「ピンクのスモーク・グレネード?イコマ作か?」
「色をつけるくらいなら、イコマ君じゃなくても出来るんじゃないかな?」
「確かにな、しかしよくあんな事を考えつくもんだ、師匠が優秀なんだろうな」
「何故そこで自分を持ち上げたの!?」
「シャナ様、かわいい……」
そんな漫才のようなやり取りが行われる中、
シャナ達はレンとピトフーイの決戦を興味深そうに観戦していた。
「しかし空中戦とはよく言ったもんだ」
「ALOだと空中戦ってそのままの意味なんだけどね」
「さて、どうなる事やら」
そしてレンがやった事を見て、シャナは思わず変な声を出した。
「ふひっ……」
「ど、どうしたの?」
「いや、空中戦と言いつついきなり車を潰しにいくとは、
レンもえげつないなって思ってな」
「まあでも、これで圧倒的有利に……って、えええええええ?」
「ピトも中々やるな、確かに鬼哭なら、走ってくる車の前に刀身を差し出すだけで、
車を破壊する事が可能だからな」
「あれって本当にえげつない武器だよね……」
そしてエム達が先に体制を整え、フカ次郎がピンチに陥った瞬間に、
フカ次郎は空に向け、スモーク・グレネードを放った。
「お?」
「今のは自分の判断か?いや、違うな、レンが戻ってきたんだな」
シャナはスモークの色がピンクだった為、そう判断したようだ。
「お、レンの奴、百歩とか言ってるぞ、
このままうちに入っても、斥候としてやっていけそうだな」
「距離感はどうなのかな?」
「さあな、でもまあドームで散々体験したんだ、そうデタラメでもないだろうよ」
そしてエムが死亡し、レンとフカ次郎が上手い事合流したのを見て、
ロザリアがシャナにこう尋ねてきた。
「これで決まり?」
「そうだな、でもピトの奴は絶対に諦めるはずがないしなぁ」
「でもピトの移動速度じゃこの隙を突くのは無理じゃない?」
「だな、早めに引き返してこないと無理だな、
でもそれだと爆発に多少なりとも巻き込まれる事に……っておい、無茶しやがる……」
「ピトの腕が一本無いね」
「よくあの中に突っ込んできたわね」
「フカ、油断しすぎだね」
「後で説教だな」
そして場面は現在へと繋がる。
「フカ!」
「あ~ら、他人の心配?」
ピトフーイはフカ次郎が倒れたのを見て、即座にレンに向けて鬼哭を振るった。
どうやらフカ次郎にトドメを刺すのは後にして、
先にレンの戦闘力を奪う事を優先させえる事にしたようだ。
「ピトさん、まさかこんなに早く……?くっ!」
レンは咄嗟にピーちゃんを前に出し、その攻撃を辛うじて避けたが、
そのせいでピーちゃんは両断されてしまい、
サブ武器としての銃を持たぬレンは、銃による攻撃手段を全て失った。
そして煙が晴れ、ピトフーイがその姿を現した。
ピトフーイは何と片手を失っており、更に片目には、何かの破片が突き刺さっていた。
「ピ、ピトさん、その姿は……」
「ああこれ?さっきちょっと無理をしちゃったのよね、
煙が晴れないうちにここに来たかったから」
ピトフーイはエムが『通常弾です!』と叫んだのを聞いて、
早めに足を止め、エムから渡された盾を急所だけ守るように持ち、爆発に備えていた。
その為片手を失い、あげく立ち上がるのが早すぎた為、片目までも失ったが、
その分レン達がいる方に早く到着する事が出来たと、そういう訳だった。
「さて、形成逆転ね、レンちゃん、その体、いただきま~っす!」
「ひ、ひぃ!」
レンはその欲望に塗れたピトフーイの目を見て、尻持ちをついた。
そんなピトフーイの行動を阻む者がいた。
「待ったピトさん、レンの初めては私のモンだ、当然私が先にヤル」
「フ、フカ!ってか私の体は私の物だから!」
「へぇ、タフねぇ、コンバート組ってやっぱりやっかいね」
そう言いながらピトフーイは、目の前にあるレンの足を膝から斬り落とした。
「とりあえずこれで良しっと」
そしてピトフーイはレンを視界に入れながら、
自分の足を掴むフカ次郎に止めを刺そうとした。だがこの時ピトフーイも油断していた。
コンバート組であるフカ次郎は、筋力においてはピトフーイの上をいくのだ。
「きゃっ」
そんなピトフーイの足を、いきなりフカ次郎が引っ張り、
ピトフーイはバランスを崩してその場に倒れそうになった。
「何を……」
その瞬間にフカ次郎は真上に向け、残った左手で左子のトリガーを引いた。
どうやら避難している間に予め弾の補充をしていたらしい。
「なっ……まさか弾を装填済だったの?」
「ふふん、油断したねピトさん、
リーダーの教えに曰く、どんな時でも先を予測して、準備は怠るべからず。
ヴァルハラのメンバーをなめてもらっちゃ困るね、油断はしても、怠惰にはならない」
そのフカ次郎の口の動きを見て、シャナは思わずこう突っ込んだ。
「だから油断もすんなっつってんだよ!」
「え、いきなりどうしたの?」
「フカの奴が、油断はしても準備は怠らない風な事を言ってたから、ついな」
「ああ、今のグレネードかな?でもまあ弾の装填をしてあったのはえらいよね」
「まあな、問題は何の弾を詰めたかだが……」
その時フカ次郎がレンに向かって叫んだ。
「レン、真上だから三十秒だ、プラズマ・グレネード!」
「ええええええええええ!?それだと全員死んじゃうよ!」
「何とかお前だけでも逃げのびろ、ピトさんはここで私と相打ちになってもらう!」
「わ、分かった、何とかする!」
そしてレンは、両肘を使ってほふく前進の体制になり、
出来るだけ遠くへ移動しようと移動を開始した。
ピトフーイはそんなレンを巻き込もうと手を伸ばしたが、それは果たせなかった。
「くっ……逃がしたか……」
「ふふん、さぁピトさん、ここで一緒に死んでもらうぜ」
「さあ、それはどうかなぁ?」
そしてピトフーイは、鬼哭でフカ次郎の腕を斬り、片手で立ち上がった。
「ず、ずるいぞ!」
「予想してなかったフカちゃんが悪い」
そう言ってピトフーイはレンを追いかけようとしたが、
その瞬間にフカ次郎が、もう片方の手でピトフーイの足を掴んだ。
「させん!」
「くっ、しつこい!」
そしてピトフーイは、フカ次郎のもう一本の手を切断し、再びレンを追いかけようとした。
だがそんなピトフーイの足に、フカ次郎は今度は足を絡ませた。
「だからさせないっての!」
「このっ!」
ピトフーイは再び剣を振るったが、その時には打ち上げられたグレネードの弾は、
かなり近くまで接近してきていた。
「くそおおおおおおおおお!」
「ピトさん、女の子なんだからもっとお淑やかに悔しがりなよ」
「まだよ、まだ諦めないわ!」
着弾までは残り十秒程だろう。
レンは両足が無い為にまだここから五十メートルくらいしか離れていない。
そしてピトフーイも全力でそれを追いかけ、レンまであと数メートルの地点まで迫った。
「レンちゃん!」
「ピトさん、そのままだと死にますよ」
そしてレンは、近くに突き刺さっていた板のような物の陰に隠れた。
この場所は、先ほどレンが最初に逃げてきた場所であり、
そこにはエムの使っていた盾が突き刺さっているのだ。
「まずい、まずいまずい!」
ピトフーイは周囲をきょろきょろとし、レンがいる位置の真横の窪地でソレを見つけた。
「あった!」
「ちぇっ、見つかっちゃったか」
そしてピトフーイは、慌ててそのもう一枚の盾の影に身を潜めた。
若干レンの前にある物よりも小さいが、それでも何とか急所は守れそうだ。
二人が生き残れるかはこの距離だと賭けになるが、二人は決して諦めず、衝撃に備えた。
この位置関係だと距離は遠いとはいえ、窪地の縁の高い位置にいるレンよりも、
浅いとはいえ完全に窪地の中にいるピトフーイの方が、爆風の影響を受けにくいと思われ、
ピトフーイは一人ほくそ笑んだ。
(こっちの方が体力が残る可能性が高い、それに私には、奥の手があるしね)
「レ~ン、勝てよ~!」
身を固くするレンの耳に、そんなフカ次郎の言葉が聞こえてきた。
そしてフカ次郎の真上にプラズマ・グレネードが落下し、フカ次郎は光の中に消えた。
直後に衝撃波が二人を襲った。
「う、うおおおおおおおおおお!」
「きっつ、これきっつい!」
そして二人も光に包まれ、それを見ていたシャナ達は、
一体どうなったのかとモニターを食い入るように見つめていた。
「どっちだ……」
「もしかして二人とも死亡?」
「いや、それならキリトが生き残っているんだ、アナウンスがあって然るべきだな」
「って事は……」
「少なくともピトは生きている?」
「だろうな」
その頃になって、やっと視界が元に戻ってきた。その画面の中に二人はいた。
「あ、レンの奴、体を何かで固定しておいたんだな、
地面からワイヤーっぽいのがレンの腰に伸びてるのが見える」
「確かにさっきと同じ場所にいますね」
「ピトも窪地にいたせいか飛ばされてないね、同じ位置にいる」
「だがこの状態は……」
「うわ……」
「二人とも両腕と両足を失ったか、それに不利な位置だったせいか、
レンの方がHPが少なく見える」
「レンちゃん、あっちの窪地の方を選べば良かったのにね、先に着いてたんだから」
「大きさはレンの前にある物の方が大きいから、あるいはそれで選んだのか、
それとも他に理由があるのか……」
こうなると何も出来ないだろうと思われ、事実二人は何もせず、声をかけあった。。
「ピトさん、生きてます?」
「レンちゃん、生きてる?」
二人は同時にそう言い、笑い合った。
「これって引き分けかな?」
「今のところは同じ状態ですね」
「こうなっちゃうともう、何も出来ないわね。
仕方ない、それじゃあせめてキリト君が来るまで雑談でもしてましょうか」
「………」
そのピトフーイの提案に、レンは答えなかった。
ピトフーイはそんなレンを見て『平静を装って』尚も話しかけた。
「レンちゃん?私と雑談するのは嫌なの?」
「ううん、そうじゃないんです、ただ……」
「ただ?」
「このままだと一番最初に失った、ピトさんの腕が一番最初に復活しますよね」
その言葉にピトフーイはドキリとした。それがピトフーイの切り札だったからだ。
ピトの片腕は今回の爆発で失った訳ではなく、もっと前に失った物であり、
今回の爆風の影響は一切受けていない為、実際あと一分程で復活する。
「な、何の事かなぁ?」
「いいんですよピトさん、とぼけなくても」
そのレンの穏やかな言い方に、ひっかかる物を感じたピトフーイは、
高い所にいてよく見えないレンの様子を探ろうと、
必死に腹筋を使って頭を高い位置に持っていこうとした。
だがそんなピトフーイの努力に関係なく、レンが自ら顔を覗かせた。
その口には………何かピンのような物がくわえられていた。
「それ………何?」
「ただのピンですよ、ピトさん」
そして次にレンは顔を上下に動かし、顎を使ってピトフーイの方に何かを転がした。
「これ………何?」
「ただの手榴弾ですよ、ピトさん。一応ナイフも用意してたんですけど、
やっぱりというか、両方とも腕を持ってかれちゃったんで、こっちの出番になりました」
そしてピトフーイの目の前に、ピンの抜かれた手榴弾が転がってきた。
それを見たピトフーイは、どうにかしようともがいたが、どうしようもない。
「さ、最初からそのつもりでそこに?」
「はい、急所だけを守ると体のあちこちが失われちゃうと思ったんで、
色々準備しておいたんですよ。ピトさんの方に小さな盾を置いたんで、
ピトさんの戦闘力はほとんど奪えると確信はしてたんですけどね、
まさかこっちの戦闘力までほとんど奪われるなんて、プラズマ・グレネードをなめてました」
そのレンの説明に、ピトフーイは黙り込んだ。
「本当に手榴弾が誘爆しなくて良かったです、そうなったらこっちの負けでしたね」
「レンちゃん、参ったわ、降参。この爆発に巻き込まれないように気をつけてね」
「はい、その為にこの少し高い所を選んだので、多分大丈夫です!」
「そこまで考えてたのね、本当に参ったわ……
ちなみにもし私の腕なり足なりが残ってたらどうするつもりだったの?」
「その時は近付いてきたピトさんの欲望を利用して抱き上げでもしてもらって、
その隙に色ボケなピトさんの頚動脈を噛み切るつもりでした」
「うわ、何それ怖い!それにその言い方、言い方が!」
本気で怖がっているように見えるピトフーイに、レンは笑顔で言った。
「ふふっ、それじゃあピトさん、約束を忘れないで下さいね」
「はぁ仕方ないなぁ、何を私に命令するのか、ちゃんと考えておくのよ」
「はい、それじゃあまたです、ピトさん」
「うん、またね、レンちゃん」
そしてレンは勢いをつけて反対方向に少し転がり、直後にレンが放った手榴弾が爆発した。
そしてアナウンスが流れ、LFKYの優勝が宣言された。
『CONGRATULATIONS WINNER LFKY』
そしてピトフーイに勝利したレンを労う為に、
爆発に巻き込まれないように遠くから見守っていたキリトが姿を現し、レンに声をかけた。
「勝ったな」
「はい、今日は本当にありがとうございました!」
「早くあいつに会えるといいな、今日の事を報告しないといけないし」
「ですね!」
その機会はこの直後に訪れるのだが、
この時の二人には、当然そんな事は予想出来ないのであった。
こうして第二回スクワッド・ジャムは、LFKYの優勝で幕を閉じた。