ここで一旦スクワッド・ジャムに参加していた、
他のプレイヤーの動向について話をしておこう。
『T-S』
「なぁエルビンよぉ……」
「おう……」
「ピトの奴を撃ってくれたのは良かったと思うけど、
それ以外の今回の俺達は、駄目駄目だったな……」
「だな……」
「つ~かお前が上への階段なんか見付けちまったのが悪いんだからな!」
「俺のせいかよ!エルビン、何とか言ってやってくれよ!」
「まあまあ、あの時は全員一致で決めた訳だし、
まさかあんなにも下に降りる道が見つからないなんて誰も思ってなかったんだから、
もう終わった事だと思って次からは気を付けようぜ」
「まあそうだよな……悪い、言いすぎた」
エルビンの仲裁により、この言い争いはすぐに収まった。
「問題はあれかな、あまりにもあっさりと狙撃されちまったよな俺達」
「だな」
「ああいうのに対する備えも、もうちょっとしっかりさせないとだな」
「俺達は自分で言うのもアレだけど中堅プレイヤーだ。
別に腕がそこまで悪いなんて事は無いし、実際それなりにやるっていう評価もされてるよな」
「あの時はさ、塀の上って事で完全に油断してたよな……」
「とりあえずそこから改善していこうぜ」
「だな!」
そして六人は、どうすればチームが強くなるかのアイデアを出し始めた。
「やっぱり強力な武器じゃないか?」
「例えば?」
「対物ライフルとか……」
その意見が出る事は当然と言えば当然なのだが、
それに対してエルビンは、首を傾げながら仲間達に尋ねた。
「この中で超遠距離射撃が出来る奴なんかいたっけか?」
「練習すれば誰かしらがモノになるかもしれなくね?」
「それ以前にそもそも対物ライフルの出物なんて皆無なんだから、
中距離射撃なら今でも出来るんだしそっちで良くね?」
「って事は武器は現状維持かよ……」
「それじゃあ防具だ!十狼クラスとまでは言わないけどさぁ、
せめてもうちょっと強力な防具をだな」
「それだとどのクラスだ?」
「二番手クラスだと、ゼクシードさんが装備してる防具辺りか?」
「あれって確か、二百万くらいするはずだぞ……」
その言葉に六人はため息をついた。
「武器も駄目防具も駄目、それじゃあ後は腕を磨くしかなくね?」
「それじゃあ問題の解決にはならないだろ、もうちょっとこう、
何ていうか強くなれるというか強く見えるというかだな……」
「あ、それなら全身をプロテクターでガチガチに固めてみるってのはどうだ?」
「それいいな!」
「いかにも強豪っぽいし威圧感も出るし」
「値段も手ごろ?」
「ショップに行って色々見てみようぜ!」
こうしてTーSは、統一された装備に身を包む事になったが、
他のプレイヤーからは陰で没個性だとか地味だとか散々な評価をもらう事になる。
『クラレンス』
「くそ……最初にドームなんかに入っちまったせいで、全然活躍出来なかった……
というか映像にもまったく映ってねぇ……くそっ、くそっ、次の機会があったら、
今度はもう少し見栄えのする奴と組んで、絶対に名前を売ってやる!」
こうしてクラレンスのスクワッド・ジャムは、誰にもその存在を知られないまま終わった。
『SHINC』
「ボス、さすがにちょっと休憩を入れない?」
「これ、部活の範囲を絶対超えてるよね?もうこれはブラック部活だよ!」
「うるさいお前ら、キリトさんにあんなにあっさりとやられて悔しくないのかよ!」
「え~……」
「だってあの人達は人間じゃないじゃん……人外じゃん……」
「「「「「あっ……」」」」」
その時仲間達の方からそんな声が聞こえたが、
トーマはその事には特に注意を向けなかった。そしてそんなトーマに話しかける者がいた。
「達?達って誰の事だ?」
「そりゃもちろんキリトさんとシャナさんですよぉ……」
「ほう?俺は人外か」
「当たり前じゃん、絶対に体の一部をサイボーグ化してるんだって、
そうじゃないとあんな動き、出来る訳ないって………
ってあれ、みんな何でそんな顔でこっちを見ているの?」
トーマは仲間達が全員驚いた顔をしている事に気付き、
今自分は誰と話していたのだろうと疑問に思い、何気なく顔を上げた。
そこにはシャナが満面の笑みで立っており、トーマはきょとんとした後、
大人しくその場で正座し、頭を下げた。
「今のはほんの冗談です、非は全てボスにありますので、
是非その事をご理解して頂ければと思います」
「おうそうか、エヴァ、トーマはこう言ってるみたいだが……」
シャナはその言葉を最後まで言えなかった。
直後にSHINCの全員が、シャナに飛び掛ってきたからだ。
「うおっ、お前ら何を……」
「シャナさん、無事で良かったです!」
「会いたかった、会いたかったんですよ!」
「無事だとは聞いてましたけど、やっぱり直で姿を見ないとやっぱり……」
「うわああああああん、うわあああああああああん!」
「この早さなら言える、シャナさん、大好きです!」
「お、おう悪い、心配かけたな、ってかアンナ、全部丸聞こえだから自重しような」
トーマはその光景を見ながら、一人呟いていた。
「しまった、出遅れた………」
そしてトーマは失点を取り返そうと、焦って余計な事を言った。
「シ、シャナさん、せっかくだから、ボスの代わりに私達を鍛えて下さい!」
「ん?久々に再会したんだから一緒に甘い物でもどうかと思ったんだが、
トーマがそこまで言うなら仕方ないな、よし、久々に俺がしごいてやるとするか」
「あっ………」
「「「「「………………」」」」」
この後トーマは狩りが終わった後、全員に袋叩きにされた。
スクワッド・ジャムからしばらくたった後のひとコマである。
『MMTM』
「なぁデヴィッド、俺達良くやったよな……」
「でもこんなに叩かれるのは何でなんだろうな……」
「やっぱり最初に仲間を集めちまったのがいけなかったんじゃないか?
批判の大半はそんな感じだし」
「前回もファイヤの下についちまったしな……」
MMTMのメンバーは少し落ち込んだ様子でそんな会話を交わしていた。
確かにMMTMは強豪なのだが、それは屋内限定であり、総合的な評価はあまり芳しくない。
それはひとえにMMTMが持つ、徒党を組みたがる性質によるものだった。
「仕方ないだろ、俺達は屋外戦闘は若干苦手なんだからよ……」
「その辺りももうちょっと何とかしないとまずいよなぁ」
「とりあえず、もし次があったら単独で動くのは絶対として……」
「だな、苦手だからって仲間を集めようっていう考えはもう捨てようぜ」
「おいデヴィッド、さっきからずっと黙ってるけど話をちゃんと聞いてるか?」
「俺達に足りないものって他には何があると思う?」
その問いを受け、やっとデヴィッドが顔を上げた。
だがその顔はどこか遠くを見ているようで、若干放心しているように見えた。
「お、おい……」
「………………だ」
「え?」
「カリスマの存在だ」
「カリスマ?」
デヴィッドは突然ぶつぶつとそう言い出し、他の仲間達は若干引いた。
「い、いきなり何を……」
「いいか、よく考えてみろ、シャナさん然り、キリトさん然り、
強豪と言われる人間は、ほとんどが輝光剣を持っている!
俺達だって、チームの中心に輝光剣を持っている奴がいれば、
前回の戦いでももっと目立てたし、白兵戦での選択肢も増えたはずだ!だろ?みんな!」
その剣幕に押されたのか、メンバー達はその言葉に曖昧に頷いた。
「お、おう、そうだな……」
「そ、そういう側面もあるかもな……」
そんな仲間達の姿を見てデヴィッドは満足そうに頷き、こう宣言した。
「よし、その為の素材を集めにしばらくこの木なんの木にこもるぞ!
輝光ユニットとやらを入手するまで撤退はしない!」
「えっ………」
「ま、マジで?」
「駄目だ、デヴィッドの奴壊れちまった……」
「まあ仕方ない、こっちの世界に戻ってくるまでは付き合うか……」
MMTMのメンバー達は苦笑し、デヴィッドの意向に従う事にした。
結果的にこの時努力し、ついでに経験値も相当稼いだ事によって、
MMTMは本当の意味で強豪の仲間入りを果たす事になるのだが、
それでピトフーイを倒す事が出来たかというと、結果的には不可能なのであった。
頑張れデヴィッド、負けるなデヴィッド、輝光剣を手にするその日まで!
『ZEMAL』
「ヒャッハー!撃て、撃ちまくれ!」
「ダダダダダダダダダダダ、ダ~ン!!!!!」
「やっぱりマシンガンは最高!勝敗とかどうでもいいぜ!」
『KKHC』
シャーリーこと霧島舞は、KKHCのメンバー相手に大立ち回りを繰り広げていた。
「そもそもこういう事もあるだろうって分かってて、
スクワッド・ジャムに出場したんでしょ?それを後で文句を言うなんて男らしくない」
「そ、そうは言ってもよ、あれはさすがに……」
「ああもう、誰がKKHCの名誉を守ったと思ってるのよ、
私は一人でT-Sを壊滅に追い込んだのよ、つまり今回一番活躍したのは私。
その私がチームを代表してピトフーイからの謝罪を受けて和解したの。
ぐだぐだ言ってないで、あんた達もいい加減に大人になりなさい!」
「霧島が一番年下なんだが……」
「さ、最初は霧島が一番やる気が無かったはずなのに……」
「一体何があったんだよ……」
スクワッド・ジャムが終わった後の舞の変化は劇的だった。
ピトフーイに対する愚痴をずっと言いながら、
それでもまあ良くやったと慰め合うメンバーを相手に、舞は今後は対人も積極的にやり、
その為に自分はシャナさんに色々教えてもらうと言い出し、メンバー達を仰天させた。
舞は頑なに対人プレイをする事を拒んでおり、今回の大会に参加させるだけでも、
恐ろしく苦労させられていたからだ。そんな舞が、鉄拳制裁も辞さずという強硬な姿勢で、
ピトフーイとの事を水に流すよう迫ってきた為、
大人であるKKHCの他のメンバー達は、苦笑しながらもそれを受け入れる事にした。
その数日後、舞は帯広まで遠出をしていた。
「さて、そろそろ時間だけど、どんな人が来るんだろ」
舞は現在二十四歳、自他共に認める狩りガールである。
夏はネイチャーガイド、冬はエゾシカ猟を生業としており、
それなりに他人と会話も出来る方だが、その相手は基本同年代の女性ではない。
もちろん友達とは普通に話せるが、若干人見知りなのは確かである。
だがこの時は、今後の期待に胸を膨らませ、ニヤニヤする自分を止められなかった。
その為下手なナンパ等も舞に寄って来ず、それが舞にとってはいい結果となった。
その時そんな舞に声をかけてくる者がいた、待ち合わせをしていた肉食メガネっ子である。
「すみませ~ん、もしかしてシャーリーさんですか?」
「あっ、はい、えっと、もしかしてフカ次郎さん?」
「あ、うんそうそう、私は篠原美優、宜しくね!」
「わ、私は霧島舞だよ、よ、宜しく」
二人はそう自己紹介をし、社交性の高い美優が主導権を握る事で、
二人はどんどん打ち解けていった。
「ねぇ、シャナさんってどんな人?」
「う~ん、好き好き大好き、もう私の全てをもらって!って感じ?」
「それ、凄く分かりにくい上に、具体的な事は何も言ってないよね?」
「あ、一緒に撮った写真があるよ、見る?」
「み、見る!是非見せて!」
そしてその写真を見た舞は、名前の通り舞い上がった。
「うわ、うわ、凄く格好いいね!いいなぁ、私も一緒にこんな写真を撮りたい!」
「頼めばきっと撮ってくれるよ!それにリーダーは凄くお金持ちだよ!」
「まあ正直見た目とかお金の事は別にどうでもいいんだけどね、
シャナさんって私にとっては芸能人みたいなものだから、サインも欲しいし握手もしたい!」
「舞さんって結構ミーハーなんだ……」
普段そういう事に縁遠い舞が、シャナ相手にそういう態度になるのは仕方がないだろう。
そして二人はその後、美優の見立てで舞が東京行きの時に着る服を選び、
北海道から出た事のない舞の為という名目に加え、
ピトフーイに面会するという香蓮の誘いもあり、美優がガイドを勝って出て、
二人は共に東京へと行く事が決定された。
そして後日舞が閣下の下に向かっている間、美優は香蓮と共にピトフーイに会う事になる。
これは舞と八幡を二人きりにしてあげようという美優の粋な計らいであった。
本日は二話同時に投稿されております、こちらは二話目になります、ご注意下さい!
明日が今年最後の投稿になりますが、明日でこの章は終わりとなります。
次の章は日常編から徐々に戦いの日々に突入していきますので、
年明けは特に休載とかはしない予定です。
そのうちプロットを整理する為に休む期間も出てくるかと思いますが、
なるべく短く済ませますので今後とも宜しくお願いします!