ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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今回のエピソードは二話構成でお送りします!


第658話 遺品

「ねぇ八幡君、ちょっとだけ時間をもらってもいいかしら」

「あ、はい、大丈夫ですよ」

 

 その日の夜、自宅でのんびりしていた八幡に、経子から連絡が入った。

 

「実は藍子ちゃんと木綿季ちゃんのご両親の遺品が、二人の元の自宅から見付かったのよ、

今その家に住んでる方から不動産屋に連絡があって、それがうちに回ってきたの」

「ほうほう、遺品ですか、どんな物ですか?」

「二人のお母様が、おそらくずっと身に付けていたロザリオよ」

「ロザリオ……十字架ですか、おそらくっていうのは?」

「二人のお母様の写真、その全てにその十字架が写っていたのよね」

「なるほど」

 

 そして八幡は、それが一つしか無いだろう事に気が付き、経子にこう言った。

 

「それじゃあ二人が二人ともそれを身につけるって訳にはいきませんね」

「そうね、まあとりあえず実物をどうするかは二人に任せるつもりなのだけれど、

ほら、今二人はVR空間の中の家で暮らしてるじゃない、

で、せめてそこでは二人が同じ物を身につけられないかって、アルゴさんに相談してみたの。

そしたら問題ないって言われて、それであくまでデータとしてだけど、

実物と寸分変わらない物を二つ作ってもらったのね」

「ほうほう、それはいい事を思いつきましたね」

「ちなみにALOになら持ち込めるらしいの。おしゃれ装備の需要が高まってるから、

それ系の装備品を合成と店売りで、最近大幅に増やしたらしいじゃない?

で、その流れで、アルゴさんがそのロザリオを、特例として持ち込める事にしてくれたの」

「あの二人の最終目標はALOみたいですから、それは良かったですね」

 

 八幡は二人の気持ちを考え、うんうんと頷いた。

 

「でも問題が一つあって、実はまだ二人に、この事に関する許可をもらってないの」

「ああ、そういう事ですか、確かに二人がそれを望むかどうかは何ともですしね」

「なので八幡君に、その二つのロザリオを託したいなって」

「なるほど分かりました、それじゃああの二人にその事を伝えてみますね」

「ごめんなさい、面倒な事を頼んでしまって」

「いえいえ、自分で言うのもなんですが、そういうのは俺が適任だと思うので問題ないです」

「ありがとう、それじゃあ今度時間のある時に、ここまで来てもらってもいいかしら」

「はい、分かりました」

 

 

 

 そして早速次の日、八幡は眠りの森へと向かった。

 

「八幡君、今日は本当にありがとうね」

「いえいえ、気にしないで下さい」

「八幡君、久しぶり!」

「あっ、はい、めぐりさ………」

「めぐりん」

「………めぐりん、久しぶり」

 

 うっかりめぐりさんと呼びそうになった八幡は、

めぐりに言葉をかぶせられ、慌ててそう言いなおした。

八幡からの名前の呼ばれ方に対しての、めぐりのこだわりはかなりのものである。

 

「本当に久しぶりだね!」

「めぐりんはまだアメリカだと思ってました」

「うん、またすぐにあっちに行くつもりなんだけど、

ちょっと藍子ちゃんと木綿季ちゃんの臨床データとか、

他にも色々な物が必要になったから、一度戻ってくる事にしたんだ」

「そうでしたか、すみません、あの二人の事、宜しくお願いします」

「うん、宗盛さんにも協力してもらってるし、私も頑張るよ!」

「ありがとうございます」

 

 そしてめぐりは渡米の準備があるからと去っていった。

その後姿は軽快であり、八幡から何かしらのエネルギーをもらったように見えた。

 

「実はめぐりさん、この後すぐに空港に向かう予定なのよ」

「そうだったんですか、それはナイスなタイミングでしたね」

「彼女、足取りが軽くなったわね、元気になったみたいな」

「俺なんかの顔を見て元気になってくれるなら、まあ良かったです」

「でも八幡君、私が思うに、ここは、

『会えて嬉しいです』ってちゃんと伝えるべきところじゃないかしら」

 

 経子にそう駄目出しされた八幡は、ぽりぽりと頭をかきながら、

今まさに角を曲がって見えなくなりそうなめぐりに向かって叫んだ。

 

「めぐりん!」

「えっ?……八幡君、なぁに~?」

「今日会えて、とても嬉しかったです!」

「………わ、私も凄く嬉しかった!ありがとう八幡君!」

 

 めぐりは一瞬言葉に詰まったように見えたが、

直後に満面の笑顔でそう言いながらブンブンとこちらに手を振り、そのまま去っていった。

 

「よろしい」

「アドバイスありがとうございます、まだまだ未熟者でして」

「ふふっ、頑張ってね、次期社長」

「はい」

 

 そして経子は、綺麗な布に包まれた古びたロザリオを、大切そうに取り出した。

 

「これがそのロザリオよ」

「なるほど、これはどうするつもりなんですか?」

「私なりに考えた結果、八幡君に任せようかなって思ったんだけど」

「俺がですか?う~ん、そうですね、それじゃあ銀行の貸金庫にでも入れておこうかな」

「なるほど、それじゃあお願いしてもいいかしら」

「はい、任されました」

 

 そして次に経子は、八幡にPCの画面を見せてきた。

そこには手元にあるロザリオと、まったく同じデザインのロザリオが描かれており、

ただその名前の欄だけが空白とされていた。

 

「これは?」

「アルゴさんが言うには、これの名前を八幡君に付けて欲しいらしいの。

ここに名前を入力してもらって、その上でここをクリックすれば、

それでそのままゲーム内アイテムとして実装されるそうよ」

「名前ですか………俺、そういうのを付けるのが苦手なんですよね」

「私もよ、まあ後で変更も出来るらしいから、気楽にやってくれと言っていたわ」

「気楽にですか………」

 

 そして八幡は腕組みをして、うんうんうなり始めた。

色々と中二病なワードが頭の中をぐるぐる回ったが、どれもしっくりこない。

 

「迷ってるみたいね」

「う~ん、色々あいつらの気に入りそうな、中二っぽいワードを考えたんですが、

どうもしっくりこないんですよね」

「それじゃあもっとシンプルに考えてみたらどうかしら?

名は体を現すというし、二人がどうやっても文句を付けられないような、そんな名前を」

「シンプルですか、そうですね、捻りすぎるのも良くないですよね」

 

 そして八幡は、ロザリオの出自を思い出し、思わずこう口に出した。

 

「マザーズ・ロザリオ………」

「あら、それ、いいじゃない」

「はい、シンプルかつ語感もいいですし、何よりどんな品なのか分かりやすいかなって」

「いいと思うわ、私は大賛成」

「じゃあそれにしましょう」

 

 そして八幡は、マザーズ・ロザリオと名前を入力し、

ついでにアイテムの説明文に何か記入した後、実装のボタンを押した。

 

「これで良しっと」

「アルゴさんが言うには、これで二人の家のポストに、現物が自動で届くらしいわ」

「そうなんですか、それじゃああいつらに知らせに行ってきます。

ってあいつら、もしかして今やってるゲームの攻略とかに出かけてるかな」

「確認してみるわね、ちょっと待ってて」

 

 そして経子は、二人の家に直通している連絡ボタンを押した。

これは普通の家のインターホンに当たる物である。

 

「は~い」

 

 直後にスピーカーからユウキの声がした。少なくともユウキは家にいるようだ。

 

「あ、経子だけど、今ちょっといい?」

「経子さん?今モニターのスイッチを入れるね、男の職員さんとかはそこにいない?」

「ええ、男の『職員』はいないわよ」

 

 経子はチラッと八幡の方を見ながらそう言った。

その態度に不穏なものを感じた八幡は、慌ててマイクに呼びかけようとしたのだが、

それは僅かに遅かった。その直後にモニターのスイッチが入り、

VR空間の二人の様子が映し出されたのだ。

ユウキは思いっきり下着姿であり、背後のベッドでだらだらしているランに至っては、

何も服を着ていなかった。それを見た八幡は、慌ててモニターから目を背けた。

 

「あらあら、今日もラフな格好ね、二人とも」

「うん、まあ今日は休みだし、ここには八幡以外は誰も来ないしねって、あれ、八幡?」

「ごめんなさい、男の職員はいないけど、八幡君はいるのよね」

 

 経子はこの期に及んでしれっとそう言い、八幡はやられたと思い、手で顔を覆った。

 

「それは全然問題ないから今後も言わなくても平気!八幡、来てくれたんだ?」

「あら、八幡が来てるの?」

 

 そのユウキの言葉を聞きつけたのか、ランもモニター前にやってきたようだ。

ようだというのは、八幡がモニターから目を背けている為、状況が確認出来ないからである。

 

「お、おう、遊びに来てやったから、二人ともとりあえず服を着ろ」

「嫌よ、休みの日くらいは全裸でのんびりしたいわ」

「それでも構わないが、そうしたら俺は絶対にそっちに行かないからな」

 

 その八幡の言葉に、ユウキは焦ったようにこう言った。

 

「え~?それはやだな、ラン、諦めて服を着ようよ~?」

「仕方ないわね、ここは引いてあげるとしましょうか」

「ああ、そうしてくれ」

「でも八幡、これだけは覚えていて頂戴?」

「な、何だ?」

 

 ランが改まった口調でそう言った為、八幡は何だろうと思い、そう聞き返した。

 

「現実の私達の体は、今は若干やせすぎな状態になっているの」

「お、おう、それはまあそうだろうな」

「でもここでの姿は、一定以上は痩せないように設定されているの。

これはアルゴさんが言うには、この体型を今のうちに体で覚えておいて、

社会復帰の時に、この状態まで体重を戻すようにって配慮からそうなっているらしいわ」

「ほう?アルゴの奴、中々味な真似をしやがるな、

だがその事を今俺に伝える理由がまったく分からん」

「ふふっ、でもそれには一つ例外があるのよ」

「ほう?何だ?」

「それはバストサイズよ!」

 

 その言葉に八幡は目が点になった。

 

「よく意味が分からないが」

「胸に関しては、私達の成長度合いを加味して、

復帰後にどうなるかを綿密に計算した上で、そのサイズになるように調整されているの。

これもさっきと同じ理由によるものよ、私達が社会復帰後に戸惑わないようにね!」

「ええと………つまり何が言いたいんだ?」

「実は先日の検査の結果、私はバストサイズが三センチ増えたわ!」

「元が小さいから恥ずかしいけど、実はボクも二センチ増えたよ!」

 

 八幡からは見えないが、二人はこれ以上無いというドヤ顔で八幡を見ていた。

八幡は何と答えようか迷ったが、ここはシンプルにいく事にした。

 

「お、おめでとう?」

「「ありがとう!」」

 

 二人は元気よくそう答え、続けてこう言った。

 

「そしてそのデータはもうこちらに反映済よ、つまり今の私はランディー!」

「ボクはユウビー!」

「そ、そうか」

 

 八幡はそのノリに付いて行けず、そう頷くに留めた。

 

「という訳で、仕方なく着替えておくけどちゃんと違いをその目で確認してね」

「待ってるね!」

 

 そして二人は一方的にモニターを切った。

その気配を察した八幡は、横目でちらりとモニターが消えている事を確認し、

ちゃんと消えている事を確認して向き直り、困った顔で経子に言った。

 

「あのノリの良さは一体何ですかね?」

「ふふっ、VR空間でもちゃんと自分達の体が成長している事が実感出来て、

それが嬉しかったんだと思うわ」

「ああ、そういう事ですか、なるほど」

 

 八幡は今の二人にポカンとしたせいか、まだ頭が上手く働いておらず、

自分の存在を二人に最初に伝えてくれなかった事を、経子に抗議するのを忘れていた。

その為に後日、また同じような光景が繰り返される事になるのだが、

まあそれは眠りの森の風物詩のようなものであろう、要するにいつもの事、である。

八幡はそのまま二人の家にログインし、少し警戒しながら二人の家のドアをノックした。

 

「は~い!あれっ、八幡、何で横を向いてるの?」

「分かるだろ、お前らには前科がありまくるからだよ!」

「大丈夫だって、ほら、ボクもランもちゃんと服を着てるよ?」

「本当か?」

 

 八幡はそう言って、チラッと横目で二人の方を見た。

一瞬ではあったが、確かに肌色の部分は見えなかった為、八幡は安心して二人の方を向いた。

 

「ふう、いつもその調子で頼むわ」

「え~?」

「私達の貧相な体には興味がないとでも言いたいの?」

「そんな事は一言も言ってない、単に慎みの問題だ」

「あら、私達に慎みが無いと?」

「ボク達、八幡以外に肌を見せたりなんかしないよ!」

「それはそれで問題があると思うが、まあいい、今日は二人に聞きたい事があってな」

「聞きたい事?バストサイズ……は知っているはずだし、指のサイズとかかしら?」

「えっ、ボク達の薬指に指輪をはめてくれるの?」

「ランはとりあえず黙ろうな、聞きたい事ってのはこれの事だ」

 

 八幡はそう言いながら、密かにポストから回収しておいたロザリオを二人に差し出した。

 

「あら、それは?」

「ロザリオ?」

「おう、これに見覚えはないか?」

「そう言われると確かに………」

「どこかで見た事があるよね」

 

 二人はそのままうんうん唸りだし、やがてランがハッとした顔でこう言った。

 

「もしかしてそれ、お母さんが付けていたロザリオ?」

「あっ、本当だ!でもあれって一つしか無かったはずだよね?」

「ユウ、ここはVR空間なのよ、なので同じ物を作り出すのは簡単なのよ?」

「ほう、やっぱりランは頭がいいな、その通りだ、

お前達が昔住んでた家からこれが発見されてな、先日眠りの森に届いたって訳だ。

で、それをアイテム化し、複製したのがこれだ、

ちなみに現物は、俺が責任をもって銀行の貸金庫に預けるつもりだ」

「へぇ~」

「そういう事、で、聞きたい事ってのは何かしら?」

「ああ、これをお前らの許可なく作っちまったからな、

もしこれを身に付けたいならプレゼントするし、

いらないならアイテムごと消去しようと思ってな。

ちなみにこれ、ALOになら持ち込めるらしいぞ」

「えっ、そうなの?」

「おお~、いいね!」

 

 そして二人は返事の代わりに、祈るような格好で手を組み、八幡の前に跪いた。

 

「さあ八幡、お願いするわ」

「八幡の手でボク達の首にかけてよ!」

「ああ、分かった」

 

 そして八幡は、二人の首にロザリオをかけた。

それはまるで二人がずっと付けていたかのように自然に見え、

二人は嬉しそうにお互いにロザリオ姿を見せあった。

 

「懐かしいわね」

「八幡、どう?似合ってる?」

「ああ、二人ともよく似合ってる」

 

 そして八幡は、続けてこう言った。

 

「あ~、事後承諾で悪いが、そのロザリオはあくまでアイテムだから、

名前を付ける必要があってな、悪いが俺が付けさせてもらった」

「そうなの?」

「どれどれ……」

 

 そして二人はアイテム名を見て、同時にこう言った。

 

「「マザーズ・ロザリオ……」」

「ああ、気に入ってもらえたら嬉しいんだが」

「もちろん気に入ったよ!」

「八幡にしてはいいセンスね、中二病な名前だったらどうしようかと思ったところよ」

 

 八幡はランのその言葉に、捻った名前を付けなくて本当に良かったとほっとした。

 

「あら?この説明文は……」

「ああ、それも俺が書いた」

 

 その説明文には、『母から受け継いだ祝福されたロザリオ』と書かれており、

二人はそれを見て、ロザリオを大切そうに握り締めたのだった。


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