ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第611話 ラウンダー

「おう、起きたみたいだな、それじゃあ朝飯でも食うかね」

 

 八幡はリビングに出てきた女性陣にそう声をかけると、

料理の盛られた皿をテーブルへと並べ始めた。

 

「あっ、八幡君が準備してくれたんだ」

「八幡さん、ちゃんと寝ましたか?」

「今何時だと思ってるんだ、むしろそのセリフはお前達に言いたい」

「えっ、あ、もう九時だったんだ……」

「本当だ……」

 

 明日奈はチラリと時計を見て、少し寝すぎてしまったかと反省していた。

 

「まあ昨日は楽しかったみたいだしまったく問題ない。レヴィと萌郁はまだ寝てるのか?」

「みたい、相当疲れてたんだろうね、精神的に」

「萌郁はそうかもしれないな、それじゃあレヴィは?」

「これは寝る前に聞いた話なんだけど、多分萌郁さんに合わせて自然に起きるんだと思う。

完全に意識を彼女に向けて寝たみたいだから、逆にこの長さもその結果なんじゃないかな」

「マジかよ、萌郁とシンクロしてるって事だよな?随分と器用だな……」

 

 八幡はその説明に納得しながら、全ての準備を終え、こう言った。

 

「さあ召し上がれ」

「「「「「頂きます!」」」」」

 

 食卓ではそのまま今日どうするかの話になった。

どうやら美優と舞はお昼過ぎの飛行機に乗るらしく、あまり時間が無いらしい。

 

「その次の飛行機だとあっちに着くのが暗くなってからになっちゃうんだよね」

「そうか、やっぱり遠いから大変だよなぁ……」

「また遊びに来ますから、その時はもっとゆっくりできるように調整しておきますね!

今回は話がいきなりだったんで、スケジュールを二日しか空けられなかったんですよね」

「ああ、いつでも尋ねてきてくれ、逆に俺達がそっちに行くかもしれないけどな」

「えっ、リーダーが北海道に?これは張り切って接待しないと」

「いや、お前には用は無い、舞さんに用があるんだ」

「があああああああああん!」

 

 美優はオーバーアクションでそう言ったが、目的が狩猟なのだからどうしようもない。

その事を聞いた美優は、納得したように頷いた。

 

「ああ~そういう事かあ、レヴィの目的がそれなら仕方ないね」

「エゾシカ猟の解禁は十月頭くらいです、それ以降なら大体大丈夫ですよ」

「なるほど、まあ時間に余裕が出来た頃にまた連絡させてもらおうかな」

「はい、お待ちしてますね!」

 

 優里奈は今日はアスカ・エンパイアに行くらしい。

どうやら最近強力なギルドの人と知り合って、お世話になっているようだ。

 

「へぇ、そうなのか?何てチームだ?」

「スリーピングナイツって方々です、ランさんって人がリーダーで、とっても強いんですよ」

「………ほう、それはいつか戦う時が楽しみだな」

「戦う前提ですか!?」

 

 一同はそこで笑ったが、八幡は笑いながらも内心で、ちゃんと出会えたかと安堵していた。

 

(たまには顔を出さないと、ユウはともかくアイがごねるだろうなぁ……)

 

 ちなみに明日奈は今日は実家に顔を出す予定で、

香蓮はSHINCの連中と待ち合わせらしい。

 

(ああ、そういや香蓮はあの時俺と一緒にいたあいつらが、

実はSHINCのメンバーだってのは知ってるんだったかな?一応確認しておくか)

 

 ちなみに確認の結果、香蓮はその事実を知らないどころか、

相手の顔も名前も連絡先すら知らなかった。それを危惧した八幡は密かにどこかに電話をかけ、

明日奈からメモのような物を受け取った後、美優と舞を送る為にキットで空港へと向かった。

レヴェッカと萌郁の食事は布をかけてテーブルの上に置いてあり、、

二人にはソレイユで待つようにと連絡を入れてあった。

 

(後は姉さんかアルゴが応対してくれるだろ)

 

 八幡はそう考えながら、美優と舞を無事に空港まで送り届け、二人に別れを告げた。

 

「おい美優、舞さんに迷惑をかけるなよ、あと今度会う時までに少しは落ち着いておけよ」

「落ち着いてほしいなら、是非リーダーにもその体で協力を……」

「だからお前はそういうのをやめろっつってんだよ」

「旦那旦那、ピトさんほどじゃありませんって」

「比較対象が悪い、香蓮を見習え」

「リーダーはコヒーの事を神聖視しすぎだから!

コヒーだって普通にエロいところがいっぱいあるからね!」

「んな訳あるか、お前と一緒にすんな」

「あるんだってば、もう!」

 

 八幡は、そんな事はないと繰り返すと、次に舞に話しかけた。

 

「舞さん、お元気で!」

「はい、八幡さんも!」

「チームについては詳しい事が決まったら連絡します、

それまでGGOででもまた一緒に遊びましょう!」

「はい、是非!私、対人も頑張ってやってみる事にしましたから!」

「そうですか、それじゃあその時を楽しみにしておきます」

「はい、またお会いしましょう!」

「美優もまたな!」

「リーダーまたね!コヒーにも宜しく!」

 

 こうして二人は機上の人となり、八幡は見えないだろうと思いつつも、

飛行機が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

「あっ、舞さん、リーダーが手を振ってるよ!」

「本当だ!」

 

 二人も同じように相手が見えなくなるまで手を振り、

完全に見えなくなった後、二人は笑顔で会話を始めた。

 

「舞さん、今度の旅はどうだった?」

「すごく驚かされる事がいっぱいあったけど、でもとっても楽しかったよ」

「だよね、ああ、北海道に帰りたくないなぁ、こっちで就職しようかな、

リーダーのご威光に頼れば平気な気がする」

「美優ちゃんは頑張れば大丈夫っぽいよね、その点私は……」

「その気があるならなんとでもなるんじゃない?

もっとも婚期が遅れるのは間違いないと思うけどね」

「そうなの?」

 

 きょとんとする舞に、美優はドヤ顔でこう言った。

 

「だってどんな男と出会うにしろ、どうしてもリーダーと比較しちゃうじゃない?」

「あ、ああ~!」

 

 舞もその意味をやっと理解したが、もう一つ別の事にも気が付いて、少し顔を青くした。

 

「ね、ねぇ美優ちゃん、もしかしてそれ、もう手遅れじゃない?」

「手遅れ?何が?」

「例えば一生北海道で生きていくとして、

美優ちゃんは今後、簡単に誰かを好きになったりする?」

「あ…………」

 

 美優もその事に気が付いたようだ。そう、もう手遅れなのである。

 

「ま、まあどうなるにしろ、お互いに頑張ろう」

「そうだね、まあ私にとっての八幡さんは、まだ芸能人扱いだからいいとして、

美優ちゃんは仲がいい分大変そう」

「うぅ……確かに街で男と遊ぶくらいなら、

多少塩対応をされてもゲームの中でリーダーにくっついちゃいそう」

「まずいなぁ、私もそうなっちゃうのかな?」

「そのうち禁断症状が出てくるよ」

「本当に?やばっ!」

 

 こうして二人は空港に着くまで、延々と八幡の話で盛り上がる事となった。

今度の舞の旅は、彼女にとって実り多いものとなったようだ。

 

 

 

 一方レヴェッカと萌郁である。明日奈の言葉通り、

萌郁が起きた瞬間に、それに引っ張られるようにレヴェッカも目を覚ました。

 

「んん………やべ、もう昼か、随分寝ちまったな」

 

 その言葉に起きたばかりの萌郁もコクリと頷いた、どうやら寝起きはいいようだ。

 

「どうだ?よく寝られたか?」

 

 萌郁は再び頷いたが、その表情からは若干の驚きが見てとれた。

どうやら自分がこんなにぐっすり寝られるとは思っていなかったらしい。

 

「そうかそうか、さて、飯はどうするかな……って、用意してくれてるな、しかもボス作か。

朝食って書いてあるけど、どうやら昼になるのを見越して多く作ってくれたんだな、

さすがはボスだぜ!よし、さっさと食っちまおうぜ」

「わ、私、温めてきます」

「お、サンキュー!」

 

 心が落ち着いたせいか、無口な萌郁も多少は自分から喋るようになっていた。

そして二人は一緒に朝食兼昼食をとった。会話はほとんど無かったが、

心底美味そうに食事をし、悩みなど無さそうなレヴェッカの姿に萌郁は羨ましさを感じた。

そのせいか、食事を終えた後に萌郁は自分からレヴェッカに話しかけた。

 

「あの……」

「お、どうした?何か聞きたい事でもあるのか?」

「レヴィさんには悩みとかはないの?」

「ん?そりゃああるさ、色々な。だがそういう時は、必ずボスに相談する事にしてるからな、

それで大抵の事は解決だ」

「そう……なんだ」

 

 萌郁はその会話で、昨夜初めて会ったその人物の顔が頭に浮かんだ。

 

「あの人は、どういう人?」

「ん、ボスか?そうだな、いい奴だ」

「いい……奴?」

「あと面白い奴だな」

「そ、そう」

「あとは気前がいい、これが一番!」

「………」

 

 萌郁はそれ以上、有益な情報は出てこないだろうと思い、質問を終えた。

だが最後にレヴェッカは萌郁にこう言った。

 

「あとボスは、絶対にお前を捨てたりはしねえな」

 

 その言葉に萌郁は言葉が出なかったが、やがてぽつりと一言だけ言った。

 

「かも……」

 

 そして二人はソレイユへと向かい、そのまま陽乃の指示に従って待機した。

陽乃とアルゴはダルも交えて何か相談をしているようだったが、

ただの駒である事を自分に課しているレヴェッカは、その事には興味がなかった。

 

(難しい事はボスや大ボスに任せておけば間違いないからな)

 

 ほどなくして八幡もソレイユに到着し、二人の所に顔を出した。

 

「悪い、待たせたか?」

「いや、大して待ってないぜボス」

「萌郁、昨日はよく寝れたみたいだな」

 

 萌郁はその言葉に頷いた。何か喋った方がいいのかもしれないと一瞬思ったが、

八幡が何も気にした様子を見せなかった為、逆に萌郁は何も喋れなかった。

 

「さて、もう少し待っててくれな、姉さん達と今後の事について相談してくるから」

「ついでに俺の寝床についても早めに頼むぜ」

「ああ、いつまでもあの部屋って訳にもいかないだろうしな、

社員寮の部屋がいくつか空いてるから、多分そこに入ってもらう事になると思う」

「問題ない、むしろその方が気楽ってもんだ」

「まあ飯くらいは当分優里奈に作ってもらえよ、ついでに一緒に料理の勉強でもすればいい」

「おお、いいなそれ」

「それじゃあちょっと行ってくる」

 

 八幡はそう言って部屋を後にし、二人はその場で八幡の帰りをじっと待つ事にした。

そして八幡は、陽乃、アルゴ、ダルと共に、今後の対策の相談を始めた。

 

「え、今日ですか?」

「ええ、早い方がいいでしょ?」

「それはそうですけど」

「っていうかブラウン氏がSERNってマジなん?」

 

 ダルはこの段階でもまだそんな事を言っていた。やはり信じ難いのだろう。

そんなダルに、突然アルゴがこんな質問をした。

 

「おいダル、ラボからヨーロッパにハッキングをかけた事はあるよナ?」

「それは何度でもあるけど……」

「毎回ありえないくらい調子が良くなかったカ?」

「確かにそうだけど、それは僕の腕ですし?」

「あのビルから直通回線がヨーロッパのSERN本部まで伸びてるんだが、

ダルはその事は知ってたカ?」

「え………な、何それ」

「つまりお前は知らず知らずのうちに、その恩恵を受けてたって事だな、これがその証拠ナ」

 

 そう言ってアルゴはPCの画面をダルに見せ、ダルは天を仰いだ。

 

「うあ、マジだ……って事はブラウン氏は本当にSERNのエージェント?

そんな事、今までまったく気付かなかったお……」

「仕方ないさ、そう思って調べないと、証拠なんか出てこないだろうしナ」

「って事は、アルゴ氏は僕達の事を、そう思って調べたって事?」

「そういう事だな、なんたって背後関係を洗う為に調べたんだからな。

おかげでレスキネン教授絡みでSERNの事を調べる時、資料が揃ってて凄く楽だったろ?」

「ああ、あれってそのせいだったんだ!その流れならその話も納得だお」

 

 こうしてダルが納得した後、四人によってこの話の問題点が順に列挙されていった。

だがその根幹は、やはりこの問題だった。

 

「やはり一番の問題点は、SERNの暗部からの干渉だよなぁ……」

「調べた感じ、あそこはかなりのレベルの非合法活動に手を染めているみたいだしナ」

「しかも先日ストラ絡みの勢力が弱ったせいで、相対的にあそこの力が強くなったみたいね」

「調子に乗りまくってやがりますか?本当にふざけんなだお」

 

 ここで八幡が、純粋に昨日感じた疑問をアルゴにぶつけてきた。

 

「そもそも何で仕事を成功させた萌郁が干されてるんだ?

まあ連絡が無いだけで、実際死ぬ事を決めたのはあくまであいつの意思だろうから、

必ずしもそれはSERNの意思じゃないんだろうけどな」

「でもあそこ、仕事に成功しようが失敗しようが、

末端のエージェントは使い捨てにしてるみたいだぞ。

ちなみにそのエージェント組織は、ラウンダーというそうダ」

「あれ、でも萌郁は……う~ん、まあ今はいいか、

それにしてもラウンダーか、マジで気にいらんな」

 

 その八幡の感情を共有したのか、陽乃がぶっそうな事を言い出した。

 

「いっそラウンダーを潰しちゃう?材料ならそれなりに持ってるけど」

 

 その提案を止める者は、ここには誰もいなかった。

 

「それも考慮に入れておくか、あのあたりの国のそういった勢力を、

アメリカさんも叩いておきたいだろうし、その辺りから手を回せば……」

「ついでに頭も変わってもらう?」

「その方がいいだろうな、非合法活動なんかやめちまってもあそこは十分利益を出せるし、

トップに座りたい奴はたくさんいるだろうよ」

「それじゃあそういったやばい資料を複数の人間に送りつけて……」

「そのどさくさで……」

「それじゃあついでに……」

 

 こうして四人の悪巧みは加速的に話が膨らんでいき、

ラウンダーの命運は、彼らのまったく知らない所で尽きていくのだった。


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