ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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皆様のご愛顧のおかげでこの作品も実質650話まで到達しました。
評価の数値からして好き嫌いがハッキリ分かれているらしいこの作品ですが、
面白いと思って読み続けて頂いている方々に、今後とも楽しんで頂ければ幸いです!


第650話 西の探索行・超大型巨人

「で、でかいな……」

「今までの巨人よりも大きいね」

「やばい、これはやばい!」

「アスナ、どうする?」

「やるしかないけど、胃の中の二人に攻撃が当たるのはまずいよね、

とりあえずハチマン君に通信が繋がるか試してみないと」

「そうね、今やってみるわ……ハチマン君、聞こえる?ハチマン君!」

 

 一同が巨人の威容に圧倒されていた中、

アスナとユキノは冷静にハチマンへの通信を試みていた。

 

「もしもし?聞こえる?もしもし?」

『悪い、こっちの状況の把握に手間取って連絡が遅くなった、そっちはどうなってる?』

「全員無事よ、今は巨人が立ち上がって、これから戦闘になるというところね」

『そうか、中なら大丈夫だから、思いっきりやってくれていい。

どうやら胃の中は、微妙にインスタンスっぽくなってるみたいでな、

どう考えても妙に広すぎるんだよ、ここ』

「分かったわ、それだけが懸案だったから、こっちはこっちで何とかするわ、

そっちも何か出来そうなら、色々試してみて頂戴」

『オーケーだ、とりあえず通信は繋ぎっぱなしにしておこう』

「了解よ、頑張ってね」

『ああ、そっちもな』

 

 そして通信を終えた二人は頷き合い、仲間達に指示を出した。

 

「あの大きさだともう、タンクがどうとかいうレベルじゃないね」

「とにかく全員でヒット&アウェイよ」

「とりあえず足元だけは注意してね、

やっぱりそこら中にヤチマナコ?ってのがあるみたいだから」

「「「「「了解!」」」」」

 

 そして仲間達は散らばっていった。その場に残ったアスナとユキノは、

その姿を頼もしく見つめていた。

 

「こうなると、GGO組が多かったのが幸いしたね」

「ここで近接戦だとどうしても事故が起きるかもしれないものね」

「適材適所って奴」

「あとはこの状況で敵襲が無い事を祈るばかりね」

「ユキノ、それフラグだから言っちゃ駄目!」

「大丈夫、私はフラグクラッシャーの異名も持っているのよ」

「その異名、初耳なんだけど……」

「恥を忍んで言うけど、私はハチマン君とのフラグを全く回収出来なかったのよ」

「な、何かごめん……」

「気にしないで、さあ、戦闘開始よ!」

 

 こうして残された者達は、超大型巨人との戦闘に突入する事になった。

 

 

 

 一方巨人に食われたハチマンである。

昨日に引き続き、巨人に食われる体験をするという不幸なハチマンであったが、

逆に昨日食われた事で、冷静さを維持出来ていた。

ハチマンは多くを語らなかったが、前日巨人の体内に入った時は、

中がインスタンスエリアのようになっており、若干広かった為、

今回もおそらく同じ仕様だろうと考えていたが、まさにその通りだった。

誤算だったのは、真下にフカ次郎がいた事である。

 

「リーダー!」

「お、おい馬鹿危ないぞ、早くどけ!」

「だが断る!フカちゃんが下で受け止めて、そして合法的にリーダーに抱き付くのれす!」

「お前、こんな……」

 

 こんな時にまでそんな事を言ってやがるのか、そう言いかけたハチマンであったが、

言い終える前にハチマンはフカ次郎に抱きかかえられていた。

さすがSTRをしっかりと上げてあるだけの事はある。だが絵面的にはひどいものだ。

今はALOのフカ次郎ではなくGGOのフカ次郎である為、

まるでハチマンが幼女に抱きかかえられているように見える。

しかも明らかに体のサイズが足りない為、

形としてはフカ次郎がハチマンのお尻を揉んでいる状態になっていた。

フカ次郎は当然その感触を楽しむように、手をにぎにぎさせる事を忘れない。

 

「どさくさ紛れにセクハラをするのはやめろ、とりあえずさっさと俺を下ろせ」

「ラジャー!」

 

 フカ次郎は元気良く返事をし、ハチマンを下ろそうと前かがみになった。

だがさすがにそれは体のサイズ的に無理があった。

フカ次郎は足をもつれさせたようによろけ、ハチマンは背中から地面に落下した。

 

「うおっ」

「ご、ごめんなさいリーダー、今のフカちゃんは、おっぱいが小さいのを忘れていたのれす」

「それを言うなら体が、だろうが!

というか何故お前は俺の上にまたがるような体制になってるんだ?」

「リーダーを踏まないように咄嗟に足を開いたのれす」

「普通は俺の腹あたりにお前が頭から激突して終わりだよな?」

「えっと………」

「つまりわざとか」

「ち、違いましゅ!信じてくだちゃい!」

「お前がその口調になる時は、何かを誤魔化そうとしている時だと相場が決まってる」

「そんな事は………あっ、立ちくらみが!あ~~~~~れ~~~~~~!」

 

 そしてフカ次郎は、そのままハチマンの胸に倒れ込み、

あろう事か発情した犬のように腰を振った。

 

「わざとらしすぎるんだよ!」

「ぎゃっ!」

 

 そしてハチマンはフカ次郎の頭にいつものように拳骨を落とし、

フカ次郎を横に転がして脱出する事に成功した。

フカ次郎は地面でピクピクしながらも、その表情はだらしなく緩んでいた。

 

「わ、我が生涯に一片の悔い無し……」

「お前、そういう根性だけは凄いよな……」

 

 ハチマンは呆れながらも、フカ次郎に手を差し伸べてその場に立たせた。

 

「で、何があった?」

「あっ、えっと、地面にいきなり穴が開いて、ここに落とされた!」

「俺と同じか……多分あれが巨人の口だな」

 

 ハチマンは上空にぽっかりを開いている穴を見ながらそう言った。

 

「やっぱり……」

「一応リアルな胃袋のデザインになっていない事を感謝すべきかもしれないな、

もしくはさすがにそれはやりすぎだと思ったんだろうな」

「もしそこまで再現されてたら、今頃リーダーと一緒に溶かされてるね!」

「スライムみたいになったお前に抱きつかれるのか?さすがにそれはぞっとするな」

「言ってるフカちゃんもそう思った……」

 

 その時いきなりどこかから通信機の音がした。

 

「通信だ、探せ!」

「あっ、それならとりあえずフカちゃんのを!その間にリーダーの通信機は探しとくから!」

「おう、珍しく気が利くな」

「いつもだから!」

 

 そして場面は冒頭に戻る。ハチマンが通信を終え、

フカ次郎が戻ってきたすぐ後に地面が激しく揺れた。どうやら戦闘が始まったようだ。

 

「そういえば、昨日の海の時、リーダーは簡単に巨人の体内から脱出してなかったっけ?」

「簡単じゃなかったが、まあこれが横倒しな状態だったと考えればいい」

「ああ、それは口の所までたどり着くのが楽だね!」

「だろ?しかしここは微妙に広い空間だよな、何か変わった物とかは無かったか?」

「あ、焦っててまだ調べてないでふ……」

「よし、とりあえずやれる事も無いし、この空間がどうなってるか調べるか」

「あっ、やれる事と言えばリーダー、ここから上に向けてグレネードを撃つのはあり?」

「そんな事をしたら、俺達まで爆風で吹き飛ばされちまうだろうな」

「デスヨネ……」

 

 そして二人は、そこそこの広さしかないとはいえ、周囲の探索をする事にした。

 

 

 

「くっ、こいつ、最初より明らかに動きが早くないか?」

 

 その薄塩たらこの言葉に、他の者達は通信機越しに同意した。

 

『ヘイトが乗ると本気で動くタイプかな?』

『結構な速さであちこち行ったり来たりだね』

 

 並んで銃を撃っていたユッコとシャーリーは、落ち着かないといった感じでそう言った。

 

『アスナが敵を追いかけてるが、あまりダメージを与えられてないみたいだな』

『うん、ちょっと精神的に疲れてきたよ……』

『アスナ、とりあえずレンちゃんと交代して。

レンちゃんならその速度を生かして追い抜けば、多少は足を止めて攻撃出来ると思うわ』

『うん、一旦下がるね』

『アスナ、後は任せて!』

「頼むぞレン!」

 

 そしてレンは大胆にも巨人と併走して走り、

巨人がこちらを向くまでPちゃんを乱射し続けるという荒技に出た。

その隙にアスナはとりあえずユキノと合流した。

 

「レンちゃん、足元にはくれぐれも注意してね!」

「うん!って、ぎゃあ!」

 

 言っている傍からレンは小さなヤチマナコに足をとられ、

タイミング悪く、その瞬間に巨人がレンの方を向いた。

 

「レン、危ない!」

「アイスコフィン!」

 

 その瞬間にユキノの魔法が発動し、巨人は氷で足を拘束された。

だが通常はもっと長く拘束出来るはずのその魔法は、

敵のサイズが大きすぎる為、簡単に粉砕されてしまった。

 

「ユキノ、ありがと!」

 

 だがレンはその一瞬で脱出を果たしており、ユキノはほっと胸をなでおろした。

 

「ふう、間に合って良かったわ」

「ユキノ、どうする?このままじゃ長期戦になっちゃうかも」

 

 その言葉にユキノは、やや自嘲ぎみにこう答えた。

 

「いくら私がフラグクラッシャーだと言っても、

このままだと他のナイツから襲撃を受ける可能性も上がってしまうかもしれないわね」

「そのネタまだ続けるんだ……」

「ふふっ、冗談よ冗談。こうなったら仕方ないわ、

アスナ、今から私は全MPを使って敵の足止めをするわ、

後の回復はアスナに任せていいかしら」

「う、うん、分かった!」

『待てユキノ、今体内からこいつにきつい一撃をくらわせてやる、

それでこいつは一瞬足を止めると思うから、その隙に魔法を放て!』

 

 その時通信機からそんなハチマンの声が聞こえてきた。

 

「中から?大丈夫?そっちが吹き飛ばされたりしない?」

『大丈夫だ、いい物を見つけたんでな』

「いい物?」

『さっき無くなったって言ってた、宇宙船の装甲板だ』

「あ、そこにあったんだ!」

 

 ハチマンとフカ次郎は周辺の探索で、

おそらくフカ次郎が食われたのと同時に体内に入ったのだろう、装甲板を発見していた。

これにより二人の作戦は決まった。ハチマンが壁に背を向けて座り、

爆風に押されるはずの装甲板がズレないようにしっかり支える。

フカ次郎がそのハチマンの胸に更に寄りかかるように股の間に座り、

上空の穴に向けてグレネードで狙撃をし、撃ったらすぐに装甲板の支えを手伝うという、

フカ次郎にとっては夢のような作戦であった。

 

「しかしリーダーが、こんなフカちゃんが喜ぶ作戦を提案してくれるなんて……」

「セクハラさえしなければ、作戦上必要な事なら俺は別に文句は言わないんだっつ~の」

「そ、そうなの?」

「この場合は仕方ないだろ、二人がかりでズレないように支えないと、

多分この距離だと衝撃が凄い事になって最悪死ぬからな。真面目にやれよ、フカ」

「うん!リーダーの胸の中で死ぬのは悪くないけど、やっぱり一緒に生還したいからね!」

「よし、それじゃあ行くぞ」

「うん!」

 

 そしてフカ次郎は慎重に狙いをつけ、

巨人の口目掛けて右太と左子のグレネードを同時に放った。

 

「よし、後は壁と装甲板の間で押しつぶされないように、しっかり支えるぞ!」

「横にもズレないようにだね!」

 

 直後に大爆発が起こり、凄まじい爆風が二人に押し寄せた。

 

「ぐっ………」

「こ、根性!」

 

 そして二人は身を寄せ合うように、その衝撃に耐え続けた。

 

 

 

「見て、巨人の顔が!」

 

 凄まじい爆発音と同時に、巨人の顔が内部からの衝撃で醜く歪んだ。

だが巨人はその攻撃にも耐え、倒れる事は無かった。

HPの減りから見ると、どうやら内部からの攻撃は補正がかかり、威力が弱められるらしい。

 

「マイナス補正が大きいね」

「でも足が止まったよ!」

 

 これは一時的に、巨人のヘイトが自らの体内に向いた為である。

それ故に巨人はその場から動かなかったのだ。そのチャンスを逃すユキノではない。

 

「くらいなさい、アイスジャベリンアイスジャベリンアイスジャベリンアイスジャベリン!」

 

 その瞬間に巨人の周囲の上空に巨大な氷の槍が四本出現し、

そのまま自由落下して巨人を囲むように深く地面に突き刺さった。

 

「外れた?」

「いえ、わざと外したんじゃないかしら」

「そ、そうなのか?」

 

 その直後にユキノは次の魔法を詠唱した。

 

「アイスコフィンアイスコフィンアイスコフィンアイスコフィン!」

 

 その四本の槍を起点に、氷の棺の魔法が四つ発動した。

これにより、その槍の太さがかなり増す結果となった。

要するに巨人が通れないくらいの狭さになったのだ。

 

「今だよ、全員巨人の上半身に向けて一斉射撃!」

 

 そのタイミングでアスナから攻撃指示が出た。

こうなるとアスナにはしばらく何もやる事が無いが、

その分アスナは仲間達を深く信頼していたのだ。

 

「おらおらおら!」

「撃て~!」

「Pちゃん、お願い!」

 

 薄塩たらこたらこ、ユッコ、レンはそう言って普通に攻撃していたが、

レヴィとシャーリーは女性とは思えない激しい口調で、

巨人に罵声を浴びせながら攻撃していた。

 

「くたばれ化け物!」

「さっさと死にやがれ!」

 

 そしてユキノの足止めもまだ続いていた。

 

「ブリザードウォールブリザードウォールブリザードウォールブリザードウォール!」

 

 柱と柱の間を、ユキノが生成した氷の壁が繋いでいく。

幅が狭くていい分、より厚みを増したその氷の壁は、

今までとは違い、巨人の一撃で壊れる事は無い。

さすがに数回攻撃を受ければ破壊されるが、ユキノが連続して詠唱を続ける事により、

その壁は次から次へと新しく生成されていく。まさに『絶対零度』の面目躍如である。

 

「ユキノ、MPは大丈夫?」

「ブリザードウォール!あと三十秒は持たせてみせるわ!ブリザードウォール!」

「分かった、二十秒後に私も動くね!」

『こっちからももう一発くらわせる!巻き込まれないように注意してくれ!』

「分かったよハチマン君!」

 

 そして再び体内からの攻撃が炸裂し、さすがの超大型巨人もグラリときた。

 

「行く!今のうちに各自リロードを!」

 

 巨人を取り囲んでいた五人はその言葉で攻撃の手を止め、弾込めの動作に入った。

その瞬間にアスナは凄まじい速さで壁に向かって走り、

そのまま壁を駆け上って柱の一つの天辺まで到達すると、

全精力を傾けて巨人の頭に攻撃を開始した。

 

「リニアー!」

 

 何千回何万回と使用したその慣れ親しんだ技を、

アスナは例えソードスキルのシステムアシストが無くとも自在に繰り出す事が可能である。

そしてアスナは巨人に攻撃をしてはその体を踏み台にして周囲の四つの柱まで飛び、

再びその柱を蹴って巨人に攻撃するという行為を繰り返し、

それによって巨人の体をズタズタに引き裂いた。

それはまるで、巨人の周りを光の線が駆け巡っているように見え、

周囲の者達はその光景に思わず息を飲んだ。

 

「攻撃再開!」

 

 アスナはそのまま巨人の足元に下り、自らの安全を確保した後にそう指示を出した。

そして銃撃が再開され、HPを相当削られていた巨人はそのまま消滅し、

その足元にハチマンとフカ次郎の姿が現れた。

 

「ふう……」

「やった、脱出出来た!」

「二人とも、大丈夫?」

「おう、悪いアスナ、心配かけたな」

「フカちゃんが巨人に食べられたせいで、ごめんなさい……」

 

 そう謝るフカ次郎に、アスナは笑顔を向けた。

 

「フカのせいじゃないって、むしろ中からナイスな攻撃だったよ!」

「ほ、本当に?」

「ああ、今回はよくやったぞ、頑張ったなフカ、

その調子でビービーとかいう奴もぶっ飛ばしてやれ」

「う、うん!」

 

 珍しくハチマンもそう言いながらフカ次郎の頭を撫で、

フカ次郎は絶対にこの手でビービーを倒してやると心に誓った。

こうしてヴァルハラ・ウルヴズは三体目の巨人の討伐に成功した。

ユキノの異名のおかげかどうかは分からないが、

幸いこの後は他ナイツからの襲撃も無く、残るは東の荒野の探索を残すのみとなった。




ちなみにユキノの詠唱に関しては、本来はもっと長いはずなんですが、演出優先で省きました!

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