ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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今日から理央がメインの最終章を、二話でお届けします、要するに両親の説得です!


第636話 理央、学校にて

 旅行を終えた数日後、理央から八幡にこんな連絡があった。

 

「あ、八幡さん?私だけど」

「おう、もうすっかりタメ口だな、いいぞ理央。

で、わざわざ電話してくるなんてどうしたんだ?」

「えっと、実は急な話なんだけど、明日うちの両親が珍しく家に二人揃うみたいなの。

たった今知ったばっかりだから本当にごめん、で、明日って大丈夫?」

「ああ、そういう事か、大丈夫だぞ、それじゃあ明日学校まで迎えに行くから、

理央のご両親を頑張って説得する事にしようか」

「うちの両親ってかなり頭が固いけど、大丈夫かな……?」

「任せろ、どんな汚い手段を使ってでも説得してやる」

「よ、よろしく………あっ」

 

 理央はその八幡の言葉に鼻白んだが、それがどうしても自分を欲しいという、

八幡の意思表示に他ならない事に気がつき、思わず嬉しそうな声を上げてしまった。

 

(うわ、私ってばチョロすぎでしょ、絶対こんなの私じゃないって)

 

「ん、どうした?」

「あ、ううん、何でもない」

「何でもないと言いつつ、随分と上機嫌みたいだが……」

「何でもないってば、それじゃあ明日お願いね!」

「おう、また明日な」

 

 こうして八幡が、双葉家に訪問する事が決定された。

 

 

 

「なぁ双葉、何をそわそわしてるんだ?」

「………国見、そう見える?」

「ああ、せっかく三人での昼飯中だっていうのに、

さっきから校門の方をチラチラ見てばっかだしな。咲太もそう思うよな?」

「確かにそうだな、これはどこからともなく恋の気配が……」

「黙れこのブタ野郎」

 

 そう言って理央は、意識して視線を校門の方に向けないように心がけ、

咲太を睨みながら弁当を食べ始めた。

だが校門の前を車が通る度に、理央は反射的にそちらを見てしまった為、

以前詩乃に聞いた話を思い出して、少し落ち込んでもいた。

 

(詩乃ちゃんがこの前、二回目に八幡さんが学校に迎えに来た時の話をしてくれた時、

それが授業中だったせいで、それ以降はそわそわしっぱなしだったって言ってたんだよなぁ、

さすがにそれはどうなのってその時は笑っちゃったけど、詩乃ちゃん、ごめんね……)

 

 理央は、今まさに自分の状態がそれだと感じており、心の中で詩乃に謝り続けていた。

 

(絶対にこんなのは私じゃない、後で八幡さんに文句を言ってやるんだから)

 

 理央はそう理不尽な事を考えつつ、何とか食事を終える事が出来た。

 

「で?」

「でって何」

「いや、今日何かあるのかなって」

「何でそれを梓川に言わないといけないの」

「双葉、俺でも駄目か?」

「国見でも駄目」

「おおう、俺もついに双葉に咲太扱いされるようになったか、

凄えな八幡さん、ここまで双葉の心を掴むなんて」

 

 その冗談は、かなりギリギリの物だったが、理央はその冗談を笑顔で軽く流した。

 

「別に心を掴まれてなんかないし、というか死ね、ブタ野郎ども」

「笑顔でそう言われると、ちょっと快感になってくるな」

「おお、初めてブタ野郎って言われたぞ、何か新鮮な気分だな」

 

 そんな二人を無視し、理央は校門の方を見つめ続けた。

そんな状態が結局最後まで続き、まもなくこの日の授業が全て終わるという頃、

帰りのホームルームの最中に、それは起こった。

 

「………連絡事項は以上です、何か質問はありますか?」

「あっ」

「双葉さん、何ですか?」

「いえ、何でもないです」

 

 担任の女性教師は、そんな双葉を見て首を傾げ、その視線の先にあるものを見た。

そしてそこに見覚えのある黒い高級車の姿を見つけ、ホームルームの終了を宣言した後、

そっと理央の近くに近付き、こう耳打ちした。

 

「早く行かないと囲まれちゃうわよ、まあもう遅いかもしれないけどね。

そしてソレイユへの就職おめでとう双葉さん、大変だと思うけど頑張ってね」

「は、はい、ありがとうございます」

 

 理央は担任にそうお礼を言うと、脱兎の如くその場から逃げ、外へと駆け出していった。

そんな理央の姿を見た他のクラスメート達は、遅ればせながら八幡の存在に気付き、

野次馬根性を発揮したのか、慌てて理央の後を追った。

 

「おい、またあの人が来てるぜ!」

「おう、あの双葉さんに首輪を着けた人な!」

「そういえば双葉さん、たまに指輪も愛おしそうに見てるわよね、実際は凶器なんだけど」

「双葉って最近何かエロくなったよな」

「あんたね、そういう事を言うと、感電させられるわよ」

「いや、ちょっかいなんか出さねえって、将来ソレイユどころか、

他の所にも就職出来なくなっちまうかもしれないじゃないかよ、単純に褒めてるんだって」

「どこが褒め言葉なのよ、でも双葉さん、本当にかわいくなったよね」

 

 クラスメート達はそんな会話を交わしながら、理央の後を追った。

そして理央が校庭に出た時、先にホームルームを終えたのだろう、

他のクラスの生徒達が、八幡を遠巻きにしている姿が見え、理央はため息をついた。

 

「お、遅かった……」

「まあ今の双葉にちょっかいを出してくる奴は誰もいないだろ、堂々と行け、堂々と」

「いざとなったら八幡さんに駆け寄って、抱きつくくらいしちまえばいいさ」

「あんた達、人事だと思って……」

 

 そう声をかけてきたのは咲太と佑真だった。

二人は若干息を切らせており、昼の様子から多分放課後に何かあるのだろうと思い、

いち早く八幡の姿を見つけ、ダッシュで校門前に駆けつけたという訳であった。

 

「ほら、早く行けって」

「王子様がお待ちかねだぞ」

「お、王子って、八幡さんはそんな柄じゃないでしょ」

 

 そう言いつつも、理央の目には確かに八幡が王子様のように見えていた。

 

(こんなの絶対私じゃない、絶対に違う……)

 

 そう言いながらも理央は既に駆け出しており、

理央はそんな自分の事を、頭の中のもう一人の自分が、

呆れた顔で見つめているように感じていた。

 

「もういい加減素直に好きって言っちゃえばいいのに」

 

 それはおそらく理央の本能の部分なのだろう、

頭の中からそんな声が聞こえ、理央は思わず声に出してこう言った。

 

「う、うるさい!八幡さんの事が好きだなんて、そう簡単に言える訳がないじゃない!」

「ん、理央は俺の事が好きなのか?」

 

 突然目の前からそんな声が聞こえ、理央は慌ててその人物を見た。

そこには戸惑ったような八幡の顔があり、理央は瞬時に自分の失敗を悟った。

 

「ち、違う、それは気のせい、ただの幻聴」

「あれ、何かと聞き間違えたか?悪いな、おかしな事を尋ねちまって」

「べ、別にいいよ、広い心で許します」

「おお、サンキューな、それじゃあ行くか」

 

 そう素直に謝ってくる八幡に、理央は罪悪感を感じていた。

せめて何かお詫びがしたい、そう思った理央は、無意識に八幡の腕を掴み、胸に抱いた。

 

「おっと悪い、何か用事が残ってたか?」

「あ、えっと……」

 

 理央は困り果て、この後どうしようかと必死で考えていた。

その結果、出た結論はこうである。

 

(これではまったくお詫びになってない、目の前の八幡さんは、

せっかく私がその腕をこの豊満な胸に挟んでいるのに何の反応も示さない。

これじゃあ私がただの変態みたいに見えるだけ、せめて何かリアクションがあれば……)

 

 理央は自分の思考がおかしくなっている事に気付かないまま、

更に八幡の腕を強く自分の胸に押し付けた。それによってさすがの八幡も赤面した。

 

(リアクション来た!やっぱり嬉しいんじゃない!)

 

 そう考える理央の肩を、誰かがポンと叩いた。

それは八幡の事を羨ましそうに見ていた咲太であった。隣には佑真の姿も見える。

 

「おい双葉、八幡さんが困ってるだろ」

「べ、別に困ってなんか……いない……よね?」

「ん?ああ、まあ嬉しくない訳じゃないんだが、さすがに恥ずかしいな、

理央、さっきから一体どうしたんだ?」

 

 それで初めて、理央は周囲からの生暖かい視線を感じ、慌てて八幡の腕を放した。

その顔は真っ赤に染まっており、その表情が更に周囲の視線の温度を上げた。

 

「あ、えっと……」

「おう」

「八幡さんの腕が……」

「腕が?」

「意外と筋肉質だなって思って……」

 

 そのあまりにも苦しすぎる言い訳に、咲太と佑真は天を仰いだ。

だが八幡は、自分の腕をにぎにぎしながら、笑顔で理央にこう言った。

 

「まあ自分の身を自分で守れるくらいには、鍛えてるからな」

「そ、そうなんだ、だからこの前は私を簡単に受け止められたんだね」

 

 理央は知らなかった、こういう時の八幡は、たまに突飛な行動に出る事を。

そして八幡は、周囲の目も気にせずにいきなり理央を持ち上げた。

お姫様抱っこ、再びである。その瞬間に、周囲から黄色い声が上がった。

 

「おう、理央なんか軽いもんだ、ついでにこのまま助手席まで運んでやろう」

「…………っ!?」

 

 理央は今、自分の身に何が起こっているのかまったく理解出来なかった。

ただその頭の中を、先日の薔薇の言葉がぐるぐると回っていた。

 

『でもきっと、たまに飴がもらえると思うわよ』

『飴……ですか?』

『ええ、あいつはたまに無自覚に、こっちの恋心を満たしてくれることがあるの』

 

「これが……飴なんだ……」

「飴?何の事だ?」

「う、ううん、何でもない」

「相変わらず理央はたまに意味不明になるよな、おいキット、助手席のドアを開けてくれ」

『分かりました』

 

 そして音も無く静かに助手席のドアが開き、綺麗に直立した。

 

「おお……」

「やっぱり格好いいな……」

 

 そしてそのまま理央は助手席まで運ばれ、八幡はそのドアを閉めると、

運転席側に戻り、改めて二人に挨拶をした。

 

「久しぶりだな、二人とも」

「お久しぶりです!」

「今日は一体どうしたんですか?」

「ん、理央から何も聞いてないのか?」

「それがですね、双葉は何も教えてくれないんですよ」

「そうか、いやな、今日は理央のご両親が二人とも家にいるらしくてな、

理央の卒業後に進学をやめさせて、就職してもらう事を許してもらおうと、

これから家にお邪魔して説得すると、まあそんな訳だな」

「ああ、この前言ってたあれですか!」

「要するに、お嬢さんを僕に下さいって言いにいくって事ですね」

「まあそういう事だ」

 

 八幡はその冗談にニヤリと笑い、そのまま運転席に乗り込んだ。

 

「それじゃあちょっと行ってくるわ、またな、二人とも」

「はい、またです!」

「双葉の事、宜しくお願いします!」

「おう、任せろ!」

 

 そして八幡達は去っていったが、周囲はまだどよめいたままだった。

 

「いいなぁ、あんなに格好いい車でお迎えなんて、凄く羨ましい」

「今就職って聞こえたよな、どういう事なんだろ」

「噂だとあの子、進学するのをやめて、ソレイユに就職する事になったみたい」

「え、マジかよ、あのソレイユに?それなら進学しないのも全然アリだな」

「初任給っていくらくらいなんだろ……」

「公開されてただろ、確か平均の倍くらいだぞ……」

「凄え……完全にあの子、勝ち組じゃん」

「やっかみも凄そうだけど、どこからもそんな話は聞こえてこないな」

「馬鹿お前、あの話を知らないのか?あの子は完全にあの人に守られてて、

下手に手を出すと、こっちの人生が終わっちまうんだぞ!」

「え、マジかよ、凄いなソレイユ……」

 

 そんな周囲の声を聞きながら、咲太は必死に演技した甲斐があったと一人頷いていた。

 

「さて、俺達も帰るか」

「どうなったかは明日双葉に聞けばいいな」

「だな」

 

 その後理央は、知らないうちに学校内で、姫と呼ばれるようになった。

詩乃とまったく同じパターンである。

当の理央は次の日に学校でそう呼ばれ、大いに焦る事になるのだが、

その理央は、今はただ八幡が隣にいる事を喜んでおり、

同時に頑張って親を説得しようとファイトを燃やしていた。

もっとも親の説得は一瞬で終わってしまう事になるのだが、理央はその事をまだ知らない。


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