「あの爆発音は……まずい、かなり近い……」
エムはそう呟き、必死でピトフーイを起こそうと、呼びかけを続けていた。
「こうなったらアドバイス通り、離脱も視野に入れるべきか……
だがここから飛び降りたら、あるいは足を骨折するかもしれない、
そんな足でハンヴィーの運転が出来るかどうか……」
そんなエムの迷いも知らずに、ピトフーイはまったく目覚めるそぶりも見せず、
ただひたすら昏々と眠り続けていた。
「ここは……?あれ、確か私は誰かに撃たれて……」
気が付くとピトフーイは、暗くて広い部屋の真ん中に寝転がっていた。
そこはかなり巨大な円形の部屋であり、遠くに階段のような物が見えた。
「ここはどこ?でも何か懐かしいような……」
そこにいきなり光のエフェクトが発生した。
「な、何?」
その光の奥に、何か巨大な物が姿を現そうとしているのが見え、
ピトフーイは咄嗟に銃を構えようとして、それが平凡な片手直剣である事に気が付いた。
「あ、あれ?これってどこかで見たような……そうだ!
これってクエストで手に入れた、確かアニールブレード……」
そしてピトフーイの目の前に、その巨大な物が完全に姿を現した。
「えっ、嘘、それじゃあここは……」
それはかつてSAOのβテストで見た、アインクラッド第一層のボス、
イルファング・ザ・コボルドロードの威容であった。
「いや、待って待って、一人でこいつの相手は無理だって!」
ピトフーイはそう叫びつつも迎撃体制をとり、何とかその敵の攻撃を凌ぎ続けた。
「やっ、あっ、ちょ、ちょっと!無理、死ぬ、死んじゃう!誰か、誰か助けて!」
その瞬間に入り口から、三人のプレイヤーが中に突入してきた。
「俺が敵の攻撃を弾く、二人はカウンターが入った瞬間を狙って、
一気に敵を削ってくれ」
「「了解!」」
そしてピトフーイの前に、一人のプレイヤーが立った。
「邪魔だ、後方に下がってろ」
言葉はきついが、その声音はとても穏やかな物であり、
そのプレイヤーがただ口下手なだけである事を、ピトフーイは自然と理解していた。
「う、うん」
そしてピトフーイはそのまま後方で回復に努め、
そのプレイヤーは軽々と敵の攻撃を弾き、その間に二人のアタッカーが、
どんどん敵のHPを削り取っていった。
「す、凄い……」
「うん、凄いでしょ」
いつの間に隣に来たのか、女性のアタッカーの方が、ピトフーイの隣に座っていた。
「あの、あなた達はもしかして……」
ピトフーイはその三人が、
ハチマンとキリトとアスナかどうかをその口から確認したくてそう尋ねたのだが、
その女性プレイヤーはその質問を別の意味でとったのか、こう答えた。
「あ、うん、私達は攻略組の問題児三人組で合ってるよ、やっぱり噂になってた?」
「え?あ………う、うん」
ピトフーイはどう答えようかと迷い、ただ頷く事にした。
「それじゃあキリト君と交代してくるね、完全に回復するまで何もしちゃ駄目だよ?」
その言葉でピトフーイは、アタッカーの一人はやはりキリトなのだと確信した。
今まで確信出来なかったのには理由がある。三人の顔がボヤけてよく見えないからだ。
だがキリトの名が出た瞬間に、男性アタッカーの顔が、
一度だけ見た事のあるキリトの顔に変化した。
「う、うん分かった、ねぇ、あの………アスナ!」
「ん、なぁに?」
その瞬間にその女性アタッカーの顔が、見慣れたアスナの顔に変化した。
「あの、あの……き、気をつけてね!」
「ありがとう!でも大丈夫、私達三人は、最強だからね!」
そして三人は、見事にイルファング・ザ・コボルドロードのHPを削りきり、
『CONGRATULATIONS』の文字と共に、敵は光の粒子となって消えた。
「お疲れ!」
「おう、お疲れ」
「お疲れ様!」
そして三人は、ピトフーイを置いてそのまま上の階へと向かって歩き去ろうとした。
それを見たピトフーイは、咄嗟に三人にこう言った。
「ま、待って、私も一緒に連れていって!」
その言葉にキリトとアスナはまったく反応しなかったが、
唯一まだ顔がぼやけている真ん中のプレイヤーが、振り返ってピトフーイにこう言った。
「駄目だ」
「な、何で……?」
「お前が自分の命を軽く見ているからだ」
「だ、だってここはSAOでしょ?私はここで、命を削るようなギリギリの戦いを……」
そんなピトフーイに、そのプレイヤーはため息をつきながら言った。
「ギリギリの戦い?馬鹿かお前は、そんなのは負けと紙一重じゃねえかよ、
一歩間違えたら負けるかもしれないような戦いは、ここでは絶対にしちゃいけないんだよ、
やるからには絶対に勝つ、それには余裕がある方が望ましい。
最初からギリギリの戦いを望む奴なんざ使い物にならん、
そういう奴ほど、力を出し切らないうちにすぐに諦めて満足しちまって、
『自分はよくやった、ギリギリまで頑張った』って言って死んでくからな」
「わ、私はそんな簡単に自分の命を諦めたりなんかしない!」
「じゃあお前、何で今死のうとしてるんだ?言ってる事とやってる事がでたらめだろ」
「そ、それは……」
「話はこれで終わりだ、じゃあな」
そんなピトフーイに背を向け、そのプレイヤーは先を行く二人の所へ向かおうとした。
「ま、待って、分かった、もう死ぬなんて言わない、言わないから!」
その言葉にそのプレイヤーは立ち止まり、そのままの体制でこう言った。
「具体的には?」
「具体的に………?それって私がこれからどうするか?」
「当たり前だろ、抽象論は今は無意味だ」
「わ、分かった、ちょっと待ってて!」
「ちょっとだけだぞ」
その具体的にの内容を、ピトフーイは必死で考えた。そして出てきたのはこの言葉だった。
「わ、私はあなたが死ぬまであなたの傍にいて、そして一緒に死ぬ!
だからあなたが死なない限り、私は絶対に死なない!」
「何だよ、それじゃあお前、二百歳まで生きるつもりなのか?」
「う、うん!当然そういう事になるね!」
さすがに人は二百までは生きられないと思うが、ピトフーイは目の前のプレイヤーが、
本気でそう思っているのだと考え、それに合わせてそう言った。
「ははっ、面白い奴、お前、名前は?」
「ピ、ピトフーイ!」
「毒の鳥かよ……趣味が悪いぞ、もっとかわいい鳥の名前にしろよ」
「わ、分かった、それじゃあ……クックロビン!」
「クックロビン?誰が殺したクックロビンってか?微妙に縁起が悪い気もするが……
まあいいか、ピトフーイよりはマシだ、それじゃあまたな、クックロビン」
「あ、待って、ねぇ、名前!私まだ、あなたの名前を聞いてない!」
「俺か?俺の名は………」
「ハチマン?」
「ハチマンだ」
そのプレイヤーとクックロビンは同時にそう言い、
その瞬間にそのプレイヤーの顔が鮮明になった。
それはクックロビンが今すぐにでも会いたくて仕方がない者と同じ顔をしており、
その顔を見たクックロビンの頬を、一筋の涙が流れた。
「何だよお前、泣いてるのか?」
「う、うん……」
「はぁ、仕方ないな、目覚めたら二つ隣の部屋をノックしろ、それで全て解決だ」
「よく分からないけど二つ隣の部屋ね、分かった!」
「それじゃあALOで待ってるぞ、この階段を上った所はもうSAOじゃないからな」
「そ、そうなの?この上はALOなの?」
「そうだ、そこじゃあ命の危険はまったく無いから、
その事をきちんと覚悟した上で来るんだぞ」
その今までの自分の望みを全否定するような言葉に、
だがピトフーイから生まれ変わったクックロビンは、即座にこう答えた。
「分かった、必ず行くね!それまで待ってて!」
「おう、天上の楽園で待ってるわ、ヴァルハラリゾートな」
「それって何?」
その質問に、ハチマンは答えようとはしなかった。そして全てが光の粒子となって消え、
クックロビンは再びピトフーイに戻り、目を覚ました。
「ピト、起きてくれ、頼むよ……」
「エム、うるさい、その名前で私を呼ぶな」
「ピト?目が覚めたのか?」
「いや、私は………まあとりあえずここではその名前でいいか、で、状況は?」
ピトフーイが何を言いかけたのかはエムには理解出来なかったが、
ピトフーイが即座に状況を把握しようとした事で、大丈夫だと確信したエムは、
今の状況を手短かにピトフーイに伝えた。
「多分私達以外は全滅です、MMTMがすぐ下に迫ってます」
「全滅?あのメンバーが本当に?」
「はい、おそらくですが」
その言葉にピトフーイは、感心したような声を上げた。
「へぇ、ダビドもやるものねぇ、こういう戦場が得意だって話は本当だったのね」
「みたいですね、で、どうします?」
「全員ぶっ殺す、その後の事はその時に考える」
「分かりました」
そしてピトフーイはエムに下がっているように指示をし、自らは鬼哭を手に取った。
「さて、ここから逆転するわよ」
「はい!」
こうしてピトフーイは無事に目覚めた。PM4の反撃が始まる。
ここでやっとクックロビンの名が出てきました。
人物紹介に乗ってからここまで長かったですね!