ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第652話 東の探索行・メカニコラスの恐怖

 その頃、ALOではリオンが今日も修行に明け暮れていた。

今日はリーファがいない為、白羽の矢が立てられたのはアスナであった。

アスナは事情を聞いてその頼みを快諾し、ハチマンに内緒でこちらに参加していたのだ。

 

「ふう、そろそろ一旦休憩にするか」

「うん、それがいいね」

 

 しばらく戦い続けていた一行は、そのキリトの提案で一息つく事にした。

 

「アスナ、ハチマンの隣にいたいでしょうに、誘っちゃってごめんね?」

「ううん、全然いいよリズ、私もリオンには興味あったし」

 

 そのリズベットの謝罪に、アスナは問題ないという風にそう言った。

 

「でもアスナさんが興味を引かれるのも分かります、本当に珍しいスタイルですよね」

「そ、それほどでも……」

 

 シリカのその言葉に、リオンはもじもじしながらそう言った。

 

「リオンはいいスナイパーになる素質がある気がするわね」

「シノンはそう思うの?」

「今だって魔法を打ち消す時の狙いはかなり正確じゃない」

「そっか、私にはそんな可能性もあるんだ」

 

 今では大の親友であるシノンにそう言われ、リオンはとても嬉しかったのか、

ニヤニヤしながらそう呟いた。

 

「リオンって反射神経は結構あるよね」

「それプラス判断力も」

「無いのは持久力だな」

「実際はそんな事は無いんだが、まだリアルに引っ張られてるって事なんだろうな」

 

 年齢の差はあれどもこの六人は、学年の上ではリオンが一番先輩という事になる。

そのせいという訳ではないが、シノン以外の四人もリオンに普通に喋るように頼んでおり、

リオンは若干気後れしつつも、何とかその頼みに応えられている状態であった。

まだ慣れないのは確かであるが、それは時間が解決してくれるだろう。

 

「しかしここでもネットが使えるんだね、知らなかったよ」

 

 リオンは暇つぶしにコンソールを操作しながらそう言った。

 

「色々と便利だよね」

「リアルタイムで今配信されてるALOとかの動画も見れるんだよね」

「トラフィックスで何かやってないかな?」

「あっ、今まさに何か………あ、あれ?」

 

 シリカがそう驚いたような声を上げ、五人は何事かと思い、シリカの顔を見た。

 

「ちょっと待って下さいね、今私のコンソールを可視化して、拡大させるんで」

 

 そして六人の目の前に仮想モニターが展開され、そこにハチマンの姿が映し出された。

 

「あ、ハチマン君だ!ってあれ………これって………」

「うわ、何か怒ってない?」

「やばいやばいやばい」

「そ、そうなの?」

 

 リオンはハチマンの笑顔しか見た事がなかった為、きょとんとしながらそう言った。

 

「私には全然分からない……」

「大丈夫よリオン、私もまだそこまで長い付き合いじゃないけど、

もう分かるようになったから」

「そうなの?でも私、まだニコニコしてるハチマンの顔しか見た事が無いんだよね」

「ゲームを続けてれば、そのうち何度も見れると思うわよ」

「そうなんだ……」

 

 リオンはまだ怒るハチマンの姿がよくイメージ出来ないらしく、

この機会によく観察しておこうとじっとモニターを注視した。

そのリオンの目の前で、ハチマンとセラフィムとクックロビンとユキノが合体した。

 

「ハチマンは何がしたいんだよ……」

「親友のキリトでも分からないんだ……」

「あいつは時々こういう理解不能な事をするけど、これは本当に分からないぞ……」

 

 シノンにそう言われたキリトは、お手上げという風に両手を上げた。

 

「何でしょうこれ、もちろん性的な意図が無いのは分かってるんですけど」

「アスナ、キレないでね」

 

 シリカがそうフォローするように、そしてリズベットは直接的にアスナにそう言った。

「ん?別に気にしてないよ?むしろ適度にこういうガス抜きがある事で、

みんな勝手に満足しちゃって、逆に私の立場が安定するんだよ?」

「ア、アスナが黒い………」

「さすがですよね……」

 

 そのアスナの余裕に、シノンは悔しそうにこう言った。

 

「くっ……悔しいけど事実だけに反論出来ない……」

「シノン、ドンマイ」

「言っておくけど、リオンもいずれ同じ思いを味わうんだからね」

 

 そのシノンの言葉にリオンが減らず口で返そうとした瞬間、

ハチマンが何かの呪文の詠唱を始めた。

 

「ここで魔法?」

「おいおい、これは幻影魔法の呪文だぞ」

「意図は分かるけど、じゃあ周りの三人は何?」

「魔法に巻き込むつもりなんじゃ?」

 

 リオンがそう正解を言い当てたのだが、他の五人は懐疑的だった。

常識が邪魔をしてしまっているのだ。

 

「えっ、本当に?」

「その発想は無かったですね……」

「う~ん、でもそんな事が可能なの?」

「どうなんだろうね……」

「まあ見てれば分かるだろ、そろそろ姿を現すはずだ」

 

 そのキリトの言葉通り、直後に煙が晴れ、そこには見た事もない巨大な物体があった。

 

「でかっ……」

「凄く大きいね……」

「いつもと違う……」

「そうなの?」

「うん、いつもはこれ」

 

 そう言ってアスナはすばやくコンソールを操作し、

背教者ニコラスの写真を可視化した自分のコンソールに映し出した。

 

「何この気持ち悪いサンタ……」

「それはSAOのイベントボスだな、蘇生アイテムをドロップするんだよ」

「え、そうなの?」

「ああ、だが使用条件が、死んでから十秒以内って制限があってな、

結局一度も使う機会が無かったんだよな」

「そうなんだ」

 

 リオンはそう言いながら画面の中のハチマンに視線を戻し、こう呟いた。

 

「でもこれって………」

「メカっぽい」

「メカだね」

「メカだよね」

「メカですね」

「メカニコラス?」

「マシンっぽい……って、うん、メカだねメカ!」

 

 リオンは慌ててそう言いなおし、五人は声を出して笑った。

 

「リオン、別に言い直さなくてもいいのよ?」

「だって仲間外れみたいで嫌だったんだもん」

「ふふっ」

「しかしセラフィムとロビンとユキノの姿が無いな、本当に融合したのか?」

「この魔法ってそんな応用が利いたんだね」

「イメージ力の勝利だろうな」

「さて、どうなる事やら……」

 

 そして六人は、食い入るように画面に見入ったのだった。

 

 

 

「ここってどこなのかなぁ?」

「本当にどこなのかしらね」

「謎空間」

 

 その頃当の三人は、モニター以外は何も無い真っ白な小部屋にいた。

そのモニターに映し出されているのは、状況から見てハチマンの視界であるようだ。

 

「やはりここは、ハチマン君の頭の中とでも言うべき場所なのかしら」

「だろうね、こんな体験はさすがに初めてだよ」

「貴重な体験」

「というかこれって、ハチマンと私が合体した事に……」

「それを言ったら私達もなのだけれど」

「つまり三人まとめて相手をしてやるぜ、ぐへへへへ状態」

「良いではないか良いではないか、状態ともいうね」

「あっ、見て、動き出したわ」

 

 その言葉通り、モニターに映し出される景色が凄まじい速度で流れ始めた。

 

 

 

「何あれ……」

「ハチマンさん……?」

「右手の剣は、ロビンの持ってた剣だよね?」

「盾はセラフィムの盾ですわね」

「とすると両肩の大砲がユキノ……?」

「まあ詮索は後だ。多分そろそろ動き出すと思うから、様子を見てハチマンに続こう」

「「「了解!」」」

 

 さすがはゼクシードである。直ぐに自分達のやるべき事を把握し、そう指示を出した。

そしてその言葉通り、ハチマンことメカニコラスは、滑るように移動を開始した。

 

「うわ、速っ」

「あらやだハチマン様ってば、もう、我慢出来なくて先走りすぎですわぁ」

「これについてっていいのかな?」

「いや、さすがにちょっと待機だ、今突っ込むと危ない。

でも指示があり次第すぐに動けるように備えておいてくれよ」

 

 メカニコラスは、ビービー達M&G目掛けてぐいぐい進んでいく。

だがそのまま順調に敵の所へ到達する事は出来なかった。

メカニコラスのプレッシャーに恐怖した一部のプレイヤーが、

うっかり銃の引き金を引いたのだ。

だがその攻撃は、メカニコラスの持つ盾にあっさり防がれた。

 

「う、うわああああああああ!」

「おい馬鹿やめろ!落ち着けって!」

「で、でも……」

「あいつの標的は俺達じゃない、俺達じゃ………あっ」

 

 その言葉を最後まで言い終える事は出来なかった。

メカニコラスの持つ大剣が、その二人を真っ二つにしたからだ。そこから恐慌が始まった。

 

「う、撃て、撃て!」

「やめろ、俺達を巻き込むな!」

「く、来るな!」

 

 どこかで銃声が鳴り響く度に、プレイヤーが両断されていく。

荒野は今は荒野ではなく、リメインライトという花が沢山咲いている状態であった。

 

「銃はやばい、魔法だ、魔法ならきっと……」

 

 そう判断して魔法攻撃を集中させたナイツがあった。

だがその魔法が着弾した瞬間に、メカニコラスの肩の大砲が発光し、

メカニコラスのHPが見る見る回復した。

 

「ま、まさか回復魔法まで?」

 

 直後にその大砲から、今度は白い光線のような物が放たれた。

それによって、そのプレイヤー達は氷漬けになり、

直後に大剣によって、その氷は中のプレイヤーごと粉々に粉砕された。

一方ゼクシード達も、ただその光景を傍観していた訳ではない。

四人はある程度のプレイヤーが倒された時点で、

少し離れた位置でメカニコラスを追走していた。

 

「左舷九時の方向、撃ち漏らし一人」

「オーケー、私が狙撃する」

「次、右舷二時、ブッシュの中に潜む敵影あり」

「それは私がもらいますわ、この手で優しく逝かせて差し上げますわぁ!」

 

 万事がこんな調子であり、メカニコラスの通った道に、生存者は今の所皆無であった。

要するに全てのナイツの誰かしらがメカニコラスに手を出してしまったという事になる。

 

 

 

「さすがはハチマン君というか何というか……」

「凄い速さで動きながら、魔法攻撃も交えつつ自己回復までこなすなんて……」

「とんでもない化け物ね、メカニコラス……」

「もうそれが正式名称で決まりなのかよ!」

「私達は、とんでもない化け物の誕生に立ち合ってしまったようね……

ほらリオン、次、ナレーションナレーション!」

「あっ、う、うん!こ、ここから私達の、長きに渡る戦い日々が始まったのです、

それは想像を絶する苦難の連続でした」

「おいお前ら、ニヤニヤしながら深刻そうなフリをするなよ!

っていうか何で映画のナレーションみたいになってるんだよ!

リオンまで一緒になって、ノリが良すぎだろ!」

 

 その五人の悪ノリに、キリトはたまらず突っ込んだ。

 

「だって、ねぇ?」

「もう笑うしかないというか」

「このままだと本当に荒野にいた数百人のプレイヤーが、全滅するんじゃない?」

「もう荒野じゃなくて花畑みたいになってるわよね」

「ハチマンってこういう部分もあるんだね、覚えとこ……」

 

 そして六人は、そろそろ戦いも終わるだろうと思い、

このまま放っておいても問題ないだろうと考え、狩りに戻った。

話の大小はあるが、こういった事はヴァルハラのメンバーにとっては日常茶飯事なのである。

 

 

 

「ぐへへへへ、大丈夫、先っぽだけ、先っぽだけだから!」

 

 ハチマンが右手に持つ大剣をプレイヤーに突き入れる度に、

クックロビンはそんなセリフを口にしていた。

 

「ハ、ハチマン様、壊れる、壊れちゃいます!」

 

 そしてセラフィムは、ハチマンが左手に持つ盾で敵の攻撃を防ぐ度に、

そんなセリフを口にしていた。

 

「あなた達、暇なのは分かるけど、いい加減にその路線から離れなさい」

 

 こちらの突っ込み役はもちろんユキノであった。

 

「というかセラフィム、あなたの本性って……」

「気のせい、私は別にエッチでもハレンチでもない」

「どう考えてもそうは聞こえないのだけれど」

 

 最初は二人の好きにさせていたユキノも、さすがに我慢の限界がきたらしい。

 

「うん、まあ確かに私も疲れてきてたからちょっと休む」

「考えて見ると、それくらい敵を倒したという事になるのよね」

「何人の敵の心を折ったのかな」

「かなりでしょうね、というかずっと観察してたけど、

記念受験みたいなノリで手を出してくるナイツもかなりあったわよ」

「楽しんでもらえて何よりだね!」

「というかまだビービーの所にたどり着けないのね」

「そういえばそんな人もいたっけ」

「あ、ついに到達したみたい」

「うわ、ビービー以外は完全に怯えてるね……」

「まあ当然よね、今のハチマン君は、完全に人の理解を超えているもの」

「さて、最終局面だね」

 

 立ちはだかる者達や、話の種にと攻撃を仕掛けてくる者達を、

ヴァルハラ・ウルヴズは蹂躙し、遂にここまでたどり着いた。

今、メカニコラスの目の前にはビービーが立っており、

その後ろではZEMALのメンバーが、大好きなマシンガンを撃つ事も忘れて震えていた。

 

「なんてデタラメな……」

「女神様!」

「お、俺達の後ろに!」

「いえ……ここは私達の負けよ、でも次は負けない、絶対に」

 

 そしてM&Gはその場でメカニコラスに潰され、リメインライトだけがその場に残った。

これをもって荒野は完全に静寂を取り戻し、

そこは今や、少数のモンスターが闊歩するだけとなっていた。

 

「ふう、いい運動になった」

 

 ハチマンはそう言って変身を解き、その瞬間に、

その場にはユキノとセラフィムとクックロビンが投げ出された。

 

「ああっ、ハチマン様の中から出されてしまった……」

「まあ面白かったね!」

「レアな体験だったのは確かね」

 

 そこに残りの四人も追いついてきた、どうやら残敵の掃討も終わったらしい。

メカニコラスに心を折られたプレイヤーに向かって引き金を引くだけの、

簡単なお仕事だったようだ。

 

「ふう………まさかこんな事になるとはね」

「あれだけいたプレイヤーが、もう誰もいないよ……」

「さすがはハチマン様、怒張してそそり立つその姿は素敵でしたわぁ」

「でもさすがにこれは………」

「どう考えてもやりすぎね」

「もう終わった事だ、気にするな」

「あはははは、あはははははは!」

「よし、鍵も取れてるみたいだし、帰るとするか」

 

 蹂躙の最中にどうやら鍵も取得していたようで、一行はそのまま撤収する事にした。

そしてハチマンは去り際に、ビービーのリメインライトに向かって言った。

 

「お前がうちのハルカに向かって言った言葉はともかく、

戦術的には中々良かったぞ、これに懲りず、またいつでも仕掛けてこいよ」

 

 こうしてヴァルハラ・ウルヴズの伝説は積み重なっていく。

それには必ず敵役が必要であり、ビービーのみならず、この時殲滅された数多くのナイツが、

やがてヴァルハラ・ウルヴズの前に立ちはだかる事になる。




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