ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
<< 前の話 次の話 >>

622 / 689
単発エピソードです!


第616話 香蓮と新たな友人達

 八幡の部屋でのお泊り会を終えた香蓮は、一度家に帰った後、自らが通う学校の前にいた。

 

「そういえばここって、八幡君と正式に知り合った場所だ……

懐かしいな、この体育館も、あの喫茶店も」

 

 香蓮は昔を懐かしみながらもきょろきょろと周囲を見回し、

SHINCのメンバーらしき者達が見当たらない事にため息をついた。

 

「正直あんまりここに長居はしたくないんだけどな、さっきからチラチラと見られてるし」

 

 香蓮はただ体育館脇で所在無さげに佇んでいるだけなのだが、とにかく周囲の目を引く。

本人はそれを身長のせいだと考えているがそれは正確ではない。

当然自覚はしていないが、香蓮は均整のとれたプロポーションをしており、

見た目も百人中八十人が振り返るくらい整っている。

自覚していないというか出来ない理由の一つは、皮肉にも八幡との交流であった。

八幡の周りにいる女性陣のレベルは異常であり、香蓮はそれを比較対象にしているのだ。

 

「それにしても、どうして待ち合わせ場所がここなんだろ、

八幡君が私の個人情報を漏らすはずがないし、そもそもこの件には関わっていないはずだし」

 

 香蓮はそう思って考え込んだが、いくら考えても答えは出ない。

どうやら相手が以前チラリと見た、咲達六人の高校生集団だとは思ってもいないようだ。

その六人とはたまに学内ですれ違っており、その度にチラチラとこちらを見られていた為、

香蓮はその六人を苦手としていた。正直顔を正確に覚えている訳ではない。

香蓮が目を合わせるのを避け、下を向いていたからだ。

以前八幡が咲達と話していたのは喫茶店の中から見ていたはずなのだが、

その時の香蓮はぼ~っとしていた為、その記憶は薄い。

人数も丁度六人であり、思い出しさえすればすぐに正解に辿りつけたはずなのだが、

香蓮はその事をまったく思い出す事が出来なかった。

その証拠に、今まさに近付いてくる六人に、香蓮はまったく反応を示してはいない。

香蓮がその六人に気付いたのは、可憐の隣に咲達が陣取り、雑談を始めてからだった。

 

(ど、どうしよう、少し離れた方がいいかな……)

 

 香蓮は相手がいつものように、こちらにチラチラと視線を投げかけてくるのを感じ、

居心地の悪さを感じていた。目を合わせればそこに憧れの感情を感じる事も出来ただろうが、

当然香蓮にそんな度胸はなく、さりとて移動するのもこの子達に失礼かもと思ってしまい、

香蓮はそのまま六人が去るのをじっと待つ事しか出来なくなっていた。

 

「ねえ咲、相手の顔は分かってるの?」

「ううん、見ればわかるだろうって思ってたから特に聞いてない!」

「相変わらずふわっとしてるわよね、連絡先とかは?」

「君達、個人情報保護法という物を知っているかね?」

「要するにそれも分からないと」

「ああもう、どうするの?」

「周りをよく観察して、小柄な人に声をかけてみるしかないんじゃない?」

「だな、時間になってきょろきょろしている人が、多分当たりだ」

 

(この子達も待ち合わせなんだ、もしかしたらって思ったけど、

小柄な人っていうなら私じゃないね)

 

 香蓮がそう考えて時計を見ようとした瞬間に、香蓮は突然三人組の男性に囲まれた。

 

「ねぇ、君ってモデルか何かだよね?雑誌とかで見た事がある気がするし」

「僕達これから遊びにいくところなんだけど、暇だったら一緒に行かない?」

「車もあるから移動の時も歩く必要はないし、お金の事はまったく心配ないからどうかな?」

「け、結構です、私、人を待ってるんで!」

「でも随分前からここにいるよね?もしかしてすっぽかされた?

世の中にはひどい奴がいるもんだよねぇ、ほら、そんな薄情な奴は放っといてさ」

「そうそう、そんな奴の事なんか忘れちゃえばいいって」

 

 そう言って男の一人が手を伸ばしてきたのだが、

香蓮はその手を反射的に掴み、後ろ手に捻りあげた。

 

「い、痛っ!な、何するんだよ!」

 

 それはシャナに教えてもらった護身法というか、戦闘術の一つであり、

必死に訓練した為にそれが自然と出てしまったのだが、香蓮はその声で我に返り、

相手の手首を握っている事にすら嫌悪感を感じた為、そのままその男を突き飛ばした。

 

「い、嫌っ!」

「くそ、こいつ……」

「いっそ強引に連れてっちまうか?」

「やめなよあんた達、さすがにみっともないよ!」

「そうだそうだ、みっともない!」

「格好悪……」

 

 ここで咲達六人が香蓮に加勢し、そう囃し立てた。

ここはお嬢様学校の構内であり、基本男はいないはずなのだが、

この場所は道路から近く、そこからの移動も簡単に出来るようになっている。

そして同じように簡単にこちらに来れるはずの周りを歩く男どもは、

我関せずとばかりに通り過ぎていくだけだった。

 

「ああん?ガキが余計な口を出すな」

「こうなったら仕方ない、あいつらを呼べ」

 

 そしてすぐに仲間なのだろう、何人かの男がこちらに走ってくるのが見え、

香蓮と咲達は、さすがにこちらに不利だという事を悟った。

 

(どうしよう、せめてこの子達だけでも……いざとなったら強引に囲みを破って……)

 

 香蓮が、自身が傷を負う事も厭わずその考えを実行に移そうとしたその時、

横から一同に声をかけてくる者がいた。

 

「ただ見守るだけのつもりでいたけど、どうもおかしな事になってるみたいね」

「雪乃!?」

「「「「「「雪乃さん!?」」」」」」

 

 お互いがそう声を発した事で、香蓮と咲達は顔を見合わせたが、

その事を確認する間もなく雪乃が動いた。

 

「これはこれは、また凄い美人の登場………うがっ!」

 

 そう言いかけたその男は、顎に掌底をくらってその場に崩れ落ちた。

 

「な、何だぁ!?」

「あなた達、随分とろいのね」

 

 その隣にいた男は膝に雪乃の前蹴りをくらって転げ回り、

その瞬間に雪乃はコマのように回り、次の男を胴回し蹴りでぶっ飛ばした。

 

「うわ………」

「凄っ!」

「雪乃さん、強っ!」

 

 そして野次馬達も集まってきて、通行人の中に通報してくれた者がいたのだろう、

警察官が数人こちらに走ってきて、その男達を全員拘束した。

そして香蓮達は簡単な事情聴取を受けるだけですぐに解放され、

今は近くの喫茶店で自己紹介だけ終え、そのまま休んでいる所だった。

 

「何故私がここにいるか、疑問だって顔をしてるわね」

「あ、うん、どうしてここに?」

「実は朝、八幡君から連絡があったのよ。

あなたが顔も名前も分からない相手と待ち合わせしてるから、

心配だから遠くから見ててやってくれってね。ここはお嬢様学校だし、

念のためという事で私に白羽の矢を立てたのでしょうね」

「そうだったんだ……ありがとう、雪乃」

「別にいいのよ、報酬はちゃんと……あ、いえ、友情の為ですもの、当然よ」

 

 その言葉を聞き漏らさなかった香蓮は、じとっとした目で雪乃を見つめながら言った。

 

「で、何を報酬に提示されたの?」

「べ、別にいいじゃないそんな事」

「何を?」

「ええと、その、友情が……」

「何を?」

「あ、新しく出来た猫カフェの割引券よ」

「え、本当に?それ、私も一緒に連れてって!」

 

 それを聞いた瞬間に、香蓮の口調がガラリと変わった。

香蓮はレンの格好からも分かる通り、実はそういったかわいい物全般が大好きなのであった。

 

「あらそう?それならクルスも誘って今度一緒に行きましょうか」

「うん、約束ね」

「ええ、それじゃあ香蓮もあなた達も、

もうお互いの待ち人が誰なのかは分かっていると思うから、

私はここでお暇するわね、ご機嫌よう」

 

 そう言って雪乃は立ち上がり、ついでに伝票をレジの方へと持ち去った。

 

「これは八幡君に回しておくわね」

 

 その後姿を見送りながら、最初に咲が口を開いた。

 

「はぁ、やっぱり雪乃さんは格好いいなぁ……」

「美人だしね」

「でもそれなら香蓮さんだって……」

「負けてないよね?」

 

 そう言って六人は、香蓮の方を見つめ、香蓮は恥ずかしそうに顔を赤くした。

 

「ボスもみんなも、そんな目であんまり見ないで……」

「「「「「「やっぱりレンちゃんなんだ!」」」」」」

 

 

 

 その三十分後、七人は近くにある香蓮の部屋にいた。

あのまま喫茶店にいても良かったのだが、銃だの殺すだのという単語が飛び交った為、

他の客からの視線が痛くなったせいで移動したのだ。

 

「良かった、紙コップがあった、ついでにこれ、私が作ったんだけど」

 

 そう言って香蓮は、咲達に手作りのお菓子が盛り付けられた皿を差し出した。

 

「うわ、何これ、プロの仕事みたい!」

「いっただっきま~す!」

「美味しい……」

「香蓮さんの女子力がやばい……」

「それに大人っぽい……」

「いつものレンちゃんは、八幡さん大好きオーラを出してる甘えん坊にしか見えないのに!」

「そ、そんなの出してないから、普通だから!」

 

 そう強がる香蓮に、咲達は生暖かい視線を向けた。

 

「はいはい普通普通」

「あれが普通って事は、本気で好き好きオーラを出したらどうなるんだろ」

「というか八幡さんがレンちゃんをお気に入りなのって、このせいだったんだ」

「やべ、かわいい、鼻血出そう」

「リサ、おっさんくさい」

「レンさん、これからも仲良くして下さいね」

 

 香蓮は恥じらいながらも、この六人と仲良くなれた事に喜びを感じていた。

それと同時に今までの態度を謝らないといけないと思い、こう切り出した。

 

「あ、それとみんな、思い返すと今まで何度か私に話しかけようとしてくれてたよね、

それなのに全部無視しちゃってごめんね……」

「あっ、それは確かに!」

「特にミラナが一番多かったよね」

「香蓮さん、あれは一体どういう……」

 

 当のミラナにそう言われ、香蓮はもじもじしながらこう答えた。

 

「あ、うん、ほら、私ってばこんな見た目じゃない?」

「見た目って、美人だからツンツンしてたと?」

「美人じゃないしツンツンなんかしてない!そうじゃなくてほら、身長がさ……」

「はぁ、高いですよね」

「そのせいで私、昔からいじめられてたというか、変な目で見られ続けてたから、

その、他人の視線とかが苦手になっちゃって、それであなた達からの視線も、その……」

 

 それで咲達は、事の本質をやっと理解したようだ。

 

「ああ~、それで私達を苦手に思っていたと!」

「確かにミラナはじろじろ見てたもんな」

「ご、ごめんなさい、悪気は無かったんですよ、ただモデルみたいで格好いいなって思って、

知り合いになれればって思ってただけで……」

「そ、そうなの?」

「ええ、もちろんですよ?」

「そっかぁ、それじゃあ私の早とちりだったんだ……」

「そうだよ、ミラナってば凄く熱っぽい目で香蓮さんの事を見てたんだから、

多分目を合わせれば、こいつ私の事が好きなのか?くらいに思ったはずだよ!」

「カナちゃん、そういう誤解を与えるような事は言わないで!」

 

 こうして香蓮とSHINCの六人は、すっかり打ち解けた。

 

「それにしても香蓮さんがレンちゃんと正反対だからびっくりしたよ」

「それを言ったらまあ、私達もですけどね」

「うん、私もボス達を見てそう思ったから本当にびっくりしたよ」

「人間っておかしなもんだよね、

現実の姿がゲームの中の姿と近いって思い込んじゃうんだから」

「あ、でもそっくりな人、私知ってるよ?」

「え、誰?そんな人いるの?」

「私達の知ってる人ですか?」

 

 その香蓮の言葉に咲達は食いついた。

 

「あ、ええと……まあこれくらいは言ってもいいよね、

あなた達は八幡君のリアル知り合いなんだしね。えっと、銃士X、イクスさん」

「………えっ?」

「あ、あんな顔の人がこの世に存在するの!?」

「それを言ったら雪乃さんだって相当のものじゃない?」

「それはそうだけど!イクスさんって言ったら、胸以外は完璧美少女じゃんよ!」

「あ……えと……」

 

 その咲の絶叫に、香蓮は気まずそうにこう言った。

 

「む、胸はリアルの方が大きいっていうか、わ、私よりも遥かに……」

 

 その言葉の意味を理解した瞬間、六人は絶叫した。

 

「何そのチート、ありえなくない!?」

「だからイクスさんも八幡さんのお気に入りなんだ!」

「ぐあああああ、普通な自分が憎い!」

「何その完璧美少女、おとぎ話の存在かよ!」

「わ、私もいつかあんな素敵な女性に……」

「諦めなって、もう私達、そんなにガラッと変わったりする歳じゃないから」

 

 こうして六人の絶叫が響き渡る中、いきなり香蓮の部屋のチャイムが鳴った。

 

「あれ、誰だろ……私、こっちには八幡君絡みの知り合いしかいないんだけど」

「と、友達いない宣言を平然と……」

「八幡さんさえいればいいって事ですね、分かります!」

「もう、ただ人付き合いが苦手なだけだよ」

 

 そしてインターホンのボタンを押した香蓮は、慌てて入り口へと向かった。

そして香蓮はドアを開け、一人の人物を部屋に案内してきた。

その人物は………間宮クルスその人だった。

 

「あら、こんにちは」

「うわああああ」

「まさかの本人登場!?」

「な、何で?」

「本当にそっくり……」

 

 その問いに首を傾げながら、クルスは六人にこう言った。

 

「ああ、SHINC?」

「ど、どうして分かるんですか?」

「前に身辺調査の結果で見た事がある」

「素性まで完璧に把握されている!?」

「八幡様に近付く人は、一応調査する決まり」

「リアルでもやっぱり様付けなんだ……」

「鉄の忠誠心!?」

「というか……」

 

 そして六人は、クルスの胸をじっと見つめながら言った。

 

「古き言い伝えは本当じゃった……」

「胸囲の格差社会……」

「等身大フィギュアだよね?ねぇ、そうだよね?」

「イクスさん、結婚して下さい!」

「誰かリサを止めて!」

「いいなぁ、私にももうちょっとこうメリハリを……」

 

 そんな六人に再び首を傾げながら、クルスは香蓮にチケットを渡してきた。

 

「はい、これ」

「これって……あっ、猫カフェのチケット?」

「そう、学校で雪乃に渡されたから、私が持ってきた」

「あれ、二人とも今日は学校だったの?」

「ううん、たまたま学校前で会っただけ、今日はまだ休み」

「だよね、それにしてもわざわざごめんなさい」

「ううん、呼ばれてる気がしたからついでに何となく寄っただけ」

 

 その言葉に、六人だけじゃなく香蓮も固まった。

 

「う、嘘……」

「超能力完璧美少女?」

「しかもあの口調だと、雪乃さんと同じ学校!?」

「って事は、超能力才色兼備完璧美少女!?」

「うわあああああ、戦力が強大すぎて嫉妬すら感じねえ!」

「そのクルスさんにこんなに愛されてる八幡さんって、八幡さんって!」

「クルスさん、学校でも凄くモテますよね!?羨ましいです!」

 

 だがクルスはきょとんとしながらこう言った。

 

「学校でモテても別に嬉しくない、私は八幡様にだけモテればいい。香蓮もそうでしょ?」

「わ、私!?私は………う、うん、そうだね」

「「「「「「八幡さんめ!」」」」」」

 

 その後立ち直った咲達は、帰り際にちゃっかりと香蓮に宣戦布告をしていた。

 

「「「「「「今度は絶対に俺達が勝つ!」」」」」」

「うん、私も負けないよ!」

 

 こうして咲達と、香蓮だけじゃなくクルスまでもがすっかり打ち解け、

そこに雪乃も加え、九人は交流を深めていく事になる。


感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。