ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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今日からのエピソードは3話構成になります!


第617話 二人の入団式(血)

 八月も終わりを迎えようとする頃、ALOの中では一つのイベントが行われていた。

そう、クックロビンとレヴィのヴァルハラ・リゾートへの入団式である。

 

「うわ、何この人だかり」

「今回は情報公開をしたからというのもあるが、集まってる人数はかなりのもんだな」

「だねぇ、うわ、緊張してきた……内輪でやるだけでも良かったのに」

「俺もさすがにこの規模だと緊張するな」

「あ、レヴィもなんだ」

「まあヴァルハラ・ウォッチャーと呼ばれる奴らが常にこちらを観察し、

誰も情報をバラしてないのに予想だけでこういったイベントを嗅ぎつけてきたりするからな、

それならいっそ情報公開をしちまおうって、そう考えたって訳だ」

「うう、まあ別にいいんだけど……」

「まあ仕方ねえな、せめて楽しもうぜ」

 

 さすがのクックロビンも、GGOの時のようにおかしな行動はとれないようである。

向こうと違ってこちらの規模は大きく、注目度も段違いだったからだ。

 

「まあお前がこっちに来てから品行方正になってくれたから、俺としちゃ良かったよ」

「え~?最初だから猫を被ってるだけなんだけど?」

「そのまま最後まで被っててくれ、その方が俺も安心だ」

「それじゃあこの緊張をほぐす為に、ちょっと私の胸を揉んでみてくれる?」

「はっ、偽乳がそんなに嬉しいのか?」

「べ、別にいいじゃない、人の勝手でしょ!」

 

 どうやらクックロビンはコンバート時のキャラメイクの時に、

多少スタイルの数値をいじったらしい。これは本来課金要素なのだが、

そんなはした金はクックロビンにとってはまったく問題にはならない。

そもそもGGOにつぎ込んだ金額に比べれば、微々たるものである。

 

「まあまあロビン、それくらいで、ね?」

「そうそう、ここからが本番なんだから、少し気を引き締めましょう」

「しかしアレだよな、今回は入団する二人がコンバート組で良かったよな、

そのおかげで平気で外に出れるんだから」

 

 そんな二人の言い争いを見かねたのか、

一歩後ろを歩いていたアスナ、ユキノ、キリトの三人がそう話しかけてきた。

実はこの少し前、勢揃いしたヴァルハラのメンバー達は、

中央広場から中央出口までパレードを行っていた。

そこで新人二人とハチマン、それに幹部の三人だけが同行し、

観光案内を兼ねた狩りを行うという名目で央都アルンからフィールドへと飛び出し、

六人は今、多少レベルの高い敵がいる山脈へと向かっていた。

残りのメンバーは、今日のために借りたという建物に消えていった。

ちなみに真っ直ぐ進むような事はしておらず、

今回はぐるりと円を描くようなルートを選択している。

そして最初の観光地は、まるでグランドキャニオンのような滝がある場所だった。

 

「よし、ここで休憩にしよう」

「うわ、凄い景色だねぇ」

「GGOじゃあまり見ない景色だよな。

しかし二人とも、随分あっさりと自由に飛べるようになったよな」

「私は結構苦労したんだけどね」

「俺はそうでもなかったな、結局こういうのはイメージだろ?背中に羽根が生えてる感じの」

 

 実は先ほどキリトも言ったが、

レヴィの使用キャラもGGOからコンバートされたものだった。

これはサトライザーがGGOをプレイしていた時に、

その手伝いとして育てられていたキャラであり、

サトライザーと同行しても問題ない程度にそのステータスは高い。

そしてクックロビンは当然ピトフーイをコンバートさせた訳であるが、

その際問題になった名前の件に関しては、エルザはこれも課金する事で解決していた。

 

「しかしその偽乳は、違和感ありまくりだな……」

「別にいいじゃない、私が優里奈ちゃんみたいになっても!」

「というかお前、体型をいじる時、

リアルの体型を反映する機能を優里奈にそのまま使ってもらったらしいじゃないかよ、

道理で見覚えのある体型なはずだよ!」

「ハチマン君、随分と優里奈ちゃんの体について詳しいみたいだね、

うん、ちょっと向こうでお話ししようか」

 

 その時アスナがそう言いながら、ハチマンの肩をガシッと掴んだ。

そしてユキノもこの時とばかりに反対の肩をガシッと掴んだ。

 

「さっきから偽乳偽乳と連呼してくれてるようだけど、、

それはニャンゴローに何か言いたい事があると判断してもいいわよね?」

「ち、違う、二人とも誤解だ!優里奈に関してはたまたま最近接する事が多かっただけだ。

ニャンゴローに関しては、とても素敵なキャラだなと俺は常々思っている」

「ふうん、言いたい事はそれだけかな?かな?」

「詳しい話は向こうで聞くわ、さあ、さっさとこっちに来なさい」

「あ、おい、ちょっと!」

 

 そしてハチマンは二人に連行され、少し離れた所で正座をさせられた。

それを見ながらレヴィは、こんな疑問をキリトにぶつけてきた。

 

「なぁ、結局この中で一番強いのは誰なんだ?」

「そりゃ俺に決まってるだろ、単純な戦闘力だけならな」

「って事は、見方を変えると違うって事か?」

「おう、多分総合力ならアスナが一番だ、回復魔法が使えるしな。

ユキノは攻撃力にやや難があるが、あいつ実は近接戦闘が苦手って訳じゃないから、

回復魔法の精密さも相まって、一番やりにくい相手ではある。

ハチマンは専用武器のあるなしで強さが変わるな」

「ほう?専用武器なんてものがあるのか」

「ああ、アハト・ファウストっていうんだけどな、

素材がアインクラッドのかなり上に行かないと手に入らないんだよ、

こればっかりは俺達にはどうしようもないからな」

「なるほどなぁ、その状態のボスと戦ってみたいもんだ」

「いずれ戦えるさ、楽しみにしておくんだな」

「ああ、そうする」

 

 そして一行は順調に予定を消化し、折り返し地点となる森林の広場へと到達した。

 

「よし、ここでまた休憩だ、まあ油断はするなよ、

ここは別に安全地帯って訳じゃないんだからな」

 

 そう言いながらもハチマンは、その場にごろりと横になった。

右手にはアスナが、左手にはキリトが腰掛け、

そしてユキノはハチマンの頭のすぐ近くに座り、その顔を覗き込んで何か話しかけていた。

クックロビンとレヴィはハチマンの足に関節技をかけたりして遊んでおり、

それはとても穏やかな雰囲気に見えた。

だがその穏やかな時間は長くは続かなかった。いきなりユキノがこう叫んだからだ。

 

「マジックプロテクション!」

 

 その叫びと共に、六人は円形の防護フィールドに包まれた。

どうやらユキノはハチマンの顔を覗き込むフリをして、呪文の詠唱を行っていたようだ。

そしてそのフィールドに膨大な数の魔法が着弾し、全てその表面で弾かれ、消失した。

 

「な、何っ!?」

「あらあら、随分多くの魔導師を動員したみたいだね」

「まんまと罠にはまりやがって、この馬鹿どもが」

「そもそも何で入団式で、私達がこんな単独行動をする必要があるのか分からないのかな?」

 

 そしてハチマンがゆっくりと立ち上がり、敵の集団を指差しながら言った。

 

「おい馬鹿ども、いいからさっさとかかってこいって」

「「「「「「う、うおおおおおおお!」」」」」」

 

 その挑発により、待ち伏せをしていたらしい数多くのプレイヤーが、

一斉に六人に襲い掛かってきた。

 

「おうおう、アルゴから聞いてはいたが、こりゃまた結構な数だな」

「当たり前だ、オレっちの報告が間違ってた事が一度でもあったカ?」

「いや、無いな」

 

 そう言って木の上からアルゴが飛び降りてきて、ハチマンの隣に並んだ。

 

「な、何だと……いつの間に!?」

「何を驚いてるんだよ、斥候を出すのは基本中の基本だろ?」

「お前らは街にいたはずじゃ……」

「そんなのフリに決まってるだロ」

 

 この言葉で襲撃者達は、他の仲間がいる可能性にも気付くべきであったが、

冷静さを失っていた為、そこまで考えが及ばなかった。

 

「く、くそ、やっちまえ!こっちの方が遥かに数が多いんだ」

「前の戦闘みたいに俺達があっさりやられると思うなよ!」

 

 その言葉でハチマンは、それが誰なのか思い出した。

 

「お前達はこの前の………ええと、確かロザリアの取り巻きだった、ABCDEFG!」

「俺達をそんな名前で呼ぶなあああああああ!」

 

 そして戦闘が始まったが、その間もハチマンは、敵を煽り続けた。

 

「思ったよりも動員力があるんだな、驚いたぜA」

「Aじゃねえ、オレはゴーグルだ!」

「そんなの一々覚えてられるかよ、おらBCG、さっさとかかってこい」

「人を予防注射みたいな名前で呼ぶな!」

「落ち着けコンタクト、相手はあのヴァルハラの幹部連なんだぞ、

遠くから囲んで数の力で押し切れ!」

「ほう?Cは意外と冷静だな」

「フォックスだっての!俺はいったん下がる、人員交代はバンダナに任せたぞ!」

「ふむふむ、Gが魔導師部隊に指示を出していると、

自分から手のうちを明かしてくれるなんざ、本当に親切な奴らだな」

「とか言ってちっともこっちに攻撃出来てないじゃねえかよ、

よし、相手の限界点を見切って突撃だ、テール、ビアード、ヤサ、頼むぜ!」

「やっとDEFの出番か、おら、さっさとこい雑魚ども」

「乱戦だ、突っ込んでとにかく囲め!」

「行けえええええええ!」

 

 クックロビンとレヴィを中央に置き、相手の魔法攻撃に対応していたキリトとアスナは、

そこで近接戦闘モードに頭を切り替えた。同時にクックロビンとレヴィも迎撃体制をとり、

ハチマンとアルゴはユキノの隣に控え、戦況をじっと見つめていた。

 

「もういいカ?」

「まだだ、もう少し引きつけろ」

「あいヨ」

 

 そして敵がこちらにどんどん殺到し、広場が飽和状態に近くなった頃、

ハチマンはアルゴに指示を出した。

 

「よし、出撃だ」

「了解」

 

 そしてアルゴはどこからか笛を取り出し、それを口にくわえた。

 

 ピイイイイイイイイイイイイイイイ!

 

 その瞬間に、上空から何人ものプレイヤーが降ってきた。

 

「おらおら、この馬鹿どもが、お前らの相手はハチマン達だけじゃねえぞ!」

 

 そう言いながらエギルがハンマーを敵の頭に叩きつける。

 

「サムライマスターなめんなコラ!」

「元シルフ四天王、リーファ、参る!」

「同じく四天王のフカ次郎、一人残らずお命頂戴!」

「このハンマーは、結構痛いわよ」

「ピナ、ブレス!」

「謎の騎士黒アゲハ推参、死ね」

 

 そしてクライン、リーファ、フカ次郎、リズベット、シリカ、キズメルの六人が、

その後に続いて上空から敵の中に斬りこんだ

 

「お待たせ、ここはもう通さないよ!」

「ハチマン様、御身の前に」

 

 直後にハチマン達の左右を守るように、ユイユイとセラフィムが着地して盾を構えた。

その中央に、次々と魔法アタッカー達が降りたつ。

 

「はいはい、ここからは逃がしませんよ、遠距離型アースウォ-ル!」

「フレイムランス!」

「ユキノジャベリン!」

「気円ニャン!」

 

 クリスハイトの魔法により、広場の外、森の奥にまでせり出す形で巨大な土の壁が出現し、

敵はこの場から簡単には脱出出来なくなった。そしてユミーとイロハ、それにフェイリスが、

味方に当てないように注意しながら直線型の魔法を叩きこむ。

 

「くそっ、上だ!上に逃げろ!」

「させないわよ、インビジブルハンド!」

「ぐおっ、足が、足が掴まれる!」

「今よ、ナタクさん、スクナさん、ユイちゃん、」

「職人だって、戦う手段くらいあるんですよ!」

「えい、えい!」

「本来これは裁縫道具なんだけどね、ニードル発射!」

 

 ユキノの隣に降り立ったクリシュナが何人かの敵を足止めし、

ナタクとユイは、その手に珍しい棒のような形の物を持っていた。

それはつい最近導入されたばかりの魔法銃の初期タイプであり、

今はヴァルハラのメンバーに、二丁だけ試験導入されているものである。

ちなみに作ったのはナタクだった。

そしてスクナが持つのは針を打ち出す機構であり、本人が言う通り、本来は裁縫道具である。

まあネタ枠のようになってしまったが、案外当たると痛い。

 

「外の敵は任せて!」

「殲滅します!」

 

 クリスハイトが逃した僅かの敵は、壁の外に降り立ったコマチとレコンが処理していた。

そしてメビウスがユキノの隣に立ち、交代を告げた。

 

「ここは私に任せて、ユキノは前線のメンバーの回復を」

「任せたわ、お願い!」

 

 その頃にはキリト、アスナ、クックロビン、レヴィの四人も敵陣深くに到達し、

正面の敵を倒しまくっていた。そこにユキノからヒールが飛んだ。

 

「ユキノ、ありがと!」

「勘違いするなよロビン、これはもっと働けって事だぞ」

「ひええ、怖い怖い!」

「あはははは、レヴィは大丈夫?」

「おう、これくらいは余裕だ」

 

 そして最後に上空に逃げようとした敵を、シノンが片っ端から狙撃した。

 

「逃がさないわよ!と言いたい所だけど、さすがに全部は無理かな」

「シノンちゃん、飛び降りて」

「あっ、はい!」

 

 そこについに真打ちが登場した、ソレイユである。

 

「はい、それじゃあ皆さんお疲れ様って事で、行くわよ!テンペスト!しかもダブル!」

 

 どうやっているのだろうか、ソレイユは右手と左手から直線状に二本の雷を発生させ、

両手を左右に広げてぐるりと回転させた。

 

「薙ぎ払え!」

 

 それにより上空の敵は、その平面状に放たれた雷により、黒コゲとなった。

 

「さて、残るはお前らだけか、今回俺はまだ何もしてないんでな、

お前らくらいは俺が頂くとするさ」

「く、くそ、かかれ!」

 

 そんないかにもやられ役なセリフを発し、

ロザリアの元取り巻き七人衆はハチマンに斬りかかった。

だがその全ての攻撃はほぼ同時に弾かれ、七人はハチマンに無防備な首を晒した。

 

「うし、終了だ」

 

 そしてハチマンが片手を振ると、七人の首が一斉に飛んだ。

 

「おお?」

「ハチマン、何それ?」

「これか?カウンターを受けて無防備状態の敵にしか効かないらしいんだが、

糸状の刃の先に重しとしての小さな刃が付いてる武器だ、名前はワイヤーソード、

まあ本来はネタ武器だな」

「うわ、それってカウンター使いのあんたにしか使えない武器じゃない?」

「テクニカルだなおい」

「いや、まあ俺でもこんなネタ武器を使うのは簡単じゃないけどな」

「ハチマン君、凄い凄い!」

「さて、全滅か?犠牲は出てないな?」

 

 ハチマンはクリスハイトに壁を消させ、確認するように指示をし、

アルゴとコマチ、それにレコンが頭の上で丸を作った。

 

「よし、それじゃあこのまま観光を続ける、今度は全員でな」

「お弁当も大量に用意しておいたから、楽しくいこう!」

 

 こうして今回のイベントを利用し、ヴァルハラは多くの敵を殲滅したが、

代わりにまた多くの恨みをかう事となった。

 

「まあ恨まれるのは強者の常だ、火の粉はその度に払えばいいさ」

 

 ハチマンはそう言って先頭をきって空へと舞い上がり、その後にメンバー達が続いた。

 

「何か凄かったねレヴィ」

「だな、せっかくこんな強いギルドに入ったんだ、敵を殺して殺して殺しまくってやろうぜ」

「うん、そういうの得意!」

「あはははは、ロビンは相変わらず物騒だな」

「レヴィもね!」

 

 こうしてヴァルハラ・リゾートの新規入団イベントは、派手に終了する事となった。


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