ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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今日から新たなエピソードの始まりです!これは全六~八話程度になると思います!


第645話 北の探索行・巨人戦

 八幡が眠りの森を訪れたり、理央がそれに触発されて戦闘に明け暮れていたその頃、

年末に予定されているALOとGGOの合同イベントに参加予定の者達は、

ウルヴズヘヴンに集まり、空中都市船トラフィックスの全容を把握しようとしていた。

 

「ネットで集めた情報によると、このトラフィックスは、空中都市船とは言いつつも、

実は島にエンジンを付けて浮かびあがらせているようなものだというのが今の主流の見方ね」

 

 今日集まったメンバーの中で唯一の役付きであるユキノが司会役を努め、

その日の話し合いは始まった。

 

「島を丸ごと?豪快よねぇ」

「実はかなり広いよな、ここ」

「情報だと北は山岳地帯、南は海岸、西は湿原で、東は荒野になっているようね」

「ほうほう、どこから調べていくつもりだ?」

 

 その闇風の質問に、ユキノはこう即答した。

 

「まだ水棲のモンスターを効率良く倒す方法は確立されていないのだし、とりあえず北ね。

今日はGGO組が少ないから、湿原や荒野みたいな開けた場所は、

後回しにした方がいいと思うの」

「ああ~、確かに今日は俺とレンしかいないからな、

まあ俺達ならどんな場所でも問題ないよな?レン」

「うん師匠、まったく問題ないよ!」

「しかしそれにしても……」

 

 そう言いながら闇風は、チラリとユキノの顔を見た。

 

「………何かしら?」

「いや、やっぱり違和感が……ユキノは語尾に、~なのだ!とか付けないのか?」

 

 その瞬間に、闇風の後頭部に衝撃が走った。

 

「ヤミヤミ、デリカシーが無い」

「痛っ!てめえピト、痛いんだよ、この筋肉ゴリラが!………って、あれ?ピト?」

 

 闇風はそう言いながら、きょろきょろと辺りを見回した。

だがそこにいるのはピトフーイではなくクックロビンである。

 

「えっと……」

 

 闇風は困ったような顔でレンの方を見た。そんな闇風に、レンは笑顔でこう言った。

 

「師匠、誰を探してるの?」

「いや、今ここにピトがいなかったか?あいつは今回のナイツには参加してないよな?」

「やだなぁ師匠、あのピトさんが、ハチマン君の主催する集まりに参加しないとでも?」

「へ?って事は……」

 

 闇風は振り返り、じっとクックロビンの顔を見た。

そこには姿かたちは違えども、よく見慣れたピトフーイと同じ、ニヤニヤ顔があった。

 

「ま、まさかお前、ピトなのか!?」

「むしろ知らなかった事の方が驚きよね、ヤミヤミ、ハチマンに嫌われてるんじゃないの?」

「がああああああああああん!」

 

 そう絶叫した闇風に、ユキノが冗談のつもりでこう言った。

 

「そういえば確かにこの前、ハチマン君があなたの事を………あっ、ちょっと」

 

 ユキノは先ほどの仕返しに闇風をからかおうとしただけであったが、

闇風が落ち込んだような表情でうるうるし始めた為、大いに慌てる事となった。

 

「冗談、冗談よ、ハチマン君は何も言ってないわ、だから安心してね、闇風君」

「ほ、本当にか……?」

「ええ、単純に忘れてただけだと思うわ、というか誰にも説明していないはずよ、

だからあなただけが仲間外れにされているとかではないから安心してね」

「う、うぅ……そうか、それなら良かった……ハチマンに嫌われたら、俺、俺は……」

 

 周囲にいた者達は、そんな闇風の姿を見て、

本当にハチマンの事が好きなんだなと暖かい視線を送ったが、

直後に闇風自身がそれをぶち壊しにした。

 

「バイト先も無くなっちまうし、何よりハチマンの近くにいる美人さん達を見て、

目の保養をする事も出来なくなっちまうところだったぜ……」

 

 その瞬間に、クックロビンが再び闇風の後頭部を殴った。

 

「うぎゃああああああ!」

「ヤミヤミ、そういう事を言うからあんたはモテないのよ」

「師匠、さすがの私も今のはどうかと……」

「う、うるせえ!俺はただ正直なだけだ!美人を美人と言って何が悪い!」

 

 それは闇風にとっては起死回生の言葉であった。こう言えばこれ以上、

自分への印象が悪化しないだろうという計算によって放たれたその言葉は、

しかしセラフィムによってあっさりと粉砕された。

 

「ハチマン様以外の賞賛、不要。闇風、反省」

「そ、その喋り方……まさかお前、イクスか!?

し、しかもその胸……完全版だと……!?」

 

 闇風はセラフィムの胸を見ながらそう絶叫した。懲りない男である。

 

「ふふん、ALOを始めてから、ハチマン様が私の胸に視線を走らせる確率が更に上がった。

ユキノとは違うのだよユキノとは」

 

 その瞬間に、ユキノがセラフィムの頭をガッチリ掴んだ。

 

「ねぇセラフィム、ちょっとお話があるからこっちに来てもらえるかしら?」

「ち、違うのユキノ、今のはただの言葉の綾で、

ユキノなら今のが冗談だって分かるよね?ね?」

「その辺りも含めてちょっとお話ししましょうか、

とりあえずみんなは出発の準備をしておいて頂戴。

敵はどうやら巨人族の可能性が高いから、それ用に各自備えてね」

 

 そしてセラフィムはユキノによって連行されていったが、

他の者達はもう慣れっこなのか、平然と準備を開始した。

 

「た、助かった……」

「ほら師匠、さっさと準備、準備!」

「お、おう、レンは随分平然としてるのな……」

「まあ私はそれなりに、ここの人達と交流があるしね」

「そ、そうか……」

「まあユキノに滅多な事は言わない方がいいよ師匠、場合によっては……」

「よっては?」

「もがれる」

「どこを!?」

「さあ?」

 

 そしてレンは笑顔で準備を始め、闇風も大人しくそれに従った。

そしてしばらく後に、ユキノがセラフィムを引きずって戻ってきた。

その光景に、闇風は目を剥いた。

 

「な、なぁレン、ユキノってヒーラーなんだよな?」

「うん師匠、でも多分ユキノはSTRも相当高いよ」

「な、なるほど……さすがはヴァルハラ・リゾートの副長って事か……」

 

 闇風はその事実に面食らい、以後ユキノをからかう事は絶対にしなくなった。

 

「さて、今日のメンバーは、斥候がレコン君と闇風君でお願い、

二列目はセラフィム、私、レンちゃん、ロビンよ、レヴィは最後尾で後方監視をお願い」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 そして一行は出発し、北の山岳地帯へと向かった。

 

 

 

『ユキノさん、前方に巨大な人影、おそらくモンスターです!』

 

 先行していたレコンからそんな通信が入り、ユキノは一端進軍の足を止めさせた。

そこに別方向に偵察に出ていた闇風が快足を生かして合流し、

しばらくしてレコンも無事に合流を果たした。

このトラフィックスでは誰も飛ぶ事は出来ない。

GGO組を飛ばすよりもその方がバランス調整が簡単だからだろう。

 

「敵は一体、一つ目の巨人です、武器は普通の棍棒、魔法攻撃を行うかどうかは不明です。

移動速度はたいした事はありませんが、走るとどうなるかは観察出来ませんでした」

「ふむ、情報通りね、敵はやはり巨人系のボスモンスターよ。

とはいえここは街なのだから、必ずチュートリアル要素が含まれていると推測出来るわ。

おそらくナイツの連携を深める為に用意されたモンスターなのでしょう」

「その子は何かアイテムを落としたりするのかな?」

「それがまだ撃破報告が無いのよね、それほど強敵だとは思えないのだけれど、

おそらくナイツがまだほとんど存在しないせいかもしれないわね」

「うちみたいに事前に準備してたところなんて、普通は無いって事か」

「でしょうね、ALOとGGOじゃ雰囲気が違いすぎるもの」

 

 そう言った後、ユキノはすぐに戦闘への突入を決断した。

 

「幸いここは広い空き地だし、ここに敵を釣りましょうか。

とりあえずさっさと片付けてしまいましょう、総員戦闘準備を!」

 

 そしてレコンが釣り役に指名され、正面にセラフィムが陣取り、

右にクックロビンとレン、左にレヴィと闇風が配置された。当然中央はユキノである。

 

「どんな些細な事でも構わないから、戦闘後に情報を整理するわよ、

余裕がある時は各自で敵の観察を!」

 

 その言葉と同時くらいに、敵を釣りに出たレコンが駆け戻ってきた。

 

「敵に遠隔攻撃の手段無し!」

 

 レコンは足を止めずにユキノにそう声を掛け、

そのまま背後の守りを固める為に、かなり後方へと陣取った。

言われなくとも自分の役割を果たし、決して目立とうとはしない、

レコンはそんな行動を繰り返す事で、

ハチマンから絶大な信頼を向けられるようになっていた。

ちなみに戦闘の腕もハチマン仕込みであり、ユージーンには勝てないまでも、

簡単には負けないような戦い方が出来るくらいには成長している。

 

「来ます!」

 

 森の中から飛び出してきたその巨体は、かなり威圧感があった。

巨人が棍棒を振り上げ、目の前にいたセラフィムに振り下ろす。

セラフィムはその攻撃を、真正面から受けないように、盾をやや斜めにして受け流した。

 

 ドンッ!

 

 という音と共に棍棒が地面にめり込む。

 

「おおおおおおおお!」

 

 クルスは雄叫びを上げ、そのまま敵からのヘイトを上げるスキルを使い、

棍棒を持つ巨人の手首に全力で剣を振り下ろした。

 

 ザシュッ!

 

 という音と共に、巨人の右手首が切断される。

その瞬間に巨人は絶叫を上げ、左足でセラフィム目掛けて蹴りを放った。

 

「っ……アンカー!アイゼン倒立!」

 

 セラフィムはその蹴りをまともに受け止める形になると判断したのか、そう叫んだ。

セラフィムの持つ盾から鎖のようなものが左右に飛び出し、地面に突き刺さる。

そしてブーツの踵がザシュッと音を立て、そこから生えたアイゼンが地面にめり込む。

その直後に巨人の蹴りがセラフィムの盾に直撃したが、

セラフィムはその体格差をものともせずに、その攻撃をまともに受け止めた。

 

「スパイク!」

 

 そしてセラフィムのその叫びにより、盾からトゲのような物が飛び出し、

蹴りを放った巨人の左足に突き刺さった。巨人はもがいたが、

そのトゲは返しがついているのか足から抜ける気配がない。

セラフィムはそのままその場に踏みとどまる事で、巨人の体制を安定させないようにした。

そこで初めて巨人の動きが止まる事となった。

 

「今よ、攻撃開始!目標は右足と左手よ!」

 

 ユキノはセラフィムにヒールを飛ばしつつ、そう指示を出した。

 

「ここから狙撃する」

「あいよ!」

 

 レヴィがその場に膝立ちし、大口径の魔法銃で巨人の右足を的確に撃ち抜いていく。

確かに巨人の右足はかなり太いが、その足首が徐々に穴だらけになっていく。

 

 ググググググググググ

 

 巨人の口からそんな声ともつかないような音が聞こえ、

巨人は拘束された左足を無理やり地面に下ろし、右足を動かしてその攻撃を避けようとした。

 

「させるかよ!」

 

 そこに凄まじい速さで闇風が肉薄し、巨人のアキレス腱を狙って攻撃を開始した。

こうして遠距離と近距離からの二人の攻撃により、巨人の右足は徐々に削られていった。

 

 

 

「レンちゃん、やるわよ!」

「オーケーピトさん……じゃなかったロビン、ぶちかまそう!」

「とはいえちょっとあの位置は高いわね、レンちゃん、私を踏み台に……」

 

 クックロビンがそう言いかけた瞬間に、二人の目の前に青い立方体が複数出現した。

 

「ロビン、あれって氷だよね?」

「氷?そっか、さっすがユキノ!」

 

 それはユキノが地面に生える草を対象に掛けた、氷の棺の魔法であった。

名はそのままアイスコフィンである。ユキノはその魔法に魔力を多めに込める事で、

二人の為に足場を作ったのであった。

 

「ユキノ、ありがとっ!今度お礼に私とムフフな事を……」

「謹んで遠慮するわ」

「くっ……ガードが固い」

 

 そう軽口を叩きながら氷の足場に上ったクックロビンに、

ユキノは聞く耳持たずという風に、あっさりとそう返した。

 

「仕方ない、それじゃあその役はレンちゃんに!」

「ごめんロビン、私も無理!」

 

 そう言いながらレンは速度を上げ、凄まじい速度で飛び上がると、

巨人の左手に肉薄してその手首にフルオート射撃をした。

その背後からクックロビンが、手首を切断しようと剣を振りかぶったが、

ここで巨人は予想外の行動に出た。

左手に攻撃し、別の氷の足場に着地しようとしたレンに、裏拳を放ったのだ。

 

「レンちゃん、危ない!」

「えっ、うわっ、わわわわわ!」

 

 レンは慌てて止まろうとしたのだが、そのまま足を滑らせ、足場の下に落ちた。

その頭の上を、巨人の裏拳が通り過ぎていった。

 

「わ~お、さっすがレンちゃん、ラッキーガール!」

「こんなの全然嬉しくない!」

 

 そう言いながらもレンは、そのまま真上にフルオート射撃をし、

裏拳をかわされて静止状態であった巨人の左手に攻撃を集中させた。

その直後にクックロビンが、レンが足を滑らせた足場に器用に着地し、

前に戻ってくる巨人の左手の前に剣を立てたが、

足場が悪い為、そのまま後ろに押されてしまう。

 

「くっ……」

 

 だが突然その足の滑りが止まった。クックロビンの足元に黒いツタのような物が巻き付き、

足が滑らないように止めてくれていたのだった。

 

「さっすがレコン!縁の下の力持ち!」

 

 そしてクックロビンは足を踏ん張り、見事に巨人の左手を切断した。

 

「よし!」

 

 同時に巨人は遂に右前足に力が入らなくなったのか、そちらに向けて膝をついた。

 

「あっちも足の破壊に成功したみたいね」

「これで敵の動きが大分鈍るかな?」

「そうね、一旦距離を取りましょう」

 

 二人がそう言って巨人から距離をとった瞬間に、突然ユキノが叫んだ。

 

「セラフィム、右手よ!」

 

 その言葉通り、巨人は右手に棍棒を持ち直し、

セラフィム目掛けて振り下ろそうとしていた。切断されたはずの右手で、である。

セラフィムは咄嗟に盾のアンカーを外し、盾を上に構えた。

それによって防御が間に合ったが、

さすがに上から振り下ろされる攻撃をまともに受けるのは負担が大きいのか、

セラフィムもいくらかのダメージを負った。

もっともそれはユキノによってすぐに癒されてしまうのだったが、

問題は巨人の再生能力の方だった。見ると右足と左手の肉も不気味に蠢いており、

どうやらその二部位も再生が進んでいるのだと推測された。

 

「ユキノ、どうする?」

「大丈夫、敵のHPは回復していないわ、とりあえず両足を交互に攻撃して敵の足を止め、

そのまま最後までHPを削りきりましょう」

「分かった、攻撃を続けるね!」

 

 そのまま攻撃は継続され、遂に巨人は全てのHPを削り取られ、消滅した。

後に残されていたのは一本の鍵であり、

説明文には『上陸用トラフィックス北転移門の鍵』と書かれてあった。

 

「この鍵、何に使うんだろ」

「普通に考えれば、イベント開始時に北門を通れるって事なのではないかしら」

「まさか人数分必要とかじゃないよな?」

「いえ、これは一度取ればナイツ全体で有効なアイテムみたいね、今使用するわ」

 

 そしてユキノが何かを操作するとその鍵は消滅し、

代わりにナイツの状況を確認する為のメニュー画面に、鍵所持の情報が記載された。

 

「よし、これでいいわね」

「やった!これでハチマンに褒めてもらえるね!」

「この後どうする?」

「そうね、あの巨人が復活しないうちにある程度周囲を探索して……」

「むっ……」

 

 その時突然レヴィが何かを感じたように辺りを見回した。そしてレコンがこう叫んだ。

 

「ユキノさん、敵襲です!」

 

 一同はその声を聞き、すぐにセラフィムの背後に展開し、

セラフィムは盾を構えて戦闘態勢をとった。

正面の森の中に複数の銃口が見え、セラフィムは咄嗟にこう叫んだ。

 

「シールド展開、鋭角広域防御!」

 

 その瞬間にセラフィムの持つ盾が、

一同を守るように横に広がって、そのまま矢印のような形に変化した。

その盾に向け、森の中から銃弾が雨あられと降り注いだのだった。


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