ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第598話 おめでとうLFKY

「LFKYと合流すると言ったはいいものの、あいつらの控え室がどこか分からん……」

 

 部屋を出て三十秒、ずんずんと先頭を歩いていたでシャナが、突然そんな事を言い出した。

 

「えっ?知ってるんじゃなかったの?」

「自信ありそうにどんどん歩いていっちゃうから、てっきり知ってるものだと……」

「シャナ様、分からない事は恥ではありません、そういう時は人に尋ねましょう」

「だな、本当にすまなかった。という訳でシズカ……」

 

 シズカは手を前に出してぶんぶん降りながら首を振った。

 

「ええと……ロザリア」

「いくら情報屋の真似事をしていた私でも、さすがに今回は無理ね」

「………マックス」

「部屋にこもっていないと仮定すると、一番声援の多い場所にいるんじゃないでしょうか」

「それだ」

 

 シャナはパチンと指を鳴らすと、耳に手を当て、周囲の音を拾い始めた。

 

「ぴっ、ぴっ、ぴっ………」

「何その効果音………」

「何となく気分で………ってかシズカ、突っ込みが早いな」

「キリト君がいないから、その分私が突っ込まないといけないと思って……」

「なるほど、だがキレがいまいちだな、キリトをよく観察して学ぶといい」

「別に私、突っ込み役になりたい訳じゃないから、そういうのはキリト君に任せるよ」

「そ、そうか」

 

 シャナは少し残念そうにそう言うと、メインホールの方を指差した。

 

「こっちだな、多分さっきピト達がいたホールだ」

「あれ、それじゃあ入れ違いになったのかな?」

「だろうな、多分ピトの手前、気を遣ってくれたんだろう」

 

 そして四人がホールを覗き込むと、果たしてLFKYがそこにいた。

 

「やっぱりいたな」

「でもこれ以上目立ちたくはないよねぇ」

「だな、こっそりキリトに合図するか」

「合図ってどうするの?」

「ふむ、おいロザリア、あいつに殺気を飛ばしてみろ」

 

 シャナは突然そう言い、ロザリアはハァ?という感じの顔をしてシャナにこう尋ねた。

 

「何で私が?」

「お前が一番リアルの見た目が怖い、あと化粧が濃い」

「それ、GGOでの姿に一切関係なくない!?ってか今はスッピンよ!」

「スッピンだと?ああ、だからお前、今日は姿が見えなかったのか」

「見てたでしょ!話したでしょ!化粧を私の本体みたいに言わないで!」

「いいからさっさとやれ」

「くっ………後で覚えてなさいよね!」

 

 そして薔薇はキリトをじっと睨みながら、一生懸命死ね死ね殺すと念を送り始めた。

だがキリトはまったく反応せず、シャナはやれやれと肩を竦めながらロザリアの肩を叩いた。

 

「おいそこのヤンキー、誰が殺気じゃなくガンを飛ばせと言った」

「自分じゃやってるつもりなのよ!そもそも殺気なんて私に飛ばせる訳が無いでしょ!」

「おかしいな、ヤンキーのお前になら出来ると思ったんだが……」

「というか誰がヤンキーなのよ!私はお淑やかで社内でも人気な秘書さんなのよ!」

「自分で自分の事を人気な秘書さんとか痛い事を言うな、益々婚期が遠ざかるだろうが」

「ぐっ……」

 

 自分でも多少なりと自覚があるのだろう、ロザリアは言葉に詰まり、反論出来なかった。

 

「まあいい、とりあえずお手本を見せてやる」

 

 そう言ってシャナが一歩前に出た。

シャナは特に何か特別な事をしたようには見えなかったが、

事実キリトが遠くで何かを感じたようにきょろきょろとしだし、

それを見たシャナはキリトに見つからないように姿を隠した。

 

「分かったか?今みたいな感じだ」

「う、嘘……殺気を飛ばすって本当に出来るものなの?」

「出来るよ?私もやってみようか?」

「う、うん」

 

 次にシズカが一歩前に出た。シズカもまったく自然体のように見えたが、

再びキリトが落ち着かない様子でそわそわし出し、

その手が自然とエリュシデータに伸びているのが確認出来た。

そしてシズカもキリトに見つからないように姿を隠した。

 

「どう?」

「ほ、本当っぽい……」

「分かったか、結局お前の未熟さが原因だという事だ、これはお仕置きが必要だな」

「り、理不尽よ!そもそもそんな技能、何に使うのよ!」

「キリトをおちょくれるだろ」

「それに何の意味があるのよ!」

「俺の手が空いてない時にもキリトをおちょくれる、それによって俺が楽しい気分になれる、

どうだ?どう考えても秘書の役割だろ?」

「どこが秘書の仕事なのよ!本気で意味が分からないわよ!」

 

 そんなエキサイトするロザリアを見て、シャナもさすがにからかいすぎたと思ったのか、

珍しく素直にロザリアに謝った。

 

「すまん、今回は俺が間違っていた、順番を間違えていたようだ」

「じゅ、順番?」

「ああ、キリトは常に俺の目の届く所にいる訳じゃないからな、

ここは代わりにお前に殺気を感じる能力を身に付ける訓練をさせて、

仕事中にふっと気分転換がしたくなった時に、

いきなり殺気を飛ばしてまごまごするお前を見るのがジャスティスだという事に気が付いた」

「ちょっとやめてよ!そんな技能は身に付けたくないわよ!」

「そうか?それは残念だ、凄く楽しいのにな………俺が」

「楽しいのはあんただけだから!とにかく絶対にそんな技能は身に付けませんからね」

「仕方ないな……諦める事にするか」

 

 その時横で控えていた銃士Xが、目をキラキラさせながらシャナに言った。

 

「シャナ様、その役目、是非私に!」

「ん、そうか?それじゃあ今度、ちょっと練習してみるか」

「はい、喜んで!」

 

 ロザリアは銃士Xが自主的にその役目を引き受けてくれそうだった為、

藪蛇にならないようにその会話には参加しないようにしつつ、内心でほっとしていた。

 

 

 

 だが後に薔薇は、何度もそういった場面に遭遇するにあたり、

自然と殺気を感じられるようになってしまい、その度にビクッとしてしまう事になる。

そのせいで殺気を感じる技能を身に付けた事が八幡にすぐにバレてしまい、

薔薇はその後、八幡のいい暇潰しの材料にされてしまうのだった。

 

 

 

「人を散々心配させといて、楽しそうだなおい」

「きゃっ」

「ロザリア、お前、驚きすぎ」

「だって……」

 

 いつの間に移動したのだろう、

その時キリトがロザリアの背後からいきなり声をかけてきた為、

ロザリアはそれにかなり驚いてしまったのだが、

銃士Xが若干驚いたように目を見開いただけで、シャナとシズカは平然としたものだった。

 

「あんた達、何で驚かないの!?」

「え?だって……」

「少し前から気付いてたしな」

「そ、そうなの!?」

「おう、必須の技能だろ」

「必須じゃないわよ!」

 

 そんな再びエキサイトしたロザリアの肩を慰めるようにポンポンと叩くキリトに、

銃士Xがこう話しかけた。

 

「副長、よくここまで一人で来れましたね、あんなに注目を集めてたのに」

 

 どうやら先ほどの銃士Xの驚いた顔の意味は、そういう事だったらしい。

 

「レン達が注目を集めてる間に、間を外すように動いたから、

多分ほとんどの奴は気付いていなかったんじゃないかな」

「それも必須の技能!?」

「落ち着けロザリア、お前はさっきから技能絡みの事で興奮しすぎだ」

「ご、ごめんなさい、つい……」

「まあ必須の技能だけどな」

 

 ロザリアはその言葉に、とても悩ましそうな表情をした。

 

「……………必須という日本語の意味がちょっと分からなくなってきたんだけど」

「俺がお前に身につけろと命令するのが必須の技能だ」

「それ、絶対に私をおちょくる為の嘘よね!?」

「お前のそういう反応が、俺にそういう事を言わせるんだよな」

 

 その言葉にロザリアは絶句したが、それに同意するようにシズカと銃士Xが言った。

 

「うんうん、ロザリアさんってそういう所、かわいいよね」

「室長は完全に突っ込み担当ですね」

 

 その言葉にロザリアは、恨めしそうな顔でシャナを見たが、

シャナは当然ロザリアのそんな態度は意に介さず、キリトと話し始めた。

 

「そろそろレン達にもお前の不在が気付かれる頃か?」

「だな、今のうちに移動しよう、こっちだ」

「オーケーだ、おら、さっさと行くぞ突っ込み担当」

「誰が突………お、おほん、そうね、行きましょうか」

「おお、耐えたな」

「うん、耐えた耐えた」

「そんな面白がっ………は、早く行きましょう、時間が無いわ」

 

 そして一同は移動を開始し、部屋の中に入った後、シャナはレンにメッセージを入れた。

その数秒後、部屋にレンが飛び込んできた。その早さにはさすがのシャナも驚いたようだ。

 

「お、お前、さすがに早すぎないか?」

「えっと、全力で走ってきたから?」

「全力って……まだ闇風も来てないってのに」

「あ、師匠にここに来るって伝えるのを忘れてた……」

「お前な……」

「す、すぐに呼んでくるね!」

 

 だがその心配は無かった。その更に数秒後に、

闇風とフカ次郎が部屋に駆け込んできたからである。

 

「おいレン、一体どうした?」

「まったくうちの相棒はエキセントリックで困るぜ………って、だぁりん!?」

「誰がだぁりんだ」

 

 その瞬間にシャナは素早くそう突っ込み、フカ次郎の頭に拳骨を落とした。

 

「うぎゃっ……でも痛みが癖になる、このカ・イ・カ・ン」

「きめえ」

 

 被せるようにそう突っ込んだシャナに、フカ次郎は顔色一つ変えず、続けてこう言った。

 

「そんな突き刺さる言葉も癖になる、このカ・ン・カ・ク」

「失せろ」

 

 その言葉はさすがに言いすぎではないかと一部の者達は考えたのだが、

フカ次郎は平然とシャナに頭を差し出した。

 

「………何の真似だ?」

「頭を撫でてくだしゃい、フカちゃんは凄く頑張りまちた」

 

 そんなフカ次郎の姿に、周りの者達は感嘆した。

 

「さすがね……」

「めげないなぁ……」

「鉄の心臓……」

「むしろ心臓がハリネズミみたいになってるんじゃない?」

 

 そしてシャナが、冷たい声でフカ次郎に言った。

 

「赤ちゃん言葉が微妙にむかつくが……

それは俺がお前の発言や行動をずっと見てたという事を分かっての言葉なんだろうな」

 

 その言葉を聞いたフカ次郎は、んん~?っと考え込んだ。

そして大会中に自分が何を言ったのか次々と思い出すに連れ、

フカ次郎は若干顔を青くし、少しシュンとした表情でシャナに言った。

 

「どう考えても無理でちた、今回は諦めましゅ………」

 

 だがシャナは、そんなフカ次郎の頭にポンと手を置いた。

 

「まあ頑張ったのは確かだしな」

「リ、リーダーリン……」

「もう一度殴られたいのか?」

「そんなツンデレなリーダーにジュ・テーム!」

 

 フカ次郎はうるうるしながらシャナを見詰め、感極まってシャナに飛び掛ろうとした。

だがその行動は果たされなかった。どうやら待ちきれなくなったのだろう、

横から弾丸のように飛んできたレンが、いきなりシャナに抱きついたからだ。

 

「シャナ、私、凄く頑張った、頑張ったよ!」

「あっ、ずるいぞレン、私も混ぜろ!」

 

 そんなフカ次郎の頭をガッチリとホールドして近寄れないようにしつつ、

シャナは笑顔でレンに言った。

 

「おう、よくやったなレン」

「あはははは、あはははははは」

 

 シャナの生きている姿を見てホッとしたのもあっただろう、

レンはいきなり正面から抱きつくという、

リアルでは絶対に出来ないような事を平然と行っていた。

シズカは内心とても複雑な気持ちだったが、

GGOでのレンはどう見ても小学生にしか見えなかった為、

ここで余計な事を言って場の雰囲気をぶち壊すような事はしない事にした。

その代わり、ログアウトしたら今度は自分が思う存分甘ようと心に誓っていたのだが。

 

「とりあえず見事な試合だったな、優勝おめでとう、LFKY」

 

 そのシャナの言葉に、LFKYのメンバーは、ニカッと笑ってVサインを出したのだった




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