ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第656話 お嬢様学校、金糸雀学園

 久しぶりにメイクイーンに顔を出した八幡は、

珍しく少し離れた所でキットから下り、今日は徒歩で店を訪れたのだが、

どんな第六感を働かせたのかその八幡を、

フェイリスは店の前で仁王立ちをして待ち構えていた。

 

「……何で俺が来るのが分かった?」

「メイドの勘ニャ!」

「凄えなメイドの勘……」

 

 そして有無を言わさず特別扱いで個室に案内された八幡は、

注文を取りに来たまゆりに挨拶をした。

 

「まゆさん久しぶり、元気だったか?」

「うん、私はいつも元気だよ!」

「そうか、それは良かった」

 

 そう普通に挨拶した八幡から何かを感じたのか、まゆりが少し心配そうに八幡に尋ねた。

 

「あれ、八幡さんはちょっとお疲れぎみ?」

「ん?どうだろう、自分じゃそんな感じはしないけど、

まゆさんがそう感じるならそうなのかもしれないな。

思い当たるとすれば実は昨日、優里奈の保護者として進路相談に同席したから、

そのせいで気疲れしてるってのはあるかもしれない」

「へぇ、そんな事があったんだね」

 

 そして八幡はいつもの通り『メイクイーンコーヒー練乳ラテアート』を注文した。

これは名前はともかく飲み口がマックスコーヒーに似ており、八幡のお気に入りなのである。

 

「ふう……」

 

 注文を終え、八幡はリラックスした表情でそう息を吐いた。

その直後にフェイリスが現れ、注文の品を持ってきた。

どうやら八幡が注文する品を先読みして、事前に準備しておいたらしい。

 

「………なぁ、俺が別の物を注文したらどうするつもりだったんだ?」

「八幡はこれしか頼まないニャ」

「いや、まあそうなんだがもしもの話でな」

「そこはメイドの勘ニャ」

「………凄えなメイドの勘」

 

 そんな会話を交わしながら、八幡はフェイリスの持ってきたトレイの上に、

カップとソーサーが二組ある事に気が付いた。

それを見てまさかとは思ったが、案の定、フェイリスはテーブルに飲み物を二つ置き、

八幡のメイドコーヒーに練乳でハートマークを描いた後、

もう一つのコーヒーに適当に練乳をかけ、さも当然というように八幡の隣に座った。

 

「………何故正面じゃなくそこに座る」

「メイドの勘ニャ」

「お前、そう言っておけばそれで済むとか思ってたりしてないよな?」

「メイドの勘ニャ」

「………はぁ、まあいいけどな」

 

 最近の八幡は、『まあいいけどな』と言う機会が増えてきたようである。

それだけ女性陣の我侭に振り回されているという事なのだろうが、

八幡はその事についてはまったく気にしていない。

そしてフェイリスは、じっと八幡の顔を見た後、突然八幡にこう連呼しだした。

 

「聞いたニャ聞いたニャずるいニャずるいニャ!」

「………何がだよ」

「まゆしいから聞いたニャ!八幡は優里奈ちゃんの保護者役として進路相談に行ったって!」

「俺は優里奈の保護者なんだから当たり前だろう」

「フェイリスにも親がいないのニャ……」

「それは前に教えてもらったよな、気の毒だとは思うが……」

「なのでフェイリスも、八幡に保護者の代理として学校まで来て欲しいのニャ!」

「え、ええ~………まさかとは思ったが、やっぱりそうくるのかよ……」

「駄目なのかニャ?」

 

 そう言ってフェイリスは、うるうると涙を流し始めた。

 

「うおっ、嘘泣きだよな?な?」

「…………」

「ええと…………」

「うぅ………」

「ほ、本当に泣いてるみたいな……?」

「ぐすっ……」

 

 いつまでもフェイリスが泣き止まない為、

八幡は仕方なくその役を引き受けようとしたのだが、

丁度その時、部屋に乱入してくる者がいた。

 

「ちょっと待ったぁ!」

「ダル?」

「ダルニャン?」

「その話、僕が引き受けるお!ここはどう考えても老け顔の僕の出番!

合法的にフェイリスたんにパパと呼ばれるこのチャンス、逃す訳にはいかないんだお!」

「え~……………やだ」

 

 フェイリスは、語尾に『ニャ』を付ける事も忘れ、本当に嫌そうにそう言った。

 

「な、何故なのだぜ!?」

「やっ」

 

 フェイリスは、とにかく嫌だというようにそう言って、

頬を膨らませながらプイッと横を向いた。

 

「フェ、フェイリスたん……かわいいんだけど、そこを何とか!」

「とにかくダルニャンは、やっ」

「くっ……くそおおおおお!」

 

 そしてダルは、泣きながら部屋を出ていった。

同時に部屋の入り口からキョーマが顔を出し、

スマンというゼスチャーをして、部屋のドアを閉じた。

 

「別にダルでも良かったんじゃないか?あいつ、お父さんぽいし」

「八幡はそんなにフェイリスの保護者をやるのが嫌なのニャ?」

 

 そう言ってフェイリスは再び涙を流し始め、

慌てた八幡は、仕方なくその頼みを引き受ける事にした。

 

「わ、分かった分かった、行ってやる、行ってやるから泣き止んでくれ、な?」

「言質をとったニャ~~~~~!」

 

 その瞬間にフェイリスは、天に拳を突き上げた。

 

「あっ、てめっ、やっぱり嘘泣きかよ!やり方が汚ねえ!」

「涙は本物ニャよ?ただフェイリスは、自由自在に涙を流せるだけなのニャ」

「くそ、やっぱりやめだやめ、俺は行かないからな!」

「一度口に出した言葉を反故にするのニャ?」

「俺は今、何か言ったか?言ったという証拠を出せ」

「出すのニャ」

 

 そしてフェイリスは、スマホを取り出してその画面をタップした。

 

『わ、分かった分かった、行ってやる、行ってやるから泣き止んでくれ、な?』

「…………くっ、用意周到な」

 

 八幡は録音で先ほど自分が言ったセリフを聞かされ、それであっさりと降参した。

 

「分かった分かった、で、俺はどこに行けばいいんだ?」

「私立金糸雀学園ニャ」

「お嬢様学校じゃねえか……まあいいや、いつの何時だ?」

「明日の午後四時に来て欲しいのニャ」

「明日!?」

「無理かニャ?」

「いや、まあ間に合うと思うが……」

「それじゃあそれでお願いしますのニャ」

「分かった分かった、お願いされますのニャ」

「真似すんなニャ」

「俺は三毛猫、お前はチェシャ猫だニャ」

「言いたい事は分からなくもないけど、よく考えると意味不明ニャ……」

「とりあえず分かったからそろそろゆっくりさせてくれ」

「了解ニャ、それじゃあごゆっくりニャ~!」

 

 フェイリスはそう言って仕事に戻り、八幡は目の前に置かれたコーヒーをズズッと啜った。

 

「………うん、美味い」

 

 

 

 次の日の夕方、ホームルームが終わった瞬間に、八幡は腰にタオルを巻き、

いきなりその場で着替え始めた。

 

「は、八幡君、一体どうしたの?」

「おっ、公開ストリップか?露出趣味にでも目覚めたか?」

「これからフェイリスの学校に急いで行かないといけないんだよ……

だからちょっとスーツに着替えないといけなくてな」

「えっ、何で?」

「いやな、フェイリスも優里奈と一緒で両親がいないだろ?

で、進路相談の保護者役をしてくれと、押し切られちまってな……」

「おお、八幡えらい!」

「そっか、言われてみれば確かにそうだよね……」

「それを言ったら詩乃も同じような境遇じゃない?」

「おい里香やめろ、フラグを立てんな!

とりあえずそういう事だから、これから私立金糸雀学園まで行ってくるわ」

「うわ、お嬢様学校じゃないですか!」

「頑張れよ~!」

「パパ、頑張って!」

「明日奈、帰ったらお仕置きな」

「じょ、冗談だってば!」

 

 八幡はそのままキットに乗り込み、私立金糸雀学園へと向かった。

そしてキットに自分で駐車場に入ってくれと頼んだ八幡は、

近くに立っていた女生徒に、保護者用の入り口はどこか尋ねた。

 

「すみません、あの、進路相談の付き添いで保護者として来たんですが、

来賓入り口はどこなのか教えて頂いても宜しいですか?」

「間に合ったみたいだね、それじゃあ行こっか、八幡君」

 

 そう言ってその女生徒は、八幡の腕に自分の腕を回した。

 

「え?」

「え?」

 

 驚いてその女生徒の顔をよく見ると、果たしてそれはフェイリスであった。

 

「あ、あれ?フェイリスだったのか?猫耳が無いから気付かなかったわ……」

「ええっ?私を私だと判断してるポイントってそこなの?」

「いや、まああれだ、とりあえず行くか」

「誤魔化された!?」

 

 そしてフェイリスは、歩きながら八幡に言った。

 

「さっきの質問の答えは、ノーかな」

「質問?何か聞いたっけか?」

「フェイリスだったのか?って」

「え、まさか別人ですか!?」

 

 八幡は思わず敬語でそう言った。

 

「う~ん、別人じゃないけど、今の私は秋葉留未穂だよ」

「違いが分からん………あ、語尾にニャがついてない!」

「うん、まあそんな感じ。それじゃあ時間もないし、早速行こっか」

「あ、ああ……」

 

 そして二人は並んで歩き始めた。フェイリスはまだ八幡の腕を抱いたままであり、

八幡は場所柄も考慮して、留未穂に腕を離してくれと頼んだ。

 

「嫌よ」

「嫌よってお前さ、ここは学校だぞ?」

「別にいいじゃない、秋葉留未穂として会うのは初めてなんだし」

「理由になってるようでなってない気がするが……」

 

 八幡がそう言うと、留未穂は絶対に離さないという意思を込めて腕に力を入れた。

 

「分かった分かった、もうこれでいいからちょっと力を抜いてくれ、歩きにくい」

「逃げないでよ?」

「ここまで来て逃げるかよ、今の俺はお前の保護者だからな」

「保護者………ふふっ、今日は宜しくね、パパ」

「パパって言うな」

「優里奈ちゃんから聞いたんだもん」

「くっ………」

 

 そして教室に向かう途中で、二人は何度も女生徒に話しかけられた。

 

「あら留未穂さん………?あ、あの、そちらの殿方は?」

「私の保護者です」

「あら、そうなのですね!素敵な方ですわね!」

「私の自慢ですから」

 

 基本はこれの繰り返しである。

 

「しかしフェ……」

「留未穂」

「留未穂、お前、本当にお嬢様だったんだな……」

「八幡君は知ってたよね?」

「確かにそうだが実感したのは今日が初めてだな、というか、

語尾が普通なだけじゃなく、俺の事、八幡君って呼ぶのな」

「だって呼び捨てなんて無理だし」

「いつも呼び捨てじゃねえか」

「とにかく無理なの!」

 

 そうこうしてる間に二人は目的の教室に着いた。

 

「さて、それじゃあ保護者をやるとするか」

「宜しくね!」

 

 こうして進路相談が開始された。

 

 

 

「絶対お前も俺が行く予定の大学の名前を出すと思ってたよ」

「優里奈ちゃんから聞いてたよね?」

「まあな、それにしてもあの先生、絶対俺の事を保護者だって認めてなかったよな」

「そうだね、八幡君が名刺を出した後も、渋々って感じだったね」

「こうなったら次の相談の時も俺が来る事にするか、

次も同じ態度をとるかどうか興味が沸いてきたわ」

「あ、あの、それじゃあ………」

 

 そう言いながらも、留未穂はしばらく無言でいた。

どうやら何か言いたい事があるようだが、口には出しにくいようだ。

八幡はそんな留未穂の頭に手をやり、留未穂は驚いて八幡の顔を見た。

八幡は、その留未穂の目を真っ直ぐに見つめ返しながらこう言った。

 

「ちゃんと聞くから言ってみろって」

「うん、ねえ、今私の保護者って、親戚のおじさんなんだけど、凄く強欲で嫌な奴なの。

だから、だからもし八幡さえ良かったら……」

「正式な保護者になってくれってか?」

「う、うん……」

 

 八幡はその頼みに対し、少し考えた後でこう言った。

 

「留未穂は今十七歳だよな、あと三年か、それくらいなら付き合ってやるか」

「いいの?」

「ああ、別にいいぞ」

「あ、ありがとう!」

 

 留未穂は泣きそうな顔で、八幡にそうお礼を言った。

 

「また嘘泣きか?」

「もう、そんな訳ないじゃない」

「お前には前科があるからな」

「うぅ……八幡の意地悪!」

「ははっ、それじゃあ帰るとするか」

「うん!」

 

 そして玄関から外に出た二人の前に、予想もしなかった人物が姿を現した。

 

「待ってたわ、八幡!」

「し、詩乃?お前、何でこんな所にいるんだ!?」

「あれ、詩乃?一体どうしたの?」

「たまたま明日奈に電話をしたら、進路相談の話が出て、

八幡が今日ここにいるって聞いたから、わざわざ出向いて来たのよ!」

「何だよその行動力、っていうか電話しろよ……」

「したわよ!スマホの電源、切ってるでしょ!」

「あ………」

 

 八幡は進路相談に当たってスマホの電源を落としていたのを思い出した。

 

「悪い、そういえばそうだった」

「お詫びをしなさい」

「いきなりそうくるか……何となく話が読めたが、どうすればいいんだ?」

「明日、うちの学校に、私の保護者として来なさい!」

「やっぱりそうなるのか……くそっ、フラグを立てた里香のせいだな」

「八幡君、ファイト!」

 

 こうして八幡は、三日連続で保護者として、進路相談に参加する事となったのだった。


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