ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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突然ですが、ストックがたまってきたので今日は二話投稿しようと思います、
本日二話目は夕方六時に投稿します!


第622話 学ぶ、休む、時々雑談

「………という訳で、こういった流れで武士が台頭していった訳です」

「なるほど、個別の出来事じゃなく流れで覚えないと、

歴史ってのは本当の意味では身につかないという事なんだな。

ついでにその時世界はどうだったかを考えれば、一石二鳥だな」

「はい、さすがは八幡様、その通りです!素晴らしいです!

世界ではこの時こうだったが、では日本は?ってのはよくある設問ですからね」

「日本史の授業でも、世界史の知識も多少は必要だって事だな、

しかしマックス、無理に俺を褒めようとしてないか?」

「いいえ、これは褒めて伸ばすという私の作戦です!」

「それ、バラしちゃったらあんまり意味が無いからな」

 

 三人は、教師二人が交代で、そして八幡はぶっ続けで試験勉強を行っていた。

ちなみに今はクルスの日本史の授業である。

 

「八幡様は、年号を覚えるのが若干苦手ですか?」

「う~ん、結局あれって語呂合わせが一番早いんだよな?

それで地道に覚えていくしかないか」

「まあ流れが掴めていれば、大きく外れた選択肢が除外出来ますから、

多少試験に関しては楽になると思いますけどね」

「ああ、確かにそうだよな」

「まあ語呂合わせが有効なのは確かなので、主だった事件に関しては覚えていきましょう。

例えばそうですね、平安の女、クルスです!」

 

 突然クルスがテンション高くそう言い、八幡の目は点になった。

 

「………は?」

 

 同時に横でそれを聞いていた紅莉栖の目も点になった。

 

「………平安?」

 

 そんな二人にクルスはドヤ顔で言った。

 

「そうです、平安京遷都は794年、つまり女(07)クルス(94)です!」

「鳴くよウグイスじゃ駄目なのか……?」

「むむっ、確かに知名度はそちらの方が上ですね、ではこんなのはどうでしょう!

いっぱい(18)クルス(94)日清戦争!」

「…………お、おう」

「ついでにその十年後が日露戦争、更にその十年後が第一次世界大戦ですよ!」

「え、マジで?あ、本当だ………確かにこれは覚えるのが楽だ、楽なんだが……

クルスがいっぱいクルスがいっぱい……何か夢に出てきそうだな……」

「私が八幡様の夢に?それはとてもいい事じゃないですか!」

「私はそれよりも、今のクルスのテンションの高さが気になるんだけど」

「だって今の私はこんなにも八幡様に求められているんだよ?

テンションが上がらない方がおかしいよね?ね?」

「私に同意を求められても困るんだけどね……」

 

 そんなクルスを見て八幡は、

今日は絶対にクルスと二人きりにならないようにしようと心に誓った。

どうやらクルスは多少色が薄まったとはいえ、まだ微妙に脳内がピンクのようだ。

 

「それじゃあ次のクルスですが……おっぱい(08)クルス(94)は遣唐使廃止!

平安京遷都から百年後です!」

「ちょ、おま……」

「ぶほっ………」

 

 その言葉に八幡は何とか耐えたが、紅莉栖は思わず女の子にあるまじき噴き出し方をし、

八幡は紅莉栖にそっとハンカチを差し出した。

 

「あ、ありがと……げほっ……」

「仕方ないさ、マックスのテンションがずっとおかしいからな」

 

 そんな紅莉栖の様子には気付かず、クルスは更に何か言おうとした。

 

「更に次の………」

「待てマックス、その辺りは自分で出来るから、流れの説明だけしてくれればいい」

「そうですか?それじゃあ仕方ないですね、私謹製の語呂合わせメモを後で進呈します!」

「そ、そうか………」

 

 そして世界史がひと段落し、交代という事で次に紅莉栖が物理の勉強を教え始めた。

その最中、何故か八幡がうるうるしているのを見て、紅莉栖は思わず後ろに下がった。

 

「い、いきなり何?」

「いや、普通って素晴らしいって思ってな……」

「そ、そう、まあ役に立ててるなら良かったわ」

 

 ちなみにその時クルスは、交代による休憩時間を使って、

一心不乱に単語帳に語呂合わせを書いていたのだった。

 

 

 

「さて、そろそろ晩飯にしようかね」

「そうね、それじゃあ三人でパパッと作っちゃいましょう」

「というか紅莉栖は料理が出来るんだっけか?」

「失礼ね、明日奈や優里奈ちゃんほどじゃないけど、普通に出来るわよ」

「というか、身内で料理が苦手なのって結衣くらいですけど、

その結衣もたまに私達と一緒に料理とかしてるんで、

今じゃ普通に食べられる物を作れますよ」

「その言い方だと昔は食べられなかったみたいに聞こえるが……」

「その辺りは八幡様の方が詳しいのでは?」

「ま、まああいつの料理の腕が上達したのは喜ばしいな、うん」

 

 そして三人はそれぞれがお手軽な料理を作り、夕食を食べた後に勉強が再開された。

今回は明日一日の時間の余裕がある為、日ごとに教科を絞って勉強する事になっている。

 

「八幡様はやはり国語は得意なんですね、教えるのがとても楽で助かります」

「まあ国語はほら、元々どういう順番で何を教えてるのか、生徒からすると曖昧だからな、

読解力さえあればそれなりになんとかなる」

「その点理系教科全般はやっぱり苦手そうに見えるわね、

ロジックを組み立てるのは得意そうなのに、どうしてなのかしら」

「そう言われると確かにそうだな……単純に数字が苦手なのかもな」

「まあ仮にそうだとしたら、将来の為にも克服しないとね」

「だな、まあ昔は逃げまくっていたが、今は逃げずに頑張るつもりだ」

「えらいえらい」

 

 そしてしばらく勉強した後、三人は一度休憩する事にした。

長時間ぶっ続けで勉強しても、能率は絶対に上がらない事を三人はよく分かっていた。

その休憩の最中に、甘いコーヒーを飲みながら八幡が紅莉栖に話しかけた。

 

「なぁ紅莉栖、技研の様子はどうだ?何か不自由してないか?」

 

 ちなみに技研とは、今度新しく立ち上がる『次世代技術研究部』の事である。

その部長には先月アメリカから連れてきたレスキネン元教授が就任する事になっていた。

 

「そうね、まだ立ち上げの最中だけど、多少無理なお願いでも聞いてもらえるって、

教授………じゃない、今は部長ね、レスキネン部長が凄く喜んでたわよ。

おかげでやる気満々みたい」

「そうか、それなら良かったよ」

「まるで無邪気な子供みたいよ、思い返せば昔の教授はたまに表情が曇る事があったけど、

今はそういうのが全然ないの、もうすっかりこの環境に馴染んでる感じ。

そういえば部長が今度、古き良き日本文化を見てみたいって言ってたわ」

「確かにこっちに来てからずっと忙しかったしな、

今度レヴェッカを鎌倉に連れていくって約束してるから、その時一緒に誘ってみるわ」

「そうしてあげて、きっと喜ぶわよ。あ、そういえば……」

 

 そこで紅莉栖は、和やかだった表情を一変させ、八幡とクルスは何となく背筋を伸ばした。

 

「SAOを販売したアーガスの元本社ビルにあったSAOのサーバーは、

今うちの管理下に置かれているじゃない?」

「ああ、それがどうかしたか?」

「そのSAOのサーバーだけど、実はもう一つあったらしいのよ」

「もう一つ?どこにだ?」

「長野の山奥」

 

 その言葉で八幡は、思い当たる建物が一つあった事を思い出した。

 

「晶彦さんの別荘か」

「ええ、その別荘の調査がやっと終わったらしいんだけど、

その過程でサーバーが発見されてね、それの詳しい調査を依頼されたわ」

「それは初めて聞いたな」

「ここに来る直前に聞いた話だから、まだ連絡がいってないんだと思う。

一応メンバーは、アルゴさんと私、ダル君、それにレスキネン部長の四人で行く予定よ」

「そうか、手が足りないなら増員するから言ってくれな」

「それは大丈夫、行くのはうちだけじゃないから」

 

 その言葉に八幡は、目をパチクリさせた。

 

「他にも誰か行くのか?」

「ええ、レクトから何人かと、あと重村教授ね」

「重村教授って……もしかして晶彦さんと凛子さん、それに須郷のクソ野郎の先生だった?」

「そうね、八幡の言う通り、それで合ってるわ。

ちなみに今回は、カムラという会社の一員としての参加になるみたい」

「カムラ………オーグマーか」

 

 さすが八幡は、その辺りの繋がりをちゃんと把握しているようである。

カムラとは、オーグマーと呼ばれる拡張現実端末を開発している会社の名前であった。

 

「まあ確かにうちとレクトだけだと、公平性に疑問を持たれるかもしれないからね、

他社を入れるのは仕方がない事だと思う」

「贔屓されてると世間に思われるのはいい事じゃないしな」

「という訳でちょっと行ってくるけど、何か調べておいて欲しい事とかある?」

「そうだな……うちが管理しているサーバーと、中身に何か違いがあるのかどうか、

そこを重点的に調べておいてくれると有難いな」

「オーケー、任せて」

「すまんが頼む、あ、いや、待てよ」

 

 八幡はそう言って一瞬考え込むそぶりを見せた後、紅莉栖にこう言った。

 

「一人追加だ、桐生萌郁を同行させてくれ」

「むむ……ここで私のライバルの名前が……」

 

 クルスがそう呟き、八幡は思わずこう聞き返した。

 

「ライバルなのか?」

「はい、主に胸に関してですね」

「………小猫もいるんだし今更だろ」

「た、確かに!」

 

 紅莉栖はそんな二人の会話を何も聞こえないという風にスルーした。

 

「桐生さん?って確か、この前入社したあんたの直属の部下よね?

入社したてだったのにいきなり直属だって紹介されたから少し驚いたわ、一体どういう人?」

「拾った」

 

 その八幡の無碍もない言葉に、紅莉栖は鼻白んだ。

 

「拾ったってあんた、猫みたいに……」

「小猫も俺が拾った、だから直属だ、分かりやすいだろ?」

「小猫って薔薇さんよね?へぇ、あんたって女の子を拾いまくる趣味でもあるの?」

「使えそうな男が落ちてれば男も拾うさ、まあたまたまだ」

「たまたまねぇ……」

「まああれで萌郁は中々目端がきく、連れていって損は無いはずだ」

「ふ~ん、まあ話は分かったわ、それじゃあそういう事で」

 

 これで紅莉栖の話は終わり、次に八幡は、クルスにこう尋ねた。

 

「クルスは最近どうだ?何か困った事とか無いか?」

「いえ、困るような事は特には。まああえて言うなら雪乃からの誘いが多いのがちょっと」

「誘い?何のだ?」

「えっと……今日も行ってると思うんですが、猫カフェです」

「ああ………」

「雪乃らしいわね」

「ちなみにもし誘われたら、六時間コースになるので覚悟しておいた方がいいですね」

「「長っ」」

 

 八幡と紅莉栖は思わずそうハモり、顔を見合わせて肩を竦めた。

 

「さすがにそれは勘弁だな」

「一、二時間なら全然構わないんだけどね」

「まあ目に余るようなら俺から注意しておくから、すぐに言うんだぞ」

「分かりました」

 

 そして再び勉強が始まった。交代とはいえ長丁場になる予定であり、大変であろうに、

二人はまったく嫌そうなそぶりを見せず、熱心に八幡に勉強を教えてくれた。

 

「まったく俺は仲間に恵まれてるよな……」

「ん、何か言った?」

「いや、そろそろ休憩の時間だろ、二人で仲良く入浴でもしてくるといい」

「別にそれでもいいけど、何で二人で?ってもしかしてあんた、

見張りがいないのをいい事に覗くつもりじゃ無かろうな!」

「んな訳あるか!」

 

 そして八幡は、紅莉栖の耳元でこう囁いた。

 

「マックスだよ、分かるだろ?」

「クルス?ああ、そういう事ね……」

 

 紅莉栖はそれだけで八幡が何を考えたか理解したらしい。

要するにクルスと二人きりになって、暴走を招くような事にならないようにとの意図である。

 

「はいはい、それじゃあクルス、一緒にお風呂に入りましょ」

「わ、私は別に順番でも……」

 

 紅莉栖はそんな八幡と二人きりになりたそうなクルスを見て、

そのまま強引にクルスを浴室へと引っ張っていった。

 

「いいから行くわよ、お風呂で女子会しましょ」

「う、うん……」

 

 クルスは名残惜しそうな表情でそのままドナドナされていき、

風呂場で紅莉栖に冷水のシャワーを浴びせられ(ご存知の通り今はまだ九月頭なのだ)

風呂から上がった時には、とてもスッキリとした表情でいつもの調子を取り戻していた。

 

「八幡様、戻りました」

「おう、それじゃあ俺も入らせてもらうかな」

「はい、私の体で出汁をとっておいたので、そちらもお楽しみ下さい」

「ちょっと、そこには私の出汁も入ってるんだからやめてよね!」

「お前ら二人して出汁とか言うなよ……」

 

 

 八幡はそんなクルスの態度から、まだテンションがおかしいままなのかと訝しんだが、

よく観察するとその表情が先ほどまでとは違い、わざと言っているような感じだった為、

どうやら元に戻ったみたいだなと安心した。

 

(まあこれが元通りってのもちょっと問題があると思うけどな)

 

 そして八幡も入浴を済ませ、三人は再び勉強をした後、

この日は十分な睡眠をとる事にし、早めに寝たのだった。


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