ここで二、三人は倒しておきたいっすね」
三人で戦っていなかったのには理由がある。
これは三人が同時に倒されて、ピトフーイまでの道が一気に開けてしまうのを防ぐ為と、
もう一つは単純に、三人が同時に展開出来る程、この建物が広く作られていないせいである。
「よし、命を捨てるか」
「オッケーっす、それじゃあ俺が……」
「いや、お前の持ってる銃の方が貫通能力が高い、なのでここは俺が先に行かせてもらうぜ」
「りょ、了解!」
そしてダインは咆哮を上げ、敵の真っ只中へと一気に突っ込み、
両腕を広げ、一気に三人の敵を拘束した。
それにより、MMTMによる手榴弾の投擲は中断された。
「ギンロウ!今だ、俺ごとやれ!」
「は、はい!」
そしてギンロウが飛び出し、決死の覚悟でダインごと三人に銃弾の雨あられを浴びせた。
二人の命を捨て、三人の敵を葬る作戦であった。だがここで予想外の事が起こった。
「デヴィッド、やれ!」
「分かった、任せろ!」
デヴィッドはそのままダインを完全に無視し、
味方の体越しにギンロウ目掛けて手榴弾を投げた。
「なっ……まさか!」
そしてギンロウは爆発に巻き込まれ、そのまま死亡した。
皮肉な事にダインの大きな体が敵にとっては盾となり、
MMTMの三人は、銃弾と手榴弾の爆発に晒されながらも、辛うじて生き残る事に成功した。
「くっ……しくじった、すまん……」
ダインもそれで大ダメージを食らい、そのままその場に倒れ、
その止めはデヴィッドが刺した。
「急いで手当てを、あいつらと違ってこっちにはまだ戦力に余裕がある、
今のうちに立て直すぞ!」
そしてデヴィッドは、素早くダインとギンロウの覆面を外した。
「ダインとギンロウ……という事はこの奥にいるのは、それ以上の奴か。
該当するプレイヤーは……ゼクシードしかいないな」
前回のBoBの出場選手の顔を思い浮かべながら、デヴィッドはそう分析した。
他の有力選手はほとんどが女性プレイヤーであり、該当する男性プレイヤーは、
シャナもしくはゼクシードくらいしか存在しない。
そして残る相手は絶対にシャナではありえない。
「もしシャナなら、俺達はとっくに全滅させられているはずだからな」
デヴィッドは、シャナと他のプレイヤーの間には、それほどの差があると確信していた。
キリトの事も同じくらい評価してはいるが、今回はLFKYに参加している事が確認済だ。
「よし、俺はこのくらいでオーケーだ」
「分かった、行くぞ!」
ダメージを食らった三人のうち、比較的ダメージが少なかった一人が戦線に復帰し、
デヴィッドは無傷だった三人を率いて攻撃を再開する事にした。
手始めに二階への階段に鏡を少し覗かせ、奥の様子を観察しようとする。
その瞬間に鏡が銃弾によって破壊され、奥からこんな声が聞こえた。
「僕にそんな手は通用しないよ、デヴィッド」
「その声は……ゼクシード、やっぱりお前か!」
「久しぶりだね、まあさすがにこの人数差で勝てるとは言わないが、
頑張って三人くらいは道連れにさせてもらう事にするよ」
「ゼクシード、お前……」
その言葉で、ゼクシードが既に死ぬつもりだと察したデヴィッドは、
この階段を抜く困難さが思いやられ、思わず仲間達の方を見た。
その時仲間達の中から一人が一歩前に出て、デヴィッドにこう言った。
「ここは俺が犠牲になるから、必ず四人でピトフーイの奴を討ち取ってくれよ」
「………すまん」
「気にするなって、勝利の為だ」
それは特攻の申し出であり、デヴィッドはその申し出を、苦渋の表情で受ける事にした。
「行くぞ」
「せ、せめて少しでも防御が上がるように、体に色々と巻き付けていってくれ!」
「ははっ、実はもう既に準備済だ」
そう言ってそのメンバーは、体に巻きついた手榴弾の束を見せてきた。
「お、おい!」
「へへ、おしゃれだろ?それじゃあ行くわ」
そう言ってそのメンバーは体を低くして、階段を駆け上がっていった。
「一人とは、僕もなめられたものだね」
「さて、どうだろうな」
「なっ……しまっ……」
その直後に銃声が響き、同時にガラスの割れる音と、爆発音がその場にこだました。
そしてその場に静寂が訪れ、デヴィッドが階段を覗くと、そこには誰もいなかった。
「あいつのマーカーは……これか、ありがとうな」
そこには死体は無く、ただマーカーだけが浮き上がっていた。
どうやら爆発で、その体は粉々になったと思われる。
デヴィッドはそのマーカーにそう声を掛け、仲間と共に上への階段を上っていった。
ここでデヴィッドは気が逸っていたのか、一つミスを犯した。
その事が後にこの勝負の勝敗を決する事となる。