ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第654話 そして理央の学校へ

「うわ、どこかで見たような光景ですね」

「何これ……え、何で?これじゃあうちと一緒じゃない」

「あれ、そういえば八幡君がここで何をやったか、詳しく聞いてないや」

「あ、理央がいた!それと何か隣に男の子が二人いるね」

「そこまで私と一緒なんだ、とりあえず理央に事情を聞いてみないとね」

 

 三人はそう会話を交わしながら、理央のすぐ近くにキットを停めた。

 

「理央、これってどうなってるの?」

「ご、ごめん、よく分からないんだけど、いつの間にか私、

学校で姫って呼ばれてるみたいで……」

「ぶふっ……」

 

 その理央の言葉に詩乃は思いっきり噴き出した。

 

「シノのん、今女の子にあるまじき噴き出し方を……」

「げほっげほっ、ご、ごめん、つい……」

「それって詩乃ちゃんと同じだよね?」

「八幡め……ここで一体何を……」

 

 理央の説明によると、どうやら最初に八幡が王子だという呼び名が広がり、

そのせいでセットのように理央が姫と呼ばれるようになったらしいのだが、

表立ってそう呼ばれた事は無い為、今まで気が付かなかったのだという。

そして今日、理央が友達と一緒に人待ち顔で校門に立っていた為、

それでまた八幡が来るんじゃないかという噂が広がってこうなったようだ。

ついでに詩乃は、理央に八幡から変わった扱いをされたかどうかを尋ねたが、

八幡には首輪と指輪を付けられただけで、それ以上は何もされていないという事だった。

さすがに理央は、お姫様抱っこをされた事は詩乃に言えなかったのだが、

その事は別に大事な事ではない。何故なら詩乃もそれは経験済だったからである。

 

「なるほどね……」

「というか、首輪と指輪!?それってどういう事?」

「えっと、首輪はどうやらカメラになってるみたいで、

誰かに嫌がらせとかを受けた時にその様子を録画して、証拠にする為の物みたい」

「ああ~、そうなんだ、理央ちゃんの身を守る為のアイテムなんだね。で、指輪は?」

「これは………スタンガン」

「うわ……」

「八幡さん、それは別の意味でやりすぎです……」

「私の時で反省したんだろうけど、違う方向に張り切りすぎてるわよね………」

 

 幸いな事に、キットの登場と、その中から美少女が三人登場した事で、

気後れした生徒達は、理央達を遠巻きにしたままそれ以上近寄ってこようとはしなかった。

どうやら首輪の抑止力は健在のようだ。

そして周囲に睨みをきかせていた咲太と佑真がこちらに歩いてきた。

 

「あっ、初めまして、八幡さんの舎弟その一の梓川咲太です」

「その二の国見佑真です」

「舎弟………?」

「理央、そうなの?」

「自称だよ自称、でもありがとう二人とも、私一人じゃどうしていいか分からなかった」

「いいっていいって、元をたどれば俺達が八幡さんの事を、王子なんて表現したせいだしな」

「あんた達のせいか!」

 

 その瞬間に、理央は乱暴な言葉でそう言うと、二人のボディに連続してパンチを入れた。

どうやら理央は、ALOで揉まれる事で若干好戦的になったようである。

 

「ぐはっ……」

「双葉、いいパンチだな……」

 

 そして二人はその場に崩れ落ち、周囲から、おおっというどよめきが上がった。

 

「うわ、理央、バイオレンス~!」

「やるもんだね」

「は、初めまして、櫛稲田優里奈です、お会いできて嬉しいです!」

「ふ、双葉理央です、宜しくお願いします」

「理央さんの方が年上なんだから、敬語なんか使わないで下さい!」

「そうね、私がタメ口なんだから、二人ともそうしましょうか」

「えっ?でも……」

「そ、その方が私も助かる……かも」

「性格的に私は難しいですけど、が、頑張りま……頑張るね!」

 

 そう言いつつも、理央は普通に喋れるようになったが、

優里奈は結局丁寧な言葉で落ち着く事になる。

 

「ほら、あんた達も男の子なんだからしっかりしなさいよ」

「あ、ああ、どこの誰だか知らないが、ありがとう」

「私は朝田詩乃、宜しくね、え~と、咲太君と佑真君だっけ?」

「私は結城明日奈だよ、二人とも、宜しくね」

「櫛稲田優里奈です、宜しくお願いします」

「おお………」

「美少女がこんなに……」

「二人とも、彼女にチクっとくからね」

 

 そんな二人に理央は無慈悲にそう言った。

佑真の彼女である上里沙希と理央は、かつては仲が悪かった。

要するに佑真に好意を寄せる理央に、沙希が一方的に敵対心を抱いていたのだ。

だが八幡の登場により、沙希の感情は軟化し、今では仲良しという程ではないが、

普通に話せる程度には友好関係を築けていた。

ちなみに咲太の彼女は女優の桜島麻衣であったが、

彼女とは当初から友好的な関係を築いている。

 

「いやいや、そういうんじゃないって」

「三人は、八幡さんの関係者の方ですよね?」

「明日奈は八幡さんの正式な彼女、詩乃は……えっと、何?」

「何だろ?」

「私に聞かないでよシノのん!好きな事を言っていいから!」

 

 明日奈のその言葉に、詩乃は少し考え込んだ後にこう言った。

 

「明日奈の最大のライバルよ!」

「「おおっ」」

 

 二人はその自信満々な態度に思わず拍手をした。

 

「私は八幡さんの………えっと、娘って言っていいんですかね?」

「別にいいんじゃないかな?法的には事実なんだし」

「分かりました、明日奈さんの娘です!」

 

 優里奈は機転を利かせて冗談のつもりでそう言ったのだが、

その言葉は見事に明日奈に切り返された。

 

「うんうん、私が五歳の時に産んだ娘だよ」

「ええっ!?」

 

 その言葉に他ならぬ優里奈自信が驚いた。

 

「そこで優里奈が驚いちゃ駄目でしょ」

「今のは明日奈の渾身のギャグだったと思うんだけど……」

 

 詩乃と理央にそう言われ、優里奈は顔を真っ赤にした。

 

「そ、そうです、五歳の時の娘です!」

「ね?うちの娘はかわいいでしょ?」

「「素晴らしい……」」

 

 その言葉に咲太と佑真は感動したように涙した。

どうやら事情を察したのか、二人は娘だというその事自体には何も突っ込まなかった。

ちゃんと空気の読める二人である。

 

「それじゃあ私達は行くけど、二人とも、理央を守ってくれてありがとうね」

「おう、友達だからな!」

「八幡さんにも宜しく伝えておいてくれよな!」

 

 そして理央は、二人に小さく手を振りながら言った。

 

「二人とも、あ、ありがと………それじゃあ遊びに行ってくるね」

 

 そしてキットが走り去り、咲太と佑真は今の出来事について、感想を交わしていた。

 

「おいおい、八幡さんの周りの女の子って、マジでやばいな」

「明日奈さんが正式な彼女なんだな」

「でもあの詩乃さんと優里奈さんも、双葉と一緒で明らかに八幡さんの事が好きだよな」

「やっぱり八幡さんは凄えよなぁ、双葉も含めたあの四人、全員仲が良さそうだったし」

「俺達には想像もつかない世界だよな……」

「まあいっか、双葉も楽しそうだったしな」

「だな、ほら解散解散、下手に関わると、八幡さんに睨まれるぞ~!」

 

 そして二人は集まった生徒達を解散させ、仲良く下校していった。

 

 

 

「まさか理央が私と同じような状況になってるなんて、思ってもみなかったよ」

「えっ、詩乃も学校だとあんな感じなの?」

「うん、そうなんだよね……」

「それじゃあ詩乃も護身グッズを?」

「ううん、私の場合は八幡の彼女扱いされて、

同時にその時私をいじめてたグループを屈服させたから、

そのせいでうちの学校じゃ、八幡は英雄扱いなんだよね」

「えっ、な、何それ………何かずるい」

 

 理央は何故自分も詩乃のように彼女扱いしてくれなかったのか、

八幡に対して恨めしく思った。同時に明日奈の顔を見て、申し訳なさを感じたのか、

理央はそのまま明日奈に謝った。

 

「ご、ごめん、失言だった……」

「ううん、そのせいで八幡君自身が苦労してるんだし、私も気にしてないから大丈夫だよ。

でもまあそのせいで理央の時は、別の方法をとる事にしたんじゃないかなって思うんだよね」

「学習しちゃったんだ……」

「うん、学習『しちゃった』んだね」

「あっ、ご、ごめん」

「本当にいいんだってば、気持ちは分かるもん、

私が同じ立場だったら、きっと同じ事を思ったに違いないもん」

「私でも、多分そう思ったかもしれませんね、

やっぱり女の子ですし、仕方ないですよね」

 

 そう言う優里奈に対し、詩乃が何気なくこう尋ねた。

 

「そういえば八幡は優里奈の学校には行ってないの?」

「そういえば来た事はありませんね、でも多分もうすぐ来る事になると思いますよ」

「えっ、そうなの?」

「うん、保護者を交えた進路に関する面接があるから……」

「ああ!」

 

 三人はその言葉に顔を見合わせ、思わず噴き出した。

 

「ど、どうして笑うんですか?」

「だって、八幡がスーツを着て、保護者ぶって先生の前に座るんでしょ?」

「あ、た、確かに!」

「優里奈、八幡の事は、パパって呼んであげなさいよ」

「いいですね、そうしてみます!」

「その時の先生の顔、ちょっと見てみたいかも」

「うわ、こっそり写真を撮っとこうかな」

「それ、凄く見てみたい!」

「頑張ります!」

 

 やはりこの四人の間では、八幡ネタが一番盛り上がるようだ。

この後四人は私服をあまり持っていない優里奈と理央の為に服を選んだりしたのだが、

その基準もやはり、八幡が気に入るかどうかなのであった。

 

「理央は今日は時間は大丈夫なの?」

「うん、大丈夫だよ」

「それじゃあこの後どこかでご飯を食べて帰ろっか」

「いいね、どこにする?」

「というか、詩乃達は時間は平気なの?」

「私は一人暮らしだからね」

「私もです」

「私は寮だから一応門限があるけど、

うちの両親は私がどこに泊まろうがまったく気にしないし、

多分もう八幡君に嫁に出したつもりでいるから、一切干渉してこないんだよね」

「うわ、大人だ………」

 

 理央は感心したようにそう言ったが、それには詩乃が突っ込んだ。

 

「とか言って、理央だってもうすぐ社会人になって、一人暮らしじゃない」

「あっ、そういえばそうだった……」

「早めに寮に入れてもらって、正式な仕事が始まる前に、色々揃えちゃった方がいいかもね」

「そういえばそうだね、凄く楽しみかも」

「荷物運びは八幡にやらせればいいわね」

「え、でも悪いよ……」

「それくらいはしてもらいなさい、理央をスカウトした責任ってものがあるんだからね」

「そうだよ、それくらいはしてもらえばいいと思うよ」

「そっか、うん、そうしてみる」

 

 理央は嬉しそうにそう言い、そして四人はそのまま近くのサイゼに入った。

何故サイゼかというと、明日奈がこう主張したからである。

 

「八幡君はサイゼが大好きだから、

理央も今のうちにメニューをある程度把握しておいた方がいいと思うんだ」

「ああ、確かに八幡はサイゼ大好きよね」

「そ、そうなんだ、私、一度も行った事が無いから行ってみたい」

「決まりですね!」

 

 こうして四人はサイゼで食事を楽しみ、

明日奈が最初とは逆の順番で三人を家まで送り届けた。

理央は家に帰ると、今日買った服を大切にクローゼットにしまい、

三人と一緒に撮った写真の数々を、ニヤニヤしながらベッドで眺めていた。

 

「今日は楽しかったな……」

 

 理央にとって、女友達とこうやってお出かけするのは初めての経験であった。

咲太の彼女である麻衣と一緒に出かけた事はあったが、

相手が有名女優である為、どうしても気後れしてしまう部分があったのだ。

その点今日は、まったくそんな事は無かった。

 

「それにしても優里奈が私のライバルだって、どういう意味だったんだろ、

どう考えても優里奈の方が私なんかより全然かわいいと思うんだけど……」

 

 理央はそう考えながらじっと写真を眺め、その視線が優里奈の胸で止まった。

 

「あ、ああ!」

 

 それでリズベットの言葉の意味を理解した理央は、

恥ずかしさと同時に疑問が解けた事で、スッキリした表情になった。

 

「まったくリズったらもう……」

 

 そう思いながら理央はベッドに横たわり、幸せな気分で電気を消し、目を瞑った。

 

「明日からまた頑張ろ………」

 

 こうして理央はまた友達を増やし、自分を取り巻く未来に思いを馳せながら眠りについた。


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