後半は話が思いっきりおかしな方向に飛びますが、いつもの事だと諦めて下さい。
あと俺のわがままで、別作品の理系女子が一人出てくる予定です。
理系のスタッフがもう少し欲しかったので!
理事長への受け答えと鍵のくだりを若干変更しました!(20日14時)
八幡にとって人生で一、二を争う忙しさだった今年の夏も終わり、
九月に入った今日、八幡は久しぶりに帰還者用学校の門をくぐり、教室へと足を踏み入れた。
「八幡君、おはよう!」
「お~い八幡、昨日はお疲れ」
「いやぁ、@ちゃんねるが連合のメンバーの怨嗟の書き込みで凄い事になってたね」
「また恨みをかいましたね、だったら仕掛けてくるなって感じですけど」
「珪子の言う通りだな、まあ黒幕の正体が分かったらまた色々変わるだろ」
それから黒幕の話題で少し盛り上がったが、他に判明した事実も特に無い為、
今日のところはそれ以上その話題が広がる事はなかった。
「はい、八幡君、今日のお弁当」
「明日奈、いつもすまないな、明日は俺が作ろうか?」
「ううん、これは花嫁修業だから」
「そ、そうか」
ニコニコしながら平然とそういう明日奈を見て、
八幡はそれ以上自分が作ると主張するのはやめる事にした。
和人はやれやれという風に肩を竦め、里香と珪子はぼそぼそと何か囁き合っていた。
「明日奈さん、何か危機感でもあるんですかね?」
「また女の子が増えたって噂だから、そのせいじゃない?」
「もう八幡さんの胃袋は掴んでると思うんだけどなぁ」
そして机に弁当をしまった八幡は、あれっという表情をし、明日奈にこう問いかけた。
「なぁ明日奈、いつもは弁当は普通に昼に渡してくるのに、今日は何で朝なんだ?
昼に何か用事でもあるのか?」
「う~ん、女の勘?」
「そうか、ならいい」
「「いいんだ………」」
里香と珪子はジト目で八幡を見たが、八幡はその視線に気付かないフリをして、
一時間目の授業の準備を開始した。
和人は一人、何かに気付いたような表情をしていたが、
そんな八幡をニヤニヤ見詰めるだけで、何も言ってこない。
八幡はそんな和人を問い詰めてやろうかと思ったが、
タイミングを逃し、時刻はまもなく昼休みを迎えようとしていた。
「さて、そろそろかな……」
和人がボソッとそう呟き、八幡は朝からの和人の一連の怪しい動きについて、
昼のうちに問い詰めてやろうと椅子から腰を浮かせたのだが、
その瞬間に教室内のスピーカーから八幡にとっては天敵とも言える女性の声が聞こえ、
その声は学校中に響き渡った。
『あ~あ~、おほん、比企谷八幡君、あなたの自主性に期待していたけど、
残念ながらその期待は完全に裏切られたようね。っていうか八幡君、
ちゃんと聞いてる?私の言う事を、ちゃ・ん・と・聞・い・て・ま・す・か?
ああもう、喋ってるうちにイライラしてきたわ、
あなたね、朝一で私の所に顔を出さないなんて本当にいい度胸をしてるわね、
私はもう二週間もあなたの顔を見ていないのよ?ほら、禁断症状で手が震えてきたじゃない、
こんな状態じゃ、うっかり手が滑ってあなたにセクハラしてしまうのは間違いないわね、
まあうっかりしなくてもしますけどね、ええ、絶対しますとも。
とりあえず今すぐ死ぬ気でダッシュしなさい、はい、三、二、一』
そこで放送はプツっと切れた。八幡は無表情で仲間達の顔を見たが、
全員八幡から顔を背けており、ぐるりと見渡すと、
全てのクラスメートが同じ態度をとっているのが確認出来た。
「おい明日奈、女の勘ってこれか?」
「う、うん、多分ね。まあ頑張って」
「和人、お前絶対朝の時点でこの事を知ってたよな?」
「違う、誤解だ。俺は朝八幡の名前を連呼しながらスキップする理事長をたまたま目撃して、
それでこんな事もあるかなと思ってたってだけだ」
「何でそれを教えてくれなかったんだよ!」
「だってその方が面白……いや、感動的な再会になるだろ!」
尚も抗議しようとする八幡を、里香と珪子がなだめた。
「八幡、それよりも急がないとまずいんじゃない?」
「もうとっくにカウントゼロになってますよね……」
「くそっ、仕方ねえ、今日の飯は理事長室で食うから、みんなは俺の事は気にしないでくれ。
とりあえずダッシュで行ってくる!」
そう言って八幡は死ぬ気で走り出した。廊下に出ると、皆状況が分かっているのか、
理事長室までのルートは常に廊下の真ん中が大きく開けられている状況になっており、
そこにいた者達は、八幡に生暖かい目を向けてきた。
だが今の八幡にはその一人一人に抗議している時間は無い。
そして目的地に到着した八幡は、呼吸を整えてから理事長室のドアをノックした。
その瞬間にドアが思いっきり開けられ、中から鬼の形相をした理事長が姿を現した。
「遅い、遅すぎるわよ!今はもうカウントマイナス四百よ!」
「す、すみません……」
(あれからずっと数えてたのかよ……)
「まあいいわ、とりあえず中にお入りなさい」
「は、はい……」
そして八幡が中に入った後、理事長は後ろ手で音を立てないように鍵を閉めた。
怒っているようでその辺りはちゃっかりと冷静なところが理事長らしい。
「さて、心が広く胸が大きい私としては、
あなたにセクハラをする前に、とりあえず八幡君に釈明の機会を与えます」
「すみません、セクハラは勘弁して下さい……胸が大きいのは認めますから」
「ふむ……まあ毎回色仕掛けというのも芸が無いし、その辺りで妥協しましょうか」
そう言って理事長は、八幡をじろりと睨んだ。どうやら妥協はしてくれたようだが、
まだその怒りは収まっていないようだ。
そんな理事長を見て、八幡は勇気を振り絞ってこう言った。
「特に釈明はしません、すみませんでした」
「あら、釈明しないの?」
「はい、何を言っても言い訳にしかならないので、しません」
「へぇ、潔いわね、それじゃあ大人しく謝罪するのかしら?」
「当然です、今回の件は全て俺が悪いので。ご心配をおかけしたにも関わらず、
顔を出すのが遅れてしまい、申し訳ありませんでした」
八幡は、下手に話をこじらせておかしな事を言われるよりも、
最初から非を認めて素直に謝る作戦に出た。
それでどうやら理事長も矛を収める事にしたようで、とてもいい笑顔でこう言った。
「仕方ないわね、それじゃあ膝枕くらいで勘弁してあげるわ」
「膝枕ですか?それくらいなら別に構いませんけど、
俺が理事長の膝に頭を乗せればいいですか?」
「ノンノン、逆よ逆、私が八幡君の膝に頭を乗せるの」
「分かりました、それでお詫びになるなら喜んで」
八幡はこの提案に対して安易にそう頷いた。
だが実際に自らの膝の上に理事長の頭が乗り、その状態でじっと見詰められた瞬間、
八幡はこの行為が思ったよりも恥ずかしい事に気が付き、やや顔を赤くした。
「うふふ、少し顔が赤くなっているみたいね」
「すみません、正直に言いますが、膝枕をなめてました……
いつも自分がやってもらう立場だったんで分かりませんでしたけど、
こんなにも恥ずかしいものなんですね……」
「必ずしもみんなが恥ずかしがるというものでもないと思うけど、
まあ八幡君のその顔を見れただけで、やってもらった甲斐があったわ、
とりあえずこの件はこれで終わりにしましょう」
そう言って理事長は少女のように微笑み、
八幡はその表情を見て、とても五十近い女性だとは思えないなと改めて驚いた。
だがその瞬間に理事長は、八幡の太ももを思いっきりつねった。
「い、痛たたたた」
「今私の歳の事を考えたわね」
「な、何故その事を……」
「私はあなたが考えている事が分かるのよ」
「本当に分かりそうだから笑えないです……」
そんな八幡に、理事長は意味深な笑顔を見せるだけであった。
真偽がどうなのかはもちろん不明である。そして理事長は体を起こし、八幡に言った。
「まあいいわ、とりあえずこんな時間だし、お昼を一緒に食べましょうか」
「そうですね、俺もそう思って明日奈に作ってもらった弁当を持参しました」
「あら羨ましい、私は今日はデリバリーなのよ、多分もうすぐ届くと思うんだけど」
丁度その時、中の会話が聞こえていたかのような絶妙のタイミングでドアがノックされ、
それに理事長が応対し、事務員が平たい箱を持って入り口に姿を見せた。
「理事長、ご注文のピザが届きました」
「今日の昼食はピザですか、一番小さい奴ならまあ大丈夫なのかな」
「ううん、さすがに全部は食べきれないから何枚かもらってね、
男の子なんだから大丈夫よね?」
「あ、はい、もちろんそれくらいなら平気です」
「まあ遠慮しないで好きなだけ食べてくれていいからね」
「はい」
その理事長と八幡の、まるで親子のようなやりとりに、
事務員は一瞬生暖かい視線を向けるとそのまま頭を下げて部屋を出ていった。
「あら、美味しそうなお弁当ね、やっぱり明日奈ちゃんは料理が得意なのねぇ」
「最近随分熱心に料理をしてるみたいです、何かあったんですかねぇ」
「下からの突き上げを脅威に感じてるんじゃない?」
「下から……?例えば優里奈とかですか?」
「そうねぇ、それに香蓮ちゃんも、お菓子作りが得意らしいじゃない」
「そうみたいですね、残念ながら俺は食べた事が無いですが」
「まあ競い合うのはいい事よ、女はそれで磨かれるのだから」
「はぁ、そういうものですか」
「そういうものよ。ところで競い合うといえば、
夏休み中に学力を落としていないかチェックする為の、
新学期最初の特別試験が早速明後日にあるけど、
八幡君はちゃんと勉強はしているのかしら?」
理事長がそう発言した瞬間に、それまで笑顔だった八幡は、顔を青くして硬直した。
「………まさか忘れてたの?」
「えっと…………………はい」
「あらあら困った子ね、出席日数が足りない分、
どうすれば卒業させてあげられるかの条件は覚えてるわよね?」
「し、試験で毎回学年三位以内に入る事です」
「よろしい、それじゃあ試験までの残り時間、死ぬほど勉強なさい」
「分かりました………」
それから八幡は、虚ろな目で弁当を食べ始めた。その頭の中では、
どうすれば試験までに効率良く一人で勉強出来るかについての考えがぐるぐると回っていた。
そんな八幡の考えを察した理事長は、八幡にこう言った。
「一人で抱え込むのはもうやめにしたんじゃないの?
あなたには、頼りになる仲間がいるじゃない」
「そ、そうですね、確かに……」
どうやら理事長は、本当に八幡の考えている事が分かるようだ。
もっともそれは、二割は当てずっぽう、残りの八割は経験に裏打ちされたただの推測である。
そしてその八幡の呟きに重ねるように、理事長はこう付け加えた。
「例えばうちのかわいい雪乃ちゃんとか雪乃ちゃんとか雪乃ちゃんとか?
もしくは体の一部分が大きな方の娘でもいいわ、
その報酬として八幡君が体を差し出せば、
晴れて私はあなたの本当のお母さんになれるのだけれど」
「え、遠慮しておきます、俺には明日奈がいるんで」
「いっそ明日奈ちゃんも私の娘になってくれないかしら」
そしてそろそろ午後の授業の時間が近付いてきた為、理事長は八幡をあっさりと解放した。
「それじゃあ頑張ってね八幡君」
「はい、頑張ります、あと理事長、ピザをご馳走様でした」
八幡は理事長にお礼を言うと、入り口のドアノブをひねろうとした。
だがそこには鍵がかかっており、八幡はじろりと理事長を睨んだ。
「油断も隙もねえ……」
「あら、何の事かしら」
「何でもないです、それじゃあまた」
八幡はそう言って鍵を外し、教室へと急いだ。その最中に八幡はこんな事を考えていた。
(姉さんや雪乃だと、理事長から手が回って何か無茶な要求が突きつけられる可能性がある、
これはもう文系教科はクルス、理系教科は紅莉栖にでも勉強を教えてもらうしかないか……)
こうして八幡は、試験に備えて二人に勉強を教わる事にした。