ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第614話 戦巫女ナユタの誕生

 ここで過去の話ではあるが、アスカ・エンパイアにおける優里奈の話をしておこう。

舞台は八月八日、八幡の誕生日の直後の事である。

要するにゲーム内で、ナユタが中身が八幡であったFGと会話をした直後の話だ。

優里奈のキャラネームはナユタ、ジョブは戦巫女であるのだが、

ナユタは戦巫女の中では珍しく、武器はその拳であり、装備も軽い物が中心であった。

正直多くの戦巫女プレイヤーのスタイルとは、まったく違っているのだが、

それは実は、この日の会話に由来していた。

 

 

 

「まさかFGさんの中身が八幡さんだなんて、思ってもいませんでした」

「一応言っておくが、今日は本当にたまたまだからな、いつもの中身はキョーマだし」

「ですよね、本当に八幡さんが私を驚かすつもりだったら、

新キャラとかでたまたまその場に居合わせた風な態度をとって、

隙を見てしれっと後ろから私の胸をもんできたりしますもんね」

 

 笑いながらそう言う優里奈に愕然としながらも、八幡は即座に突っ込みを入れた。

 

「いやそんな事はしねえよ!?

お前、ラン辺りからおかしな影響を受けてるんじゃないのか!?」

「ふふっ、冗談ですよ」

「それを冗談と言い切るところがあいつの影響を受けてるって証拠だな、

今度会った時にとっちめてやる」

 

 そんな義理の兄的父親との会話を楽しみながら(あくまで優里奈の脳内の感想である)

優里奈はリビングに置いてあるPCを操作し、

MMOトゥデイのアスカ・エンパイアのページを呼び出した。

そして『ジョブごとの傾向と対策』のページを開いた優里奈は、

その画面を八幡に見せながらこう言った。

 

「それでですね、今日はちょっと八幡さんに相談があるんですよ」

「何だ?ランからのセクハラがひどいから何とかしてくれってか?

分かった、今からキャラを作ってログインしてあいつをボコボコにしてくるわ」

「コンバートでもしない限り、キャラの強さ的に八幡さんがボコボコにされそうですけどね、

それ以前に八幡さんがランさんやユウさんに危害を加える事なんかありえません」

 

 ニコニコしながらそう言う優里奈にまったく反論出来なかった為、

八幡は取り繕うようにPCの画面を覗き込み、優里奈の方を見た。

 

「で?」

「ええとですね……」

「おわっ」

 

 優里奈はそう言いながら八幡の隣に立ち、画面の方に身を乗り出した。

そのせいで優里奈の胸が八幡の頬にもろに当たる事となり、小さく悲鳴を上げた八幡は、

このままではまずいと思い、優里奈の腰に手を回し、強引にソファーに座らせた。

 

「きゃっ」

「優里奈、近い、近いから、とりあえず座って説明してくれ」

「そ、そうですね、すみません、ついわざと胸を押し付けちゃいました」

「確信犯かよ!」

 

 八幡は、どうも最近の優里奈は自分に対して無防備すぎるというか、

スキンシップを求めてくる事が多いなと感じていた。

 

(これは保護者として何とかしないといけないな、

うん、怒るってのはいい事じゃないが、叱るべき時はちゃんと叱ろう)

 

 そう考えながらも、結局優里奈に対してはとても甘い八幡である。

 

「それでですね、ジョブなんですけど」

「ああ、確かこの前は、巫女っぽい服を着ていたよな」

「はい、あの時は後衛ジョブである、『巫女』だったんですよ、

とりあえず最初にそれを選択してみたってだけなんですけどね。

で、結局その派生ジョブである、『戦巫女』で頑張ってみる事に決めたんですけど……」

「何か悩みでもあるのか?」

「はい、どうもしっくりこなくって……」

「じゃあジョブを変えてみればいいんじゃないのか?」

「一通りやってはみたんですよ、でも他のジョブはそれ以上にしっくりこないんですよね」

「ふ~む、って事は戦巫女なのは決まりとして、装備やスキル構成の問題なのかもな」

「かもしれませんね」

 

 そして八幡は、シンカーが書いたと思われる戦巫女の説明文を読み始め、首を傾げた。

 

「優里奈、ここに書いてある事は事実か?」

「え?あ、はい、間違った事は書いてないと思います」

 

 そこにはこう書いてあった。

 

『戦巫女は本来跳躍力に優れたジョブであり、得意武器は長刀で体力値が低く、

一般的には中距離戦闘向きのジョブと言われている。

事実多くの戦巫女プレイヤーは、とにかく長刀の熟練度を伸ばし、

その低い体力値をカバーする為に重装備を身に付けている』

 

「優里奈の装備はどんな感じだ?」

「そこに書いてあるのとほとんど変わらないですね」

「ふむ、優里奈が迷ってる事について、ランとユウは何か言ってたか?」

「一緒に悩んでくれましたけど、特に変わった事は何も」

「あの二人と手合わせとかしてみたりしたか?」

「はい、その上であの二人が言うには、動きがちょっとぎこちないと」

「ふわっとした感想だな、あの二人もまだまだって事だな、未熟者め、今度しごいてやる」

「えっ、何か分かったんですか?」

「合ってるかどうかは分からないけどな」

 

 そして八幡は優里奈を立たせると、ちょっと待ってくれと言いながら部屋の中を漁り、

色々な物を持ち出してきた。

 

「ほれ優里奈、最初はこれだ、イメージは長刀な」

「物干し竿……」

「それを長刀だと思って構えてみてくれ」

「あ、はい」

 

 優里奈はゲームの中の自分をイメージし、自分なりに気合いを入れ、物干し竿を構えた。

だがどうしてもこれを使いこなすイメージが浮かばず、違和感は拭えなかった。

 

「よし次、日本刀」

「布団叩き……」

 

「次は短刀だな」

「警棒……」

 

「次はこれだ、くれぐれも振り回すなよ、クナイだ」

「ペティナイフ二刀流……」

 

 そのどれもが優里奈にとってはしっくりくるものではなかった。

そして最後に八幡は、その全てを回収した後にこう言った。

 

「無手だ」

「無手……ですか?」

「ああ」

「それだとええと、こうかな……あ、あれ?」

 

 優里奈は拳を握ってファイティングポーズをとっただけだったのだが、

不思議とそれは、優里奈の感性にしっくりきた。

 

「よし、終了だな、優里奈に向いてるのは多分素手だ、徒手空拳って奴だな。

なるほど、確かにこうして見てみると、優里奈はまさにティファさんだな。

確か戦巫女は体術適正もそれなりにあったよな?」

「あ、はい、確かにありますね、でもティファさんって誰です?」

「気にするな、ただの戯言だ」

「私の体型………」

「た、ただの戯言だ」

「あ、はい」

 

 そして使った品を片付けた後、八幡は再び元の位置に座り、優里奈もその隣に座った。

密着の度合いが先ほどより大きいのは、優里奈の女心であろう。

 

「俺の知る限りだと、優里奈は相当運動神経がいい。

それは通知表の数値にも現れているから間違いない」

 

 一学期の優里奈の成績を思い出しながら、八幡は優里奈にそう言った。

優里奈は今の保護者である八幡にはちゃんと通知表を見せており、

確かにそこに書いてある体育の成績は、高い数値を示していたのである。

 

 一つ問題があるとすれば、胸が邪魔で動きにくいという点であったが、

優里奈は八幡に、学校にいる時には可能な限り胸を小さく見せるようにと厳命されていた為、

その事は成績にはまったく影響していなかった。

その反動か、自宅や八幡の部屋にいる時の優里奈は、必要以上に楽な格好をするようになり、

その分胸も強調される事になったのだが、

学校での見た目を詳しく知っている訳ではない八幡は、その事に気付いていない。

さすがの八幡といえども、そんな優里奈が目の前をうろうろしているものだから、

どうしても優里奈の胸に視線を向ける回数が増えてしまっている。

優里奈は当然その視線に気付いているが、むしろその事に幸せを感じている為、

今の状態にとても満足しているというのが現状なのであった。

 

「だが優里奈も気付いていると思うが、優里奈はそこまで器用な方じゃない」

「あ、はい、確かにそうかもです、球技も若干苦手ですし」

「通知表を見てもそんな感じだしな、料理に関しても、

例えばキャベツの千切りとかは、俺の方が早い」

「ですよね、明日奈さんとかも凄く早いですよね」

「まあ早ければいいってもんじゃないからそれは気にしなくていいんだけどな、

優里奈の作る飯はとにかく上手い、それが一番大事な事だ」

 

 優里奈は八幡にそう言われ、胸いっぱいに幸福感が広がるのを感じた。

八幡の周りにいる女性陣の中で、優里奈が一、二を争う勝ち組と言われるのは、

こういった部分が大きいのだろう。

 

「でな、優里奈の今の装備だと、基本攻撃は受けるか反らすか弾く感じになるはずだ。

あそこに書いてある事が本当だと言うなら、アスカ・エンパイアにいる戦巫女の、

ほぼ全員がそういったプレイをしている事になる。

「あ、はい、確かにそうですね」

「だがその防御方法には、一定以上の器用さが必要になる。

もしそうじゃないとすると、敵の攻撃を装備任せで全部受ける事になる。

それがいい事じゃないのは分かるよな?」

「あっ……」

 

 そこまで言われて優里奈は、八幡が何を言いたいのか、朧気に理解した。

 

「つまり、今の風潮は間違っていると?」

「そこまでは言わないが、戦巫女が強ジョブだと言われる事には絶対にならないだろうな。

実際普通に遊ぶなら、今の風潮のままでまったく問題はない。

だが優里奈が一定以上の強さを求めるならそれは不正解だ。少なくとも優里奈にとってはな」

「なるほど……」

「そもそもそういうスタイルでプレイするなら、戦巫女を選ぶ理由はほぼ皆無だ、

普通に耐久力の高い女武者とかで長刀を持ち、重装備を身に付けた方が遥かに強いはずだ」

「た、確かに………」

 

 優里奈はそう言われ、自分の見る目の無さに落ち込んだ。

八幡は、そんな優里奈の頭にぽんと手を置き、優しい口調で言った。

 

「まあ優里奈は別にゲーマーって訳じゃなかったはずだ、

分からない事は分かる奴に聞けばいいだけの事だ。

幸い優里奈の周りには、そういった事に詳しい奴が沢山いるからな」

「はい、そうですね!」

 

 優里奈は八幡や明日奈、和人の事を考えながら、確かにそうだと納得した。

 

「それで優里奈に一番合うと思われる防具だが、これは軽装一択、

ただし急所の守りだけはしっかりな、これはクリティカルを受ける確率を下げる為だ」

「はい!」

「そしてスキルはこれ、『無双飛び』だな、そもそも戦巫女は跳躍力に優れてるんだろ?

その長所を捨てているほとんどのプレイヤーは戦巫女をやめた方がいい、無意味だ」

「かもしれませんね」

「まあこれで優里奈は……ああ、俺みたいなスタイルのプレイヤーになっちまうな」

「八幡さんと同じスタイルですか!」

「まあ正確にはカウンター使いの俺とはまた違うが、

極近接で動き回りながらゴリゴリ削る感じになるだろうな」

「八幡さんと一緒かぁ……ふふっ、一緒かぁ……」

「おい優里奈、聞いてるか?お~い」

 

 こうして本当の意味での『戦巫女・ナユタ』が誕生する事となった。

ナユタは八幡にFGでログインしてもらって装備選びを手伝ってもらい、

(これはFGの持つ資金を八幡が勝手に利用する為の措置である)

『白南風の小袖』というレアアイテムを購入してもらった。

装備ステータスもギリギリ足りた為、ナユタはそれを装備したのだが、

その姿を見た八幡は、ひどく慌てながらナユタに胸当てを差し出してきた。

 

「いいかナユタ、重ね着だ。他人の前でこの胸当てを絶対に外すな、絶対にだ」

「あ、はい、分かりました、八幡さんの前以外では絶対に外しません」

 

 その言葉に八幡は何か言いたげであったが、

ナユタがいかにも分かってますよ風な笑顔を崩さなかった為、それ以上は何も言えなかった。

こうして生まれ変わったナユタは、

その特殊なスタイルとありえない強さからプレイヤーの間で噂になり、

ラン、ユウキを含むスリーピングナイツの全メンバーから、

突然変異的に強くなったと驚愕される事となった。

こうしてナユタは人気プレイヤーの仲間入りを果たしたのだが、

そのせいで一時期ストーカー被害に悩まされる事になり、

それにブチ切れた八幡が、ハチマンをコンバートさせてガードに付き、

ストーカーもしくはそれに順ずるプレイヤーを、無敵の力でフルボッコにしまくった為、

アンタッチャブルな存在として、女性プレイヤー以外はナユタには誰も近寄らなくなった。


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