「あの部屋だな」
「ああ」
デヴィッドともう一人のメンバーは、部屋の中からドア越しに銃撃をくらわないように、
位置に気をつけながら三階にある唯一の部屋の入り口を観察していた。
「どうする?」
「とりあえずあの部屋の前に手榴弾を転がして、ドアを破壊する。その直後に中に飛び込む」
「了解」
そして二人は部屋の扉の前に上手く手榴弾を転がし、
その爆発によって部屋のドアを破壊する事に成功した。
「今だ、行くぞ!」
「おう!」
そして走り出したデヴィッドは、後方から何か重い物が落ちる音を聞いた。
「おい、どうした?」
だがすぐ後ろにいるはずの仲間からの答えは無い。
ここで振り向くのはその隙に正面から攻撃されるリスクがあるのは確かだが、
さりとてこのまま後方を確認しないで前に進むのはリスクが大きすぎる。
そう判断したデヴィッドは、恐る恐る振り向いた。
「う、うわっ!」
そこには首の無い仲間の死体がそのまま立っており、デヴィッドはその惨状を見て、
思わず腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
「い、一体何が……」
そしてデヴィッドは見た。
丁度仲間の首の高さに、壁から一本の赤い棒のような物が延びている事を。
「ま、まさか……」
デヴィッドはそう言って慌てて立ち上がり、体制を低くして部屋の入り口へと走った。
その頭上を、再び壁から現れた、赤い棒のような物が掠めた。
「くっ……」
そして部屋の入り口に到達しようとした瞬間に、
デヴィッドの目の前に、三度目の赤い棒が立ちはだかり、
デヴィッドは慌ててその場で急停止した。
「あら、よく止まったわね」
「ピトフーイ……それにそれは確か、鬼哭!」
「よく知ってるわねぇ、正解、それじゃあいくわよん」
「くっ……させるか!」
そしてデヴィッドの頭に、ピトフーイは容赦なく鬼哭の刃を振り下ろそうとしたが、
デヴィッドは慌ててその手を掴み、その身が両断されないように、辛うじて防いだ。
だがこの体制はまずい、どう考えても残るエムに攻撃される事は防げないのだ。
事実エムは動こうとしたが、そんなエムにピトフーイは言った。
「エム、LFKYが来るかもしれない、外を警戒してて」
「分かりました」
「なっ……なめやがって!」
「なめてないわよ、だってこの状況は、私にとっては特に問題ないもの」
ピトフーイはそう言って、鬼哭の取っ手を何か操作するような動きを見せた。
その瞬間に鬼哭の刀身が徐々に縮まっていくのが見え、
デヴィッドはそれがどういう事なのか理解し、絶叫した。
「ま、まさか!やめろ、おいやめろって!」
「どうしてやめないといけないの?」
「く、くそっ……何か打つ手は……」
滅多に使う事は無いが、輝光剣にとある機能があるのを覚えているだろうか。
それは刀身を柄から出し、上下逆にするという機能だ。
それがこの状況で今、存分にその力を発揮しようとしていた。
ピトフーイがじりじりとダイヤルを回す度に、
刀身が短くなる代わりに、その柄からもう一つの刃が伸びてきているのだ。
そのもう一つの刃が今まさに、デヴィッドの額に届こうとしていた。
「さて、覚悟はいいかしらね?」
「くっ……」
その時デヴィッドの持つ通信機が鳴った。
「デヴィッド、やっと回復した、今から二人で上に向かう、待っててくれ!」
その言葉が聞こえたのか、さすがのピトフーイも身を固くした。
この状況で敵の援軍が現れたら、逆にピトフーイが蜂の巣にされるからだ。
「形勢逆転だな!」
「確かにそうね、さてどうしよっかなぁ……」
その瞬間に階下から銃声が聞こえた。
「な、何だ?」
デヴィッドは状況が分からない為焦ったようにそう言ったが、
ピトフーイはそれを聞いて何かが分かったのか、ぼそっと呟いた。
「へぇ、やるじゃない」
「な、何がだ!」
「さぁて、何かしらねぇ?」
そしてピトフーイは、鬼哭を握る手に力を込め、刃を逆に伸ばす事に全精力を傾け始めた。
「なっ……お前、こっちの援軍が来るのが怖くないのか?」
「別にぃ?」
「そ、そんな強がりを……」
そしてすぐ近くの階段から足音がし、デヴィッドは期待するようにそちらに目を向けた。
だがそこに立っていたのは、MMTMのメンバーではなかった。
「間に合ったかい?」
「ええ、最高のタイミングだったわ、ゼクシード」
「ゼ、ゼクシード、お前は死んだはずじゃ……」
「死亡マーカーくらいは確認しなよ、これは君のミスが招いた結果さ」
そのデヴィッドの言葉にゼクシードは肩を竦めながらそう言った。
「確かに危なかったけどね、君の仲間さ、
ちょっと切り札を見せるのが早かったんじゃないかな?
あんまり早くに胴に巻きつけた手榴弾を見せ付けてくるもんだから、
思わず彼を蹴りつけて、その反動で窓から外に飛び降りちゃったよ。
まあ爆発と同時にそれをやったから、両足を吹っ飛ばされちゃって、
ここにこうして戻ってくるまでにちょっと時間がかかっちゃったんだけどね」
「そ、そんな馬鹿な……」
「なぁデヴィッド、見た物を信じないってのは、さすがにどうかと思うよ、
ところでピト、遠くに砂煙が見えたから、多分そろそろLFKYが来ると思うんだよね、
早くデヴィッドを楽にしてあげないと」
「あらそうなんだ、分かったわ、それじゃあダビド、さようなら」
「く、くそおおおおお!」
そして鬼哭の刃は完全に逆方向に伸びきり、デヴィッドはそのまま体を貫かれ、絶命した。
「しかしよく僕がここに向かってるって分かったよね、
ピトは千里眼でも持ってるのかい?」
ゼクシードは面白そうにそうピトフーイに尋ねた。
それに対するピトフーイの答えはこうだった。
「ううん、ゼクシードの銃ってば、結構特徴的な音がするじゃない。
だからそれで誰が発砲したのか分かったんだよね」
「なるほど、そういう事だったのか、納得したよ」
そしてエムが、部屋の中から二人に声をかけてきた。
「ピト、LFKYが来たぞ。ゼクシードさん、お疲れ様でした」
「あれ、君も驚かないんだね、君も音で判断した口?」
「はい、前にシャナさんに、その辺りはかなり叩きこまれたんで」
「なるほどねぇ、シャナの奴って、案外そういうとこ、細かいよね」
その言葉にピトフーイとエムは苦笑し、そして三人はベランダに出て、
こちらに迫ってくる二組の集団をじっと見つめた。
「あのハンヴィーはLFKYだね、そしてもう一組は……
これは驚いた、SHINCとLFKYは組んでたのか、
こっちは三人、あっちは……八人か、さて、この状況でどうする?」
「さて、どうしようかしらね」
少し迷ったようなそぶりを見せたピトフーイに、
ゼクシードはいきなりその手に持った銃を突きつけた。
「………どういうつもり?」
「見た通りさ、ごめんね、これも仕事さ」
「仕事?これが?」
「ああ、君とエム、そしてレンちゃんとフカ次郎ちゃんを、
二対二で戦わせるってのが僕の仕事さ」
「そう、そういう事だったんだ、ゼクシードが私に味方するなんておかしいと思った」
「いやね、他の敵が生き残ってたら、もう少し一緒に戦うつもりだったんだけど、
今生き残っているのはここにいる三組だけみたいだからね、
演技はここまでにして、さっさと君を救うという本来の目的の為に動こうと思ってさ」
「私を………救う?そう、エム、あんたが裏切ったのね」
その言葉にエムは身を固くしたが、
エムにとっては驚いた事に、ピトフーイはそれほど怒っていないように見えた。
そしてピトフーイは、二人に向かってこう言った。
「実はもう、死ぬのはやめにしたのよね」
「そ、そうなんですか?」
「そうなのかい?それならこれで僕の仕事は終わりだね。
でも君が簡単に考えを変えるなんて、一体何があったんだい?」
そのゼクシードの言葉に、ピトフーイは穏やかな表情で言った。
「夢の中で、シャナに説教されちゃった、えへっ」
「夢の中で、ねぇ……それで君は納得出来たのかい?」
「うん、凄く納得出来た」
「そうか、それは良かったよ。君がいないと、正直僕も少しつまらないからね」
「あら、意外ね」
「そうかな、まあそうかもしれないね」
ゼクシードはそう言うと、改まった口調で次にこう言った。
「ところで君はさっき、エムが裏切ったって言ったけど、
君に死んでほしくないと彼が考えて動いた事って、本当に裏切りなのかな?」
「…………」
その言葉にピトフーイはしばらく無言だったが、やがてその重い口を開いた。
「そうね、裏切ってなんかないわね」
「だろう?勘違いしてたみたいだけど、やっぱり違うよね」
「ええ」
そしてピトフーイはエムにこう言った。
「エム、これからも私が間違ってると思った時は、気にせず自分の思うままに動きなさい」
「は、はい」
「よろしい、それじゃあレンちゃんとの決着をつけましょうか、
エム、絶対に本気でやるのよ、手加減は許さないわ」
「分かりました、全力でやります」
その二人の様子を見て、ゼクシードは拍手をした。
「頑張ってね二人とも、もし二人が勝ったら、僕も優勝賞金がもらえるはずだからね」
「あはははは、そういうところ、抜け目ないよね、ゼクシードは。
で、これからゼクシードはどうするの?」
「決まってるだろ、闇風君にもう一度挑戦するのさ」
その言葉にピトフーイは目を見開いた。
「やっぱり負けず嫌いなのね」
「ああ、君と一緒さ」
「違いないわね」
「それじゃあ喧嘩を吹っかけに行くとしようか」
「ええ、これが最後の戦いね」
そして生き残ったPM4の三人は、到着したレン達の前に立った。
「ピ、ピトさん、無事だったんですね、良かったぁ……」
そのレンの様子が面白かったのか、ピトフーイは思わず噴き出した。
「ぷっ、あ、あはははは、あははははははははは!」
「な、何で笑うんですか、ピトさん!」
「だってレンちゃんが、これからガチで殺し合いをしようっていう相手の事を、
本気で心配してるんだもの」
「それはそれ、これはこれです!」
「はいはい、それじゃあ存分にやり合いましょうね」
「絶対に私達が勝ちますからね!そしてピトさんには、死ぬのをやめてもらいます!」
「あ、その事だけど、私もう、死ぬのはやめたから」
「ええっ!?」
そのピトフーイの言葉に、LFKYとSHINCのメンバーは仰け反った。
「え、え、一体どんな心境の変化ですか?いや、嬉しいんですけど」
「実はさっき、軽く死にかけたんだけどさ」
「そ、そうなんですか!?うわ、危なかった……」
「実はその時、夢の中でシャナにお説教されちゃって、それで目覚めたって感じかな」
「なるほど、さすがはシャナさんですね!」
「ふふっ、そうね」
そしてピトフーイは、キリトの方に向かい、その前に立った。
「俺に何か用か?」
「ねぇキリト君」
「何だ?」
「ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「お?何かの質問か?まあ何でも聞いてくれ」
そしてピトフーイは、キリトの耳元に口を寄せ、こう囁いた。
「夢の中でハチマンに、『天上の楽園、ヴァルハラ・リゾートで待ってる』
って言われたんだけど、それって何の事か分かる?」
「………一応確認するけど、ヴァルハラ・リゾートってのが何の事か本当に知らないのか?」
「うん、全然。何かの観光地か何か?」
「そうか………」
そしてキリトは、天を仰ぎながらこう呟いた。
「さて、不思議な事もあるもんだが、ハチマン、本当に生きてるんだよな?
まさか生霊とかになってないよな?」
そしてキリトは、ピトフーイの耳元でこう囁いた。
「ヴァルハラ・リゾートってのは、ALOの俺達のギルドの名前だ、
不思議な事もあるもんだと思うが、
お前はそこの正式メンバーになる運命だったって事なんだろう」
「そ、そうなの?」
「ああ、本当に不思議だよな、運命を感じないか?」
「感じる、凄く感じる」
「だろ?」
そして最後にキリトは、ピトフーイにこう言った。
「という訳で、ハチマンには俺から話しておくよ、普通うちには簡単には入れないんだぜ?
入団おめでとう、ピトフーイ」
「クックロビン」
「ん?」
「夢の中でピトフーイって名乗ったら、ハチマンがね、
『毒の鳥かよ、名前を変えろ』って言うから、それじゃあクックロビンでって名乗ったの」
「そういう事か、オーケーだ、これから宜しくな、クックロビン」
「うん、宜しくね、キリト君」
そして二人は離れ、キリトは重々しくこう宣言した。
「SHINCのみんなには悪いが、どうやら俺も含めて出番はここまでらしい。
とりあえずこの大会に関しては、
ピトフーイとエム対レンとフカ次郎の勝負で決着をつけたいと思うが、
みんなはそれでいいか?」
「ちょっと待ってくれ、僕もお願いがある」
ここでゼクシードが前に出てそう言った。
「どうしたよゼクシード、また俺と勝負したいのか?」
その闇風の冗談に、ゼクシードは真顔でこう答えた。
「ああ、そうだ、今回の報酬はそれって事で」
「え、マジで?」
「ああ、大マジだ」
「オーケーだ、いつも通りガチでやり合おうぜ」
「ありがとう、それじゃあ行こうか」
「おう、それじゃあみんな、俺達の勝敗は、後で録画でも見てくれよな」
「勝った方も自殺するから、迎えは必要ないからね」
こうして二人は去っていき、残された者達は、苦笑するしかなかった。
「まったくあの二人は仲がいいんだか悪いんだか」
「いいに決まってますよ、ピトさん!」
「なのかなぁ?それじゃあレンちゃん、本気で決着をつけましょうか、
本当の本気でいくから覚悟しておきなさい」
「はい、宜しくお願いします!」
そんなその場の雰囲気に触発されたのか、SHINCの四人もこんな事を言い出した。
「あ、あの、キリトさん……」
「ん、どうした?」
「せっかくですし、もし良かったら、私達とガチでやりあってもらえませんか?」
「ああ、別に構わないぞ、どうせ暇だしな」
「やった!」
こうしてピトフーイ&エムvsレン&フカ次郎、闇風vsゼクシード、
そしてSHINCvsキリトという、三組の戦いが行われる事が決定した。
さて、原作と大分ズレましたが、こういう事になりました!