ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第646話 北の探索行・知られざる強者

「師匠、これって……」

「マシンガンによる攻撃ね」

「ロビンもそう思うか?」

「ええ、間違いないわ」

「という事は、心当たりのあるチームが一つあるわね」

 

 レン、闇風、クックロビンのその言葉に、ユキノがそう言った。

 

「レンちゃん、単眼鏡はあるわよね?私はALOのキャラだから、持ってないのよね」

「確認してみます!」

「俺も見てみる」

 

 そしてレンと闇風が攻撃をくらわないように慎重に敵の様子を観察し、続けてこう言った。

 

「あ、やっぱりZEMALだ」

「シノハラの野郎がいやがるぞ」

「そう、それじゃあこのまま共用サーバーに来て初の対人戦という事になるのかしら」

「だな、目には目を、攻撃には反撃を、だぜ!」

「レコン君、この状態で偵察は可能?」

「大丈夫です、いけます」

 

 そしてレコンは地面を這うような体制になり、そのまま姿を消す魔法を唱えた。

 

「おお、さすがは本職、凄いな!ここなら俺も魔法が使えたりしねえかな?」

「師匠は絶対に悪用するから駄目」

「あ、悪用って何だよ、俺はそんな事はしない!」

「女性の着替えを覗いたりしないと自信を持って言えるの?」

「…………あ、当たり前だろ!」

「はい、間があった時点でアウト~!」

 

 そんなノンビリとした会話を交わしながらも、一同は戦闘準備を進めていた。

 

「セラフィム、あとどれくらい耐えられる?」

「弾を受けるのではなく、後方に弾いているから当分大丈夫、

でもこのままだとジリ貧、相手の弾切れを狙って突っ込むしかない」

「なるほど、それじゃあレコン君からの報告を待ちましょうか」

 

 その時突然銃声が止んだ。

 

「あら、まさかもう弾切れなのかしら」

「突入のチャンスを逃しちゃったかな?」

「いや、しかしよ、こんなに早く弾切れにはならないはずだろ?」

 

 経験上、ZEMALの攻撃はこの程度で終わる事は無い。

それ故にGGO組は、首を傾げる事となった。

 

「でもレコン君からの報告が無いという事は、まだ現場に到着していないという事よね」

「って事は、自主的に攻撃をやめた?あのマシンガン馬鹿のあいつらがか?」

「そうね、ありえないわよね……ここは素直に報告を待ちましょうか」

 

 そして少し後に、レコンからユキノに報告が入った。

 

『すみません報告が遅れました、ユキノさん、敵は七人です』

 

 七人というその言葉にGGO組は首を傾げた。

ZEMALのメンバーは六人だったはずだからだ。

 

「レコン君、何があったの?」

『いえ、敵のリーダーらしき女性が、僕が到着する前に撤退指示を出したみたいで、

慌てて追いかけて、今やっと追いついたところです』

「へぇ、いくら攻撃しても無駄だと悟ったのかしらね」

「いい判断だと思うけど、でもZEMALに女性メンバー?聞いた事がないわね」

『あの女性はおそらくALO出身の人間だと思います、

ただキャラはGGOのキャラみたいですが』

「どうしてそう思うの?」

『はい、銃だけだと決め手に欠けるから、

私が以前所属していたサラマンダー軍の知り合いを何人かスカウトするから一度撤退だと、

あの女性はそう言ってたんですよ』

「そう……」

 

 そしてユキノは少し考え込んだ後、レコンにこう指示を出した。

 

「分かったわ、レコン君はそのままZEMALの後を追って頂戴、

決して無理はしないように注意してね」

『分かりました』

 

 そしてユキノは通信を終えた後に、レンに言った。

 

「レンさん、早い段階でフカさんを呼んでもらってもいいかしら」

「それは別に構わないけど、でも何で?」

「多分その女性っていうのが、フカさんと因縁のあるプレイヤーだと思うのよね」

「フカと?そうなの?」

「ええ、まあレコン君の報告待ちになるのだけれど、多分合っていると思うわ、

何故なら過去にサラマンダー軍に所属していた女性プレイヤーは、一人しかいないのだから」

「なるほど」

 

 この場には他に、古参のALOプレイヤーは存在しない為、

ユキノは詳しい事はいずれウルヴズヘヴンでねと言って、一旦この話題をここで終えた。

そして一同はそのまま探索を続け、再び先ほどと同じタイプの巨人と遭遇した。

 

「……これは少し面倒ね、移動だけでこれだけ手間を掛けさせるなんて、

開発AIは一体何を考えているのかしらね」

「案外一度鍵を取ったら敵対してこなくなるとか……」

「……その可能性は無くもないわね、セラフィム、ちょっと生贄になってもらえるかしら」

「さっきの事をまだ根に持ってる!?」

 

 セラフィムはそう言いつつも、文句を言わずに一人で巨人の前に立ちはだかった。

他の者達は何があってもすぐ飛び込めるように準備をしており、

ユキノに至っては既に回復魔法の詠唱を開始している状態であった。

ユキノもやはりハチマンの傍にいる事で、

毒舌と同時にツンデレスキルも鍛えられているようである。

 

「さて、どうなるかな……」

「セラフィム、気をつけてね!」

 

 だが巨人はセラフィムに一瞥もくれず、そのままその前を素通りしていった。

 

「あ、やっぱりそういう事か」

「平気だったね~!」

「ユキノ、もう大丈夫みたいだよ」

 

 ユキノもその言葉を受け、魔法の詠唱をやめた。

 

「それじゃあ転移門というのを探しつつ、周囲を探索しましょうか。

もしかしたら使える素材とかもあるかもしれないから、

気になった物があったらまめにチェックをお願い」

 

 そして一同はあちこちを観察しながら周囲の探索を進めたが、

ここまで巨人以外の敵キャラはまったく出現してこない。

 

「なぁ、ここには他にモンスターは出ないのかな?」

「プレイヤー間のコンビネーションを鍛えるには、

それなりの数の雑魚モンスターが出現した方がいいと思うんだけどね」

「確かにそうね、他の方面に敵を集中させているのかしらね」

「まあ順に調べていけばいいね」

「あっ、見て!大きな門みたいなのがある!」

 

 少し先を歩いていたレンの口からそんな声が聞こえ、一行はそちらに向けて駆け出した。

 

「あっ、本当だ」

「デカいな……」

「ユキノ、どう?何か反応してる?」

「ええ、『転移門の利用許可を感知しましたが、現在この門はどこにも通じていません』

だそうよ、やっぱりここが、イベント時の入り口の一つという事になるようね」

「オーケーオーケー、他に何か気になる物とかあったか?」

「素材が結構あるよね、ここ。まあ一般的に流通してるレベルの素材だけど」

「まあ街中という扱いではある訳だしね、もっともそう言っていいのかは分からないけど」

「それじゃあとりあえず戻りましょうか、レコン君の報告も聞きたいし」

「だな!」

 

 そして一行は街へと引き返した。途中で他のプレイヤーに遭遇する事は一切無かった。

やはりまだナイツを組むのに苦心しているのだろう。

その証拠に街に帰ると、メンバー募集掲示板の前は大盛況であった。

 

「やっぱりまだこんな感じなんだ」

「鍵を持つモンスターの取り合いにならない今のうちに、

さっさと全部集めてしまいたいところね」

「それじゃあウルヴズヘヴンに帰ろう!」

 

 そしてビルの入り口をメンバー認証して通過した一行を、

二人のメイド服を着た人物が出迎えた。

 

「みなさん、お帰りなさい!」

「お帰りなのニャ、何か収穫はあったかニャ?」

 

 それはユイとフェイリスであった。

ユイはキズメルと交代で、こことヴァルハラ・ガーデンを行き来するようだ。

フェイリスは完全に趣味である。一応別に店員NPCも設定出来るのだが、

ハチマンはそれを利用せず、ここをユイとキズメルに任せる事にしたのだった。

 

「フェイリスさん、来ていたのね」

「うん、フカちゃんもさっき来たのニャ」

「フカが?」

「あら、それは手間が省けたわね」

 

 そこに丁度レコンも戻ってきた。

 

「ユキノさん、戻りました」

「お帰りなさい、それじゃあ報告を聞きましょうか。

レンさん、フカさんを呼んできてもらえるかしら」

「うん、待ってて!」

 

 そしてレンに連れられて、他のフロアにいたフカ次郎が姿を現した。

 

「やぁやぁ、このかわいいフカ次郎ちゃんの出迎え、ご苦労様!」

 

 その挨拶に一同は、やれやれと肩を竦めたが、

そんなフカ次郎に一人だけ返事をした者がいた。

 

「おう、労ってもらってすまないな、本当にお前はかわいいな、

かわいすぎるから、ついつい殴りたくなる」

「リ、リーダー!?い、いつの間にここに……?今日は用事があったのでは?」

 

 そこにいたのは眠りの森への訪問を終え、

顔だけは出しておこうとログインしたハチマンであった。

 

「用事は終わった、お前こそ用事があるとか言ってなかったか?」

「う、うん、レンが何か粗相をしてないか心配で……」

「私をフカと一緒にしないで!」

 

 そしてレンはぷんぷんと怒りながら、そのままハチマンの手を取り、

テーブルまで連れていくと、その隣に陣取った。

それを見たユキノがさりげなくその隣に座り、フカ次郎は完全に出遅れる事となった。

 

「なっ、ななななな、なんて抜け目ない!」

「え?何の事?」

「い、いや、何でもねえ……敗者はただ去り行くのみだぜ」

 

 そう言って、せめてハチマンの正面に座ろうとしたフカ次郎は、

横からスッと移動してきた人物にあっさりと先をこされた、レコンである。

 

「どうしたレコン、何か報告でもあるのか?」

「はい、フカさんにも関係がある報告です、フカさん、ここに座ってもらっていい?」

 

 そう言ってレコンはフカ次郎に、ユキノの前に座るように促した。

フカ次郎はそんなレコンの態度を見て、これは真面目な話があるのだと思い、

大人しくユキノの前に座った。他の者達は、周りのテーブルに思い思いに腰掛けた。

 

「ユキノ、何かあったのか?」

「ええ、今日は北の山岳地帯の調査に行ったのだけれど、

メニューのナイツのページを見て頂戴、北の転移門の鍵を手に入れておいたわ」

「ほうほう、どうやって手に入れたんだ?」

「普通に徘徊している巨人族が持っていたわ。

ちなみに一度鍵を入手した後は、ノンアクティブに変化したわ」

「なるほど、そういう仕組みか」

「問題はその後なのだけれど」

「ふむ」

 

 真面目な顔をしたハチマンに、ユキノはこう切り出した。

 

「ZEMALから襲撃を受けたわ」

「あいつらの?ほうほう、あいつらがここにいるのか」

「ZEMALには、見知らぬ女性プレイヤーが一人加わっていたそうよ」

「ほう?」

「後の報告はレコン君にお任せするわ」

 

 そう促されたレコンは、その言葉に従い説明を始めた。

 

「はい、僕はその集団の後を尾行し、つい先ほど解散するまでその話を聞いていました。

それによると、おそらくその女性プレイヤーは、ビービーだと思われます」

 

 その言葉を聞いた瞬間に、フカ次郎は下を向き、わなわなと震えだした。

 

「ビービー?誰だ?」

「あなたが知らなくても当然ね、ビービーとは、

かつてサラマンダー軍に所属していた唯一の女性プレイヤーよ。

サラマンダー軍とシルフ軍が和解した直後に、

シグルドと一緒にサラマンダー軍を離脱しているわ」

「シグルドって、あのシグルドか?あいつはシルフ軍だっただろ?」

「言い方が悪かったわね、シグルドの計画については覚えているかしら?」

「計画?計画ってアレだ、え~と……」

「別に覚えているフリをしなくてもいいのよ」

「悪い、雑魚すぎて忘れた」

「ふふっ、まあそうよね」

 

 そしてユキノはシグルドの計画について説明を始めた。

 

「シグルドは、もうすぐ実装予定と言われていた転生システムを使って、

シルフからサラマンダーに転生して権力を握ろうとした裏切り者よ。

そしてその目的は、そのままサラマンダー軍にグランドクエストをクリアさせ、

光妖精族のアルフに更に転生する事だったらしいわね」

「ああ、そうそう、そんな感じだったな」

 

 ハチマンはやっと思い出したのか、若干曖昧ながらもその説明に頷いた。

 

「で、その時のサラマンダー軍の窓口になっていたと思われるのが、

そのビービーっていうプレイヤーなの」

「ああ、だから二人で逃げ出したと」

「ユージーン将軍は、ビービーを責めるつもりはまったく無かったようなのだけれど、

彼女としては、やはり軍には残り辛かったのでしょうね、

それから二人はどこへともなく姿を消したわ」

「二人は一緒に姿を消したのか?」

「いいえ、ビービーはシグルドの事が大嫌いだったらしいから、

別行動なのは間違いないと思うわ。たまたまタイミングが同じだっただけね。

そして種族間の壁は、アインクラッドの導入によって取り払われ、今に至ると」

「なるほどなぁ、話の腰を折って悪かった、それじゃあレコン、報告を続けてくれ」

 

 レコンはその言葉に頷き、説明を続けた。

 

「何故僕がその女性をビービーだと判断したかというと、

ユキノさんはもう気付いているみたいですが、その女性が、

『私が以前所属していたサラマンダー軍の知り合いを何人かスカウトするから』

と言っていたせいですね、該当する女性はビービーだけですから」

「え、サラマンダー軍ってそうなのか?」

「そうですよ、ハチマンさんも、女性を見た覚えはありませんよね?」

「た、確かに……そうか、ユージーンってかわいそうな奴だったんだな、

今度会ったらもう少し優しくしてやろう……」

 

 ハチマンのその言葉に噴き出しつつも、レコンは更に説明を続けた。

 

「ビービーの見た目は変わってました、

おそらくGGOに新しくキャラを作ったんだと思います。一応これがその写真です」

「これか?ふむ、俺には見覚えはないな、レン……は知っているはずがないな、

ロビン、闇風、どうだ?」

「どれどれ」

「ほいほいちょっと拝見っと……あ、あれ?おいロビン、こいつって『指揮者』じゃね?」

「あ、本当だ、これって『指揮者』だね」

「知ってるのか?」

「うん、第一回BoBにも出てたはずだけど、覚えてない?」

「………お、覚えてない」

「まあそれもそうか、イクスの事も覚えてなかったくらいだしね」

「う……す、すまんマックス」

「いえ、私は一瞬でサトライザーに倒されましたから」

「あ、レヴィはどうだ?こいつの事、覚えてるか?」

 

 闇風のその言葉に、レヴィは写真を見ながらこう言った。

 

「ああ、確かに兄貴が倒した奴の中に、こいつがいたな、確か十三番目だ」

「それじゃあ後で動画をチェックだな、で、指揮者って何の事だ?」

「うん、こいつってば傭兵でね、色々なスコードロンに招かれて、

戦闘の指揮を請け負ってたんだよね」

「こいつに指揮された奴らは、それは強かったぜ」

「そうなのか、シグルドと違って出来る奴なんだな」

「ビービーはZEMALのメンバーから、女神様って呼ばれてました」

 

 レコンがそう報告を続け、フカ次郎の髪がブワッと逆立ったような気がした。

今のフカ次郎は、GGOの時の金髪の少女の姿ではなく、本来の姿に戻っている。

その外見は美人と評されるのに相応しい姿であり、

その髪が物理的に逆立ったりする事はないが、周りの者からは確かにそう見えたのだ。

 

「あのクソ野郎が女神……?」

「そういやフカも古参だったな、知ってるのか?」

「知ってるもなにも、私はあいつに石臼で潰されたり、飛んでる最中に羽根を切られたり、

火山の火口に突き落とされたり、顔面を弓で射られたりした事もあるんだからね!

見つけた瞬間に殺す、絶対に殺す、死んでも殺す」

「それってあれか、お前の方が弱かったって事だよな?」

 

 そのハチマンの正直な言葉に、フカ次郎はうっと言葉に詰まった。

 

「リ、リーダー……」

「ああ、悪い悪い、昔のお前は確かに弱かったと思ってな、でも今はもう違うだろ?

だから相手を恨んでばかりいないで、正面から相手を粉砕して、それで昔の事は水に流せよ」

「で、でも!」

「いいから流せってんだよ、恨みからは何も生まれない、

お前には今は頼れる仲間がいるんだ、そんなぼっち気質の奴にいつまでも拘るな」

「う、うん、確かにそうかも……ごめんなさい」

 

 そんな殊勝に謝るフカ次郎の姿を見て、ハチマンはうんうんと頷いた。

 

「さてレコン、他に報告は何かあるか?」

「いえ、そのビービーだと思われる女性は、そのままログアウトしてしまったので、

特に追加の情報はありません」

「だが、とりあえず敵対してきたってのは事実なんだな?」

「はい、少なくともユキノさんは超有名ですし、面識もあるはずですし、

うちの事を分かって仕掛けてきたのは間違いないと思います」

「分かった、それじゃあメンバー間で情報を共有し、

突然の奇襲も返り討ちに出来るような体制を整えよう」

「はい!」

「それじゃあ明日はどうするのかしら?一応予定では、GGO組が多い日に、

西の湿原か東の荒野に行ってみようと思っていたのだけれど」

「南には行かないのか?」

「だって水中での戦闘は無理でしょう?」

「ふむ」

 

 ハチマンはユキノが言いたい事を理解し、少し腕組みをした後にこう言った。

 

「それなら俺に心当たりがある、明日は南に行くぞ、

南門の通行権を独占する為にも、あまり人目につきたくはないからな」

 

 こうして明日の、南への調査隊の派遣がハチマンの鶴の一声で決定された。


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