ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第592話 前座の戦い

 その後に行われたどの戦いも、正直それ単独で客が呼べる程の対戦カードであるが、

そのうち闇風とゼクシードの戦いについては、後に録画を見た者達も、

『あの二人、仲がいいよね』程度の感想くらいしか述べる事はなかった。

二人の戦いは激戦だったのだが、実はこの二人、一対一の戦いを何度も繰り広げており、

そのせいか、微妙に観戦者達も、いつもの事かと慣れてきてしまっているのだった。

ここまでの成績は闇風の四勝二敗、ゼクシードとしてはこのままズルズルといかないように、

この辺りで一矢報いて連勝の流れに乗りたいところであった。

 

「いくぞごるぁ!」

「こちらもいくよ」

 

 闇風はいきなり全力疾走で、的を絞らせないように無秩序に動きながら、

徐々にゼクシードに接近していった。しかしゼクシードはGGO随一の努力の男である。

何だかんだ叩かれはするが、データから敵の攻略法を導き出すその手腕は、

豊富な知識量とも相まって、おそらくGGOでもトップスリーに入る。

そしてその攻略法に基づいた動きを何度も反復練習するだけの勤勉さも持ち合わせていた。

ちなみに他の二人はシャナとニャンゴローであるが、

その二人と並び称される時点で、ゼクシードの能力の高さが伺えようというものだ。

ゼクシードは闇風が映っている膨大な数の動画を研究し、

~~これは闇風が古参である故に、ネットにかなりの数がアップされているのだ~~

その移動パターンをいくつか把握していた。これはゼクシードにとっては実は誤算である。

基本デジタルな感覚を持つゼクシードは、闇風の移動パターンは、

突き詰めればいくつかのパターンの組み合わせに集約されると予想していた。

だが研究してみると、パターンと呼べるものは数える程しか無く、

しかも同じ動き出しからそのパターンに突入する割合は、半々程度でしかなかったのだ。

ゼクシードはいずれ闇風を完璧に攻略してやると心に誓いながらも、

今日の戦いについては、五十パーセントの確率に賭ける事しか出来なかった。

 

「これだから感覚派は……」

 

 ゼクシードはそう呟きながら、闇風の攻撃を防具の性能にも助けられながらしっかり防ぎ、

急所だけは確実にガードしつつ、闇風が自分の知っている行動パターンをとるのを、

今か今かと待ち構えていた。

 

「ここだ!」

 

 ゼクシードは闇風が、自分の知るパターンに符号する動きをした瞬間に、

練習通りの地点に向けて銃撃を開始した。本人には不本意だろうがこれはまさに賭けであり、

それは見ている者からしたら、見当違いの方向に攻撃しているように見えた事だろう。

だがその地点に吸い込まれるように闇風が自ら動き、

火線の中にその身を晒すに至って、他ならぬ闇風自身が驚愕した。

 

「うお、何で俺はこんな………ぐあっ!」

「今回は僕の勝ちだね、もっとも運任せみたいであまりいい気はしないんだけど、

それでも勝ちは勝ちだ」

「あ~くそ、今回は大人しく負けておいてやるぜ!約束通り今日は俺の奢りだ!」

 

 闇風はそう言ってそのまま死体となり、ゼクシードはその隣にへたり込んだ。

 

「はぁ……君には分からなかっただろうけど、今回は恐ろしく神経を使ったよ、

集中しすぎてもう足がガクガクだね」

 

 見ている者にとっては勝負は一瞬に見えたかもしれないが、

強者同士の戦いとは得てしてこういうものである。

決着に至るまでの過程においては凄まじい主導権争いがあり、

そこにはとんでもない量の集中力が要求される。

それこそ今のゼクシードのように、立っているのも辛い程に。

 

「それじゃあ全てが終わった後、いつもの店でね」

 

 そう言ってゼクシードは自分で自分の頭を撃ち抜いた。

その顔は、とても満ち足りたものだった。

 

 

 

「よし、いつでもいいぞ、エヴァ」

「それじゃあお言葉に甘えて………お前ら行くぞ、とにかく頑張れ!」

 

 キリトに促され、エヴァは仲間達にそう声をかけたが、

その内容があまりにもアレだった為、生き残った三人のメンバーは、

エヴァに対して口々に苦情を言った。

 

「いや、まあ頑張るつもりだけどさ?」

「ねぇボス、もっと具体的な指示とかはないわけ?」

「頑張れ、とだけ言われてどうしろと……」

 

 その三人に、エヴァも負けじとこう言い返した。

 

「仕方ねえだろ、どんなに奇策を練って攻撃しても、弾を全部撃ち落されちまうんだぞ、

それなら下手に作戦を考えるより、勢いに任せてとにかく押すしかねえだろうが!」

「まあそうだけど、そうだけどさ!」

「こうなったらとにかく飽和攻撃?」

「でもキリトさん、マシンガンの攻撃とか全部撃ち落してなかった?」

「してたしてた、正直人間をやめちゃってるんじゃないかって思ったよね」

「お~いお前ら、全部聞こえてるからな」

 

 キリトが呆れたようにそう声をかけてきた瞬間、

四人はビクッと背筋を伸ばし、キリトの方に向かって愛想笑いをすると、

そのまま円陣を組んで対キリトに一番有効な戦法は何かを相談し始めた。

 

「私は飽和攻撃に一票です!」

「まあそれしかないか……デグチャレフが完璧に役立たずだし」

「相手はシノンさんのヘカートIIの攻撃も軽々と叩き落す人だからね……」

「そもそもこうやって顔を合わせて正面からぶつかるってのが不利すぎるんだよ!

バレットラインが最初から丸見えで、奇襲の余地がまったく無いじゃんよ!」

「まあ負けてもともと、この戦いから何か一つでも学べれば、それでいいんじゃない?」

「そうそう、もう胸を借りるつもりで、とにかく攻撃攻撃、でいいんじゃないかな?」

「でもそれで何か学べる事があるのかと言われると、絶対に無いよね……」

「まああれだ、近接戦闘を挑んでくる敵に対処する練習って事で」

「それくらいしかないなぁ……よし、やろう!」

 

 そして四人は立ち上がり、同時にコンソールを操作し、

とにかく手数の多い武器を取り出し、一斉にキリトに向かって銃を構えた。

 

「準備は終わったか?」

「はい、駄目元で飽和攻撃をかけさせてもらいます!」

「いや、方向性はそれでいいと思うぞ、

さすがの俺も、一刀で全部の攻撃を防ぐのは無理かもしれないからな」

「そうなんですか!?」

「勝機来た~?」

「お前達、迷ってる暇はないよ、撃て、撃て!」

 

 そのエヴァの掛け声と共に、

SHINCの四人はキリトに向けてフルオート射撃を開始した。

キリトは平然とその弾を全て撃ち落としていたが、四人が交代ぎみに弾込めをし、

切れ目なく銃撃を加えてくる事に辟易したのだろう、

いつの間にか左腰に下げていた筒のような物を左手に持ち、そのスイッチを入れた。

 

「えっ?」

「嘘ぉ!?」

「な、何で?」

 

 その手には、二本目の黒剣が握られていた。その名をアハトレフトという。

 

「あの野郎、自分の装備を持ちにいくついでに俺のロッカーを漁りやがったな」

 

 モニターの画面を見ていたシャナが、ぼそりとそう呟いた。

その言葉が聞こえた訳ではないだろうが、キリトが激しく動き続けながらこう言った。

 

「悪いな、こういうこともあろうかと、事前に借りておいたんだよ。

まあそもそもの目的はレンちゃんのサポートの為だから、無断借用も特に問題ないだろ」

「に、二刀流……?」

「そんな事ぶっつけ本番で出来るの?」

「ぶっつけ本番?何を言ってるのか分からないが、俺はこっちが本職だ」

「えっ?」

「って事は、今までGGOでは全力でやってなかったって事?」

「いやいや、もちろん全力でやってたさ、ただこっちの方が手数が増えるだけだ」

「手数……」

 

 その言葉に嫌な予感がしたのだろう、切れ目なく銃撃を加える事で、

攻撃が当たらないまでも、キリトが前に出辛そうにしている事で、

このままならいけるかもと僅かな希望を抱いていた四人にとって、

その言葉は冷静さを失わせるのに十分だった。

 

「う、撃て、撃て!」

「やばい、このままだと絶対にやばいから!」

 

 四人は焦ったようにそのまま銃の乱射を続けたが、予想外な事に、

キリトはたった今見せ付けるように取り出したアハトレフトを使おうとはせず、

エリュシデータのみで攻撃を凌ぎ続けた。

 

「あ、あれ?」

「使ってこない?」

「もしかしてハッタリだった?」

「ば、馬鹿、お前ら気を抜くな!」

 

 仲間達の若干弛緩した表情を見てエヴァはまずいと思い、気合いを入れようとそう叫んだ。

だがその隙を見逃さず、キリトはいきなりアハトレフトを四人に向け、

その『刀身』を、敵目掛けて連続で四発発射した。

銃による射撃は苦手だが、剣による射撃はこの上なく正確なのが実にキリトらしい。

そして黒い光が自分の顔面に迫ってくるのを見て、四人は絶叫した。

 

「う、うおおおお!」

「ダメージはほとんど無いと分かってても、これは怖い!」

「きゃあああ!」

「い、いかん、来るぞ!」

「ブレイクダウン・タイフォーン……もどき!」

 

 その瞬間に、一気に距離を詰めたキリトにより、エヴァの銃を持つ手は斬り落とされた。

 

 ブンッ!

 

 という音と共に、自分の腕が落ちるのを見たエヴァは、

そのあまりの速さに何が起こったのか理解出来ず、

既に無い腕に向かって引き金を引く指令を脳から出し続けたが、当然何も起こらない。

 

 ブンッ、ブブンッ!

 

 直後にトーマ、ターニャ、アンナの三人の腕も斬り落とされ、

四人は呆然とその場にへたり込んだ。

 

「終わりだな」

「くそっ……」

「うぐ……」

「く、悔しい……」

「簡単に制圧されました!」

「いやいや、簡単じゃなかったぞ。二刀を使う羽目になっちまったしな。

実に動きにくいところに的確に攻撃してきていたし、いい腕をしているな、四人とも」

 

 キリトのその言葉に、四人は感動したような面持ちで頷いた。

外見はごついが、中身はまだ花の女子高生である。こういった場面では微妙にちょろい。

 

「さて、これで決着でいいか?俺はこのまま他の試合観戦に行くが、お前らはどうする?」

「下手に何かあって最後まで残っちゃっても困りますし、

試合に興味はありますが、ここでリザインしておきます」

「キリトさん、また戦って下さいね!出来れば六人で!」

「六人に一斉攻撃をされるのはちょっとつらいかもしれないな、

それならこっちはシャナを助っ人に呼んでもいいか?」

 

 その言葉に四人は目を輝かせながら言った。

 

「「「「願ってもないです!」」」」

「そ、そうか、それじゃあまたな」

「はい、またです!」

「シャナさんにも宜しくお伝え下さい!」

「キリトさん、今度リアルで遊びに行きましょうね!」

「今日はありがとうございました!」

 

 キリトはそれならと頷き、SHINCは素の口調でそう言うと、

順にリザインし、一人、また一人と退場していった。

 

「さて、あっちはどうなったかな」

 

 キリトはそう呟くと、駆け足でレン達が戦っているであろう戦場へと向かった。




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