ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第594話 スモーク!

「フカ、とりあえずすれ違って、方向転換の時に一旦ストップ、そして例の物をお願い」

「おっ、そろそろやるのか?了解了解、右太と左子の力をピトさんに見せつけてやるぜ!」

 

何度かすれ違い、お互いに決定打の無いまま、

レンとピトフーイによる銃の撃ち合いが行われた後、

二台のハンヴィーは、何度目かの銃弾の応酬をしつつも蛇行しながらすれ違った。

 

「フカ、ここ!」

「任せろ!」

 

 そして打ち合わせ通りにフカ次郎は車を止め、ルーフから体を出し、

右太と左子を天に向かって構えた。

 

「さあ、天の神々もご照覧あれ!ここからがショーの始まりだぜ!」

 

 そう叫んだフカ次郎に、レンが即座に突っ込んだ。

 

「中二がいる……」

「うるさいレン、こういう時くらいお前も私に合わせろ!」

「え~?う~ん、まあ気が向いたらね」

 

 レンはそう言って何故かハンヴィーを降りた。

 

「それじゃあ頼むぜレン、撃たれるなよ」

「うん、気をつける」

 

 そしてレンは、濛々と立ちこめる煙の中に全力で突っ込んでいった。

 

「ピトさん達が戸惑っている今のうちに!」

 

 

 

「ちょっと、何あれ?」

「スモークグレネードですね、しかもあの色は……」

「あはっ、何あのピンク、特注品?良くあったわねあんなの。あははははははは」

 

 そう大笑いするピトフーイに、エムは注意を喚起するように鋭い声で言った。

 

「ピト、笑ってる場合じゃ」

「そうね、とりあえず車を出して。最悪相手にぶつけちゃってもいいから」

「分かりました」

 

 結果的にこの一瞬の静止状態が、レンに味方する事となった。

 

 コン!

 

 スピードがまだ乗らない時点で、ハンヴィーの背後から小さな音がした。

それをピトフーイは聞き漏らさず、不思議そうな顔で後方を見たが、そこには何も見えない。

 

「ねぇエム、今後ろから何か音がしなかった?」

「僕には聞こえませんでしたが……」

「う~ん、おかしいなぁ、確かに何か聞こえた気がしたんだけど……

念のために確認してくるわ、気をつけて」

「分かりました、気をつけて下さい」

 

 そしてピトフーイは大胆にもルーフから完全に体を出し、慎重に後部へと進んでいった。

 

「確かこっちから……」

「あっ」

「えっ?」

 

 丁度その時、レンが後部からハンヴィーによじ登ってくるのが見え、

二人はバッチリと目が合った。

 

「レ、レンちゃん!?」

「やばっ」

 

 そしてレンは咄嗟に手榴弾をその場に置くと、

ハンヴィーの後部を掴んだまま地面に足をつき、足を凄い速さで動かし始めた。

そして直ぐに手を離したレンは、車とほとんど変わらない速度で走った後に、

急に横に曲がり、煙の中へと消えていった。

 

「って、ぼ~っとしてる場合じゃない!」

 

 ピトフーイはそう言って手榴弾を蹴り、手榴弾の爆発に巻き込まれる事は防がれた。

 

「あっぶな……」

 

 ピトフーイはそう言いながらハンヴィーの中に戻ろうとして、

何かに気づいたように振り返った。

 

「あれ、でも今レンちゃん、車の下から出てきたような……」

 

 そのピトフーイの推測は正しかった。

レンは煙が立ちこめる前のピトフーイのハンヴィーの位置に全速力で向かい、

まだスピードが乗らないうちに車の背後に張り付き、

作業を終えた後に顔を出した所をピトフーイに発見されたと、そういう訳なのであった。

 

「ま、まさか何か仕掛けを……」

 

 だが確認している暇はない。ピトフーイはルーフからエムにこう呼びかけた。

 

「エム、レンちゃんが何かしてた、すぐに飛び降りな!」

「り、了解!」

 

 そしてエムは扉を開け、そのまま飛び降りた。

同時にピトフーイも車の屋根から身を躍らせ、その直後にハンヴィーは少し暴走した後、

凄まじい大爆発を起こし、二人は咄嗟にエムが出した盾に身を隠し、

その爆風と、飛んでくる破片から何とか身を守る事に成功した。

 

「吸着式の時限地雷?」

「危なかったですね、よく気づいてくれました」

「ね、念のために確認して良かったわ……」

「左前方からエンジン音、来ます!」

「了解、これは仕返ししてやらないといけないわね」

 

 ピトフーイはそう言って鬼哭と血華を抜いた。

そこにレン達のハンヴィーが突っ込んできた。乗っているのはフカ次郎だけ。

そのハンヴィーは、他に攻撃手段が無い為に、二人をひき殺そうと動いたが、

位置が悪い為、二人の横をかすめるように走る事しか出来なさそうだった。

そしてエムをその場に残し、ピトフーイだけが立ち上がった。

 

「ちっ、運が悪い、助手席側か」

 

 ピトフーイはそう短く罵声を吐くと、両手の剣をいきなりハンヴィーに突き立てた。

まるでバターでも斬るかのように、ハンヴィーに二本の線が入っていく。

驚いたのはフカ次郎である、自分のすぐ左にいきなり二本の刃が突き立てられたからだ。

 

「うおおおお、やべえ!」

 

 そしてフカ次郎も、先ほどのエムと同様に扉を開け、外に身を躍らせた。

次の瞬間にハンヴィーはバランスを崩し、左後輪が吹っ飛び、

スピンしたハンヴィーは、そのままガクンと動きを止めた。

 

「くっ、さっきので仕留められなかったのか、早くレンと合流しないと……」

 

 フカ次郎は無傷らしき敵の様子に焦り、ハンヴィーの残骸の陰に隠れながら、

一刻も早くレンと合流しようと、晴れてきた煙の中をきょろきょろと見回した。

 

「くっ、どこだ……いや、いっそこっちから……」

 

 そこでフカ次郎が思いついたのは、グレネードの爆発を目印にする事だった。

 

「ピトさん達に攻撃すれば、その爆発を頼りにレンが来てくれるはず!」

 

 フカ次郎はそう考え、感覚頼りでハンヴィー越しに、

一発だけグレネードランチャーで通常弾を撃った。

 

「当たれえ!」

 

 そして数瞬後に爆発音が聞こえ、フカ次郎は思わずこう言った。

 

「やったか!?ってやばい、これって死亡フラグ……」

 

 その瞬間にフカ次郎の肩が撃ちぬかれ、フカ次郎は錐揉みしながらその場に倒れた。

 

「し、しまった、先人達の知恵を生かせなかった……」

 

 そしてフカ次郎は、何とかハンヴィーの残骸に身を潜め、

そっと銃弾が飛んできた方を伺った。

 

「あれは、エムさんか……」

 

 見るとエムが腹ばいになり、こちらに銃口を向けていた。

その周りには例の盾が並んでおり、グレネードの攻撃はそれで防いだようだ。

 

「くそぉ、万能だなあれ、私にも一つ下さい!ってかまずい、これじゃあ動けない……」

 

 この時フカ次郎はピトフーイの存在を失念していた。そのピトフーイは今まさに、

反対側からフカ次郎の目の前にあるハンヴィーの残骸の上に上ろうとしている所だった。

 

「さぁて、これで残るはレンちゃんのみかな」

 

 その言葉は少し気が早かった。ピトフーイの接近に気づかず、

今まさに死地に置かれようとしていたフカ次郎に、遠くからレンの声が届いた。

 

「フカ、スモーク!」

 

 その言葉にフカ次郎は反射的に反応し、慌てて空にスモークグレネードを放った。

 

「ちっ、先手をとられた!」

 

 ピトフーイはそう言って即座に撤退を決めた。

このままでは格好の的にされてしまう可能性が高いからだ。

そしてその声ですぐ上にピトフーイがいた事を知ったフカ次郎は、

しかしレンを信頼し、下手に動かずにその場に留まる事を決めた。

 

「レンの奴なら絶対にこの状況を何とかしてくれる、

その為には絶対にここでおかしな動きをしちゃ駄目だ」

 

 その瞬間に、フカ次郎の肩に手が置かれる感触がした。

 

「おい、遅かったな相棒、待ちくたびれたぜ。さあ、ここからは地上戦だ!」

「うん、ここで決着をつけよう」

 

 そしてレンは、大きく息を吸い込みながらいきなり叫んだ。

 

「ピトさあああああああああん!」

 

 その瞬間に、レンは確かにスモークの向こうから一瞬バレットラインが伸びるのを見た。

どうやら驚いたピトフーイが、一種引き金に触ってしまったらしい。

 

「フカ、この方向、距離は百歩!」

 

 目算は若干曖昧であったが、レンはドームで何度もフカ次郎の言葉を聞いており、

感覚的に百歩がどのくらいの距離になるのかは把握していた。

 

「おうよ、近いから上に向かって撃つ事になるから着弾時間に気をつけな、

いいか、十五秒だ、十五秒以内に安全圏に離脱しな」

「了解!」

 

 そしてレンは、敵を逃がさないように幅広く左右に連続した射撃を行い、

その間にフカ次郎は、右太と左子を高く掲げ、空に向けて六発のグレネード弾を打ち上げた。

 

「フカは撃ったらそのまま逃げて!」

「おう、向こうで待ってるぜ」

「うん!」

 

 そしてレンは、脳内でカウントをしながらギリギリまでその場で粘った。

一方ピトフーイとエムは、相手が何かしようとしているのは分かったが、

レン達のいる方向から断続的に弾が飛んでくる為、身動きが取れない。

 

「まずいですね、このままだと確実にやられます」

「でもレンちゃんもまだあそこに踏みとどまってるみたいだし、いいとこ共倒れ?」

「それでいいならこのままここで死にますか?」

「駄目よ、それじゃあ引き分けになっちゃうもの」

 

 ピトフーイはどうしても決着をつけたいのか、そう言った。

 

「分かりました、僕が盾になります。その間にピトは後退を」

「どうするの?」

「この盾を組み替えて立ち上がって、出来るだけ広い範囲をカバーします。

一対二の戦いになっちゃうかもしれませんが、絶対に勝って下さいよ」

「絶対とは言えないけど、ベストは尽くすわ」

「あと一応これを」

 

 エムはそう言って二枚の盾を組み合わせた物をピトフーイに渡した。

 

「それを構えて横になれば、飛んでくる破片等から身を守れるはずです」

 

 ピトフーイは黙ってそれを受け取り、そのエムの言葉に頷いた。

そしてピトフーイはエムの背後からまっすぐ後退し、

エムもレンのいると思われる方角にけん制射撃をしつつ、

絶対にピトフーイの盾になるという決意を持って、その場で踏ん張っていた。

 

「五秒!」

 

 そんな時、その言葉と共にレンからの射撃が止んだ。

 

「そうか、あと五秒の命か……」

 

 エムはそう呟いた直後に、自分の頭上にグレネード弾が振ってくるのを見た。

 

「あれは……ピト、通常弾が六発です!」

 

 それがこの大会でエムが発した最後の言葉となった。

さすがの宇宙船の装甲板で作られた盾といえども、今のエムのいる場所は着弾点に近すぎた。

そしてエムは吹き飛ばされ、そのまま死体となった。

 

 

 

「五秒!」

 

 レンはそう叫ぶと、脱兎の如く後方へと全速力で走った。

 

「五秒もあればかなりの距離が稼げるはず!」

 

 その言葉通り、レンは一気にかなりの距離を駆け抜け、その場で頭を抱えて横になった。

直後に爆発音が響き渡り、レンの近くにエムの使っていた盾のパーツが何枚か飛んできて、

そのまま地面に突き刺さった。

 

「うおっ、あ、危ない!」

 

 一歩間違えば自分も死んでいたと、レンは背筋を寒くしたが、

そんなレンの視界に、先に避難していたフカ次郎の姿がぼんやりと見えた。

地面近くの煙は少ない為、体制を低くしたせいで、その姿が見えたのだった。

そしてレンはフカ次郎の所に向かい、二人は無事に合流する事が出来た。

 

「よぉ相棒、無事に逃げられたみたいだな、ピトさん達は?」

「多分あの爆発の中心にいたと思うんだけど……あの二人は足はそんなに速くないしね」

「って事は、うちの優勝で決まりかな?いや~、終わった終わった、頑張った!」

「う~ん……」

 

 その言葉にレンは違和感を感じていた。何かが足りない、何かがおかしい。

そしてその直後にそれは起こった。

 

「アナウンスが無いんだから、まだ優勝が決まってない事くらい分からないと駄目よん」

 

 その言葉と同時に、フカ次郎の胸からいきなり見た事のある赤い棒のような物が生えた。


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