ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第597話 何か素敵じゃない?

「お、お前……」

「勘違いしないでねシャナ、これはただのけじめの第一歩だから」

 

 その言葉にシャナは沈黙した、ここはあるいは笑ってもいいケースだったかもしれないが、

だがシャナは同時にこうも考えていた。

笑えるほど似合わない、そんな頭にピトフーイは自らなったのだと。

そう考えると、笑うに笑えなかった。この事は確かにシャナに衝撃を与えた。

丁度その時、スネークに連れられてシャ-リーが部屋に入室してきた。

シャーリーはシャナの姿を見て喜んだが、同時に表情を引き締めてもいた。

気持ちは分かるがあまり甘い顔をしないようにしてくれと、

事前にスネークに頼まれていたからだ。

そしてシャーリーは、内心のドキドキを抑えながらシャナに一礼し、

そのままピトフ-イの前に立った。

 

「さっきぶりね、ピトフーイ」

「うん、さっきぶり。それじゃあちょっと中央広場に移動をお願いしてもいい?」

「中央広場?」

 

 シャーリーをはじめとした一同は、ピトフーイが何を考えているのか分からなかったが、

おそらく何か考えがあるのだろうと思い、それに従った。

移動した先には野次馬達がひしめいていたが、

ピトフーイの髪型を見て、更にシャナの存在に気付くにつれ、

これから何が始まるのかを何となく悟り、その場はシンと静まり返っていった。

そしてピトフーイは綺麗な所作で正座をし、シャーリーに頭を下げた。

 

「今回は本当にご迷惑をおかけしました、不愉快な思いをさせてごめんなさい」

 

 そのあまりにも丁寧な頭の下げ方に、シャーリーは呆気にとられ、野次馬達もどよめいた。

坊主頭だったのも衝撃的だったが、シャーリーはその事を笑うつもりはまったく無かった。

同じ女なのである、ピトフーイが頭を丸めた事の重大さを、

シャーリーはシャナ以上に実感していた。

 

「ねぇピトフーイ、その頭さ……」

「うん、やっぱり誠意を見せないといけないと思って。

もし今日ここで許してもらえるとしても、当分頭はこのままにしておくつもり。

沢山のプレイヤーの笑い物になると思うけど、それくらいの事を、私はあなた達にした。

だから笑い物になる事を、私は自分への罰だと思って全て受け入れる」

「そう……」

 

 シャーリーはこの時点で、もう許してしまおうかとかなり心を揺らしたが、

そんなシャーリーに、ピトフーイは二本の剣を差し出してきた。

 

「そしてこれは、本気の謝罪の印としてお納め下さい」

 

 それは鬼哭と血華であり、さすがのシャーリーも、平然とした態度を続ける事は出来ず、

思わずあっと声を上げた。当然野次馬達も、その言葉に驚愕した様子を見せていた。

 

「で、でもこれ……」

「これを手放した後、もう私は新しく輝光剣を作る事はいたしません、

これでそちらの方々の心が休まればいいんですが、

もしまだ足りないなら何なりとお申し付け下さい、

万難を排してそれに全て答えたいと思います」

 

 ピトフーイはそう言って再び丁寧に頭を下げた。

 

「さ、さすがにそれは……」

 

 やりすぎだ、とシャナは考えたが、かといってここで余計な口を挟む事は出来ない。

これは他ならぬピトフーイ自身の決断なのだ。

ピトフーイは尚も頭を下げたままじっと動かない。

そしてシャーリーも悩んでいる様子を見せたが、やがてピトフーイにこう言った。

 

「分かったわ、そこまでされて断る事は私には出来ない、謝罪を受け入れる」

「ありがとうございます」

 

 そしてピトフーイは立ち上がり、野次馬達に向かって大きな声で言った。

 

「十狼は今は九狼に戻った、抜けるのはこの私、ピトフーイ!

今回のKKHCに関する件は、全て私の罪であり、

九狼は決してあのような卑怯な真似はしない。

だから不満や文句は全てこの私に言って欲しい、

その言葉を全て私は受け入れ、九狼の信頼を損ねた事をみんなに謝罪する」

 

 そう言ってピトフーイは、野次馬達にも丁寧に頭を下げた。

そんなピトフーイに何か言おうとする者は誰もいなかった。

それどころか温情を求めてシャナの方をチラチラと伺う者が圧倒的多数だった。

シャナはその視線に耐え切れず、困った顔でピトフーイに言った。

 

「い、一応そういう事にしておくが、別に再加入を認めないってルールは無いからな、

一ヶ月後に入団テストを行う、その条件は、一般プレイヤーに街頭アンケートをとり、

その結果、六割以上の支持を得るものとする。まあこんなところか」

 

 その言葉に、観客達はわっと沸いた。

シャーリー自身もその言葉にうんうんと頷いており、

ピトフーイの謝罪はこうして受け入れられる事となった。

 

「この度は、本当にお騒がせしました」

 

 ピトフーイは最後にそう言い、シャナ達は再び元の部屋へと戻る事になった。

丁度それと入れ違いになるようにLFKYがその場に現れ、その場はわっと沸いた。

 

「ん、何の騒ぎだ?」

 

 そしてLFKYの四人は、ついさっきまでここで何が起こっていたのかを知った。

 

「シャナさんがここに!?」

「そうか、やっぱり無事だったんだな」

「どこ?リーダーどこ?」

「まだピト達と話す事があるんだろうな、

聞いた感じだと、恐ろしく厳しい条件での自主的な謝罪だったみたいだし」

「あんまり厳しくしないでくれるといいなぁ……」

「今回はさすがに度を越えた事をしちまったみたいだから、ある程度は仕方ないだろうな。

あいつはそういうの、大嫌いだしな」

「そっかぁ……まあみんなが最後に笑えてればいいね」

「だな、とりあえずここで観客達に応えながら、あいつが出てくるのを待つか」

「は~い!」

 

 そしてLFKYは、ファンサービスと称して観客達の声援に応え始めた。

 

 

 

「はぁ……」

 

 シャナは部屋に戻ると、疲れた顔でそうため息をついた。

 

「ごめんなさい……」

 

 それを自分への非難だと思ったピトフーイは、再びシャナに謝ったが、

シャナはその謝罪をやめさせた。

 

「ん?別にお前にどうこうって事はまったく無いから、これ以上謝る必要はないぞ。

というかお前さ、今だから言うけどさすがにやりすぎ」

「うぅ……で、でも、あれくらいしないと……」

「まあでもよく自主的にあそこまで考えてやりきったな、えらいぞ」

 

 そう言ってシャナはピトフーイの頭を撫でた。

それはピトフーイが欲してやまなかった、久しぶりのシャナとの接触であった。

 

「うん、うん………」

 

 そんなピトフーイの姿を見て、シャーリーはそれがあまりにも、

自分が持つピトフーイのイメージとかけ離れている事に驚いた。

これではまるで、小さな子供のようではないか。

シャーリーはそう思い、自分の中の怒りが完全に消えた事を知った。

そしてシャーリーは、ピトフーイに鬼哭と血華を差し出しながら言った。

 

「ねぇピトフーイ、これ」

「これ?」

「あんたにあげるわ」

「ええっ!?それはさすがに受け取れないよ」

 

 そう言うピトフーイに、シャーリーはぶっきらぼうな態度でこう言った。

 

「べ、別に私の物を私がどうしようとピトフーイには関係ないだろ」

「それはそうだけど……」

 

 そんな二人にシャナが助け船を出した。

 

「それはこれから友達になる為の贈り物って事にでもしておけばいいだろ」

「そうそう、そういう事でいいかな、ほら、さっさと受け取りな、大事な物なんだろ?」

「う、うん、確かにそうだけど、それじゃあこれ」

 

 そう言ってピトフーイは、血華をシャーリーに差し出した。

 

「これ?」

「あげる」

「えっ、そんなの受け取れないって」

 

 その光景に、その場にいた全員が既視感を覚えた。

まあつい先ほどの光景とまったく同じなのだから、当然であろう。

 

「これは私とあなたの友好の証、兄弟剣を一つずつ持ってるのって、何か素敵じゃない?」

 

 シャーリーはその言葉を自分がとても嬉しく思っている事に気付き、

素直に血華を手にとった。

 

「分かった、それじゃあこれはもらっておくね」

「うん!」

 

 そんな仲のいい二人の姿を見て、シャナはこれでやっと丸く収まったと思い、安堵した。

だが横からシャーリーにこんな質問を投げかける者がいた、心配性のロザリアである。

ロザリアはピトフーイと仲がいい分、ピトフーイの事になると神経が細かくなるのだ。

 

「ねぇ、シャーリーさんの事はそれでいいとして、他のメンバーの事はいいの?」

「あ、はい、今回は私以外はいいところがありませんでしたし、

最悪殴ってでも納得させるので大丈夫です」

 

 その男前な言葉に、その場にいた者達は苦笑した。

こうしてピトフーイの謝罪は完全に終了し、

ピトフーイは一ヶ月の間、見習い生活を送る事となった。

それに伴い今後しばらくピトフーイは、

街で初心者プレイヤーの成長を助けるプレイをする事とされた。

 

「それじゃあ俺は、レン達の方に顔を出してくるわ。

おいピト、俺が日本に戻ってくるのは数日後になるから、

とりあえず大人しく俺からの連絡を待っているんだぞ」

「うん、分かった、無事に帰ってきてね!空港まで出迎えに行くから!」

「駄目だ、お前が来ると大騒ぎになっちまうからな」

「大丈夫、完璧な変装をしていくから」

「変装か……仕方ない、それで手を打つか」

「うん、それじゃあそういう事でね!」

 

 その会話の意味を、事情を知らない者達は何となく理解したが、

さすがにシャナがいる前でその事を尋ねる勇気のある者は誰もいなかったようだ。

そしてシャナは部屋を出た所でスネークに捕まった。

 

「おうシャナ、それでさっきの話だけどな」

「あ、はい」

「あのシャーリーって嬢ちゃんと、約束しちまったんだよ……

シャナがいいって言ったら、リアルで紹介してやるってよ」

「マジですか」

「おう、マジだマジ、すまん、この通りだ」

 

 その言葉にシャナは考え込んだが、すぐに答えは出た。

 

「身元の確認はそっちでしてくれるんですよね?」

「おう、そっちは任せてくれ、ついでに誓約書も書かせるつもりだ」

「それなら俺としては別に構いません、

同じ北海道在住のフカ次郎の友達にもなってくれそうですし、

俺にとっても知らない人じゃないんで、まったく問題ないです。

もしあれなら先にフカ次郎に紹介してくれてもいいですよ、

あいつは俺のリアル知り合いですからね」

「まあお前はそう言ってくれると思ってたよ」

「でも閣下は反省して下さい」

「お、おう、悪かった」

 

 そしてシャナ達四人はレン達の居場所を求めて移動を開始し、

スネークは中で談笑しているPM4のメンバー達の所に戻り、

その中に混じって笑っていたシャーリーに、交渉の結果を伝えた。

 

「嬢ちゃん、シャナの許可が出たぞ」

「え、本当にですか?うわ、どうしよう、服とか買いに行かないと……」

「シャナのリアル知り合いのフカ次郎って子が北海道にいるそうだ、

もし良かったら、そっちを先に紹介してやってくれとシャナに言われたんだが」

「そうなんですか?色々意見も聞きたいので、是非お願いします!」

「おう、分かった、そっちの交渉も俺がやっといてやるよ」

「お願いします、ありがとうございます!」

 

 こうしてシャーリーのフカ次郎への紹介と東京行きが、電撃的に決まった。

いよいよ次は、シャナ達とLFKYとの対面である。


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