ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第596話 その可能性は否定出来ない

「ほう、そうきたか」

 

 シャナは一人感心しつつも、今のやり取りを通訳した。

 

「おお、レンちゃん凄いね、色々考えてたんだね」

「それにしても頚動脈を噛み切るつもりだったって、

レンちゃんってそんなに激しい気性だったっけ?」

「冗談かもしれないが、本気だったとしたら、

そういった気持ちを内に秘めてるって事だろうな」

「あの子は隠れ肉食系、フカよりも上」

 

 その銃士Xの言葉に、シャナは少したじろぎながらこう答えた。

 

「ま、まあピトみたいな変態じゃなければいいんじゃないか」

 

 その名前が出た事で、他の者達の顔も自然と引き締まった。

 

「それじゃあピトに制裁を加えにいきましょうか」

「おいロザリア、制裁って……」

「五体満足じゃ帰せないね」

「シズカまで……」

「シャナ様、私は拷問にも少し嗜みがあります」

「え、まじで?ってかお前ら、何でそんなに気合い入ってんの?」

 

 さすがのシャナも、その言葉には少し引きぎみになった。

もちろんこれは三人の作戦である。最初から少し過剰な事を言っておけば、

逆にシャナが遠慮して、与えられる罰が少しはマイルドになるだろうという計算だった。

 

「それじゃあ私達はここでゼクシードさんを待ってるね」

「もうすぐここに沸くはずだから」

 

 そのユッコとハルカの言葉で、シャナは二人にもお礼を言わないとと思い、

そのまま素直に二人に頭を下げた。

 

「あ、そういえばそうだな、二人とも、今日は本当に助かった、ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」

「もしあれなら、先にゼクシードさんと話してく?」

「そうだな、少しだけ感謝の気持ちを伝えておくか、

正式な感謝は、まあ後日だな、急がないとピトが落ちちまうかもしれないからな」

 

 その直後にゼクシードがその場に姿を現した。

大会が終わった為、拘束が解けたのだろう。

そしてゼクシードは、シャナ達の姿を見てきょとんとした。

 

「え、何?これってどういう状況?」

「今俺達は、無理やりアメリカからログインしていてな、

ついさっきこっちの事情を知ったところなんだよ。

本当にありがとうなゼクシード、ちゃんとしたお礼は後日きちんとさせてもらう、

今は一刻も早くピトの所に行かないといけないんでな」

「ああ、確かにそうだね。なるほど、そういう事か」

 

 その言葉にゼクシードは直ぐに納得したのか、

シャナに聞きたい事もあっただろうがそれを飲み込み、笑顔でシャナ達を送り出した。

そんなゼクシードは、一言だけシャナに言った。

 

「本当に無事で良かったよ、君と闇風君がいなくなったら張り合いが無くなっちゃうからね」

「おお、そういえば勝利おめでとうだな、次も頑張れよ」

「ああ、この調子で対戦成績を五分に戻すつもりさ」

 

 そしてシャナとゼクシードは軽くハイタッチをし、シャナ達はそのまま部屋を出ていった。

残ったユッコとハルカは、機嫌良さそうにしているゼクシードにこう声をかけた。

 

「ゼクシードさん、今回は凄い活躍でしたね」

「やれば出来るじゃないですか、本当に格好良かったですよ!」

 

 その言葉が予想外だったのか、ゼクシードは顔を赤くして俯いた。

そこには昔のように、傲慢で鼻持ちならないゼクシードの姿はない。

シャナとの出会いを通じて、一番人間的に成長したのは、おそらくゼクシードで間違いない。

 

「それじゃあゼクシードさん、酒場に行って闇風さんを待ちましょうか」

「今日はとことんつき合いますよ」

「あ、ああそうだね、先に行って待ってようか。

彼もシャナと話したい事がいくつかあるだろうから時間はあげないとね」

 

 

 

 PM4の中で、最初にシャナの姿を見つけたのはスネークであった。

スネークは部屋を出るなりシャナを見つけ、慌ててシャナに駆け寄ってきた。

 

「シ、シャナ、生きとったか!」

「閣下、この度はご心配をおかけして申し訳ありません、

この通り無事ですので、ご安心下さい」

「そうかそうか、それは本当に良かった。

うちの連中も、経済界の大物の死亡のニュースにやきもきしててな、

必死で情報収集に励んでたんだが、これでやっと調査を終えられるよ」

「政府関係者の皆さんにもとんだご迷惑を……」

「いやいや、まあこっちにはそっちにあれこれ指図する権限は無いからな、

詳しい説明は後日また頼むわ」

「はい、帰国したらこちらから出向きますね」

 

 その言葉にスネークは目をパチクリさせた。

 

「……って事はまだアメリカなのか?」

「はい、直前までちょっとドンパチやってまして、今日やっと落ち着いたので、

それでスクワッド・ジャムでも観戦しようかと思ってここに……」

「ドンパチだと?それはまさか、昨日のストラ絡みのアレか?」

 

 さすがは防衛大臣である。そういったニュースもしっかりとキャッチしていたようだ。

しかも隠れ蓑にしたアースドッグスではなくストラの名前が出てくる辺り、

中々の情報収集力だと言わざるをえない。

 

「あ、はい、生まれて初めて銃なんか撃っちゃいましたよ」

「むぅ……とりあえずそれに関する話もまた今度だな、とりあえず中に入るだろ?」

「ですね、ピトはまだ中にいますか?」

「そのはずだ、だが急いだ方がいい、あいつは気分屋だからな」

「分かりました、それじゃあ中に行きましょうか」

「おう、そうしてやんな。俺はこのままKKHCの所に行って、ここに連れてくるつもりだ。

それ絡みで急ぎの話もあるから、そっちは今日中にな」

「分かりました、宜しくお願いします」

 

 そしてシャナ達四人は部屋のドアを開けた。

入り口にギンロウがいたが、驚いて声を上げようとするギンロウを、シャナは目で制した。

 

「おいギンロウ、ピトは今どうしてる?」

「じっと壁に向かって座ってますね、まだ何も喋ってません。目も閉じてるみたいっす」

「そうか、それじゃあとっととあいつを叩いてくるか」

「お手柔らかに」

 

 二人はひそひそとそう言葉を交わし、

そしてギンロウはエムとダインにシャナの到着を密かに伝え、

驚愕する二人をよそに、四人は静かに室内に入った。

そしてシャナは、意を決してピトフーイの肩をちょんちょんと叩いた。

 

「………エム、何?今どうやってKKHCに謝罪すればいいか必死に考えてるんだから、

その邪魔をしないで」

「ほほう?ちゃんと自主的に考えてるんだな、えらいぞピト」

「当たり前じゃない、この事でシャナに嫌われたら、私生きていけないもん」

「別に嫌ってはいないが、怒ってはいるな」

「でしょ?だから必死に考えてるんじゃない、それくらい………え?」

 

 ピトフーイは何かおかしいとやっと気付いたのか、慌てて振り向いた。

そしてそこにシャナの姿を見つけた瞬間、ピトフーイは破顔し、

同時にぽろぽろと涙を流しながらシャナに抱きついた。

 

「う、うわあああああああああん!」

「うぜえ」

「だって、だって!」

「だってもクソもない、今日の途中までのアレはどういう事だ?」

「だってシャナが死んだんじゃないかって、本気で思ってたから……」

「お前さあ、その件に関しては、ロザリアがお前の家のポストに手紙を入れてあるんだが、

自分の部屋のポストくらい少しはチェックしろっての」

「えっ?本当に?」

「俺が嘘なんかつくかっての、まったくお前は……」

 

 そう言ってシャナは拳を握り、ピトフーイのこめかみをぐりぐりとした。

ちなみにGGOだと痛みが無い為、それはただの圧力によるマッサージと化してしまう事を、

シャナはすっかり失念していた。

 

「だ、駄目だってシャナ、そんな気持ちいい……」

 

 その言葉を聞いた瞬間に、シャナはズザッと後ろに下がった。

 

「こ、この変態め……」

「あ、ち、違うよ?本当に気持ちいいんだって!」

「そんな訳………あ、もしかして………」

 

 そしてシャナは黙ってピトフーイの前に頭を差し出し、

ピトフーイはそのこめかみに拳をぐりぐりした。

 

「おお……確かに」

「でしょ?」

「おう、これは俺が間違っていた……って、違う、そうじゃねえ!」

 

 シャナはすっかり和んでしまっている自分を引き締める為、

とりあえずピトフーイに正座をさせる事にし、ピトフーイも黙ってそれに従った。

 

「で、お前さ、俺がいなくなったと思って絶望するのは、

まあ俺のせいもあったから百歩譲って仕方ないとして、

その後のあの態度は何な訳?あんまりむかついたから、とりあえずお前、十狼から除名な」

「う………ごめんなさい………」

「本気で反省はしてるんだろうが、口じゃ何とでも言えるからな、

とりあえずお前はKKHCに誠意を見せろ、もうすぐここに来る予定になってるからな」

「えっ、そうなの?分かった、それまでに必死に考える……」

「言っておくが、ちゃんと謝ってもお前はしばらく除名したままにするからな、

それくらいあの行為は俺にとっては恥ずべき行為だという事を忘れるな」

「う、うん……」

 

 最初は案外問題なく話が進むかなと思っていた三人は、

シャナの態度が案外きつかった為、助け船を出すつもりでこう言った。

 

「シャナ、ちょっと生ぬるいんじゃないかな?」

「ん、そ、そうか?まあそうだな」

「ピトには地獄すら生ぬるいと思うわ」

「年がバレるぞロザリア、しかしそうか、まああれは確かにな……」

 

 ここまでの受け答えで、三人は何かおかしいと気付くべきであった、

シャナのこの三人に対する信頼は厚い為、

シャナは何となく、その言葉を肯定してしまっていたからだ。

 

「シャナ様、ここで簡単に出来て、尚且つ即効性のある拷問の方法を試してみますか?」

 

 その言葉にシャナは珍しく沈黙した。

そして予想外な事に、次にシャナがこう言った為、三人は驚愕した。

 

「そ、そうか、お前がそう提案するなら……」

 

 ちなみに三人の中で、その言葉に一番驚いたのは当の銃士Xであった。

 

(しまった、読み間違えた)

 

 銃士Xにとって、まさかシャナが自分の言葉に同意するとは予想外であった。

それが自分達に対する信頼度の高さ故だと気付いて嬉しくはあったが、

今回のそれは困り物以外の何物でもない。

 

(まずい……何か考えなきゃ……)

 

 だが銃士Xは拷問の方法に詳しいなどという事はまったく無い為、何も浮かばなかった。

 

(仕方ない、ピトを泣かせて誤魔化そう、案外上手くいくかもしれない)

 

 銃士Xはそう覚悟を決め、ピトフーイに言った。

 

「私の拷問はきついから、覚悟してねピト」

「う、うん……」

 

 三人に見放されたと感じていたピトフーイは、ビクビクしながらその言葉に頷いた。

そして銃士Xは、ピトフーイの耳元でこう囁いた。

 

「実は今回のアメリカ行きのせいで、アメリカ支社を出す事が決定し、

向こう十年はシャナ様はそこの支社長として、卒業後にすぐ赴任する事になった。

なので凄まじく忙しくなる為、ALOからもGGOからも引退する事が決まった。

当然ピトと会う時間なんかとれない、そもそも日本に帰る事はほとんど無い。

ここにいる三人はそれに付いていくから、必然的にピトとも今後は疎遠になる、

下手をするともう一生会えない、だからもうシャナ様の事は諦めた方がいい」

「え………………一生?」

「そう、一生」

「もう会えない?」

「うん、会えない、今日が最後」

 

 その言葉が脳に染み渡っていくに連れ、ピトフーイの顔は歪んでいった。

そしてピトフーイは大声を出す事もなく大粒の涙を流し始めた。

それが延々と続くに連れ、さすがのシャナも心配になったのか、銃士Xにこう尋ねた。

 

「おいマックス、これが拷問の効果か?」

「はい、これでもまだ途中です」

「まじかよ………」

 

(やばい、想像以上に効いた……早く修正しないと……

それには先にシャナ様に声をかけてもらわないと………)

 

 そして銃士Xは、密かにシズカの後ろに回り、その耳元でそっと囁いた。

 

「シャナ様に、これに懲りたらちゃんと反省しろって言ってもらって」

 

 その言葉に頷く事もなく、シズカは一歩前に進み出て、シャナに言った。

 

「シャナ、ここはキッチリ謝罪しないと絶対に許さないってピトに念押ししないとね」

「そ、そうだな、そういう事だから、とにかくどう謝罪するのかをしっかりと考えろ」

「で、でももう手遅れなん……」

「ストップです」

 

 もう別れは確定なのではという意味でそう言いかけたピトフーイの言葉を遮り、

銃士Xが再び前に出た。

 

「シャナ様、ここで仕上げを」

「わ、分かった、お前に任せる」

 

 そして銃士Xは、再びピトフーイの耳元に口を寄せ、今度はこう言った。

 

「さっきの話は実は全部嘘。そんな話は今のところはあがってない。

でもそういう未来が来ないとは誰にも言い切れない。

これからソレイユは急成長するから、似たような話が持ち上がる可能性は実はかなり高い。

だからその時に、ピトがシャナ様の傍にいて、必要としてもらえるように、

ピトは本気の本気で反省し、謝罪する方法を考えないと駄目。

そうしないとシャナ様はピトを遠ざけて、いつしかピトの事を忘れる。

だから頑張りなさいピトフーイ、いえ、神崎エルザ」

 

 その言葉でピトフーイの目に光が戻った。そしてピトフーイは銃士Xにこう聞き返した。

 

「さっきのは全部嘘?」

「ううん、可能性が否定出来ない未来の話」

「未来……じゃあまだ手遅れじゃない?」

「うん、大丈夫。私達三人もピトの味方。さっきはきつい事を言ったけど、

あれはそれでシャナ様から与えられる罰を緩和しようという作戦だった。

でもシャナ様の私達に対する信頼度が高すぎたせいで失敗した」

「信頼度………?」

「うん、ピトはまだシャナ様にとってそこまでの存在じゃないって事だから、

そこはもっと頑張ろうね」

「そっかぁ、そうだよね……」

 

 そしてピトフーイの顔つきが変わり、まるで別人のように真面目な顔になった。

 

「シャナ、私、本当に本気であの人達に謝りたい」

「おう、そうしてくれ」

「その為にまずはこうする」

 

 そしてピトフーイは何かコンソールを操作し始め、次の瞬間ピトフーイは坊主頭になった


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