さて、ここからの三話がこの章最後の山場となります!
「さてレンちゃん、決着をつけましょうか」
「望むところです、絶対にピトさんを、ぎゃふんと言わせてやりますから!」
「ぎゃふんって今日日聞かないわね……」
「べ、別にいいじゃないですか!さあ、決着の時ですよ!」
レンは、ぐぬぬとなりながらもそう言い、それに対してピトフーイは、
そこに停めてあった二台のハンヴィーを見て何か思いついたのか、
ドヤ顔でレンとフカ次郎に言った。
「ねぇ二人とも、空中戦と地上戦、どっちがいい?」
「く、空中戦?」
レンはその言葉に首を傾げたが、そんなレンを制してフカ次郎がレンの前に出た。
「出展とは違うけど、ここはあえて空中戦を選択するぜ、ピトさん!」
「空中戦か、どうやらとことん決着を……って、それは地上戦の方だったかしら、
まあいいわ、それじゃあ空中戦って事にしましょう」
「おう、受けてたつぜ!」
フカ次郎とピトフーイは、そう言ってにらみ合った。
そんなフカ次郎の背中に、きょとんとしたレンがこう質問してきた。
「ねぇフカ、空中戦って何をするの?」
「おう、それはな」
そしてフカ次郎は、ドヤ顔をまったく崩さないまま、ピトフーイにこう言った。
「ピトさん、説明プリーズ!」
「フカ、もしかして意味がまったく分かってなかったの!?」
レンは頭痛をこらえるような仕草をしながらそう言い、
フカ次郎はそれでもドヤ顔を崩さず、腕組みをしながら言った。
「細けえ事はいいんだよ!こちとら江戸っ子よ!」
「いや、フカは絶対に違うよね……?」
そんな二人の掛け合いを見て笑いながら、ピトフーイはレンにこう言った。
「その前にレンちゃんかフカ次郎ちゃん、ハンヴィーの運転は出来る?」
「あたぼうよ、こちとら江戸っ子よ!」
「フカ、そのネタはもういいから!」
「マニュアルだけど大丈夫?」
「問題ない、むしろ得意だぜ!雪国で培った、凍った路面をドリフトする技、見せてやる!」
「ちょ、フカ!そんな危ない事はしちゃ駄目!」
「お、おう……」
フカ次郎はレンに本気でそう怒られ、肩を竦めながらこう言った。
「冗談、冗談だって相棒、もしそんな事になったら、
コントロールがきかなくて路肩に激突しちまうよ!」
「まったくもう、本当にやってるんじゃないかって、本気で心配したんだからね」
「お、おう、すまねえ、私の体をそんなに……」
神妙にそう言うフカ次郎の言葉を遮り、レンは続けてこう言った。
「フカの頭の具合を」
「心配してたのそっちかよ!」
「ねぇ、その漫才、確かに面白いんだけど、まだ続くの?」
いつの間に移動したのか、ピトフーイがハンヴィーのルーフから顔を覗かせながら言った。
運転席では既にエムがスタイバイしているようだ。
「い、いつの間に!?」
「こちとら江戸っ子よ、気が短いんでい!」
「あっ、私のネタをパクられた!」
「ふふん」
「そのピトさんのドヤ顔がむかつく!レン、こっちも行くよ!」
「了解!」
二人はそう言って、もう一台のハンヴィーに乗り込んだ。
そしてレンがルーフから顔を出し、ピトフーイに言った。
「どっちが勝っても恨みっこなしですからね!」
「いいわよ、何なら何か賭けましょうか?」
「いいですよ、負けた方が勝った方の言う事を一つ聞くって事でどうですか?」
「えっ、それでいいの?」
「もちろんです!」
「そう、それはごちそうさま!」
そう言ってピトフーイは、じっとレンを見ながら舌なめずりをした。
それを見たレンは、一般人の感覚でこう言った。
「分かりました、負けた方がご飯を奢れとピトさんは言いたいんですね?」
「いいえ?私が食べたいのはレンちゃんだけど?」
「ん?」
レンはその言葉の意味が分からなかったのだが、
多分自分の聞き間違いだろうと思い、ピトフーイにこう答えた。
「分かってますよ、私と一緒に食べましょう!」
「ええ、一緒にね」
そう言いながらピトフーイは人差し指をクイックイッと前方に曲げ、
ついてこいという風に先にハンヴィーをスタートさせた。
「フカ、こっちも行こう」
「おう、それにしてもレン、勝負の景品に自らの貞操を差し出すなんて、
絶対に負けられないって自分を追い込んだんだな。
というかレンは男も女もいける口だったのか?それなら今度試しに私とも……」
「はぁ?いきなり何を訳の分からない事を……」
「だってさっきピトさんが言ったのってそういう意味だろ?
レンを食べたいって、つまりそういう事だよな?」
「えっ?さっきのってまさか、性的な意味で……?」
「うん、性的な意味で」
「私、やらかしちゃった?」
「うん、貞操的な意味で」
「ええええええええええええええ!?」
「あ、意味が分かってなかったんだ……」
フカ次郎はやれやれという口調でそう言った。
「え?え?ピトさんってもしかしてそっち系の人?」
「両刀なんじゃね?」
「そ、そんな、私の初めてはシャナに………あっ」
その言葉にフカ次郎はニヤリとしながら言った。
「へぇ……?高校の時は男嫌いだったレンも、やっとそういう事が言えるようになったかぁ」
「い、今のは違うから、気のせい、気のせいだから!」
「ふ~ん?まあこの勝負に勝てば何も問題ないんだから、気にしなくても別に良くね?」
「そ、そうだよね、うん、その通り!よ~し、燃えてきたああああ!」
レンはそう気合いを入れ、丁度その時前方のハンヴィーが止まり、
ピトフーイが身振り手振りで何かを伝えようとしてきた為、
フカ次郎もルーフから体を出し、単眼鏡でそちらを覗きながら言った。
「おう、燃えてきたぜ!レンの貞操を守る為に、死ぬ気でいくぜ!」
「あ、ありがとう……でもそういう事は小さな声でね……」
「そしていざその時が来たら、レンと一緒に私も同席しますから、
二人纏めてお願いしますね、リーダー!」
「い、いきなり何言ってるの!?」
「親友だろ?ケチケチすんなって、心が狭いぞレン」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「よし、配置につくぞレン、切り替えろ」
「あっ、う、うん!」
その時ピトフーイとゼスチャーでやりとりしていたフカ次郎が、鋭い声でそう言った。
そして二台のハンヴィーは距離を開け、正面から向かい合うような形をとった。
「さて、そろそろ開始の合図が来る頃かな」
「了解、絶対に勝とうねフカ」
「当然、そしてリーダーに頭を撫でてもらう!ついでに胸とかも!」
「それは無理じゃないかなぁ……」
闇風とゼクシードの戦いが終わった後、シャナはぼそっとこう呟いた。
「今回はゼクシードが上手くやったな、本人は納得してないみたいだが……」
「何でそこ?って思ったけど、闇風君は引き寄せられるようにそっちに行っちゃったね」
「よっぽど闇風の動きを研究したんだろうなぁ……」
「ゼクシードさん、そういう細かいところに結構拘るからね」
「私達も、色々と聞かれたりするもんね」
ユッコとハルカも、さもありなんという風にその言葉に同意した。
「で、キリトとSHINCの戦いだが………」
「相変わらずだよね……」
「キリト君は、何であんな事が出来るのかしらね……」
「いくらバレットラインがあるからって言ってもなぁ……」
そして銃士Xが、ぼそっとこう言った。
「うちの副長は全員色々とおかしい」
「ちょっとイクス、それって絶対に私も入ってるよね!?」
「でも一番おかしいのはリーダー」
「だ、だよね、うん、比べたら私なんかぜんぜん普通だよね」
「おいシズカ、ナチュラルに俺に精神攻撃を加えるのはやめてくれ」
「あっ、ご、ごめん、もちろん冗談だからね?」
シズカは慌ててそう言ったが、その言葉にはシャナ以外の全員がうんうんと頷いていた。
「さ、さて、そろそろ本番だな」
シャナはその頷きを完全にスルーし、画面を見ながら言った。
「だね、移動の分、開始の時刻が他の戦いよりも遅くなったね」
「見ている方にしちゃ、その方が有難いけどな」
そんなシャナに、銃士Xがこんな質問をしてきた。
「シャナ様、ピト達は出発前に何の話を?」
「ああ、何か勝負の条件について話してたみたいだな、
何でも負けた方が勝った方の言う事を一つ聞くらしい」
「えっ?本気?」
「あのピト相手にそんな条件を出すなんて……」
「レンちゃんの貞操が危ない!?」
自分が説明する必要もなく、三人が正解を言い当てたので、
シャナは普段ピトフーイがどう思われているのか、改めて実感した。
そんなシャナの目の前で、レンとフカ次郎が不穏な言葉を発し、
当然シャナはそれをスルーした。
(香蓮も美優も、そういう事を口に出して言うんじゃねえっての……
いくら明日奈がそういう事に心が広いって言っても、たまに反動があるんだからな)
明日奈が妙に甘えてくる時があったり、あまり人には言えない場所で、
ずっと離れてくれない事があるのを八幡はその反動だと考えていた。
(全て終わったら、久々に二人でゆっくりするかな)
そんな事を考えながら、八幡はシャナとしての役割に意識を戻し、画面に目を向けた。
「ねえ、今二人は何を?」
「お、おう、レンの貞操を守る為に頑張ろうってさ」
「あ、やっと意味を理解したんだ」
「らしいな、お、戦いが始まるぞ」
「本当だ、ピトが信号弾を上げるみたいだね」
そして一同の目の前で、ピトフーイが空中に向けて信号弾を撃ち、
二台のハンヴィーはお互いに向け、蛇行しながら一斉に走り出した。
一方レン達の下に向かっていたキリトも、
その信号弾で位置が分かったのか、その場所へと方向を変え、
戦いを見物するのに丁度いい高台を見つけ、その上にヒラリと飛び乗った。
だがそんなキリトの目に、二台の姿はまったく見えなかった。
「こ、これは……スモーク・グレネードって奴か?しかもこの色は……考えたな、二人とも」
その言葉通り、辺り一面は、濛々と立ちこめるピンクの煙に包まれていたのだった。