「いざ探してみると、中々それっぽい場所は見つからないもんだね」
「その代わり街にはどんどん詳しくなってるな」
「秘密基地、秘密基地……」
三人はそれっぽい場所を探索しまくったが、それらしき場所は中々見つからなかった。
途中何度も仲間と行きあい情報交換をしたが、それらしき場所の発見報告は無い。
「リオン、マップの具合はどうだ?」
「うん、そっちは順調に埋まってるみたい」
このエリアでは、プレイヤーはいつでも白地図を呼び出す事が出来た。
その地図は一度移動した場所がどんどんオープンになっていくタイプの地図であり、
これはナイツに与えられた機能の一つでもあった。
メンバーの誰がその場所に移動しても、全員のマップが更新される仕様であり、
更にどの場所がどんな施設なのか、名前と業種を登録出来るようになっている。
ちなみに最初に全員に配られた通信機もナイツのメンバーに与えられた機能の一つである。
「う~ん、マップはどんどん埋まってくが……」
「見つからないね……」
それから数十分後、ハチマンとアスナもマップを開き、そう嘆息した。
「他に行ってない所はもう無いか」
「もうすぐ一時間だし、一度フェンリル・カフェに戻る?」
「そうするか……」
そして三人は、とぼとぼとフェンリル・カフェへと戻り始めた。
途中何人もの仲間と合流したが、その表情は皆暗かった。
「もしかして、秘密基地的な場所は存在しないのかもなぁ……」
「絶対あると思ったんだけどな」
「まあ仕方ないね、どこを拠点にするか、通常物件の中から選ぶ相談をしよっか」
そしてリオン達はフェンリル・カフェがあるビルの前に到着した。
(素人だから仕方ないとはいえ、せっかく来たんだし、
私ももうちょっとこういう部分で役に立ちたかったな……)
リオンはそんな事を考えながらビルを見上げた。
六階建てのビルの五階に、先ほど見たフェンリル・カフェの内装が見え、
リオンは今度は何を注文してみようかな、等と考えながら、
ハチマン達と一緒にエレベーターの中に乗り込んだ。
そしてハチマンが、一番上の五階のボタンを押したのを見た瞬間に、
リオンの脳内に先ほど自分が見た光景がフラッシュバックした。
「あ、あれ?」
「ん、リオン、どうした?」
「ご、ごめん、ちょっと待って」
「お、おう」
そして周囲の者達が何事かと首を傾げる中、リオンはハチマンにこう尋ねた。
「ここって五階だよね?」
「ああ、そうだな」
「ごめん、ちょっと来て」
「お、おい……」
そしてリオンはハチマンの手を引いて再びエレベーターに乗り込み、
迷う事なく一階のボタンを押した。
「いきなりどうした?」
「ごめん、ちょっと付き合って」
そしてリオンはハチマンの手を引き、そのままビルの外に出た。
まだ下にいた仲間達が、どうしたのかとその後に続いた。
「ねぇ、見て」
「ん、どこだ」
「あそこ、あれってフェンリル・カフェだよね?」
リオンは外から見える、フェンリル・カフェを真っ直ぐ指差した。
「ああ………あれ?」
それでどうやらハチマンも違和感を感じたらしい。
二人は顔を見合わせて頷くと、再びエレベーターへと走った。
「お、おい、どうしたんだよ」
そんな二人に、その場にいた者を代表してキリトがそう尋ねた。
「キリト、お前、さっき外からフェンリル・カフェを見たか?」
「それなら見たけど……」
「どこにあった?」
「ビルの五階だろ?上から二番目……」
「じゃあこれはどういう事だ?」
そしてハチマンは、エレベーターの階層ボタンを指差した。
そこには五階までのボタンしかなく、キリトもそれを見て目を見開いた。
「お、おい、まさか……」
「分かったか、そうだ、このビルは六階建てなのに、
エレベーターのボタンが五階までしか無いんだ」
その言葉に他の者達もどよめいた。
「とりあえずフェンリル・カフェに戻るぞ」
そして一同は、再びフェンリル・カフェに集結した。
「ハチマン君、何があったの?」
「今から説明する」
そしてハチマンは、ここが最上階だと思っていたこのビルに、
上のフロアが存在する事を告げ、全員で上へのルートを探す事となった。
「階段か何かは無いか?」
「どこにも無いわね……」
「他のフロアから、非常階段的なのが伸びてるとか……」
「分担して全部のフロアをチェックしたけど、何も無かったわね」
「外にも行ってみたけどそれっぽい階段は無かったぜ」
「ただのバグって可能性は?」
「どうだろう……さすがに無いんじゃないか?この街はAI生成だしな」
「一体どこに……」
リオンも必死で上へのルートを探したが、やはり見つからない。
「隣のビルから見えない通路が繋がってるとかは?」
「どうだったかな、もう一度外からこのビルを見にいってみるか」
「わ、私も行く」
そう言って下に向かおうとするハチマンに、リオンも同行した。
二人は下からビルを見上げ、このビルの周辺には同じ高さのビルが存在しない事を確認し、
更に外から中に入る扉も何も存在しない事を確かめた。
『ハチマン、構造的にも隠し通路の類は存在していないと思うわ』
そこに上にいるクリシュナからそう通信が入り、二人は悩みながら再びビルを見上げた。
「一体どこにあるんだろうな」
「どこだろうね………あ、あれ?」
「どうしたリオン、また何か気づいたか?」
「う、うん、ねぇハチマン、あのエレベーターさ、
外から見ると、ちゃんと一番上まで繋がってない?」
「確かに……そうか、エレベーターか!」
「多分」
そして二人は再びエレベーターへと舞い戻り、今度はその中を詳細に調べ始めた。
「五階のボタンの上には……何も隠されていないか」
「ボタンを何かの順番で押すとか?」
「そこまで複雑にはしないと思うが……」
そしてエレベーターは再び五階まで上がり、扉が開くと、外からクリシュナが顔を出した。
「どう?何か分かった?」
「どうやらエレベーターが怪しいって事が分かった、
外から見るとこのエレベーター、ちゃんと上まで繋がってやがる」
「なるほど……」
「上か……」
ハチマンはそう呟きながら、何となく五階のボタンを押した。
ピッ………
その瞬間に、どこからかそんな電子音が聞こえ、三人は顔を見合わせた。
「今確かに音が……」
「今五階のボタンを押したのよね?」
「おう、こういう時の定番って言うと……」
「「「長押し!」」」
三人は同時にそう叫び、ハチマンは五階のボタンを押し続けた。
そしてキッチリ六秒後に、三人の目の前に、物件の購入画面が出現した。
「「「あった!」」」
その声を聞き、仲間達がどんどん集結してきた。
「あったのか?」
「おう、五階ボタンを六秒押しっぱなしにしたら、この画面が出てきたわ」
「六秒って、一フロア一秒なのかな?」
「どれどれ……購入画面か、やったなおい!」
「ちなみにいくらだ?」
「幸い余裕で買える額だな、五千万」
「ギルドの資金の五分の一くらいか」
「みんないるか?どうやら購入前に六階の様子は見る事は出来ないようだが、
購入する事に異論のある奴はいるか?」
その問いには誰も答えず、ハチマンは頷いた。
「よし、買うぞ」
「おう!」
「秘密基地、ゲットだぜ!」
「やったね!」
そしてハチマンは購入ボタンを押し、次に物件の名前の入力画面が現れた。
「拠点の名前か……」
「ヴァルハラ・ウルヴズ・ガーデンだと長いよなぁ」
「よし……リオン、お前が決めてくれ」
「えっ?」
その言葉にリオンはとても驚いた。
「な、何で私?」
「だってここを見つけられたのはお前のおかげじゃないかよ、なぁみんな!」
「異議なし!」
「リオン、任せた!」
「大丈夫、どんな名前でも誰も文句は言わないって!」
「そうそう、気楽にね!」
「う、うぅ……」
そしてリオンは、迷いながらもこう答えた。
「ウ……」
「ウ?」
「ウルヴズヘヴン……」
「よし、今からここはウルヴズヘヴンだ!ここを狼達の天国にしてやろうぜ!」
「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」
そしてハチマンが名前を入力した瞬間に、周囲に突然こんなアナウンスが流れた。
「このビルは、ナイツ『ヴァルハラ・ウルヴズ』の拠点として登録されました。
以後はビルの入り口にて入室チェックが行われる事となります、ご注意下さい」
「「「「「「「「「「ビル?????」」」」」」」」」」
それはメンバー達にとって、青天の霹靂だった。
誰もが六階が拠点となるのだと思っていたのだが、
どうやらビル全体が拠点扱いになるようだ。そして直後に再びアナウンスが流れた。
「これより当ビルは、拠点モードに移行します、中にいるプレイヤーは、
終了までビルの廊下にて待機して下さい、繰り返します……」
「うわ」
「そ、外に出ろ、」
そのアナウンスを聞き、三人は慌ててエレベーターから外に出た。
そして一同が固唾を飲んで見守る中、あちこちから何かが動く音が聞こえてきた。
「何だこれ……」
「さすがにこれはやりすぎじゃね?」
「一体どうなるのかしら……」
そしてすぐに音が止み、辺りは静寂に包まれた。
「よし、分担して各階層のチェックだ、ユキノ、分担を」
「分かったわ」
そしてユキノの仕切りで分担が割り当てられ、メンバー達は散って行った。
調査の結果、以上の事が判明した。
・フェンリル・カフェのメニューは全部タダ。
・五階から六階にかけては吹き抜けになり、室内の階段で六階に上がれるようになった。
・その六階はただの談話室。
・四階は戦闘訓練場と射撃訓練場。
・三階はロッカーと武器庫。
・一階二階は統合され、ガレージになった。ちなみに乗り物はまだ何も無し。
・外に『ウルヴズヘヴン』の看板が出て、秘密基地感が無くなった。
一番最後の項目に関しては、全員が何ともいえない表情をする事になった。
こうしてヴァルハラ・ウルヴズは、合同イベントの拠点、
『ウルヴズヘブン』をまんまと入手し、しばらくはここを起点に冒険が幕を開ける事になる
このエピソードはとりあえずここまで!