ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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ナユタ絡みのエピソードはここまで!


第615話 別れのファンシー

 舞と美優に別れを告げ、八幡の部屋から自室に戻った後、

優里奈はスリーピングナイツとの約束を守るべく、アスカ・エンパイアにログインしていた

そしてナユタは真っ直ぐスリーピング・ガーデンに向かい、そのメンバー達と合流した。

 

「ランさん、ユウさん、みんな!」

「お、ナユっち、来てくれたんだ」

「あ、ナユたんだ、やっほー!」

「ナユさん、今日はありがとうございます」

 

 ランとユウキに続いてこう丁寧に挨拶してきたのは、

回復担当の祈祷師であるシウネーである。

 

「ナユさん、今日は頑張ろうね」

「ナユさんがいるとやる気が出るなぁ、癒されるというか、うちの女連中は怖いからさ……」

「おい馬鹿やめろ、ランに殺されるぞ、

ランは癒し系を自称してて、ナユさんをライバル視してるんだからな」

「俺達が巻き込まなければいいんじゃない?自業自得って事で」

 

 そう喧しく話しかけてきたのは、

剣豪のジュン、重侍のテッチ、軽侍のタルケン、狩人クロービスの四人の少年である。

 

「ナユさん、馬鹿四人組の事は無視していいからね」

「あなた達、馬鹿な事を言ってないでさっさと準備しなさい」

 

 そこに槌師のノリと幻術師のメリダの女の子二人組が横から四人にそう声をかけ、

四人は慌てて奥の部屋へと入っていった。

どうやらスリーピングナイツの権力者は、女性サイドのようである。

そして優里奈はメンバー達と挨拶を交わした後に、確認するようにランに尋ねた。

 

「今日がスリーピングナイツの、アスカ・エンパイアでの最後の戦闘になるんですよね?」

「うん、最後のターゲットは大江山の酒呑童子、大物だよ、覚悟はいい?」

 

 酒呑童子はフィールドボスであり、適正人数は実に二十四人。

一方スリーピングナイツのメンバーは、ナユタを入れても十人しかいない。

だがナユタは負けるなどとはまったく考えておらず、笑顔でこう言った。

 

「分かりました、ボコボコにしてやりましょう!」

 

 その表現から、ナユタも高揚しているのが見てとれる。一同はそのまま大江山へと向かい、

苦戦しつつもその不屈の精神で、見事に酒呑童子を倒す事に成功し、伝説となった。

その後ナユタは彼女自身の申し出で、スリーピングナイツの仮メンバーとなり、

ラン達が戻ってきた時に備えて残されたスリーピング・ガーデンの維持をする事となった。

そしてスリーピングナイツのメンバーは、

ナユタだけを残してアスカ・エンパイアから去っていった。

 

「また会えるかな、うん、きっと会えるよね」

 

 優里奈はスリーピング・ガーデンでのお別れ会を終え、

FGと共にメンバー全員を見送った後、

寂しさを覚えながらも、希望に満ちた目でそう言った。

 

「そうだな、また会えるといいな」

「FGさんもやっぱり寂しいですか?」

「ああ、あいつらは手のかかる弟妹って感じだったからな。

そのせいで余計かわいいと思えたんだよな、だからやっぱり寂しいよ」

「なるほど、確かにそうですよね。それじゃあ私ももう少し、

八幡さん相手に手がかかりますよアピールをした方がいいんですかね?」

「いや、それだと妹ポジションから逃れられなくなるというのが、こういう時の定番だ」

「あっ、確かに!じゃあ代わりにお色気を前面に出す事にします!」

「そ、そうか、ま、まあ程々にな」

「はい、程々に頑張ります!」

 

 こうして一人になったナユタは、やがてコヨミという忍者の友人を作り、

その友人や時々気が向いたようにコンバートして一緒に遊んでくれるハチマンと共に、

アスカ・エンパイアの地を駆け巡る事となる。

 

 

 

 そしてその数日後の事である。突然八幡が喪服姿で現れ、

優里奈にも喪服を着るように指示し、優里奈はその指示に従ったものの、

訳が分からず混乱した。

 

「あ、あの、一体何が……」

「悪い、今もう一人拾うから、説明はその時にな」

「あ、は、はい」

 

 優里奈は八幡と自分との共通の友人の誰かが死んだのだと推測し、顔を青くした。

ところが少ししてキットに乗り込んできたのがキョーマだった為、優里奈は再び混乱した。

 

「キョーマさん?」

「………今日は俺の事は岡部と呼んでくれ。さすがにこんな状況でキョーマと名乗るのはな」

「あ、す、すみません」

「いや、別に優里奈ちゃんが謝る事じゃない、ところで八幡から事情は聞いたかい?」

「いえ、まだです」

「倫太郎が合流してからの方がいいと思ってな」

「そうか……」

 

 そして八幡は、苦渋の表情で優里奈に言った。

 

「優里奈、気をしっかり持って聞いてくれ、

実は昨日、メリダが亡くなったんだ。これからその葬式に参列する事になる」

「えっ?メ、メリダさんが……?」

 

 その言葉が脳に浸透するに連れ、優里奈は自分の頭の中から、

ごうごうと血の気が引いていくのを感じていた。

メリダとはつい先日まで一緒に戦っており、とても元気そうに見えたからだ。

 

「今は優里奈に分かりやすい名前で呼んだが、メリダの本名は山城芽衣子、

そしてこれから行く場所は、眠りの森という施設だ」

「眠りの森……スリーピング・フォレスト?もしかしてそれって……」

「ああ、スリーピングナイツのリアルでの居場所だ」

 

 そして優里奈は眠りの森に到着し、

そこで始めてスリーピングナイツのメンバー達の境遇を知る事となった。

 

「そっか、そういう事だったんですね……」

「俺がソレイユに医療部門を作った理由がこれだ。

俺はこいつらを助けたい、だが正直研究がまだまだ間に合っていないんだ。

今回は時間が足りない上に突然すぎてどうしようもなかった、本当にすまん……」

 

 そんな八幡の頭を、優里奈は黙って胸に抱いた。

八幡は必死で涙を堪えているように見え、優里奈も同じように必死で涙を堪えた。

そして葬式に参列する事になったが、

そこにはスリーピングナイツのメンバーは誰もいなかった。

メディキュボイドの中にいる為、参列したくても出来ないのだ。

優里奈はその事が悲しくて仕方がなかった。

 

「メリダさん………」

 

 そして最後に芽衣子の元気な頃の写真を見て、

優里奈はその姿を絶対に忘れまいと心に誓った。

 

 

 

 その後、遠くからベッドに横たわる藍子や木綿季の姿を見ながら、

八幡は優里奈に先日アメリカに行って聞いた、薬品関係の話を説明した。

 

「宗盛さんの説明だと、本当にもうすぐだ、もうすぐなんだよ、

だが時間が足りるかどうかが微妙なんだ。

ここにいる全員の命を救えるかどうかは分からない、

だが俺はそれまで全力であがき続けるつもりだ」

 

 優里奈はそんな八幡に黙って頷いた。

 

「ナユちゃん、こっちこっち」

 

 その時優里奈に声をかける者がおり、優里奈はきょろきょろと辺りを見回した。

だが該当する人物の姿は見えず、優里奈は戸惑った。

そんな優里奈の手を引き、八幡は横にあったモニターの前に移動した。

そこには四人の女性と四人の少年の姿が映っており、

優里奈はそれがスリーピングナイツだと確信した。

 

「やっほーナユたん、こんな形でごめんね、ボクはユウキだよ」

「こらユウキ、もっとお淑やかにしなさい。

コホン、私はランよ、ねえナユっち、本当は私がやりたいのだけれど、

そこで情けない顔をしている男に、

その男の愛人である私の代わりに一発きついセクハラをかましてもらえない?」

 

 そのあまりにも彼女らしい挨拶に、優里奈はこんな状況にも関わらず、思わず噴き出した。

 

「ぷっ……」

「あっ、やっと笑ったね、ナユさん」

「その方がかわいいよね」

「というか笑ってなくてもやばい、かわいい!」

「お前達さ、八幡さんの前でそういう事を言うと殴られるよ?」

「そんな事で俺はお前らを殴ったりしない、ただ目を潰すだけだ」

「うわ、怖え!」

「八幡さん、潰すなら是非俺以外の三人の目を!俺は何も見てないんで!」

「馬鹿野郎、男なら誰もが見ちまうもんだろ、嘘をつくな」

「うへぇ、やっぱりバレてら」

「あ、あははは、あはははははは」

 

 優里奈は我慢出来ずに上を向いて笑ったが、その目からは涙が溢れていた。

そんな優里奈にシウネーとノリが言った。

 

「ナユさん、メリダの為に泣いてくれてありがとう」

「でも泣くのはそのくらいにね。私達は今から、メリダを笑いながら送り出すつもりだから」

「は、はい」

 

 優里奈はそう言われ、涙を拭いながら画面を注視した。

そして八人が祈りの体制になったのを見て、自分も両手を合わせ、目を閉じた。

そして画面の中の八人は、思い思いの言葉でメリダに別れを告げたが、

その中にメリダの死をネガティブにとらえているような発言は一言も無かった。

 

「私達はスリーピングナイツなのよ、絶対に最後まで諦めない!そうでしょ、みんな!」

 

 それを受けて最初に発言したのはユウキだった。

 

「もちろん!ボクは八幡にちゅーしてもらう予定なんだから絶対に負けないよ!」

「おいユウ、こういう場面でそういう事を言うな」

 

 八幡は呆れたようにそう言ったが、こういう場面で黙ってられない者がいた、ランである。

 

「ユウはやっぱりお子様ね、私はキッチリと愛人としての本分を果たすつもりよ」

「お前はちょっと黙れ、というかもう喋るな」

「ひどい!やっぱり私の体だけが目当てだったのね!」

「だから喋るなっつ~んだよ!」

「ぶぅ」

 

 そして拗ねたランの次に、シウネーが言った。

 

「私は八幡さんの近くで働きたいですね、出来る仕事があればですが」

「任せろ、ちゃんと用意してやるぞ、シウネー」

「やった!」

 

 それが羨ましかったのだろう、ノリが身を乗り出した。

 

「わ、私も私も!」

「おう、どんとこいだぞノリ」

 

 その様子を見て、男性陣も騒ぎ出した。

 

「八幡さん、相変わらずモテモテだなぁ」

「羨ましい……俺もモテたい……」

「そうだ、元気になったら八幡兄貴に女の子の口説き方を教えてもらおう!」

「だな!兄貴、頼りにしてます!」

 

 だがそれに対する八幡の返事はこうだった。

 

「いや、俺はそういうのは得意じゃないからちょっと難しいな……」

「「「「「「「「はぁ?」」」」」」」」

 

 その最後の言葉は見事にハモり、八幡は頭に手を当て、ガシガシとこすった。

そんな八幡に、突然優里奈が抱きついた。

 

「「「「あああああああ!」」」」

 

 女性陣がそれを見て悲鳴を上げ、優里奈はその四人にこう言った。

 

「無理です、八幡さんの娘兼妹兼愛人兼仕事仲間の立場は私の物です!

もし悔しいんだったらいつでも邪魔しに来て下さい、正面から受けてたちます、ふふん」

 

 その挑発するような態度を見て、四人は悔しがった。

 

「ぐぬぬぬぬ、生意気な、ちょっと胸が私より大きいからって!」

「愛人になるのはボク達なのに!」

「くっ、絶対にヒイヒイいわせてやります!」

「待ってなよ、ガチンコ勝負を仕掛けにいくからね!」

「いつでもどうぞ、私は八幡さんのマンションにいますから」

「「「「ううううううう!」」」」

 

 優里奈が何故いきなり抱き付いてきたのか、その意図をこの言葉で理解した八幡は、

優里奈の好きなようにさせる事にした。

 

「それからジュン君、テッチ君、タルケン君、クロービス君、

もし退院したら、私の友達の女の子を紹介してあげるから、

それまでに女の子をエスコート出来るように頑張ってね」

「「「「うおおおおお!」」」」

 

 その優里奈の言葉に四人は大歓声を上げ、遠くでこの様子を見ていたスタッフ達も、

この雰囲気に乗ってやっと笑顔を見せ始めてくれた。

 

(おお、優里奈も中々やるなぁ、後で褒めてやろう)

 

「ところでその隣の人って、FGよね?」

「おう、俺がFGさんだ、やっと自己紹介出来たな」

「FG、ナユっちが性的に暴走しないように、ちゃんと監視しててね」

「せ、性的に!?俺に止められるかなぁ……」

 

 そう自信無さげに言う倫太郎の横で、優里奈がとどめとばかりにこう言った。

 

「私、待ってる、ずっと待ってるから!」

 

 そして優里奈が笑顔でそう言い、画面に手を差し伸べた。

 

「あらあら、仮メンバーにいい所を持ってかれちゃったわね」

「俺達も負けてらんねーな!」

 

 そして画面の中のメンバー達も、画面の前の優里奈の手に合わせるように、

前に手を差し出した。その手は重ねあわされ、そしてアイがこう叫んだ。

 

「スリーピングナイツ、ファイト!」

「「「「「「「「「おおおおおおおおお!」」」」」」」」」

 

 こうしてメリダの葬式は、笑顔のまま終了する事となった。

 

 

 

 メリダはその存在がまるで幻想だったかのように儚く消えていったが、

その命は記憶に形を変え、メンバー達の中で永遠の物となった。

スリーピングナイツのメンバーは残り八プラス一人となったが、

その士気は益々高まり、メンバー達はいつか元気になる事を夢見て今日も戦い続ける。

その瞳から光が消える事は無い。




明日は単発エピソードになります!

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