その直後に連合の連中が画面の中で奇襲を仕掛けてきた為、
観戦していた三人は、無事に役目を果たせた事を確信し、ほっとしていた。
「ふう、これで肩の荷がおりたね、作戦は成功っと」
「敵の初手は魔法による飽和攻撃か、まあ妥当なところだな、
あれくらいしないとあいつらにはまったく対抗出来ないからなぁ」
「でもユキノはあのくらいなら、魔力を調節してキッチり耐えてしまうんだなこれが」
「我が友人ながら、あの子は見た目に反してかなりの化け物だよな」
「あ~、ユキノに言いつけてやる!」
「やめろアリシャ、ほら、これをやるから」
そう言ってサクヤはアリシャに飲み物を差し出した。
「わ~い、ありがとうサクヤちゃん!」
「しかしそんなユキノも、あのメンバーの中じゃ、
それほど特殊な存在という訳ではないというのが何ともな」
「そうなんだよな、化け物集団め」
「あ、ヴァルハラからの逆奇襲が始まったね」
同じく大モニターでそれを観戦していた者達は、ここでやっと事情を理解し、
大いに盛り上がる事となった。
「うっわ、いきなり奇襲がきたと思ったら、ここでヴァルハラの反撃開始か」
「あれ、でも他のメンバーってこの街のどこかにいるんじゃ?」
「密かに移動したんだろ、やっぱりさすがだよなぁ!」
「だな、さすがはザ・ルーラー、魅せてくれるぜ!」
「絶対これ、予定の範囲内って奴だよな?」
「うおおおお、盛り上がって参りました!」
そして噂が噂を呼び、ALO中のプレイヤーが、どんどんとこの広場に集まってきた。
だが当然ユージーン達に近付く者など存在しない。
「おいお前ら、もう少しこっちに詰めてくれてもいいぞ」
「あ、ありがとうございます!」
その混雑具合は、逆にユージーンが気を遣って、
他のプレイヤーにそう声をかけるレベルであった。
「お、よく考えたらあの顔にペイントをした斥候が表に出るのは珍しいな」
「アルゴちゃんね、確かにそうかもねぇ」
「しかし他の連中がまだ出てこないな」
「ハチマン君の事だから、もっと引きつけてようとしてるんでしょ、普通に考えて」
「って事はそろそろか?」
「お、物理チームが最初に来たね!」
その瞬間に、観客の一角からこんな声が上がった。
「おい、あれを見ろ!」
「うおおおお、黒アゲハがいるぞ!」
「いつ以来だ?」
「黒アゲハ様!いつ見てもお美しい!」
黒アゲハとは、以前キズメルが顔にアイマスクを付けて登場した時からの呼び名である。
ちなみに今日も、バッチリと蝶のアイマスクを装着済だった。
この時点で黒アゲハの正体がハウスメイドNPCだという事は、実はかなり知れ渡っていた。
この世界には存在しないはずのダークエルフ、イコール絶対にプレイヤーではありえない。
ならば彼女はどこから来たのかと、話題にならない方がおかしい。
前回公の場に登場してから今日まで、様々なサイトで動画が検証され、
実際のシステムから可能性が検討されていった結果、
大手のギルドに同じようなエルフのハウスメイドNPCが出現したという報告が、
写真付きで検証サイトに寄せられ、今ではキズメルは、
ヴァルハラのメンバーに戦闘技能を英才教育されたハウスメイドNPCだと噂され、
広く一般プレイヤーにまで認知されているのだった。
もちろん今ご覧頂いたように、人気も抜群である。
「キズメルは本当に人気者だよねぇ」
「こういう時じゃないと、絶対に表に出てこないからな」
「まあ実際はたまに狩りに同行してるんだけどね」
「次は魔法チームの登場だな」
「地味にクリシュナの存在って大きいわよね」
「一見すると分からないが、あそこにいる味方全員に、バフがかかってるな」
「あ、そうなんだ?」
「ああ、いつもよりも動きが鋭い、間違いない」
「さっすが戦闘狂のユージーン君、よく分かるよねぇ」
その説明は周囲のプレイヤーにもしっかりと聞こえていた為、
徐々にその話が広がっていき、観客達は大いに盛り上がった。
「うちのギルドにも補助魔法専門の奴がいればなぁ」
「ぶっちゃけアリなんだよな、地味だけど」
「でもクリシュナってバフの掛け替えを、アイドルタイム無しでやってるよな?」
「体内時計が正確すぎだろ……ってか何人の情報を一度に頭の中で処理してるんだよ」
「実はヴァルハラの中で一番の天才?」
「かもしれないよなぁ、武器を使って派手に戦闘とかしてるところは見ないから、
もしかしたら運動は苦手なのかもしれないけどさ」
そして次に職人チームとユイが使ってる武器を見て、観客達は別の意味で興奮した。
「あ、あれって導入されたはいいが、入手方法が分からなかった魔法銃じゃね?」
「マジだ、ナタクが持ってるって事は、プレイヤーメイドの品で確定か」
「素材は一体何なんだろうなぁ」
「しかしユイちゃんのかわいさは至高だな」
「いいなぁ、うちにもあんなハウスメイドNPCが来てくれたらなぁ」
「その前にお前は家を手に入れないとな」
「仕方ないだろ、高いんだよあれ!」
「スクナの良さが分からないとはこの萌豚どもが」
「ニードル発射!ニードル発射!」
「クールな表情でのあのセリフ、あれでこそスクナちゃんだぜ!」
そんな中、数少ない斥候職の者は、コマチとレコンの活躍をしっかりとチェックしていた。
「地味だけどいい仕事してるよなぁ」
「俺達も見習わないとな」
次はシノンである。シノン本人は不本意なのだが、
シノンは今では弓使いとしてよりも、美脚ツンデレキャラとしての方が有名になっていた。
もちろん本人がわざとやっているという事は絶対にない。いわゆる天然ツンデラーである。
「シノンちゃ~ん!今日もナイス脚線美!」
「ツンデレ!ツンデレ!」
この場面をもしシノンが見たら、羞恥に塗れてまたツンデレなセリフを吐き、
再びツンデレコールが起きるという、無限ループに陥る事だろう。
そして新人二人が戦う姿が映し出され、観客達の興味はそちらに映った。
「ユージーン君、あの新人二人だが、君の目にはどう映る?」
「ううむ、二人ともステータスは中々高そうだ、コンバート組で確定だな」
「ふむ、ああしてあの場で戦えている事で、それがハッキリと確定した感じだな、
で、個別にはどうだ?何か感想はあるかね?」
「そうだな、クックロビンは正統派といった感じだが、剣筋にどこか狂気を感じるな、
あるいはSAOサバイバーかもしれん。問題はもう一人、あのレヴィというプレイヤー、
あのプレイヤーの短剣術は、何といえばいいかな……」
「何か気になるのかい?」
「ううむ、二人とも、ちょっと耳を貸せ」
「人に言えない類の話か、いいぞ、聞こう」
「私も聞く聞く」
そしてユージーンは、サクヤとアリシャにひそひそとこう言った。
サクヤの言う通り、彼の中では他のプレイヤーにはあまり聞かれたくない話らしい。
「おそらくあれは軍人だ、もしくは傭兵という奴だな、
他のゲームの話になるが、GGOでサトライザーという奴がいただろう?」
「あ、その人知ってる」
「有名人だな」
「そいつはBoBというGGOの大会の動画の研究から、
今では軍人ないしそれに順ずる職業の人間だというのが定説になってるんだが、
あの新人の動きはそれとそっくりだ、正直驚いた」
さすがは戦闘狂のユージーン、プレイヤーを見る目は一級品のようだ。
そこで突然観客達から大歓声が上がった、満を持してのソレイユの登場である。
「うおおおお、ついに絶対暴君がきたあああああああ!」
「ソッレイユ!ソッレイユ!」
「いやぁ、敵に回すのは絶対嫌だけど、
見てる分にはあれほど盛り上げてくれる奴はいないよなぁ」
そしてソレイユが、まるで手から紫色のビームを発射しているような格好で回転し、
森の木の上半分が消失するに当たって、観客達は今日一番の盛り上がりを見せた。
「うおおおお、何だ今の」
「人間技じゃねえ!」
「密かに慌てて飛び降りたシノンちゃん萌え!」
「でもよ、これでほとんど連合は全滅じゃないか?」
「まだだ、まだ終わらんよ」
「あ、本当だ、例の七人が生き残ってら」
「さすがはザ・ルーラー、盛り上げ方を分かってやがるぜ」
「うお、もしかしてあいつ、七対一でやるつもりかよ」
そしてハチマンはどうやったのか、七人同時にカウンターを決め、
その右手が一閃された時、七人の首が同時に落ちた。
「はぁ?????」
「な、何だ?今何が起こった!?」
「意味が分からんサッパリ分からんマジで分からん」
「あ、あれって確かワイヤーソードって奴じゃね?ほら、ネタ武器の」
「まじかよ、あれって実戦で使えるもんなのか!?」
「あんなの絶対に他の誰にも無理だろ……」
さすがにその光景には、ユージーンもあんぐりと口を開けるしかなかったようだ。
「ユージーン、おいユージーン」
「す、すまん、さすがに今のは意味不明すぎてフリーズしてしまった」
「何あれ?糸?」
「まあ似たような物だな、ワイヤーソード、
相手がよろけ状態の時のみダメージが入るという、完全無欠なるネタ武器だな」
「よろけ状態?つまりカウンターを決められた時の状態という事か」
「よくあんなのに目を付けたよねぇ」
「多分ギャグのつもりで持ってきたんだろうな、使い物にならなくても、
あいつの実力なら問題なく七人を全滅させられただろうからな」
「上手くいってラッキー、とか思ってそうだね」
「だな」
そして戦場は静かになったが、観客達は誰もその場を去らず、
口々に今の戦闘に関する感想を交わし合っていた。
今回のヴァルハラの入団式の中継は、大成功だといっていいだろう、
あくまでヴァルハラ・リゾートの立場に立って言うとであり、
連合にとっては最悪の結末といえるのだが。
「さて、それじゃあ俺達は、会場に戻ってあいつらの到着を待つか」
「だね、ああ~お腹が減っちゃった」
「ははははは、精々腹いっぱい食べさせてもらうといいさ、
どうやら今日の料理担当は、アスナらしいからな」
「おお、最高じゃん!」
そして三人が立ち去り、他の観客達も徐々にその姿を消していった後、
その場に残っていた一人のフードを被ったプレイヤーが、ぼそりと呟いた。
「やはりあいつら程度じゃ駄目だったか、ハチマン……絶対に復讐してやるぞ、絶対にだ」
そう言ってそのプレイヤーは、どこへとなく去っていったのだった。
このエピソードはここまで!