ハチマンくんとアスナさん   作:大和昭
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第659話 もっと強く

「ねぇ八幡、ちなみにこれ、この鎖が切れたりしても、ちゃんと直せるのかな?」

「もしくは落としたとか」

「う~んそうだな、今度アルゴに確認しておくが、多分ALOの仕様と一緒なら、

落としたり壊したりしても装備リストには残ってるはずだから、

それを一度所持品に戻してから装備し直すか実体化させれば、元に戻るはずだぞ」

「そうなんだ!」

「それじゃあ今度、確定情報が分かったら教えて頂戴」

「ああ、分かった」

 

 そして二人は八幡を居間に案内し、珍しく隣ではなく正面に座った。

ちなみにいつもは、八幡の両隣に座るのが通例である。

二人はそのままテーブルに手をついて身を乗り出した。

それで八幡は、二人が何をしたいのか、やっと理解した。

 

「ええとつまり、さっき言っていたように、胸の大きさの違いを見ろと?」

「うん!」

「どう?大きくなっているでしょう?」

 

(そんなの俺に分かる訳ねえだろ!)

 

 八幡は口に出してそう言いたかったが、それをやると二人が拗ねるのでやめておいた。

特にランは、それなら実際に触って確かめろと言ってくるに決まっているのだ。

そもそも二人の胸の谷間を凝視する事など、八幡には不可能である。

確かにある程度の体の接触には慣れさせられているが、そういった部分を見るという事は、

別の意味でハードルが高いのである。だがこの状況で、八幡に何が出来る訳でもない。

八幡は仕方なく二人の胸の谷間を見ながら、

さっさとこの状況から逃れようと、とりあえずこう言った。

 

「確かに大きくなっている気がするな、

うん、ちゃんと成長してるみたいだな、良かったな二人とも」

「でしょ?でしょ?」

「わ~い、八幡に褒めてもらった!」

 

 二人は手を取り合って喜び、そんな二人を見て、八幡は無理をした甲斐があったと喜んだ。

 

(こうして見ると、二人はまだまだ子供なんだよな、結構ちょろい)

 

 そう思いつつも、八幡はそんな二人のそういう部分を逆に好ましくも思っていた。

 

(まあ純粋って事だ、結構結構)

 

「でもこれで終わりじゃないわよ、早く病気を克服して、

ランディーからランイーにステップアップしないと!」

「ボクもユウシーくらいにはなりたい!」

「おう、俺も出来る限りの事はするから、一緒に頑張ろうな」

 

 八幡はもちろんそれを、病気を治すという事を主眼において発言したのだが、

この状況でそれは失言である。案の定、二人は顔を見合わせると、

ニヤリとしながら八幡の両隣に座り、その手を自分達の胸に持っていこうとした。

それに気付いた八幡は、慌てて腕に力を込め、それを防いだ。

 

「お、お前ら、いきなり何て恐ろしい事をしようとしやがる!」

「あら、今言ったじゃない、俺も出来る限りの事をするって」

「言った言った!八幡、女の子の胸を大きくするには、揉むのが一番らしいよ?」

 

 それで八幡は、自分のミスに気が付いた。

何度言われてもつい繰り返してしまうのだが、主語を抜くというのは八幡の悪癖である。

この場合で言えば、病気の克服の為に出来る限りの事をする、

と言えば何の問題も無かったのだが、時既に遅しである。

 

「ぐぬぬぬぬ」

「むむむむむむむ」

「う~ん、う~ん!」

 

 そしてその力比べの結果、さすがの八幡も二対一では分が悪いのか、

その手はじりじりと、二人の胸に近付いていった。

 

「も、もう少し………」

「ユウ、ここが勝負どころよ!既成事実を作る為に根性を入れなさい」

「お、おま……え……ら……」

 

 今や八幡の手は、ユウの方は若干距離に余裕があるが、

ランの胸までは既に一センチを切っていた。

 

(やばい、もう諦めるか?別に現実でこいつらの胸に触る訳じゃない、

これはあくまで擬似的なデータなんだ、いわゆる偽乳だ)

 

 八幡は一瞬そう考えたが、すぐにその考えを打ち消した。

 

(いや、諦めるな、必ず道はある!)

 

 八幡はそう思いなおし、必死に頭を回転させた。

 

(今の俺に出来る事……動く部位…………あった、一つだけあった!)

 

 そして八幡は、一気に腕を持っていかれないように慎重に右を向き、

目の前にあるランの耳に、息を吹きかけた。

 

「きゃっ!」

 

 その瞬間にランの腕から力が抜けた。

 

「よし、ここだ!」

 

 そして八幡はランの手を振りほどき、自由になった右手で左手を掴み、

そのまま両手で左手を引っ張って、ユウキの手から左手を解放した。

片手の時と違い、両手対両手ならば、まだ八幡の方がステータスが上のようだ。

 

「ああっ、やられた!あと少しだったのに!」

「くぅ、まさかそんな手で来るなんて、八幡はやはり私の性感帯を知り尽くしているのね!」

「んなもん知るか、それしかなかったからそうしただけだ」

 

 八幡は勝利した事に安堵し、落ち着いた声でそう言った。

 

「ぐぬぬぬぬ」

「もう諦めろ、今の俺に隙は無い」

「こうなったらおっぱいタッチを賭けて、剣で勝負よ!」

「はぁ?」

 

 突然ランがそんな事を言い出し、八幡は目を剥いた。

 

「勝った方が負けた方に胸を揉まれるのよ!」

「それ、普通逆だよな………?」

「逆がいいならそれでもいいわ、さあ勝負よ!そして即ギブアップ!

やられたわ、私の負けよ、さあ、約束通りに私の胸を思いっきり揉みなさい!」

「小芝居に走るんじゃねえよ、最初の条件でちゃんと勝負してやるって」

「本当に?二言は無いわね?この差し出された据え膳おっぱいも揉めないチキン野郎め」

「うっせえ、チキンで結構だ!そのくらいは付き合ってやるから、さっさと準備するぞ」

「分かったわ、ユウ、早速準備しなさい」

「オッケー!実力勝負だね!」

 

 そして三人は準備をし、先ず最初にランと八幡が庭で向かい合った。

 

「勝利条件は?」

「初撃決着モードで」

「懐かしいな、そんなのも実装されてんのか、ここ」

「実装はされてないわ、ただそういうモードがSAOにあったと知っているだけね。

なので審判は第三者がやる事になるわ。

まああくまでお遊びなのだけれど、訓練には中々重宝するわよ」

「そうか、まあいい、ユウ、開始の合図を」

「オーケー!それじゃあ勝負開始!」

 

 その声と共に、ランは居合いの形をとり、八幡は少し驚いた。

 

「居合い………か」

「ええ、VRには居合いの練習用プログラムもあったから、それで死ぬほど練習したわ」

「なるほどな、教科書通りのいい構えだ」

 

 などと八幡は言ってみたが、居合いは少しかじっただけなので、実はかなり適当である。

 

(さて、どうするかな、カウンターを仕掛けてもいいんだが………)

 

 その瞬間にランが動いた。八幡の胴に凄まじい速さの斬撃が迫る。

 

「おっと」

 

 八幡はそれを、後方にステップを踏んでかわしたが、かなり紙一重であった。

 

「くっ、遠かったわ」

「そうだな、その分簡単に避けられたわ」

 

 八幡は口ではそう言ったが、今のはやばかったと内心考えていた。

斬撃への対応が間に合わなければ短剣で止めただけであるが、

今は考え事をしていた為、満足な体制で斬撃を止められず、体制を崩されたかもしれない。

そこを突かれたらおそらく八幡が負けていた可能性が高いのだ。

 

(危ない危ない、油断はなしだ、集中集中)

 

「次は外さない」

 

 そしてランは、じりじりとすり足で距離を詰めてきた。八幡も負けじと前に出る。

そしてランの腕の筋肉が、ピクリと動いたような気がした瞬間、

八幡は地面を蹴り、ランに突撃すると、右足の足裏でランの刀の柄を押さえ込み、

ランに刀を抜かせないようにした。刀を抜こうと力を入れた瞬間を狙われたランは、

その足技を防ぐ事が出来なかった。

 

「くっ………」

 

 そして一瞬そちらに気を取られたランの顎を八幡の蹴りが襲い、

ランはそのまま手痛い一撃をくらった。

 

「勝者、八幡!」

「うう、負けたああああああああ!」

 

 ランはそう絶叫し、その場に蹲った。

 

「まあドンマイだな、もう少し修行しろ、修行」

「うぅ、これじゃあいつまでたってもランイーになれないじゃない」

「お前な、っていうか今思ったんだが、リアルならともかく、

ここで俺がお前らの胸を揉んでも、お前らの胸が大きくなるなんて事、絶対に無いよな?」

「はっ、そ、そういえば………」

 

 ランは素で勘違いしていたのか、ショックを受けたような顔でそう言った。

それを聞いていたユウキが八幡にこう言った。

 

「それじゃあボクの場合は勝利条件を変更で、ボクが勝ったらリアルでボクの胸を揉んで!」

「おいユウ、お前、言ってる事が残念すぎるぞ………」

「別に残念でもいいですし~、そんな訳で、その条件でいいよね?」

「まあいい、かかってこい」

「やった~!ラン、開始の合図をお願い!」

「分かったわ、頑張るのよユウ、試合開始!」

 

 開始直後にユウキは八幡に襲いかかった。

ユウキはどうやら攻撃に体重を乗せすぎないように注意しているようであった。

その為八幡にカウンターをくらっても、容易には体制が崩れない。

だが八幡の防御を破る事も出来ず、勝負は凄絶な斬り合いとなった。

 

 ガン!ガン!ギィン!ガンガンガガン、ギィン!

 

 どうやらユウキは、弱めの斬撃を続ける事で敵の体制を崩し、

その瞬間に強めの斬撃を放っているらしい。

時々攻撃を受けた時の音が高くなるのがその証拠だ。

八幡は、時折混じるトリッキーな動きから繰り出される斬撃も完璧に防ぎながら、

ユウキのその攻撃を観察し、強めの攻撃が来るタイミングを把握しようとしていた。

そして何度目かの攻撃の時、遂に八幡が動いた。

 

「うわっ!」

 

 連続技からの強めの攻撃にまったく手応えが無かった為、ユウキは思わず体制が崩れた。

ここまでわざと全ての攻撃を受けてきた八幡が、

足さばきを上手く使って一度だけ攻撃を避けたのだ。

そして八幡はその隙を突き、ユウキに急接近すると、その腹にトンと短剣の先を触れさせた。

 

「そこまで、勝者、八幡!」

「くぅ、負けたぁ!」

 

 この勝負、見た目以上に八幡の完勝であった。

 

「はぁ、全部攻撃を防がれちゃった………」

「まあユウは攻撃が素直だったからな」

「素直?どんな風に?」

「例えば攻撃が途中で伸びてきたりしない、なので避けやすい」

「途中で伸びる?どんな風に?」

「そうだな、よしラン、ちょっとその刀を貸してくれ」

 

 そして八幡は居合いの形を取り、不慣れながらもそれなりに見れる形で剣を振り抜いた。

 

「最初がこれだ、何度かやってみるぞ、よく見ておけ」

「「うん」」

 

 そしてその剣筋を二人が覚えた頃、八幡は次のステップに移った。

 

「次、よく剣筋を見てろよ」

 

 そして八幡は、最初は極端に腕を折り畳み、

途中から思い切り腕を伸ばして斬撃を繰り出した。

 

「あっ」

「今剣筋が凄く伸びたように見えた!」

「まあ今のは目の錯覚だけどな、最初は縮こまった状態から、急に腕を伸ばしただけだ」

「なるほど」

「避け手のタイミングを外すのね」

「もしくはこうだな」

 

 そして次に八幡は、すり足を上手く使う事にとって、

実際に先ほどより半歩先まで足を踏み込み、実際に斬撃の到達距離を伸ばしてみせた。

 

「おおっ」

「伸びてるね」

「後は股関節の柔らかさを生かしてこうとかな」

 

 八幡は股関節が地面に着くスレスレまで足を伸ばし、超低空の斬撃を放った。

その後に足の力だけで普通に体を起こして見せ、二人を驚かせた。

 

「おお~!」

「柔らかいだけじゃなく、立ち上がりも早い!」

「お前達にも昔、関節を柔らかくしておけと言ったはずだ、

それが出来れば案外簡単に出来るもんだぞ」

「練習してみる!」

「変幻自在さに磨きをかけてみるわ」

「おう、頑張れ」

 

 そんな八幡に、二人がいきなり抱きつき、その胸をまさぐり始めた。

 

「お、おいお前ら、何故俺の胸を触る!」

「だって約束したじゃない、負けた方が勝った方の胸を触るって」

「そうだよ!ボク達はその約束を果たしているだけだよ!」

「いや………まあそのくらいは別に構わないけど、俺の胸を触って何か楽しいか?」

 

 そう言われた二人は、しばらく八幡の胸を、感触を確かめるように触っていたが、

やがてそこから手を離し、しょぼんとした顔で言った。

 

「楽しくない………」

「うん、思ったより楽しくなかった………」

「当たり前だろ、柔らかくも何ともない、ただのごつごつした物体だからな」

「で、でも固くて面白かった!」

「まあ男と女の違いが興味深かったわ」

「ああはいはい、満足してくれたなら良かったよ」

 

 この時の八幡の教えを身につけようと、二人はその後も地道に反復練習を続けた。

ただ純粋に強くなろう、そして八幡を超えようと、

次の日も、また次の日も、二人は仲間達と共に戦い続ける。ALOに乗り込むその日まで。




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