ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭

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第648話 南の探索行・フィッシング!

「ほ、本当にレン……なのか?だ、大丈夫なのか?」

「う、うん、まだちょっと怖いけど、でも大丈夫、

私がこの姿になっても耐えられるようになったのは、全部ハチマン君のおかげだから、

だからせっかく水着姿を見てもらえるこのチャンスに、

もう大丈夫な私を真っ先にハチマン君に見せたいなって思って」

 

 そう言いながらレンは、完全にフードを脱ぎ捨てた。

その下は驚いた事に、既に水着姿であった。そこだけはレンらしい、ピンクの水着である。

 

「この格好でここまで来たのか?」

「う、うん、もしかして途中で力尽きちゃったら困るなって思って、

最悪その時は、写真を撮って送ろうかなって、だから最初から着てきちゃった……」

「そうか、うん、そうか……その水着姿、よく似合ってるぞ」

「あ、ありがとう、頑張った甲斐があったよ」

 

 そう言いながらもレンは、まだ若干震えているように見えた。

そんなレンの姿を見て、さすがのアスナも脅威を覚えていた。

ここまで水着姿にフードという格好でたどり着いた、レンの根性に驚愕させられたのだ。

 

(やっぱり現時点では、香蓮が一番の脅威だね、やっぱり根性が凄い……)

 

 そう考えつつも、賞賛する気持ちの方が大きかったアスナは、

そのままレンの手を取り、レンに何かあったらすぐに対応出来るようにと、

レンをビーチチェアに座らせ、その横についた。

同様にフカ次郎も反対側に立ち、そんな二人にレンはニッコリ微笑んだ。

 

「あ、ありがとう、二人とも……」

「おいおいレン、お前、無理しすぎだろ、でも凄い根性だな、見直したぜ!」

「う、うん、やっぱりあの姿で水着って、確かにかわいいんだけど、ちょっと違うかなって」

「気持ち悪くなったらすぐに言ってね、強制切断って、あれはあれで凄く辛いからね」

「うん、ありがとうアスナ」

 

 そんなレンを、ハチマンは心配そうに見ていたが、

アスナがハチマンの顔を見て頷いた為、ハチマンは本来の目的達成を優先させる事にした。

 

「それじゃあニシダさん、今竿を用意しますね、ナタク、頼む」

「はい!」

 

 そしてナタクは、巨大な竿とリールを取り出した。

 

「おお、こんな竿を使わないといけないくらいの大物かい?」

「はい、一応リールも特別製で、より少ない力で巻き取れるような構造になってます」

「そうかそうか、でもさすがに掛かった後の釣り上げは、

またキリト君に頼むしかなさそうだね」

「今回のメインターゲットはモンスターですし、正直魚が釣れるかどうかも怪しいんで、

その方が安全かもしれませんね」

「なるほどなるほど、それじゃあキリト君、また今回も宜しく頼むよ」

「任せて下さい!ヒットするまではニシダさんに任せますので!」

「うんうん、腕が鳴るねぇ、それじゃあ早速いこうか!」

「はい!」

 

 そしてニシダは年老いた見た目からは思いもつかない豪快なスイングで、

エサを思い切り遠くまで投げ込んだ。

ちなみにエサは、食材アイテムを片っ端から試す事になっていた。

まあしかし、本当に魚が存在するかも分からない為、

他ならぬニシダ自身も長丁場を覚悟していた。だが予想に反して何かがすぐにヒットした。

 

「おや?」

「あれ、何かかかりましたね、ニシダさん、代わりますか?」

「いや……どうも当たりが弱いね、これはモンスターじゃないと思うよ」

「とりあえず釣り上げてみて下さい」

「うん、任せて」

 

 そしてニシダはリールを巻き取り、その獲物をごぼう抜きにした。

 

「う?」

「青く光ってない?」

「というか小さくない?」

 

 ニシダによって最初に釣り上げられたのは、一匹の青い鱗を持った魚であった。

 

「な、何だこれ?」

「ナタク、分かるか?」

「ええと……あっ、この名前はレシピの中で見た事があります、

そうか、これって魚だったんだ!」

 

 どうやらその魚は合成素材の中でもまだ発見報告が無い貴重な物だったらしく、

ナタクは興奮した口調でそう言った。

 

「おお、それはいいね、この調子でジャンジャンいこう!」

「はい、お願いしますニシダさん!」

 

 ハチマンはそう言いつつも、これからはALOの通常フィールドでも、

あちこちで釣りをする必要があるなと考えていた。

確かに水産物系の素材はある程度出回っているが、それは低レベルの物に限られていた。

ALOで熱心に釣りをやっている層は、戦闘よりも釣りを優先させる為、

基本的にステータスがさほど上がっておらず、

例えばヨツンヘイム等に行けるプレイヤーは極少数なのだと推測され、

ハチマンは今回、戦闘以外のそういった要素も疎かにしてはいけないなと思い知らされた。

 

「うほぉ、入れ食い入れ食い!」

「凄い凄い!」

「さっすがニシダさん、これは完全に腕のおかげですね!」

「貴重な素材がどんどんたまりますね!」

 

 そしてあれよあれよという間にその場には、色とりどりの魚達が積みあがった。

 

「これが全部レア素材か」

「これはもうレアとは言えないね」

「何故か鉱物扱いなんですよね」

「あ、これ、裁縫に使える……」

「しかし逆にモンスターが一匹もかからないな……」

「これはやっぱり例の作戦でいくしかないって事か?」

 

 中には大物も混じっており、ニシダも満足してくれたようなので、

ハチマンはそう呟いた後、ニシダにお礼を言い、次にレコンとキリトに声を掛けた。

 

「よし、二人とも………ジャンケンの時間だ」

「遂にか……」

「アレをやるんですね……」

「ああ、魚の種類によって使うエサが違うように、

モンスターを釣るにはそれなりのエサを使わないと駄目だろうからな、

という訳で、誰がエサになるか勝負だ」

 

 ちなみに闇風と薄塩たらことゼクシードは、海中で仮に敵に襲われた場合、

対抗手段が無い為に、この勝負への参加を免除されていた。

 

「モンスターに食われる役か……」

「即死はしませんよね?」

「どうだろうな、まあ釣り上げるまで頑張って生き残るか、

もしくは外れないように口の中にしっかりと釣り針を刺すか、どちらかが必須になるな」

「オーケーです、それじゃあいきましょう!」

「おう!」

「よし、最初はグー!」

「ジャンケン!」

「「「ポン!」」」

 

 キリトはチョキ、レコンもチョキ、そしてハチマンが出したのは………パーであった。

 

「くっそお前ら、最初はどう考えても気合いのグーだろ!」

「そう考えたから、チョキを出したのだよチョキを!」

「さあハチマンさん、この針を持って、体にロープを巻き付けて下さいね」

「くっ……分かった、やってやる」

 

 そんなハチマンに、女性陣から声援が送られた。

 

「ハチマン君、頑張って!」

「しっかりモンスターに食われるのよ」

「ハチマン様大丈夫です、仇はちゃんと取ります」

「仇ってマックス、最初から俺が死ぬ前提なのな……」

 

 ニシダはそこで観戦モードになり、レンが寝ているビーチチェアへと避難した。

だがそこにはレンはおらず、ニシダは首を傾げつつ、

近くでのんびりしていた、非力さ故に不参加のスクナに、レンはどうしたのかと尋ねた。

 

「あ、あれ?あの子は?」

「あ、レンならお花を摘みに行きましたよ、ニシダさん」

「あっとこれは失礼、それじゃあスクナさん、一緒に観戦しましょうか」

「はい、あいつがエサになって死ぬところを楽しく見させてもらいます」

「は、はは……」

 

 ニシダはそのスクナの言葉に乾いた笑いを返しつつ、

準備運動をするハチマンの方を眺めた。ハチマンは体にしっかりとロープを巻きつけ、

そのまま海に入り、沖へと泳いでいく。

もう片方の端は、まるで綱引きの綱のようにスクナ以外の全員が持っており、

合図一つで一気に引っ張られる事になっていた。

 

「闇風、どうだ?」

「まだ何も見えねえな、それっぽい気配も皆無だ」

 

 より遠くが見えるように、薄塩たらこに肩車をしてもらいつつ、

一旦単眼鏡から目を離して闇風がキリトにそう言った。

 

「あ、あれ?」

 

 直後にもう一度単眼鏡を覗き込んだ闇風は、

ハチマンの姿が見えなくなっている事に気が付いた。

 

「どうした?」

「ハ、ハチマンの姿が消えた……」

「むっ」

 

 そして遠くで海面が盛り上がるのが見え、キリトは慌ててメンバー達に指示を出した。

 

「ひ、引け~!!!!!」

 

 その言葉に応じて全員がロープを引っ張り始めた。

 

「ま、まさか食われたのか?」

「多分……」

「マジで?やばくない?」

「アスナ、パーティリストはどうなってる?」

「HPは減ってない、まだ生きてる!」

「そうか、よし、引け、力の限り引け!根性見せてみろ!」

 

 参加メンバー達は、その言葉を受け力の限りロープを引っ張った。

そのおかげで山のように盛り上がった海面が、どんどんこちらに近付いてくる。

だがその山は、一定の距離で止まってしまった。

 

「うが、急に重くなったぜ」

「もしかして、海底に引っかかったか?」

「今まで浮いていたものが、海底が浅い部分まで到達したのでしょうね」

「なるほど、ユキノ、どうする?」

「まだ結構距離があるけれど、動かないのなら自分で来させればいいのではないかしら」

「その心は?」

「誰かが腰にロープを巻き付けた上で海に入って、

敵から感知された瞬間にそのロープを引っ張れば、、

敵は自発的にこちらに向かってくるんじゃないかと思うの」

 

 それは確かにいいアイデアに聞こえ、闇風がその役に立候補した。

 

「よし、ここはGGO最速のスピードスターである俺が……」

「その役目、私がやる!」

 

 その意見に誰かがそう宣言した。一同が振り返ると、そこにはレンが仁王立ちしていた。

その姿は先ほどのALOのレンではなく、GGOのレンであった。

 

「レン、キャラを変えたのか?」

「うん、戦闘になるのにあの姿じゃいられないからね!

それに師匠、ロープをくくりつけるとしたら、この中で一番体重の軽い私が適任だよ!」

 

 どうやらレンは、トイレに行くついでに急いでキャラを再コンバートさせたようだ。

ちなみに装備類は、パラソルの脇に置いておいておいたらしい。

その中には今の体のサイズに合わせた水着もあり、

レンはピンクのワンピース姿で体にロープを巻きつけ、そのまま海に飛び込んだ。

 

「おおおおおおお!」

 

 そしてレンは凄い勢いで沖へと泳いでいき、ターゲットから一定距離に近付いた瞬間、

止まっていた山が再び動き出した。

 

「釣れた!」

「みんな、レンに巻き付けたロープを引っ張れ!」

 

 そしてレンはぐいぐいと海岸に引っ張られ、山はどんどん大きくなっていった。

 

「な、何か思ったより大きくない?」

「お、おう……」

 

 その瞬間に、レンが海の中から走り出てきた。

レンはどうやらロープに引っ張られるままにはせず、

自身も根性で海底を走る努力をしていたらしい。

 

「こ、怖ええええええええええええええ!」

 

 そしてレンは一気に海岸を離れ、その背後から人の顔のような物が徐々に姿を現してきた。

 

「な、何だあれ……」

「芋虫?」

「いや、ヒレがあるな、魚の巨人か?」

 

 その巨人はヒレを器用に動かしながら、ずるずると海岸へと上陸し、

そのままその場でピチピチと痙攣し始めた。

 

「………あまり動かないね」

「後先考えずに上陸したんだろ……」

「ハ、ハチマン様は!?」

「やべ、そうだった!」

 

 そして一同は、再びロープを引っ張った。

巨人の口の中からロープがずるずると引き出され、口の辺りでその動きが止まった。

 

「よし、STRメインで振ってる奴は、全員巨人の口を開けるんだ!」

「ラジャー!」

「任せて!」

「私もお手伝い致しますわ」

「私も参加するべきかしら」

 

 その言葉でフカ次郎、ピトフーイ、ミサキ、ユキノがキリトと共に巨人の下へと走った。

そして五人は巨人の口をこじ開け、その中からハチマンがのそりと姿を現した。

 

「リーダー!」

「ハチマン、大丈夫?」

「お、おう、何とかな……」

 

 ハチマンは口から水を吐きながら、よろよろと巨人から離れた。

その瞬間に巨人の目が開き、まるでしゃくとり虫のように腰を曲げ、

それなりに早いスピードでズルズルと動き出した。

 

「うわ、気持ち悪い……」

「こっちに来ないで!」

「やべええええ、くねくねしてやがる!」

 

 それを見たアスナが、メンバー達に指示を出した。

 

「攻撃開始!」

 

 そしてずるずると這いずり回るその巨人に向け、全員が一斉に攻撃を始めた。

 

「こいつは銃で攻撃すれば楽勝だな!」

「距離がある程度とれるしね」

「撃て、撃ちまくれ!」

「あはははは、あはははははは」

 

 ここで主に力を発揮したのはGGO組とシノン、それにレヴィであった。

ちなみにリオンはここでは後方に下がっていた。

ハチマンにロジカルウィッチスピアを使っている所を見られるのを避ける為である。

どうやらリオンはまだハチマンへのサプライズ公開を狙っているようだ。

 

「ここはあいつらに任せるか」

「というか危なくて近くに寄れないわね」

 

 何も考える事もなく若干移動しながらフルオートで弾丸を撃ちまくるだけでいい為、

GGO組は全弾撃ちつくす勢いでとにかく巨人を撃ちまくった。

やがて巨人のHPも尽き、巨人は断末魔の悲鳴を上げ、そのまま消滅した。

こうしてヴァルハラ・ウルヴズは、多くの素材と共に無事二つ目の鍵を手に入れたのだった。


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